或ル呉藍月ノ物語リ

蒼月さわ

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「お前の仲間って、みんな綺麗だったよな」

 シキは不思議そうに首をかしげた。なぜ褒められるのかわからないというように。

「他の連中なんかとは全然違う。懐かしいな」

 蓮は旅の途中に訪ねたシキの生まれた里を思い返した。

「俺、あそこだったら、ずっと居てもいいって思ったんだけどな」

 その里では、安息の日々を過ごせた。白い鱗の半人半蛇の誰一人とも、蓮を襲おうとはしなかった。それどころか、里に語り継がれている伝説の種族を目の当たりにして、畏敬の念を込めて迎え入れた。
 暗くなった辺りに白く浮き上がる蛇の尾を眺めながら、どうして他の半人半獣たちとシキたちは違うのだろうと思う。里の長老たちから聞かされた話は、いまだに謎だ。

「なぜ、そんなことを言う」

 シキは鴨肉を炙りながら、蓮の心内を探るような視線を投げてよこす。

「ここにいれば、お前は喰われるだけだ。このようにな」

 と、鴨の残骸を顎でしゃくる。

「そうだけどさ……」

 蓮は言葉を濁した。シキにどう言えばよいのかわからない。けれど、川に飛び込んでも、全身を蝕むものは簡単に流れない。

 ――俺は疲れているんだ。

 元の日常に帰りたい。暗闇を追い払うように赤々と揺らぐ炎に見入る。突然の世界。異形の者たち。命を狙われる日々。赤い炎が過酷な記憶を次々に呼び覚ます。

 ――何で俺がこんな目にあわなきゃならないんだ……

 蓮は辛そうに頭を両手で抱えた。

「落ち着け、レン」

 頭を撫でるような優しい声が、静かに聞こえた。

「ここには、お前と私しかいない。だから、怯えることはないんだ」

 蓮はのろのろと顔をあげた。真正面にいるシキは、躊躇いもなく、蓮をまっすぐに見つめている。その瞳に滲む果敢さに、蓮は少しだけ救われた気分になった。

「……怯えてないさ」

 お前がそばにいるからな――
 蓮は急に恥ずかしくなってきた。シキが自分の肌を眺めているのに気がついた。うなじや胸についた小さな痣も見えているだろうか。自分がほぼ裸体だったのを思い出して、肌がじわりと熱くなった。

「焼けたぞ、レン」

 シキは鴨が刺さった棒を手渡す。
 蓮もお礼を言って、その肉をかじった。鴨肉に味はなかった。けれど、生きていくために必死で喉に押し込んだ。野苺も口に入れながら、川の水も飲んだ。

「火はどうする?」
「消そう」

 二人が食べ終わる頃には、火はだいぶ小さくなっていたが、シキは川の水を持ってきて、上からかけて消した。 
 辺りは風のように夜の闇に溶ける。
 蓮は暗闇に目を慣らしながら、空を見上げた。今夜は月は見えない。人工の光が存在しない世界に来て、初めてどれほど月の明かりが地上を照らしていたのかがわかった。そして、這うように覆いつくす夜の影の深さも。  
 伸びてきた手が、自分の腕を触った。

「今夜は林の中で眠ろう。ここは目につく」

 シキは昼間同様に視界が見えているようで、蓮を促す。

「そんな格好で、寒くはないのか?」
「大丈夫だと思う。今もそんなに感じないし」

 そう言いながらも、両腕をさすった。腰に巻いているのは、里で半人半蛇の女たちからもらったものだ。いつもは服を着たまま寝ているが、今夜は洗濯をしたので、この生地一枚だけでやり過ごすつもりだった。

「私が暖めてやる」

 シキは蓮の腕をしっかりと掴んだ。
 蓮は傍らを振り向く。明かりもないのに、シキの表情が見えた。
 生地で覆い隠された下半身が、強く疼いた。

「……そうだな」

 疲れた躰が、癒しを求めていた。


 初めは、なぜだかわからなかった。
 相手は自分を助けてくれたとはいえ、男で、しかも人間ではなかった。
 それなのに、なぜ受け入れたのだろう。
 ……恐らく、人肌が恋しかったのだと、蓮は思った。
 生きてゆく辛さに耐えられなかったのだと。
 林の奥へ分け入り、平らな土に生地を広げて、その上に仰向けになった蓮の体を、シキは抱いていた。
 蛇の胴が蓮の全身にゆるく巻きつき、その尾は両足の間を割っていた。
 感じやすい恥部を尾が這うたびに、蓮は唇から湿った息を吐く。その唇にシキは口づけをする。
 蛇の鱗はなめらかに蓮の肌をすべる。人肌のような体温が感じられて、甘い興奮と共に一時の安らぎが、身体中を駆け巡る。

「……あ……」

 蓮は小さく喘いだ。シキが胸を抱き、口を這わせながら、肌に吸いついた。 
 尾は臀部も撫でてゆく。
 蓮は自分の性器が激しく感じているのがわかった。シキの背中に回していた手を動かし、自分の恥部へ伸ばす。性器はすでに勃起していて、指先で触れると、ぬるりとした感触があった。
 蓮は躊躇わずに握ると、自分の手で上下に扱く。溜まっていた欲情が気持ちのよい快感に染まり、一段と深く喘ぐ。
 シキは舌で舐めながら、行為をする蓮の手に自分の手を重ねあわせた。

「……私がやろう」

 互いの熱い肌が触れあい、蓮はシキの手にそれをゆだねる。途端に強い力が性器を引き締め、蓮は声をあげた。

「あ……ああ……」

 性器を激しく揺すられ、頭が真っ白になる。良い仲になった女性たちと性行為に及んだことはあるが、こんなに興奮をあげるのは、シキに抱かれてからだった。
 ……もっと……もっと……
 蓮は貪欲に喘ぐ。
 その熱情が聞こえたかのように、蛇の胴がゆるゆると動いた。蓮の腰を少しだけ浮きあがらせ、両足の間を這う尾が恥部を盛んに撫でる。
 蓮は我慢できずに、射精した。性器から白い精液が溢れ出て、シキの手にこぼれる。

「熱くなっているな」

 シキは優しく笑った。

「……当たり前だ……」

 蓮は苦しそうに息を吐いた。それでも体内に膨らんだ情欲はおさまらなかった。

「シキ……」

 もっと味あわせてくれと、自分を抱く半人半蛇を求める。
 シキは性器を手放し、両腕で蓮の顔を抱きかかえると、了解したというように汗ばんだ額に口づけた。
 尾がそろそろと反り返った。先は小さく丸まっているが、やにわに槍のように鋭く尖る。それが今まで弄っていた恥部へ向くと、まっすぐに突いた。

「……う……」

 唸り声を上げ、蓮は思わず足を動かそうとした。だが両足に絡みついた蛇の尾が戒めとなっている。足を開いた状態で、剥き出しの恥部に、尾の先がずるずると押し入ってゆく。

「ああ……ああ……」

 蓮は声をあげながら、体内に侵入してくる体温を感じた。とても熱くて、激しかった。
 いったん、尾の先が勢いよく抜かれる。挿入した恥部のまわりは、ぐちょぐちょに濡れている。
 再び、深く押し入る。
 奥の感じやすい秘部まで一挙に突くと、また這い出る。
 それを何度も繰り返され、蓮は眩暈のような快感に、やがて意識を失った。



 気がつくと、真っ赤な月が自分を見下ろしていた。
 初めは紅葉のような色だと思ったが、それは間違いで、本当は血の色だというのがわかった。
 ……自分の血の色だと。



 蓮は飛び上がるように目を覚ました。
 口からは荒い息が出ている。

 ――またあの夢だ。

 顔を両手に埋め、心を落ち着かせようと、深呼吸をした。汗も滲んでいる。

 ――あれは夢だ。だからしっかりしろ。

 蓮は悪夢を追い払うように、自分自身を叱咤した。
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