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第2章
#4
しおりを挟む手に持った小さな紙袋2つを改めて確認する。
片方はお菓子だけ。もう片方にはちゃんと綺麗になったハンカチとお菓子が入れられている。
(よし……)
俺は大学病院の正面玄関で一人、謎の気合いを入れて歩みを進める。
(うん。来たはいいが、そういえばみんなしてどこにいるか知らないな)
というか、患者としてきていない俺が仕事をしているはずのあの人たちに会えるのだろうか。
全く何も考えていなかった……。
やっぱ診察のタイミングにすればよかったかなぁ……。
ロビーでどうするべきか突っ立っていると、「美澄さん?」と聞こえる。
(この声は……)
恐る恐る振り返ると、不思議そうな顔をした文月さんがそこに立っていた。
(なんて都合の良い男なんだあなたは……)
心の中で、出来過ぎたシチュエーションにツッコミを入れつつ、引き攣る顔をなんとか笑顔に持っていき「どうも」と会釈した。
久しぶりに見る白衣姿の文月さん。
相変わらず中に着ているのは黒いハイネック。
手には黒いバインダー。胸ポケットには万年筆。
(うん、変わらないな)
半歩近づいた文月さんは、少し首を傾げながら口を開く。
「どうしたんですか。今日は診察ないですよね?」
カウンセラーって患者の診察日も把握しているのか、さすがだな。
俺は文月さんに頷きながら、ここに来た経緯を説明する。
「いや、俺……文月さんにハンカチ借りっぱなしだったでしょう?だから、返しに来たんです」
色んな人に貸してるみたいですし、と何故か余計なことを言ってしまい、なんとなく気まずくて顔を背ける。
「そ、それとっ!康祐さんが、何か借りたときはほんの少しお菓子とか添えなさいって言ってたから、お菓子!……ほら!」
佐々木先生にも会うつもりだったが、なんでか上手く会話ができないことに焦って、お菓子2つを文月さんに押し付けてしまう。
ぐいっと紙袋を文月さんの胸に押し当てていると、頭上から「ふっ」と笑う声が聞こえ「は?」と思わず声を出して見上げた。
文月さんはすぐに顔を戻していて「いえ」とロボットみたいに返事をする。
「わざわざありがとうございます」
「いいえっ!」
紙袋を受けとってもらったらもう用は……なくなってしまう。
じゃあこれで、と言って帰ろうとした時、文月さんに「美澄さん」と呼ばれた。
とりあえず振り向いた。
「……もしお昼まだだったら、少し中庭に行きませんか」
文月さんが手に持っていたコンビニの袋を見せながらそう言った。
「え、でも……」
(それはあなたが自分用に買ったやつなんじゃ……)
と思ったが口には出ず。
文月さんは言った。
「ちょっと選びきれなくて買いすぎてしまって。佐々木先生に分けようかなと思っていたから丁度いいんです」
気を回してくれたであろうその言葉選びに、俺はなんだか気恥ずかしくなる。
ほんの少し耳が熱いような気がしたけど、それは人に優しくしてもらうのがなんだか……気恥ずかしいだけだ。
「じゃあ、俺でよければ……」
小さく呟けば、文月さんは、ふ、と笑った。
「はい、ぜひ」
歩き始める文月さんの背中は、自分よりも大きくて病室で会っていた時よりもなんだか逞しくなったような気がした。
……良い人でも、出来たのだろうか。
守りたくなるような、人でも……。
そんな邪推は、中庭の陽気に当てられてなだらかに溶けていった。
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