【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第10章

#5

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「片付け終わったよ~」

 何事もなかったかのように俺は文月さんを台所に放置してリビングに戻る。

 周藤夫妻はこちらを振り返って「ありがとう~」と言った。

 すると周藤が立ち上がって「食後の茶でも飲むか!」と言った。

「あたし、要くんが買ってくれた紅茶にして~」
「はいよ~」

 周藤夫妻の声を聞きながら、もう一度食事をするときに座った位置へ俺と文月さんは戻った。

 カオリさんは機嫌良さげなイロハちゃんを抱っこしながら俺たちを見る。

「文月さんってよく見ると色男ねぇ」

 カオリさんの台詞に俺は「ゲホッ」とむせ、台所から「カオリ⁉︎」と焦った声が飛んでくる。

「でも服装はまっくろくろすけねぇ」
「ぶはっ」

 同じことを思っていた俺が思わず吹き出してしまう。

 文月さんは「はぁ」という返事なのかよくわからない単語でカオリさんと会話していた。

「お気に入りのブランドとか服装のこだわりはあるの?」

 カオリさんの方が年上なのか、と勘違いしたくなるような貫禄に、文月さんは変わらず敬語と正座で返す。

「いえ、こだわりがないから黒か白しか着ません」
「そういえば、夏は白シャツでしたね」

 そう返せば、文月さんは少し不満げな顔をした。

「恭司さ……佐々木先生が、『夏に黒は暑苦しい』ってうるさいので白にしたんです」

 (あ、そういうの不満に思うタイプなんだ)

 俺はその二人を想像したらなんだか面白くて笑ってしまう。

 カオリさんは「ああ、要くんの主治医ね」と思い出したように言う。

 そのタイミングで周藤が全員分のお茶やコーヒーを持ってきてくれた。

「はい好きなのどうぞ~」

 俺と文月さんはホットコーヒーをいただくことにして、周藤はほうじ茶、カオリさんは俺が買ってきたカフェインレスの紅茶を飲む。

「まさか、要のパートナーと卓を囲むことになるなんてな~」
「本当。半年前は考えもしなかったわよね」

 周藤夫妻のしみじみした言い方に、(いやまだパートナーじゃないんだけど)と言いたかったが、説明するのも面倒だったので文月さんが言わないなら良いか、とそのままにしておくことにした。

「でも運命の番だものねぇ」

 カオリさんがにこやかに言う。

(運命の番、か)

 まあそう言われればそうだけど。

 俺はコーヒーを啜りながら、イロハちゃんを見つめる。
 小さいマットレスに寝転がるイロハちゃんは、手足を動かして大人四人の動向を目で追いかけている。

 「要が運命の番と出会うのもびっくりだし、番とうちに来るのもびっくりだよなぁ」

 周藤はどことなく嬉しそうに言う。

 その喜びには申し訳ないけど、うまく返せなかった。

 逃げるようにイロハちゃんの方へ視線を向ければ、ふと文月さんはコーヒーが入ったマグカップをテーブルに置いて言った。

「実は、俺たちは番じゃないんです」

「え?」
「え?」

 周藤夫妻の驚きに俺は(あ、言うんだ)と思いつつイロハちゃんの元へ向かう。

 あんなにお猿さんみたいだったのに、もう顔は周藤夫妻の血を受け継いでいるのが分かる。

 小さな手に触れれば、条件反射的に人差し指を握られ思わず笑えば、後ろから周藤夫妻と文月さんの声が聞こえてきた。
 

「俺と美澄さんは、です」


「え?」


 今度は俺が、イロハちゃんに手を握られたまま文月さんを振り返って見つめていた。

 俺の驚きに周藤夫妻は状況が把握できないのか、二人とも俺と文月さんの行末を見守るように黙り込んでいる。

 リビングにはイロハちゃんの意味のない「あ」とか「ん」とか「ふぇ」とかいう言葉と、かけっぱなしにされていたバラエティ番組の音だけが聞こえている。

「な、なんだ……水臭いじゃんか。言えよ~要!」

 その不思議な間を打ち消すかのように周藤は努めて明るく俺に言う。

 しかし空気を読んだカオリさんに、バシッと太ももを叩かれ黙ってしまった。

 俺は戸惑いながらも、この空気をどうにかしなければ、と「か、カオリさん!」と呼んだ。

 カオリさんは「は、へ?」と戸惑ったように返事をする。

 俺はカオリさんの戸惑いを百も承知で話題を変えようとイロハちゃんを抱き起こした。

「イロハちゃん、抱っこしてもいい?ってかもうしてるけど……」
「あ、うん。もうそれはご自由に……」

(そんなテイクフリーみたいな)

 俺はカオリさんの反応に心で突っ込みつつ、イロハちゃんを抱き起こして立ち上がり首を支えながら抱っこする。

 文月さんに背を向けて、イロハちゃんだけを視界に入れていると後ろから「美澄さん」と呼ばれた。

 手のひらに汗が滲んで、俺はイロハちゃんを落とさないように精一杯だった。

(今、……今何か言ったら……殴る……)

 俺は自分の心臓の音がとんでもない音を奏でているのをわかっていて、イロハちゃんをぎゅっと抱き抱えた。

(言わないで)

 その思いも虚しく、文月さんは口を開いた。




「……恋人に、なりましょう」
 
 

 俺たち、と付け加えたとき、不釣り合いにもバラエティ番組では爆笑が起こっていた。
 
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