【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第8章

#8

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(中庭って言われてもなぁ……)

 よく考えたら朔さんの容姿とか何にも知らないな、と思いつつ院内から外を見ていると、ベンチに車椅子を横付けして座っている色素の薄くて細い男性と、そのベンチに腰掛けて何かを待っている様子の結城先生が見えた。

(あんな殺人犯みたいな顔してたら、いくら番でも嫌だよなぁ……)

 朔さんの心内を勝手に察して、苦笑しつつ歩いていけば、先生はこちらに気づいたようで車椅子の男性に何かを言って立ち上がり、俺に遠くから会釈をしてその場から去って行ってしまった。

(いやおい、二人きりにするのかよ)

 初対面だぞこちとら。

 俺は、彼の傲慢な不器用さに呆れながらも車椅子の彼――朔さんに近づいた。

 彼の前に立ち、彼の体に影が落ちてようやく俺が来たことに気がついたようだった。

 ゆっくりと顔を上げた彼の顔は、落ち窪んでいて目の下のクマも濃く、体も見える範囲で見れば、ガリガリに近かった。

 ご飯も満足に食えていないのだろう。

 その姿は、少し前の自分と重なる部分があった。

「隣、座ってもいいですか」

 そう声をかけると、少し驚いた様子のその男性は目を丸くしながらも「え、ええ……」と頷いた。

(結城先生、もしかしてなんの説明もなくこの人をここに置いてった?)

 丸投げじゃねぇか……。

 文月さんとはまるで違う彼に心でため息を吐く。
 
 じゃあ急に色々語り出したら確実に変なやつだよなぁ。

「今日は天気がいいですね」

(とりあえずこれだろう)

 困ったら天気の話をすればいいって誰かが言っていた気がする。

 俺の呟きに、彼は答える気は無いのかずっと俯いていて何も話そうとしなかった。

(うん、これは骨が折れるやつだな)

 どこか諦めつつ天を仰いだ。

「俺、美澄って言うんです。せっかくのご縁ですし、お名前を聞いても良いですか?」

 俺らしくもなく柔和に話しかければ、少し顔を上げた彼は横目で俺をチラッと見た後、小さな声で「……朔」とだけ呟いた。

「朔さんか。……花が咲くみたいで、良い名前ですね」

 そう言うと、なぜか朔さんは目を丸くして俺を見つめた。

「お、俺、何か変なこと言いました?」

 慌てて聞けば、朔さんは少し考えたのちに「……いいえ」とだけ返してまた俯いてしまった。

(あーもう。まどろっこしいの無理なんだよなぁ俺)

 頭をわしゃわしゃかきたい衝動に駆られつつ、次はなんて言おうか思案する。

「朔さんはいつからここにいるんですか?」
「なんであなたにそんなこと言わなきゃならないんですか」

 これまたはっきりと拒絶の意思を示されてしまう。

 でも彼の言い分は至極真っ当で、俺は「うーん」と首を捻る。

「ぶっちゃけ言うと、俺頼まれたんですよ」
「はい?」

 (もういいわ。どうなっても知らないって言ってあるし……)

 当たって砕けろだな、と考え直した俺は朔さんに向き合い、その大きな瞳を見つめた。

 純粋で綺麗な瞳に見えるのに、落ち窪んでいるせいかその美しさがわからなくなってしまっている。

「あなたのパートナーに、あなたの話を聞いてやってくれないかって」

 そう言うと、朔さんは目を見開いて驚いたと思ったら、次の瞬間、怒りを露わにしたように目も眉も吊り上げて言った。

「……あのくそ医者」

(意外と口悪いんだな)

 その呟きに驚いていると、今度は朔さんの瞳がこっちに向けられた。

 その目には敵意が滲んでいて、今から何を言われるのかなんとなく想像がついた。

「あんたもまんまとあの医者に乗せられてヒーロー気取りでここに来たわけ?」

 朔さんは乾いた笑いを浮かべながら、俺を軽蔑した目で見つめた。

「うーん……」

 なんで俺が朔さんの言うことがわかるかって、俺も逆の立場だったら同じように思うだろうなと容易に想像がついたからだ。

 だからこそ、嘘や誤魔化しが効かないこともよくわかっていた。

 正面切って彼と向き合うしかない。

 まあもしかしたらこれが、文月さんと俺の関係値を変える何かにもなるかもしれないし、と思ったが。

「ヒーロー気取りと言われてしまえば、きっとそうかも」
「馬鹿馬鹿しい。そんなことのために僕はこんな場所へ連れて来られたのか」

「こんな場所?中庭素敵じゃない?」
「全く素敵じゃない。こんな何も無いところ」

「牢屋から出られた気がしない?」
「しないね。結局これからまたあそこに戻るんだから」

 他人の言葉を完全に拒否する姿勢は、数ヶ月前の自分とよく似ていた。

「戻りたくない?」

 俺の質問に、朔さんは口を大きく開けて眉を吊り上げて言った。

「当たり前だろうっ!僕は家に帰りたいんだ!いつまでこんなところにいなくちゃならないんだっ!こんなところにいたって治りはしないんだよ‼︎」

 腕をガリガリとかきむしり、首もガリガリと掻く彼の皮膚は掻き跡があって少し、ただれていた。

 よく見ると、爪も噛んでしまっているのか深爪になっていて血がうっすら滲んでいた。

 点滴に目をやれば俺に打たれたのとは違う薬の名前が書かれている。
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