【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第8章

#7

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 待合室で、自分の名前が呼ばれた時ハッと顔を上げた。

 いそいそと、診察室の扉を開けてくれている看護師の元へ「はい」と返事をしながら行けば、「美澄さんですね?」とにこやかに言われる。

 もう一度「はい」と言えば、「お入りくださーい」と軽い案内と共に中へ招かれて、俺は丸椅子へと腰掛けた。

 目の前にいるのはもちろん――。

「お久しぶりです。あれから体調はいかがですか」

 堅物な結城先生。

 彼は何も変わらずそこに鎮座し、患者を診ている。

「副作用の嘔吐が酷かったですが、そのほかは何も……」
「ああ、強めの抑制剤だったのでそうかもしれませんね」

 なんでもないようにそう言われると、それはそれで腹が立つなと思いつつ、でもまあ明日からは飲まなくていいはずだから、と気持ちを落ち着ける。

「恐らくもう落ち着いてるはずなので、一旦お薬は止めましょうか。ただ、周期性ではないようなので、またいつ来てしまうかわかりません。頓服といった形で抑制剤を出しておくので、この間のようなヒートが来たらすぐ飲めるようにはしておいてください」

 俺はその説明に頷きながら、ずれ落ちた上着を持ち直す。

 その仕草を見ていたのか、先生は「美澄さん」と声をかけてきた。

「はい」

「腕、見せてもらえませんか?」

 結城先生の言葉は、いつの日かの誰かとデジャブだなと思いながらも、看護師に言われるまま荷物を荷物置きに入れて、結城先生に腕を見せた。

 上着の下は半袖だったから、そのまま差し出せば結城先生は顔を顰める。

「この傷は、いつつけたものですか?」

 その言葉の意味がわからず、自分で自分の腕を見直すと確かに傷だらけだった。

(なんで……あ、そっか)

「この間、友人の奥さんが産気づいたんです。その時ですね」
「はい?」

 結城先生は意味がわからない、とでも言いたげに俺をみる。

「いやなので、副作用がきつかったんですけど、助けてと言われたので助けてた時に、自分の吐き気を紛らわすのに、痛みを与えれば気が紛れるかな、と」

 そう言い直すと、結城先生は目を丸くして俺の腕をジッと見つめていた。

「……そんな手法もあるんですね」

(医者の感想がそれかよ)

 怒られるとか注意されるとかそんなことを思っていたけど、それは杞憂だったようだ。

「結果、アドレナリンの方が勝ったみたいで、全てが終わったらドバッと疲れて吐きました」
「そんな、夕飯はカレーでしたみたいなノリで……」

 先生はどこか呆れながらも、カルテに入力を進めていた。

「自傷行為、ではないんですね?」

 先生の言葉に笑って頷く。

「俺、こんなんですけど、自傷行為だけはしたことありません」

(まあ、飛び降り未遂と部屋の破壊はしてるけど……)

 そう言うと、先生は「それはドヤ顔で言うことではありませんね」と呆れてため息を吐いていた。

「そんなことより先生、今日は……」

 俺は朔さんのことを聞こうとすると、先生が看護師に少し下がっておくように指示を出した。

 恐らく医者として聞かれるのはあまりよろしくないのだろう。

「……彼は今のところ落ち着いているので、連れて来れると思います」
「じゃあ、話しますか?俺も暇にしてありますし」

 嘘である。
 たまたまバイトが入っていなかっただけのこと。

 カオリさんの看病もしなくて良いし、単純にやることがなかったのだ。

「美澄さんが本当に良いのなら私は助かりますが……」
「先生から見て、俺が健康そうならいいんじゃないですか?」

 その後どうなろうが知ったこっちゃないが。

 そう言うと、先生は「では、……中庭にでも連れて行きます。診察と会計が終わったころを見計らって連れていくので、中庭に来てください」

 ぺこり、と頭を下げる。

(また中庭か)

 いろんな人とこの大学病院の中庭で話しているな、俺は。

 そんなことを思いながら、荷物を手に持ち直して「わかりました」と返事をして診察室を後にした。

 
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