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第10章
#7
しおりを挟む「あ゛ーあっ‼︎」
「後からそんな怒るのは反則では……」
文月さんの声に俺はダウンジャケットに顔を埋めながらじとっと横目で見る。
結局あの後、「じゃあ初夜はご自宅でどうぞ~」と周藤に言われ、気まずくて帰ってきてしまった。
それも康祐さんの時と同じ。
(まさか、こんなタイミングで……しかも、この人も人前で言うタイプだとは思わなかった)
俺は心で文句を言いつつ、文月さんを肘で攻撃した。
「ちょ、ちょっと……」
文月さんは困ったように笑いながらも隣を歩いてくれる。
俺は、歩きながら顔を上げて夜の空気を吸い込んだ。
冷たい冬の空気はどこか心を寂しくさせる。
「文月さん」
「はい」
堅物な文月さんは俺の呼びかけには毎回真面目に答えてくれる。
俺はポケットに手を突っ込んだまま彼を見つめた。
「このあとは、暇ですか」
ぶっきらぼうな俺の言い方が面白かったのか、文月さんは笑いながら「ええ、まあ」と返した。
最近の……いや、今日の文月さんはよく笑う。
「じゃあ、行きましょう」
「どこに?」
文月さんの問いに「愚問ですね」と返す。
「本来あなたが来るべきだった場所ですよ」
そう言って俺は勝手に歩き出した。
文月さんは見当がついたのか、「わかりました」と大人しく着いてくる。
ふと上を見上げれば、星が見えた。
そういえば昼間は快晴だったな。
「あ、あれなんだっけ」
空を見上げて指差した。
(あ)
つい、康祐さんの時の癖でやってしまった。
でも二人ともプラネタリウムで寝てしまったからわからないんだよな。
気が緩んだのだろうか。
慌てて手を引っ込めて、話題を変えようと思考をぐるぐるさせていると、後ろから「オリオン座ですね」と返ってきた。
「え?」
「あの3つ並んだ星座はオリオン座。その左上あたりにあるのが牡牛座ですね」
「詳しいんですね」
そういえば、文月さんは微笑む。
「昔は星が好きだったので」
「へえ?」
「子どもの頃は、天文学者になるのが夢でした」
夜空を見上げる文月さんに、なんとなく納得した。
(そりゃ、医者は似合わないはずだ)
今の彼は朔さんのために培ってきた努力。
(じゃあ今は?)
もう自由に生きられるんじゃないのだろうか。
(そんなものは俺が言える立場じゃないか)
そう思い直した俺は再びダウンジャケットに顔を埋め、バス停へと歩みを進めた。
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