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グリフォンの秘密【謎解き編】
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黒猫に呼ばれて集まってきた警部たち。
何事かと周囲のメイドや家の主、そして息子も顔を出す。
ようやく気づいた探偵は心の中で「おやまぁ皆様お揃いで」と呟きながら助手の黒猫を睨み付けた。
待たせても仕方なし、と推理を語り始めた。
「では最初に、この家の旦那様のことですが。」
探偵はメモを開く。
「彼なら合成しなくてもグリフィンを手に入れる手段があります。動機がありません。」
「なら、犯人から除外されるんですね。」
「けれども買い手は旦那様です。ただ、入手経路については黙秘されておりますが。」
相手は気まずそうに目をそらす。
「となれば、旦那様は人に言えない経路で入手したと考えるのが妥当です。」
「その誰かを庇っている、と?」
「ですがここで問題が一つ。合成獣の入手方法です。旦那様以外に可能でしょうか。」
館の主人ならともかく、メイドも執事もそれを手に入れられるだけの資金も立場もない。
息子ならまだ可能かもしれないが、誰にも知られずというのはまた難しい。
「ふぅむ。たしかに困難かも知れんが、いくらでも手段はあるんじゃないかね?」
「では、その必要性があった人物がいたでしょうか?」
「必要性?」
「グリフォンを手に入れなければならない必要性です。」
話によれば息子はグリフォンを欲しがっていたらしい。
なおかつ、父親である旦那様にはそれが可能だった。
わざわざ用意せずとも、買われてくる可能性はあったはずなのだ。
「つまり、グリフィンを買われたら困る者こそが事件の黒幕、と推測されます。」
「グリフォンを買われたら困る者?」
探偵の言葉に、首をかしげる数名。
その一名である助手の黒猫が真っ先に尋ねた。
「グリフォンを買ってきたら困る。だからグリフォンを用意した。それって矛盾してるんじゃ。」
「それは、本物のグリフォンだった場合だよ。」
刑事がハッと息を飲む。
「まさか、本物のグリフィンが来たら困るから、わざわざ合成獣を用意した...?」
「合成獣の作り方についての本があったなら可能だったはずです。そして、その必要性があったのは。」
探偵は、館の主であるグリフォード氏に目を向けた。
「持ち主に可愛がって欲しかった獣だった。と推理したのですが、間違ってますか?」
館の主は、あからさまに動揺を見せた。
すぐには理解できなかった息子も、その意味を知り驚愕する。
「もしかして、あのグリフォンは。」
「あなたが昔飼っていたライオンだと思います。正確にはマンティコアでしょうけど。」
「マンティコア?」
メイドたちから、たしかに翼の生えたライオンがいたと証言が出る。
その名もマンティコア。グリフォンと同様に幻獣と呼ばれた生物の一種である。
刑事が書類を確認してみれば、たしかに購入履歴にしっかり記入されていた。
「坊ちゃまがライオンと区別できなかったのも無理はありません。翼も小さかったですし。」
「ほうほう、この書類によれば、マンティコアもまだ子供だったようですな。」
「マンティコアの尻尾には毒針があります。奥様はそれを後から知ったのではありませんか?」
グリフォンを飼うような家である。
牙とか爪までならまだ承認できていただろう。しかし毒があるとなればまた別である。
それを知った奥様は、息子からマンティコアを離そうとしたのだろう。
そこまで理解して、刑事はふと気が付いた。
「おい待て、つまりなんだ?そのマンティコアが、飼って欲しくて自らグリフォンになったってのか?」
「その通りです。マンティコアなら、不可能ではないかと。」
「嘘だろ...。」
「合成獣の作り方なんて本もあったようですし、それなら動機も手口も筋が通るんですよね。」
本来、合成獣というのは違法であり知られてはならない。
その上、そういうのを作る人というのは大抵完璧主義なのである。
だからこそ、合成の継ぎ目や痕跡がわかりやすいことに探偵は疑問を抱いていた。
合成を行ったのが獣であれば、それも納得できるのだ。
思いがけぬ答えに刑事は唖然とする。
信じられないと言う人もいれば、信じたくもない人物もいた。
息子は、恐る恐る父親に尋ねた。
「父さん。あの探偵の推理は。」
「違う、と言ったところで信じてくれるかい?」
「...俺は、真実が知りたい。」
息子の言葉に心動かされたのか、主人は諦めたようにため息をついた。
「いなくなったマンティコアが数日後、鷲を捕まえて帰ってきたんだ。」
グリフォンだと言いたげに。
「私は、ちゃんと叱ったつもりだったんだ。そんなことをしてもグリフォンにはなれぬと。」
「そしたら次は、合成獣になっていたと。」
「鷲の顔と、傷ついた体を見てすぐにわかった。あのマンティコアの成れの果てだとね。」
グリフォンになりたくて、鷲と戦った時の傷。
危険な毒針を取った尻尾。
見ていて痛々しいその獣の願いを叶えてやろうと、仕方なく誤魔化すことにしたという。
「それにしても、まさか合成獣の本を読んでしまうだなんてな。私のミスだ。」
「ううん。僕の、せいかもしれない。」
息子の顔が曇る。
「グリフォンが欲しくて、そんな本ばかり読み聞かせてた。もしかしたら合成獣の本も、僕のせいで。」
「悔やむのは、それぐらいにしときましょうよ。」
自分を責める息子に、探偵は優しく語りかけた。
「それでも、大事に育ててきたんでしょう?その頃も、今だって。」
マンティコアであったグリフォンは、飼い主を心配して小さく鳴いた。
「それよりほら。言ってあげたいこと、あるんじゃないですか?」
泣きそうな顔をぬぐい、息子は大事な獣に向き直る。
そして精一杯謝罪と、感謝を述べたのだった。
そして、数週間後。
探偵のもとに「無事に申請が通り、飼うのが許された」との連絡が入った。
苦しそうだったグリフォンも、鷲の供養をしはじめてから何故か具合がいいそうだ。
朗報に黒猫も最初は嬉しそうにしていたが、何か思うところがあったのか、難しい顔をする。
「これって結局、逮捕も何もなしってことですか?」
「合成獣が見つかった時点で事件ではあったよ。秘密にしてたから賠償金もあるし。」
まぁ、富豪にとってはたいした金でも無かったはずだが。
「それに、手紙をよく観てみなよ。」
助手の黒猫は、言われた通りに続きを読んでみる。
あの後、警察は事件の裏付けのためにとマンティコアを出品した施設を調べたらしい。
その結果、貴重生物だけでなく合成獣の販売、製造、実験も行っていたとわかったという。
施設の人は全て逮捕されることになったようだ。
「大事件じゃないですか!」
「どおりで賢すぎるとは思ってたけどね。」
「え?」
「何でもないよ、気にしないで。あくまで憶測だから。」
マンティコアは普通の生物でない。
とはいえ人の言葉を理解し、本を読み、実行するほどの知能は備わっているのだろうか。
あの生物は、本当に純粋であったのか。
しかしながら、世界の生物にはまだ謎が多い。
何が真実かを知るのは獣のみ。
知らぬが仏、言わぬが花と。
探偵は紅茶のカップに唇をつけたのだった。
何事かと周囲のメイドや家の主、そして息子も顔を出す。
ようやく気づいた探偵は心の中で「おやまぁ皆様お揃いで」と呟きながら助手の黒猫を睨み付けた。
待たせても仕方なし、と推理を語り始めた。
「では最初に、この家の旦那様のことですが。」
探偵はメモを開く。
「彼なら合成しなくてもグリフィンを手に入れる手段があります。動機がありません。」
「なら、犯人から除外されるんですね。」
「けれども買い手は旦那様です。ただ、入手経路については黙秘されておりますが。」
相手は気まずそうに目をそらす。
「となれば、旦那様は人に言えない経路で入手したと考えるのが妥当です。」
「その誰かを庇っている、と?」
「ですがここで問題が一つ。合成獣の入手方法です。旦那様以外に可能でしょうか。」
館の主人ならともかく、メイドも執事もそれを手に入れられるだけの資金も立場もない。
息子ならまだ可能かもしれないが、誰にも知られずというのはまた難しい。
「ふぅむ。たしかに困難かも知れんが、いくらでも手段はあるんじゃないかね?」
「では、その必要性があった人物がいたでしょうか?」
「必要性?」
「グリフォンを手に入れなければならない必要性です。」
話によれば息子はグリフォンを欲しがっていたらしい。
なおかつ、父親である旦那様にはそれが可能だった。
わざわざ用意せずとも、買われてくる可能性はあったはずなのだ。
「つまり、グリフィンを買われたら困る者こそが事件の黒幕、と推測されます。」
「グリフォンを買われたら困る者?」
探偵の言葉に、首をかしげる数名。
その一名である助手の黒猫が真っ先に尋ねた。
「グリフォンを買ってきたら困る。だからグリフォンを用意した。それって矛盾してるんじゃ。」
「それは、本物のグリフォンだった場合だよ。」
刑事がハッと息を飲む。
「まさか、本物のグリフィンが来たら困るから、わざわざ合成獣を用意した...?」
「合成獣の作り方についての本があったなら可能だったはずです。そして、その必要性があったのは。」
探偵は、館の主であるグリフォード氏に目を向けた。
「持ち主に可愛がって欲しかった獣だった。と推理したのですが、間違ってますか?」
館の主は、あからさまに動揺を見せた。
すぐには理解できなかった息子も、その意味を知り驚愕する。
「もしかして、あのグリフォンは。」
「あなたが昔飼っていたライオンだと思います。正確にはマンティコアでしょうけど。」
「マンティコア?」
メイドたちから、たしかに翼の生えたライオンがいたと証言が出る。
その名もマンティコア。グリフォンと同様に幻獣と呼ばれた生物の一種である。
刑事が書類を確認してみれば、たしかに購入履歴にしっかり記入されていた。
「坊ちゃまがライオンと区別できなかったのも無理はありません。翼も小さかったですし。」
「ほうほう、この書類によれば、マンティコアもまだ子供だったようですな。」
「マンティコアの尻尾には毒針があります。奥様はそれを後から知ったのではありませんか?」
グリフォンを飼うような家である。
牙とか爪までならまだ承認できていただろう。しかし毒があるとなればまた別である。
それを知った奥様は、息子からマンティコアを離そうとしたのだろう。
そこまで理解して、刑事はふと気が付いた。
「おい待て、つまりなんだ?そのマンティコアが、飼って欲しくて自らグリフォンになったってのか?」
「その通りです。マンティコアなら、不可能ではないかと。」
「嘘だろ...。」
「合成獣の作り方なんて本もあったようですし、それなら動機も手口も筋が通るんですよね。」
本来、合成獣というのは違法であり知られてはならない。
その上、そういうのを作る人というのは大抵完璧主義なのである。
だからこそ、合成の継ぎ目や痕跡がわかりやすいことに探偵は疑問を抱いていた。
合成を行ったのが獣であれば、それも納得できるのだ。
思いがけぬ答えに刑事は唖然とする。
信じられないと言う人もいれば、信じたくもない人物もいた。
息子は、恐る恐る父親に尋ねた。
「父さん。あの探偵の推理は。」
「違う、と言ったところで信じてくれるかい?」
「...俺は、真実が知りたい。」
息子の言葉に心動かされたのか、主人は諦めたようにため息をついた。
「いなくなったマンティコアが数日後、鷲を捕まえて帰ってきたんだ。」
グリフォンだと言いたげに。
「私は、ちゃんと叱ったつもりだったんだ。そんなことをしてもグリフォンにはなれぬと。」
「そしたら次は、合成獣になっていたと。」
「鷲の顔と、傷ついた体を見てすぐにわかった。あのマンティコアの成れの果てだとね。」
グリフォンになりたくて、鷲と戦った時の傷。
危険な毒針を取った尻尾。
見ていて痛々しいその獣の願いを叶えてやろうと、仕方なく誤魔化すことにしたという。
「それにしても、まさか合成獣の本を読んでしまうだなんてな。私のミスだ。」
「ううん。僕の、せいかもしれない。」
息子の顔が曇る。
「グリフォンが欲しくて、そんな本ばかり読み聞かせてた。もしかしたら合成獣の本も、僕のせいで。」
「悔やむのは、それぐらいにしときましょうよ。」
自分を責める息子に、探偵は優しく語りかけた。
「それでも、大事に育ててきたんでしょう?その頃も、今だって。」
マンティコアであったグリフォンは、飼い主を心配して小さく鳴いた。
「それよりほら。言ってあげたいこと、あるんじゃないですか?」
泣きそうな顔をぬぐい、息子は大事な獣に向き直る。
そして精一杯謝罪と、感謝を述べたのだった。
そして、数週間後。
探偵のもとに「無事に申請が通り、飼うのが許された」との連絡が入った。
苦しそうだったグリフォンも、鷲の供養をしはじめてから何故か具合がいいそうだ。
朗報に黒猫も最初は嬉しそうにしていたが、何か思うところがあったのか、難しい顔をする。
「これって結局、逮捕も何もなしってことですか?」
「合成獣が見つかった時点で事件ではあったよ。秘密にしてたから賠償金もあるし。」
まぁ、富豪にとってはたいした金でも無かったはずだが。
「それに、手紙をよく観てみなよ。」
助手の黒猫は、言われた通りに続きを読んでみる。
あの後、警察は事件の裏付けのためにとマンティコアを出品した施設を調べたらしい。
その結果、貴重生物だけでなく合成獣の販売、製造、実験も行っていたとわかったという。
施設の人は全て逮捕されることになったようだ。
「大事件じゃないですか!」
「どおりで賢すぎるとは思ってたけどね。」
「え?」
「何でもないよ、気にしないで。あくまで憶測だから。」
マンティコアは普通の生物でない。
とはいえ人の言葉を理解し、本を読み、実行するほどの知能は備わっているのだろうか。
あの生物は、本当に純粋であったのか。
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