【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第1章

DAY1(#6)

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 俺の憂鬱な入院生活が、思わぬ形で幕を開けてしまった。

 昨日、入院手続きをカオリさんと共に行い、今回はオメガ専用病棟に隔離される事となった。
 
 番を失った俺は、抑制剤を服用せずとも発情期がこなくなるため一般病棟でも良かったのだが、一般病棟に移るとなると担当医師を変えなければならなくなるらしい。
 
 精神科への入院も、精神病棟にはラットになったアルファも多いため、フェロモンに触発されて俺が食事出来なくなるのは本末転倒だから、と先生の計らいでオメガ専用病棟になった。

 朝7時に起きて体温と血圧を図られ、朝食と飲み薬が出る。
 昼11時半にまた、昼食と飲み薬。
 
 診察とカウンセリングは先生の都合でその時々、時間が変わるらしい。
 そしてまた19時に夕飯と飲み薬だ。

 先生が個室にしてくれたため、カウンセリングもこのままベッドの上でいいらしい。

 けれど俺は、今日の朝食は愚か、飲み薬でさえ胃が受け付けず戻してしまい、急遽ウィダーインゼリーを買ってきてもらってそれと共に薬を飲み込んだ。

 昼も固形は飲み込めず、結局流動食で流す事に。

 そうしているうちにカウンセリングの時間がやってきた。

 ノックを3回したのち、ガラリと音を立てて入ってきたのはこれまた若い男性だった。
 
 同年代だろうか。
 心なしか顔色が悪く見える。忙しいのだろうか。

「美澄 要さんですね」

 仏頂面で無愛想。
 低く抑揚のない声で話しかけられ、俺はおずおずと1つ頷いた。

「本日から1週間、美澄さんのカウンセリングを担当させて頂きます、文月 飛鳥ふづき あすかと申します。よろしくお願いします」

「……ぁ、はい」

 ぺこり、と同じように頭を下げれば、文月さんは横にあった丸椅子へ音を立てて腰を下ろした。

「では早速ですが─……」

 淡々と始まるカウンセリングに多少おどおどしつつも、聞かれたことに「はい」か「いいえ」くらいで答えていき、初めは文月さんが俺を知るための質問コーナーのようなもので終わった。

「ではこれから佐々木先生にもまだお話出来ていないことを徐々に私に話していただけたら嬉しく思います」
「……ささき、せんせ?」

 誰だろうかそれは。

「……美澄さんの担当の先生です。佐々木 恭司ささき きょうじ先生と言います」

 え、そうだったのか。
 知らなかった。
 
 どことなく呆れた顔をした文月さん。

「美澄さん。何故いま自分が、こんなにも体調が悪くて心も疲れてしまっているのか、心当たりはありますか」

 抑揚のない声は俺の答えたくない部分を的確に質問してくる。

 カウンセリングはこの入院生活でいちばん憂鬱な時間になった気がした。


 ・


 ・


 ・


「美澄さん。答えたくないことは無理にとは言えないのですが、……せめて、こうなってしまった要因は、心当たりがあるのなら教えて頂きたいです」

 全ての質問に無言を貫き通した俺は、文月さんに呆れた顔をされる。

「……言わなくても、ご存知でしょう。番を亡くしたんです。こういうオメガ、病院じゃ見飽きてるでしょ」

 こんな嫌な言い方、お世話になっているのに失礼だと自覚している。
 けど元の自分はこうだった。

 康祐さんと出会う前、康祐さんに愛を与えられる前の自分は、嫌味で皮肉で、愛想もなくて、まともに人と話す気もなくて。
 
 そんな俺をあの人だけが根気強く支えてくれて、愛してくれた。
 
 そんな人を育てた御両親だったから、きっとオメガとの結婚を許したかったんだと思う。
 
 葬式でも激しく避けられてたわけではなかった。
 
 ただ、自分から遠目に横目で見ることにしていた、それだけ。
 それがオメガにできる精一杯の遺族への敬意だと思った。

 血肉の焼ける匂いをただ遠くから感じられるだけで、最期の弔いになると思って。

 独りになるのが嫌なんじゃない。前の嫌な自分に戻るのが嫌なんじゃない。
 
 俺は、あの人がここに居ないのが嫌だ。

「美澄さん……今日はここまでに、」

 文月さんは、俺の様子がおかしいことに気づいたのか静かに切り上げようとする。
 そんな様子を無視して俺は、おもむろに口を開いた。
 
「……目を開けても、」

 唐突に話しても、文月さんは何も言わなかった。「……はい」と静かな声で相槌を打ってくれている。
 佐々木先生とやらよりは少し、話しやすい気がした。

 俺は言葉を続ける。

「目を開けても、愛する人が居ない世界で……どうやって明日に希望をみつけるんですか」

 文月さんは真っ直ぐに俺を見つめて、口を結ぶ。
 
 相変わらずの無表情。でも無表情は俺だって負けていないと思う。
 
 文月さんは詳しいことを何も知らない。
 それでも、静かに聞いてくれるこの人をほんの少し、居心地がいいと思った。

「……仕方の無いことだとは分かってるんです。人の命は儚い。1週間……たった1週間だけでも、あの人が必死で生きようと頑張ってくれた時間だったのも分かってます」
「……はい」
「でも、……」

 でも、だからってどうして大切な人をみんな失わなければならないのだろうか。
 俺はそんなに前世で悪いことをしてしまったのだろうか。
 
 康祐さんが亡くなったのも、両親が亡くなったのも、俺のせいではない。
 
 はっきり言って俺は無関係だった。

 康祐さんは出勤途中に、横断歩道を渡り切れていなかった子供を助けて亡くなった。
 両親は、スーパーに2人仲良く買い物へ行った帰りに、居眠り運転の車にひき逃げされて亡くなった。

 俺は、いつも家で待っていた。
 
 お掃除したり、時にはご飯を作ったり。
 テレビをみながら、そろそろかなあなんてニヤニヤして。
 
 父さん帰ってきたら競馬のことを聞こう、馬の名前はどうして変なのが多いのかとか、さっきテレビでやってたゴルファーはこのあいだ怪我をして引退って言われてなかったっけ?とか。

 母さんが帰ってきたら、今度家庭科で肉じゃが作るって言われてるんだけど、みんなを驚かせたいから美味しい作り方先に教えて、とか。授業参観終わったら映画観に行こうよ、とか。

 康祐さんが帰ってきたら、週末のデートはやっぱり水族館にしたいなって、車も一緒に洗おうよピカピカにするコツを聞いたから、……。


……だから、俺、おかえりってみんなに言いたいよ。
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