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第1章
#4
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随分とあっさりしているんだな、と思いつつも、しつこく聞かれなくて安心した。
「ではお薬は2週間分だけ出しておきます。2週間後必ずまたここに来てください。できますか?」
「……なんの、おくすりですか?」
「胃腸を整える薬と、吐き気止めです」
「え?」
思ったより普通の薬で、俺はまた驚いた。
こういう時って、無駄にホルモンを整える薬とか、精神安定剤的なものを出されると思ってた……。
「美澄さんは病気ではありませんから、無駄なものを出す必要は無いです。それとも欲しいんですか?」
穏やかに見つめて問われる。
「……い、いえ、飲みたくはないんですけど……なんかもっと、仰々しい薬を飲まされるんだと思ってたので……ビックリしただけです……」
そう呟くと、先生はまたクスクス笑う。
笑った顔をまじまじ見つめると、気づいた先生は僅かに耳を赤くした。
「……美澄さんはまず、ご飯が食べられるようにならなければお話になりません。どれだけ薬を飲んでも、食べて眠れるようにならなければ意味が無いので。まずはそこから練習しましょう」
「……はい」
「今、おひとり暮らしですか?」
「……え?あ、……そう、……です」
本当は違う、……違うと言いたかった。
今住んでる家は康祐さんと住んで5年経っていた。
いや、正確には4年半だ。
……一人暮らしになってしまったなぁ。
「……おひとりで薬の管理や食事の準備できますか?そばに御家族や頼れる人はいますか?」
家族も頼れる人も、失いました。
そう言ったら先生は困るんだろうな。
「……います」
ぼんやりそう答えると、先生は怪訝そうに問うてくる。
「誰ですか」
「……ともだち」
頭に浮かんだのは周藤とカオリさんだった。
でも、頼るつもりは無い。
頼れる人がいないなんて言ってしまったら、入院なんて言われそうで嫌だった。
俺はあの家に帰りたいのだ。
生きるも死ぬもあの家で、康祐さんと過ごしたあの家で最期まで息をしたい。
康祐さんに、会いたい─……
「……美澄さん」
「……、あれ、ごめ、っごめんなさい……、」
いつの間にか、ぽろぽろとこぼれ落ちる涙に驚き、慌てて袖で拭う。
けれども零れ落ちてしまう。
どうしよう、止めなければ、先生が困ってしまう。
「美澄さん」
「へ」
ぽんぽん、と優しく頭を撫でられる。
それは、康祐さんがよくしてくれた仕草ーー……。
あの、慈愛に満ちた優しい手。
温かくて、愛に溢れるあの掌。
もう二度と触れられないあの手。
目の前で焼かれていったあの手。
染み付いた火葬場の臭いのせいで、肉なんて食べられやしなかった。
肉体は儚い。すぐに腐って燃えてゆく。
残った骨さえ拾う立場に居なかった俺は、黙って全てを遠くから見ているしか無かった。
誰よりも近くにいたのは俺なのに。
オメガで男の俺が康祐さんを実家から出させてしまったから、彼の家族からはあまり良く思われていなかった。
死に目に会うことさえも出来なくて、泣き崩れることも出来なかった。
家族じゃない俺には何も出来なかった。
彼が棺に入れられ火葬場の無機質な機械へと、誰かも分からない職員の手によって吸い込まれていった光景を思い出す。
急速に体が冷えていく気がした。
胃の中がかき混ぜられているかのような激痛に、思わずえづく。
そのまま椅子から崩れ落ち、息が吸えなくなった。
「……ぁ゛……っ、ひゅ、」
びくり、と体を震わせびしゃりと嘔吐してしまう。
胃には何も入っていないのに、こびりついた肉の焼ける匂いが消えないのだ。
「美澄さん。大丈夫です、全部出してしまいましょう」
先生の声が遠くで聞こえる。
康祐さんを想い、頭が真っ白になってゆく。
体だけは怖いほど震えていて、呼吸が整わない。
手足の温度が急激に失われて、痺れているのがなんとなく分かる。
遠くで先生が俺を支えながら看護師を呼び、腕に何かを刺していた。
その間も先生は俺の肩を抱き支えて、声をかけてくれていたような気がした。
段々と意識が遠のき、視界がブラックアウトした。
「ではお薬は2週間分だけ出しておきます。2週間後必ずまたここに来てください。できますか?」
「……なんの、おくすりですか?」
「胃腸を整える薬と、吐き気止めです」
「え?」
思ったより普通の薬で、俺はまた驚いた。
こういう時って、無駄にホルモンを整える薬とか、精神安定剤的なものを出されると思ってた……。
「美澄さんは病気ではありませんから、無駄なものを出す必要は無いです。それとも欲しいんですか?」
穏やかに見つめて問われる。
「……い、いえ、飲みたくはないんですけど……なんかもっと、仰々しい薬を飲まされるんだと思ってたので……ビックリしただけです……」
そう呟くと、先生はまたクスクス笑う。
笑った顔をまじまじ見つめると、気づいた先生は僅かに耳を赤くした。
「……美澄さんはまず、ご飯が食べられるようにならなければお話になりません。どれだけ薬を飲んでも、食べて眠れるようにならなければ意味が無いので。まずはそこから練習しましょう」
「……はい」
「今、おひとり暮らしですか?」
「……え?あ、……そう、……です」
本当は違う、……違うと言いたかった。
今住んでる家は康祐さんと住んで5年経っていた。
いや、正確には4年半だ。
……一人暮らしになってしまったなぁ。
「……おひとりで薬の管理や食事の準備できますか?そばに御家族や頼れる人はいますか?」
家族も頼れる人も、失いました。
そう言ったら先生は困るんだろうな。
「……います」
ぼんやりそう答えると、先生は怪訝そうに問うてくる。
「誰ですか」
「……ともだち」
頭に浮かんだのは周藤とカオリさんだった。
でも、頼るつもりは無い。
頼れる人がいないなんて言ってしまったら、入院なんて言われそうで嫌だった。
俺はあの家に帰りたいのだ。
生きるも死ぬもあの家で、康祐さんと過ごしたあの家で最期まで息をしたい。
康祐さんに、会いたい─……
「……美澄さん」
「……、あれ、ごめ、っごめんなさい……、」
いつの間にか、ぽろぽろとこぼれ落ちる涙に驚き、慌てて袖で拭う。
けれども零れ落ちてしまう。
どうしよう、止めなければ、先生が困ってしまう。
「美澄さん」
「へ」
ぽんぽん、と優しく頭を撫でられる。
それは、康祐さんがよくしてくれた仕草ーー……。
あの、慈愛に満ちた優しい手。
温かくて、愛に溢れるあの掌。
もう二度と触れられないあの手。
目の前で焼かれていったあの手。
染み付いた火葬場の臭いのせいで、肉なんて食べられやしなかった。
肉体は儚い。すぐに腐って燃えてゆく。
残った骨さえ拾う立場に居なかった俺は、黙って全てを遠くから見ているしか無かった。
誰よりも近くにいたのは俺なのに。
オメガで男の俺が康祐さんを実家から出させてしまったから、彼の家族からはあまり良く思われていなかった。
死に目に会うことさえも出来なくて、泣き崩れることも出来なかった。
家族じゃない俺には何も出来なかった。
彼が棺に入れられ火葬場の無機質な機械へと、誰かも分からない職員の手によって吸い込まれていった光景を思い出す。
急速に体が冷えていく気がした。
胃の中がかき混ぜられているかのような激痛に、思わずえづく。
そのまま椅子から崩れ落ち、息が吸えなくなった。
「……ぁ゛……っ、ひゅ、」
びくり、と体を震わせびしゃりと嘔吐してしまう。
胃には何も入っていないのに、こびりついた肉の焼ける匂いが消えないのだ。
「美澄さん。大丈夫です、全部出してしまいましょう」
先生の声が遠くで聞こえる。
康祐さんを想い、頭が真っ白になってゆく。
体だけは怖いほど震えていて、呼吸が整わない。
手足の温度が急激に失われて、痺れているのがなんとなく分かる。
遠くで先生が俺を支えながら看護師を呼び、腕に何かを刺していた。
その間も先生は俺の肩を抱き支えて、声をかけてくれていたような気がした。
段々と意識が遠のき、視界がブラックアウトした。
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