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第10章
#4
しおりを挟む「っはー!食ったー!」
周藤は膨れたお腹をさすりながらリビングに仰向けになった。
全員食べ終えた様子を見て、「ごちそうさまでした」と密かに安堵する。
「じゃあ片付けちゃうね」
そう声をかけるとカオリさんが「あ、いいわよ。そのままで」と言うも俺は「そうはいかないでしょうよ」と笑って断り、鍋や食器をまとめていると、文月さんが「手伝います」と言ってくれた。
「あ、すみません。ありがとうございます」
そう返せば、文月さんは少し微笑んで「美味しかったです」と言った。
その発言に、自分の頬や耳が徐々に熱くなっていくのを感じて、思わず「お、お粗末さまでしたっ」と返して台所に逃げた。
(ちょっともう……告った後に会うのが周藤の家とか……)
色々とバレそうな情緒に困りつつ水道を出して食器と鍋を洗っていく。
「要くん、ありがとう~」
「ごめんなー要ー」
謝る気がなさそうな夫妻に俺は笑いながら「はーい」と返す。
これくらいこれまでやってくれたことに対して少ないくらいだ、と思いながら洗っていると、そばで誰かが突っ立っていることに気づいた。
「何してるんですか」
隣でずっと俺を見ている文月さんにそう声を掛ければ、彼は「いや、何か……」と口ごもる。
「じゃあ、俺が洗っていくので拭いてもらえますか?あと、拭いた食器を片付ける場所探して、わからなければ周藤に聞いてくれれば」
「わかりました」
完全に俺の指示の下動く文月さんがなんだか新鮮で面白い。
トレンチコートを脱いだ文月さんは黒のハイネックに、黒のスキニーというまっくろくろすけコーデだった。
バシャバシャと洗っていると、文月さんが不意に口をひらく。
「美澄さんは料理、できるんですね」
「いや、わからなくてネット頼りです」
そう言うと、文月さんは「実は俺もです」と笑った。
「案外、食にこだわりがなかったことに今日……ってかさっき気づきました」
そう言うと、文月さんは笑う。
「俺も、……朔が大食いで美味しいものには目がなかったからそれについて行って食べてただけでした」
文月さんの言葉に、俺は少し食器を洗う手を止めてしまった。
でもなんでかそれを気取られたくなくて、大袈裟なくらいに同じ食器を洗う。
「ぱ、パートナーの食の好みって移りますもんね」
なんとか話題を変えようとするけれどいい案が浮かばない。
なんの焦りかわからない焦りに突き動かされるように、同じ食器をひたすら洗い続ける。
手も器も泡だらけだ。
それを知ってか知らずか文月さんは言った。
「……美澄さんの食の好みはなんですか」
「……へ」
思わず顔を上げると、文月さんは布巾を置いて台所に腕まくりした手をついて体重をかけながら俺を優しく見つめていた。
微笑む彼の黒い瞳には、オドオドした情けない俺が映り込む。
「美澄さんが言ったんじゃないですか」
「へ、……へ」
思わずつるんっと器をシンクに落としてしまう。
プラスチックだったから割れはしなかった。
リビングからはバラエティ番組を観て、ガハハと笑う周藤夫妻の声が聞こえる。
落とした音は幸いにして俺らにしか聞こえていなかったようだ。
俺は心臓の音が文月さんに聞こえそうで怖かった。
器を持ち直して水道水を出す。
「な、だから……食に無頓着だって俺、言ったじゃないですか……」
そう言いながら落とした器の泡を洗い流して、きゅっと指で音が鳴るくらい磨けた器を文月さんに押し付けた。
彼はそれを受け取り、布巾で拭き始める。
「じゃあ、何が良いでしょうか。映画の好み、本の好み……でも本は読まないんですもんね」
微笑まれるのが嫌で俺は顔を上げなかった。
バシャバシャと雑に手を洗い、癖で台所を拭き上げて「はぁ」と息を吐いた。
「……ここ、友人の家ですけど」
恨めしげに文月さんを見れば、彼はどこか楽しげに「そうですね」とだけ言った。
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