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第12話 楽しみです

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今日はケント様と街へ出かける日だ。

ここ数日、ダンスの時間を短めに切り上げて、二人で大量の書類と向き合ってきた。

「二人ともよく頑張ってくれた。貯まっていた仕事も一段落ついた。明日は休みにする」とのアレン様の一声で、私たちの外出があっという間に決まった。

おそらく、おそらくだが、私とケント様の「街へ~」の会話が報告され、アレン様が気を利かせてくださったのだろう。
本当にありがたい。

嬉しくて、嬉しさを隠しきれず、笑顔が溢れる私に、アレン様が優しく頷いてくれた。
やはり気を利かせてくださったんだ。

「明日休みですね、明日休みですね」
はしゃぐ私に、
「ああ、ああ、明日は街へ行こうなっ」
笑顔で頷くケント様。

部屋へ戻り、クローゼットをバーンと開けて、明日着ていく洋服をロナと相談する。
ベッドの上に候補にあがった洋服を次々とロナが並べてくれる。

「ケント様はどんな格好で行くのかな?」

「そうですね。お二人で雰囲気を合わせた方がいいですね。私、聞いてまいります」
すぐに動いてくれるロナ。
本当に頼りになる存在だ。


「聞いてまいりました。明日は…………」

「明日は?」

「明日は…………」
いつもハキハキしているロナが珍しく言い淀んでいる。

「明日は?」
再度促していると、決心したようにゴクリと唾を飲み込む音が響いた。

「明日は裕福な商家の若夫婦でお忍びお出かけスタイルだそうですっ」

「へっ?」
びっくりして、びっくりしすぎて変な声が出た。
「えっ?今、何て?」

「もーう、リナ様、伝える私も恥ずかしいんですからね。本当に聞き取れなかったんですか?わざと、わざと私に恥ずかしいことを言わせようとしてないですよね?
これが最後ですよ?では、言いますからよく聞いていてくださいね?
明日は裕福な商家の若夫婦でお忍びお出かけスタイルだそうですっ」

若夫婦?お忍び?
そんな設定必要なの?
ケント様ってそんな人だったかな?
若夫婦って、私とケント様が?
ひゃぁっ、

赤面する私を放置して、ロナはテキパキとベッドに並んだ洋服を片付けていく。
「商家の若奥様だと、今 選んでいるデートに適した洋服ではダメですね」

ロナ、デートに適した洋服って……
確かに淡い色合いで、控えめなリボンやレースのついたふんわりと女性らしいデザインの洋服ばかりではあったけれど……

少し落ちついた色合いのシンプルな洋服を並べ直していくロナ。
上質な素材で肌触りがよく、形がすごくキレイで、シンプルながらも洗練されたものばかりだ。

「リナ様、どうでしょう?この中で気に入ったものはありますか?」

ロナが候補に選んでくれた洋服をじっくりと見ていく。

「ロナ、これは?これはどうかな?」
紺色のシンプルなワンピース。
襟に控えめな刺繍が入り、袖口には細いリボンがついている。
これなら地味だけど、ちょっとはかわいいと思ってもらえるんじゃないかしら。

「うん、なるほど……なるほど、なるほど」

「ロナ、なるほど、なるほどって、これでいいの?ダメなの?」

「いい、いいと思います!完璧です」

いちいちロナの返答が大袈裟な気がするが、まぁ洋服はこれでよしっ!

「小物はワンピースに合わせ、私が準備しておきますね」

「そう?助かるわ。よろしくお願いします」

「ふふふっ、リナ様のそういうところ、私は好きです。では、また明日。おやすみなさいませ」
意味深な言葉を残し、ロナは退室していった。

そういうところってどういうところなんだろう……

明日はいよいよ街へのお出かけ。
楽しみだ、楽しみで楽しみで、あまり眠れなかった……


朝、ロナが私の支度を手伝ってくれる。
編み上げの黒いショートブーツに紺色のワンピース。
髪はサイドを編み込み、シルバーのバレッタでまとめられた。
ほんの耳の横に後れ毛が残してある。
襟にもシルバーのブローチを止めて……

「リナ様、どうですか?」
ロナが手鏡を手渡してくれる。

「ロナ、ありがとう。素敵だわ。あなたに任せてよかった」

「ふふふっ、ありがとうございます。
では、朝食にまいりましょう。きっとケント様が首を長くしてお待ちですよ」

食堂に入ると、既にケント様がイスに座っていた。
「リナ、おはよう」
「ケント様、おはようございます」

ケント様がイスから立ち上がり、私の手をひきエスコートしてくれる。
ケント様はゆったりとした白シャツにブルーグレーのパンツ、黒い靴。
シンプルな格好で、スタイルのよさが際立っている。

私が席へつくと、ケント様も向かいの席へと戻っていく。
ケント様、かっこいいなぁ……
私はケント様を見ているし、ケント様の視線もひしひしと感じる。

ケント様も私を見てくれてる。
少しはかわいいとキレイだと思ってくれただろうか。

テーブルに料理が並ぶまでの間が、何とも居たたまれない。

「リナ、よく似合ってる」
彼がポツリと呟いた。
そこは呟くところじゃなくて、しっかりと伝えてくれないと、返事できないじゃない。
まぁかろうじて聞こえたからいいけれど……

誉めてくれた、誉めてくれたんだよね?
女性の扱いがイマイチな彼にしては、頑張って伝えてくれたんじゃないかと思う。

「ケント様も素敵です。かっこいいですよ」
私はしっかりと彼に聞こえるように言葉にする。

「ああっ、ありがとう。リナもキレイだ」
ようやく、ようやくキレイだをいただきましたよ。

私はご機嫌で美味しい朝食を楽しんだ。
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