【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

文字の大きさ
29 / 112
第2章

#5

しおりを挟む

 まだ、たかが一ヶ月程度なのに、もう懐かしさを覚えてしまうのは何故だろうか。
 
 この間まで、康祐さんの死をあんなにも身を壊しながら嘆いていたのが嘘のように、今俺はカウンセラーと患者として、中庭のベンチに腰掛けている。

「鮭とツナマヨ、どっちが良いですか?」

 文月さんは袋からおにぎりを出して見せる。

「……本当にいいんですか?」
「はい」

 文月さんの頷きを見てそれ以上何かを言えることもなく、俺は「では、鮭のほういただきます……」と呟いて受け取った。

 文月さんはツナマヨのおにぎりをなぜかコンビニの袋にしまい直し、代わりに袋から今度は栄養ドリンクを取り出した。

(……鮭の方が良かったのかな)

 なんとなく文月さんの横顔を見ると、どことなく顔色が悪いような気がした。

「……おにぎり、食べないんですか?」

 そう聞けば、文月さんはチラリとこちらを見てまた、栄養ドリンクの小瓶に口をつけながら前を見た。

 文月さんの視線の先には、車椅子の若い男性が、見舞い人らしき若い女性と楽しそうに話している。

「今日は食べます」
「……今日は?」

(では、いつもは?)

 と思うも、そこまでは口に出なかった。

 文月さんは言ったとおり、栄養ドリンクを飲み干すと、ツナマヨおにぎりのフィルムを剥がし始めた。
 
 無表情な文月さんは、パクッとおにぎりを頬張る。

 その様子を見届けた俺も、フィルムを開けて同じようにパクリと頬張った。

 まだ鮭には辿り着かないけれど、文月さんはもうツナマヨまでたどり着いたらしかった。

 ただ二人で並んでおにぎりを頬張る。

(カウンセリング以外じゃなんも話さないのかなこの人……)

 でも、昼に誘ってくれたのこの人だしなぁ。

 そんなことを考えていたらやっと鮭の身に辿り着き、鮭の塩っ気が米とマッチして口の中でやっと、鮭おにぎりというものが完成した。

「調子は、どうですか」
「へ、あ、はあ……良くも悪くも、ですかね」

 文月さんからの唐突な問いに、ほんの少し驚きはしたが咄嗟に答える。

「……そうですか。良い時がちゃんと来るようになったのならよかったです」

 文月さんのなんでもないようなその言葉に、俺はおにぎりを頬張る手を止める。

 彼の手からおにぎりはなくなっていたからきっと食べ終わったのだろう。

「その節は、お世話になりました」

 そういえば、まともにお礼なんて言っていなかったと思い出し、少しだけ頭を下げる。

 すると文月さんは、ほんの少しだけ頬を緩めて「……いえ。仕事ですので」と短く言う。

(……なんとなく、覇気がない?)

 いやいつも元気だったわけじゃないけど、なんでか元気がないように思えた。

「ふづきさ……」
「美澄さん」

 話しかけようとした時、文月さんの声の方が大きくて俺の呼びかけは風と共にかき消された。

「は、はい」

 文月さんは2本目の栄養ドリンクを片手に、こちらを見た。

「……俺、来月から小児科の研修に入るので、美澄さんは佐々木先生にフォローしてもらうことになるんです」

「へ、あ、そう……なんですか……」

 (知らなかった)

 研修医だってそういえば言っていたけど、他の科も行くのか。

「じゃあ、文月さんとは終わりか……」

 なんとなく呟いた俺に、文月さんは少し目を丸くしてこちらを見ていたが、俺はそんな様子を無視して気になったことを聞くことした。

「文月さんって、いくつなんですか?」

 文月さんは栄養ドリンクを少し煽り、俺を見て言った。

「今年、二十九になります」
「へ⁉︎」

(今年、二十九ってことは……)

 俺の五歳上で……。

「康祐さんと同い年だったんですね」

 俺の言葉に、文月さんはぴくりと反応した。
 
(なんだか不思議だ。同い年だったんだ……)

 彼らは同じ年に生まれたのに、文月さんは俺の隣で生きていて、康祐さんは俺から離れて亡くなっている。

 「……思い出しても、そんな顔できるようになったんですね」
 
 文月さんの言葉の意味がわからず、首を傾げた。

「穏やかな顔っていえばいいんでしょうか……。発作も出なくなっていますし……」

 文月さんはどことなく無表情の中に、安堵の色を滲ませながら俺を見た。

 ……確かに、康祐さんを思い出して泣きたくなる日は減ってきていた。

 彼の残り香も消えたあの部屋で寝て起きてご飯を食べる。

 でも、彼が心から消えたわけじゃない。



 出かける時は「行ってきます」を、帰ってきたら「ただいま」を言う。


 
 今はその距離感に納得できていて、そのたびに康祐さんが「気をつけてね」「お疲れ様」って言ってくれてる気がするんだ。



 それで良いと思えるようになったのは、やっぱり佐々木先生や文月さんの治療とカウンセリングのおかげだと、今なら思えている。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。 たとえ運命から背を背けようとも」 音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。 努力家の先輩αと、 運命の番だと告げられた天才α。 運命か、愛情か―― 選ぶのは、僕自身だ。 ※直接的な描写はありません。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

ノエルの結婚

仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。 お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。 生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。 無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ 過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。 J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。 詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。

王太子殿下は命の恩人を離したくない

まんまる
BL
セネシス王国の第一王子レイヴィンは、10歳になった時、父王から側近候補のエース公爵家のオリバー、スペット侯爵家の コルトン、そしてガナー伯爵家のサランを紹介される。 4人は親睦を深める中、自分達だけで街に遊びに行く計画を立て、実行した。 楽しい一日を過ごすうち、四人はかけがけのない親友になる。 しかし、王城へ帰ろうかという時、レイヴィンを狙った暴漢に襲われてしまう。 その時、レイヴィンを庇って犠牲になったのは、かけがえのない親友だった。 成長したレイヴィンは、事件の前と変わらない態度で接してくれる友への切ない気持ちが、罪の意識からなのか恋なのか分からず戸惑う。 二人が自分の気持ちに気付いた時、一度分かたれた人生がもう一度交わる。 受けに負い目がある王太子レイヴィン(α)×傷を負った伯爵令息サラン(Ω) 短いお話の予定です オメガバースは話の流れで触れる程度です Rは15程度ですが※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

処理中です...