【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第9章

#6

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 二人の間に重い沈黙が流れ続けた。

 これをどう解消しようかと思ったけど、なんだかもうそれも面倒くさくなってしまった。

 (どうにでもなればいい……)

 俺は康祐さんと恋したあの時間を無駄だったと思いたくない。

 あれは、俺の大切な時間だったのに。

 ああ、違う。
 今の俺は、ぐちゃぐちゃできっと使い物にならない。

 もう何を考えるのが正解なのか、分からないんだ。

 思考回路を滅多刺しにしてやりたいくらい使い物にならなくて、でも怒りや悲しみだけは明確に理解できてしまう。

 麻痺したままだったらよかった。

 こんなことになるなら……。

「この体、治さなきゃよかった……」

 康祐さんの死に囚われたまま、この部屋からも姿を消して、やっぱりあのまま死んでしまえばよかった。

 そうすれば今苦しくなんてない。
 康祐さんの元にいけたかもしれない。

 そうしたら、そうしたら――。

(運命なんてものに翻弄されずに済んだのに……)

「美澄さん、」

 文月さんの震えた声が何を意味するのか分からない。

 俺は顔を上げないまま、無造作に置いてしまった康祐さんの写真を見つめた。

「……前を向くことが、俺には運命に従うことになったけど……それで良いと思った」

 俺の独白を文月さんは黙って聞いた。

「だってあなたは、俺にサンドウィッチを作ってくれた」
「……え?」

 かつての中庭で、肩を並べて座ったベンチで二人で食べたサンドウィッチ。

 あの時はまだ、楽しいだけだったのに。

「あなたは、康祐さんの最期の一週間に名前をつけてくれた」
「……」

 『エンドロール』

 それは、彼――康祐さんにとって安らぎの一つになったはずだ。

 仮に生きていたとしても、文月さんの言葉に康祐さんは笑って言ったはずだろう。

 ――『綺麗な感性の人だね』と。

 「あなたは、俺に手のひらを見せてくれなかったけど、手を差し出すことだけはやめないでいてくれた」

 中身は見せられなくても、外側だけでも見せようとしてくれた。

「そんなあなたの優しさが俺は好きでした」

 じんわりと鼻の頭が痛くなる。

 目に涙が溜まっていくのがわかる。

 康祐さんの写真を抱きしめて、俯いた。

「……俺は、康祐さんと一緒に生きていく……。……っでも、」

 ぎゅっと抱きしめれば額縁の先端が指に刺さって痛いと思った。



「……それは、未来に文月さんがいてほしいと思ったから……っ」


 俯いて目を瞑っているのに、ボロボロと溢れ出る涙は止まらなかった。
 どうしてか流れ落ちる熱い液体は、ソファにシミを作っていく。


 
「貴方は……俺のことも未来から消すんですか……っ」

 

 それが、貴方の答えですか。
 


「貴方のエンドロールに、俺は……患者Aくらいには、なれますか……っ」



 せめて、患者の中では一番に。


 そう思った時、体がバニラの香りに包まれた。
 それはかつての強引なものではなかった。

 人の体温と、彼の洗濯洗剤と、シャンプーの香り――。

 康祐さんを抱きしめたままの俺が、彼の世界に優しく、強く閉じ込められた瞬間だった。
 
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