【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第8章

#9

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「嫌ですよね、あそこ。牢屋みたいで、人権がない気がする」

 そう呟くと、朔さんは腕を掻きむしるのをやめて俺を見た。

「俺も1週間前くらいにあそこにいたんですよ」

 朔さんは何も言わずに俺をただ見つめている。

 俺はまた平和な中庭の景色を目に映していた。

 文月さんが手を焼いていたあのニット帽を被った少年はどうしただろうか。
 まだ元気にやっているのだろうか。

 そういえば、いつもいた老夫婦今日はいない。

 骨折していたらしき若い男性は、もう退院したのだろうか。

 それぞれの人生が交差するこの中庭の景色が、俺は嫌いじゃなかった。

「俺、朔さんの元パートナーの現パートナーなんです」

 あえてわかりづらく表現してみたが、朔さんには伝わったようで溢れんばかりに目を見開いた。

「飛鳥、の……?」

 震えるような言葉の真意は俺にはわからない。

 この話を聞いて朔さんがショックを受けているのか、それともただ驚いているだけなのか。

「はい」

 そのことを知るにはまだ日も時間も浅すぎる。
 結城先生は大概、横暴だなと思った。

「なんでそんな奴が僕のところに来たわけ……」

(あの驚きは、怒りだったのか……)

 睨みつけるような彼からの視線を一身に受けながら、俺は「頼まれたからです」と淡々と返すことにした。

「マッジでクソだな!だから嫌いなんだよ、お前らみたいな連中!」

 朔さんは怒った勢いで車椅子を動かそうとしてしまったので、仕方なく、車椅子自体を掴むことにした。

 物理的に前に進めないことに違和感を覚えた朔さんが俺をみてまた憤慨する。

「離せよっ!」

 全てを嫌がる彼に俺は何ができるのだろうか。

 やっぱり、俺もどこかで朔さんの言うクソ医者――結城先生と似た思考になってしまっていたのかもしれない。

 あまりにも今の人生が『普通』すぎて、そっち側の……朔さん側の人間だった時のことがうまく思い出せない。

(それは良いこと……なのかな……)

 ヒーローものは、どうして相手が完全な悪なんだとわかるんだろう。

 どうして自分が正しい側だとわかるんだろう。

 正しいからって、相手を攻撃して倒して、それでいいのだろうか。

 子どもは……人はどうして、ヒーローに憧れを持つのだろうか。

「でも俺、文月さんと番じゃないですよ」

 朔さんは、無理やり車椅子を動かすのを止めて「へ?」と言って俺のことを振り返った。

 俺は車椅子から手を離してぼんやり空を見上げる。

「なんか分からないんですよね。俺の番は事故で亡くなってしまったから」
「……」

「自分にとって彼しか人生にいなくて、彼だけが俺の支えだったから……今更、運命の番だって言われても文月さんと恋愛する気にはならなくて」
「……」

「でも、クソなことに体だけは恋愛する気満々で準備始めようとしてて。この間入院したのは、勝手にヒートが来たからです」

 何ヶ月も来てなかったのに、と笑って言えば朔さんはなんて返せば良いのかわからないのか、車椅子を動かすのをやめて視線を彷徨わせていた。
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