【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

文字の大きさ
106 / 112
第10章

#4

しおりを挟む

「っはー!食ったー!」

 周藤は膨れたお腹をさすりながらリビングに仰向けになった。

 全員食べ終えた様子を見て、「ごちそうさまでした」と密かに安堵する。

「じゃあ片付けちゃうね」

 そう声をかけるとカオリさんが「あ、いいわよ。そのままで」と言うも俺は「そうはいかないでしょうよ」と笑って断り、鍋や食器をまとめていると、文月さんが「手伝います」と言ってくれた。

「あ、すみません。ありがとうございます」

 そう返せば、文月さんは少し微笑んで「美味しかったです」と言った。

 その発言に、自分の頬や耳が徐々に熱くなっていくのを感じて、思わず「お、お粗末さまでしたっ」と返して台所に逃げた。

(ちょっともう……告った後に会うのが周藤の家とか……)

 色々とバレそうな情緒に困りつつ水道を出して食器と鍋を洗っていく。
 
「要くん、ありがとう~」
「ごめんなー要ー」

 謝る気がなさそうな夫妻に俺は笑いながら「はーい」と返す。

 これくらいこれまでやってくれたことに対して少ないくらいだ、と思いながら洗っていると、そばで誰かが突っ立っていることに気づいた。

「何してるんですか」

 隣でずっと俺を見ている文月さんにそう声を掛ければ、彼は「いや、何か……」と口ごもる。

「じゃあ、俺が洗っていくので拭いてもらえますか?あと、拭いた食器を片付ける場所探して、わからなければ周藤に聞いてくれれば」
「わかりました」

 完全に俺の指示の下動く文月さんがなんだか新鮮で面白い。
 トレンチコートを脱いだ文月さんは黒のハイネックに、黒のスキニーというまっくろくろすけコーデだった。

 バシャバシャと洗っていると、文月さんが不意に口をひらく。

「美澄さんは料理、できるんですね」
「いや、わからなくてネット頼りです」

 そう言うと、文月さんは「実は俺もです」と笑った。

「案外、食にこだわりがなかったことに今日……ってかさっき気づきました」

 そう言うと、文月さんは笑う。

「俺も、……朔が大食いで美味しいものには目がなかったからそれについて行って食べてただけでした」

 文月さんの言葉に、俺は少し食器を洗う手を止めてしまった。

 でもなんでかそれを気取られたくなくて、大袈裟なくらいに同じ食器を洗う。

「ぱ、パートナーの食の好みって移りますもんね」

 なんとか話題を変えようとするけれどいい案が浮かばない。

 なんの焦りかわからない焦りに突き動かされるように、同じ食器をひたすら洗い続ける。

 手も器も泡だらけだ。

 それを知ってか知らずか文月さんは言った。

「……美澄さんの食の好みはなんですか」
「……へ」

 思わず顔を上げると、文月さんは布巾を置いて台所に腕まくりした手をついて体重をかけながら俺を優しく見つめていた。

 微笑む彼の黒い瞳には、オドオドした情けない俺が映り込む。

「美澄さんが言ったんじゃないですか」
「へ、……へ」

 思わずつるんっと器をシンクに落としてしまう。

 プラスチックだったから割れはしなかった。

 リビングからはバラエティ番組を観て、ガハハと笑う周藤夫妻の声が聞こえる。

 落とした音は幸いにして俺らにしか聞こえていなかったようだ。

 俺は心臓の音が文月さんに聞こえそうで怖かった。

 器を持ち直して水道水を出す。

「な、だから……食に無頓着だって俺、言ったじゃないですか……」

 そう言いながら落とした器の泡を洗い流して、きゅっと指で音が鳴るくらい磨けた器を文月さんに押し付けた。

 彼はそれを受け取り、布巾で拭き始める。

「じゃあ、何が良いでしょうか。映画の好み、本の好み……でも本は読まないんですもんね」

 微笑まれるのが嫌で俺は顔を上げなかった。

 バシャバシャと雑に手を洗い、癖で台所を拭き上げて「はぁ」と息を吐いた。

「……ここ、友人の家ですけど」

 恨めしげに文月さんを見れば、彼はどこか楽しげに「そうですね」とだけ言った。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。 たとえ運命から背を背けようとも」 音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。 努力家の先輩αと、 運命の番だと告げられた天才α。 運命か、愛情か―― 選ぶのは、僕自身だ。 ※直接的な描写はありません。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

ノエルの結婚

仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。 お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。 生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。 無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ 過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。 J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。 詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。

王太子殿下は命の恩人を離したくない

まんまる
BL
セネシス王国の第一王子レイヴィンは、10歳になった時、父王から側近候補のエース公爵家のオリバー、スペット侯爵家の コルトン、そしてガナー伯爵家のサランを紹介される。 4人は親睦を深める中、自分達だけで街に遊びに行く計画を立て、実行した。 楽しい一日を過ごすうち、四人はかけがけのない親友になる。 しかし、王城へ帰ろうかという時、レイヴィンを狙った暴漢に襲われてしまう。 その時、レイヴィンを庇って犠牲になったのは、かけがえのない親友だった。 成長したレイヴィンは、事件の前と変わらない態度で接してくれる友への切ない気持ちが、罪の意識からなのか恋なのか分からず戸惑う。 二人が自分の気持ちに気付いた時、一度分かたれた人生がもう一度交わる。 受けに負い目がある王太子レイヴィン(α)×傷を負った伯爵令息サラン(Ω) 短いお話の予定です オメガバースは話の流れで触れる程度です Rは15程度ですが※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

処理中です...