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可哀そうな子
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「殿下。リリールナ嬢についてなのですが」
「マリア! ……リリールナって誰だったっけ?」
いつものように、メルティア様とのディスカッションの場に紛れ込んでいる殿下に、わたくしが話しかけます。殿下のお言葉を聞いたメルティア様は飲んでいた紅茶を思いっきり吹き出しました。
「ごほ、ごほ、ごほんごほん、けほっ」
「まぁ! 大丈夫ですか? メルティア様」
「けほ、大丈夫。じゃなくて、マリアーシャはよく殿下の言葉を聞いて驚かずにいられるな?」
口をわたくしの差し出したハンカチで拭いながら、メルティア様は問いかけます。
「わたくしのかわいい殿下ですもの。あんな小娘、すでに忘れていても仕方ありませんわ?」
「……未来の国王がこれでは、この国の未来が心配だ」
「そのためのわたくしですわ?」
「……違う意味で心配だ」
「まぁ!」
わたくしがメルティア様と話していると、殿下がすねたような上目遣いでわたくしの服のすそをお引きになります。
「……マリア。必要なことなのだろうが、あまりその男と話すな」
「まぁ、殿下」
思わず、わたくしの顔は喜色に染まってしまいます。メルティア様の顔色が悪くなったということは、わたくしがよっぽど珍しい表情を浮かべているのでしょうか? そっと殿下のお手に手を重ね、答えます。
「殿下。メルティア様は男性らしい外観をしていらっしゃいますが、女性ですわ? それに、わたくしたちは単なる友人で、なにもやましいことはございませんの」
何度も同じことを聞いてしまう殿下。なんて可愛らしいのでしょう。そう考えながらわたくしが申し上げると、殿下は少し悩んだ様子を浮かべました。
「……だが、彼女がマリアに懸想していないとは限らない。マリアは素晴らしい女性だからな」
「まぁ!」
わたくしが頬を染めていると、呆れた様子を浮かべていたメルティア様が、はっと気が付いて殿下にお伝えします。
「……デジャヴ。こほん、殿下。すでに何度か申し上げていると思いますが、僕は男性の格好が好きで家族からも必要とされているだけでマリアーシャのことを恋愛対象として見たことはありません。むしろ、絶対パートナーにはしたくない……」
小声でつぶやくメルティア様の言葉を聞いた殿下が、今度は目を丸くなさいます。
「……変わっているな? マリアを妻にしたい人間しかこの世界にいないと思っていた」
「……都合の良い頭をお持ちですね?」
先日、わたくしに対して婚約破棄なさったことを殿下はすっかりとお忘れです。そんなご様子にメルティア様が思わずといった様子で苦言を呈されました。
「メルティア様。わたくしの殿下に不敬ですわよ?」
「すまない、マリアーシャ」
”わたくしの殿下”という言葉に怯えたご様子で、メルティア様は即座にわたくしに謝罪なさいました。そして、殿下にも謝意を示されました。
「いや、問題ない。マリアも僕のものだからな?」
「ええ、殿下」
そんなわたくしたちをあきれた様子で見ていたメルティア様が、わたくしに問いかけます。
「マリアーシャ、彼の令嬢はどうするつもりだ?」
「殿下もお忘れのご様子ですし、このままにしておくと執念深く殿下を追いかけてきそうですから……手っ取り早く処刑いたしましょうか?」
わたくしがこてりと首を傾げて微笑むと、メルティア様は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべました。
「マリアーシャが遊んだのだから、彼の令嬢も罪を犯したのだろう? さすがにそれは可哀そうではないか?」
わたくしとメルティア様の話に入れない殿下は、不満気です。仕方がありませんから、殿下の頭を優しくお撫でします。満足げに微笑み、こちらに寄りかかっていらっしゃいました。
「……婚約者同士といえ、その距離感は紳士淑女としてどうなんだ?」
「ふふ、陛下の許可下りておりますわ?」
「いったいどうやって……いや、マリアーシャに逃げられる方が我が国として痛いか……。なんでもない、話を続けよう」
「しかし、わたくしの殿下に媚薬を盛ろうとしたのは事実です。王族に薬物を盛ろうとした……それが一発で処刑物の大罪なことはご存じでしょう?」
「そうなのだが……情状酌量の余地はないだろうか?」
「ふふ、わたくしの殿下に手を出したのですわよ?」
「マリアーシャ……思ったよりも怒っているな?」
「ふふふ……しかし、メルティア様の言い分も理解いたしましたわ。審判は公正に、わたくしの手は加えないことといたしますわ」
「……まぁ、マリアーシャを怒らせたにしては、ましな落としどころか」
そう言って、メルティア様は淹れなおした紅茶をすすられました。
「マリア! ……リリールナって誰だったっけ?」
いつものように、メルティア様とのディスカッションの場に紛れ込んでいる殿下に、わたくしが話しかけます。殿下のお言葉を聞いたメルティア様は飲んでいた紅茶を思いっきり吹き出しました。
「ごほ、ごほ、ごほんごほん、けほっ」
「まぁ! 大丈夫ですか? メルティア様」
「けほ、大丈夫。じゃなくて、マリアーシャはよく殿下の言葉を聞いて驚かずにいられるな?」
口をわたくしの差し出したハンカチで拭いながら、メルティア様は問いかけます。
「わたくしのかわいい殿下ですもの。あんな小娘、すでに忘れていても仕方ありませんわ?」
「……未来の国王がこれでは、この国の未来が心配だ」
「そのためのわたくしですわ?」
「……違う意味で心配だ」
「まぁ!」
わたくしがメルティア様と話していると、殿下がすねたような上目遣いでわたくしの服のすそをお引きになります。
「……マリア。必要なことなのだろうが、あまりその男と話すな」
「まぁ、殿下」
思わず、わたくしの顔は喜色に染まってしまいます。メルティア様の顔色が悪くなったということは、わたくしがよっぽど珍しい表情を浮かべているのでしょうか? そっと殿下のお手に手を重ね、答えます。
「殿下。メルティア様は男性らしい外観をしていらっしゃいますが、女性ですわ? それに、わたくしたちは単なる友人で、なにもやましいことはございませんの」
何度も同じことを聞いてしまう殿下。なんて可愛らしいのでしょう。そう考えながらわたくしが申し上げると、殿下は少し悩んだ様子を浮かべました。
「……だが、彼女がマリアに懸想していないとは限らない。マリアは素晴らしい女性だからな」
「まぁ!」
わたくしが頬を染めていると、呆れた様子を浮かべていたメルティア様が、はっと気が付いて殿下にお伝えします。
「……デジャヴ。こほん、殿下。すでに何度か申し上げていると思いますが、僕は男性の格好が好きで家族からも必要とされているだけでマリアーシャのことを恋愛対象として見たことはありません。むしろ、絶対パートナーにはしたくない……」
小声でつぶやくメルティア様の言葉を聞いた殿下が、今度は目を丸くなさいます。
「……変わっているな? マリアを妻にしたい人間しかこの世界にいないと思っていた」
「……都合の良い頭をお持ちですね?」
先日、わたくしに対して婚約破棄なさったことを殿下はすっかりとお忘れです。そんなご様子にメルティア様が思わずといった様子で苦言を呈されました。
「メルティア様。わたくしの殿下に不敬ですわよ?」
「すまない、マリアーシャ」
”わたくしの殿下”という言葉に怯えたご様子で、メルティア様は即座にわたくしに謝罪なさいました。そして、殿下にも謝意を示されました。
「いや、問題ない。マリアも僕のものだからな?」
「ええ、殿下」
そんなわたくしたちをあきれた様子で見ていたメルティア様が、わたくしに問いかけます。
「マリアーシャ、彼の令嬢はどうするつもりだ?」
「殿下もお忘れのご様子ですし、このままにしておくと執念深く殿下を追いかけてきそうですから……手っ取り早く処刑いたしましょうか?」
わたくしがこてりと首を傾げて微笑むと、メルティア様は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべました。
「マリアーシャが遊んだのだから、彼の令嬢も罪を犯したのだろう? さすがにそれは可哀そうではないか?」
わたくしとメルティア様の話に入れない殿下は、不満気です。仕方がありませんから、殿下の頭を優しくお撫でします。満足げに微笑み、こちらに寄りかかっていらっしゃいました。
「……婚約者同士といえ、その距離感は紳士淑女としてどうなんだ?」
「ふふ、陛下の許可下りておりますわ?」
「いったいどうやって……いや、マリアーシャに逃げられる方が我が国として痛いか……。なんでもない、話を続けよう」
「しかし、わたくしの殿下に媚薬を盛ろうとしたのは事実です。王族に薬物を盛ろうとした……それが一発で処刑物の大罪なことはご存じでしょう?」
「そうなのだが……情状酌量の余地はないだろうか?」
「ふふ、わたくしの殿下に手を出したのですわよ?」
「マリアーシャ……思ったよりも怒っているな?」
「ふふふ……しかし、メルティア様の言い分も理解いたしましたわ。審判は公正に、わたくしの手は加えないことといたしますわ」
「……まぁ、マリアーシャを怒らせたにしては、ましな落としどころか」
そう言って、メルティア様は淹れなおした紅茶をすすられました。
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