人外マニアの探偵

たとい

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学園祭の呪い

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「いやぁ最高だったー!」




満足そうに言うと、探偵は買った焼きそばをモグモグと食べ始めた。

助手の黒猫の方は呆れたように見つめるばかりである。




「ヒトミさん、午後の予定わかってますよね?」

「わかってるって。」




探偵は親戚に相談されて学園祭に訪れていた。

とはいっても探偵の方は、学園祭の展示やらを目当てに引き受けたようなものだった。

午前中は魔方陣やら竜の化石やらの展示に入り浸っていて、助手の黒猫はウンザリしていた。

なんといっても、彼は付喪神であって食べる楽しみも無い訳で。現在も暇している。




「さっさと終わらせて、他のところも見て回ろうか。で、最後にあそこもう一回。」

「まだ飽きてないんですね。」




なんだかんだいいつつ、依頼人が喫茶店をやっているという教室へと向かう。

まだ当番中だったらしく、お茶菓子のクッキーをいただきながら話を伺う。




「困ってるみたいだから、相談にのってくれって言われて来たんだけど。」

「その。学校のお化け屋敷に、お化けが出るんです。」




....いやそれ普通では。とツッコミかけた黒猫の口を押さえる。

普通ではない、と認識を改めたところで。




「本物のお化けが出たってこと?実際に見たの?話したりした?」

「それが、それっぽいのを見たってだけで曖昧で。でも心霊現象みたいなのは起こってて。」

「曖昧すぎて相談相手がわからなかった、ってところかな。」

「はい。霊の専門家っていってもなんか怪しいし。学校の許可とかもあるしで。」

「親戚なら安心だし、学園祭の客としてならってことか。」




依頼の内容も詳しく聞いてなかったあたり、学園祭目当てなことを再認識する黒猫は置いておき。

当番が終わったところで、おとなりの教室でやっているお化け屋敷とやらを観察してみる。

話によれば恐ろしい形相の化け物を見たと言う人もいるらしいが。




「友達のクラスなんですけど、誰もいないのに声がしたり物が勝手に動いてたらしくて。」

「被害それだけ?恐ろしい形相のお化けっていうと、誰か恨んでて被害も大きいはずなんだけど。」

「言われてみれば、悪戯程度のことばかりですね。」

「その現象っていつ頃から?」

「文化祭の準備をしはじめてからです。」




たいした被害も出ていないので、中止にはできなかったらしい。




「とりあえず中に入ってみるよ。」




虎穴入らずんば虎児を得ず。百聞は一見にしかず。

中に入ってみたものの、特に痕跡は見当たらなかった。薄暗くて見えなかったともいえるが。

ただ、妖怪が好みそうな環境に仕上がってるとは感じた。




「参考までに一応聞くけど、心当たりは?誰か亡くなったとか。」

「ないですないです!聞いたことないです!」

「うーん、そうなると何だろう。学園祭の時期、偶然とは思えないんだけど。」




怪しい教室からは証拠がでない。とはいえ話によれば関係ないとも思えない。

手がかりを求めて、探偵は学園祭のマップに目を通した。




「あ。この上の教室、魔法研究部じゃん。」

「私の部活ですけど、なにか?」

「さっき軽く見たけど....あ、原因わかったかも。」




思い当たることがあったらしいが、探偵は喫茶店に戻ってしまう。

魔法研究部に行くならまだしも、何故もう一度?と不思議に思っていると。

今度はお化け屋敷に入っていった。




「見つけたよー。今回の騒ぎの原因。騒ぎになるから封鎖して入ってくれないかな。」




探偵に言われたとおり、生徒に説明してから閉鎖し、おそるおそる入る。




「ひぇっ!あ、悪魔!?」




そのあまりに恐ろしい姿に誰もが悲鳴をあげた。




「違うよ、妖精!妖精の、たぶんゴブリン!」

「ゴブリン!?」




見た目からして誤解をされたが、ゴブリンとは立派な妖精の一種である。

妖精であれば姿を隠すのも容易い。

どうやらこのゴブリンのイタズラだったらしい。




「クッキーで釣ってみたら出てきてくれたよ。善良ならホブの方かな。それとも別の妖精かな。」

「あの、妖精ってことはまさか。」

「魔法研究部の展示してた妖精の魔方陣だと思う。下に召喚されちゃったんだねー。」




魔方陣というのは実在している。

しかしそう何度も使われても面倒なので手順やらが必要であり、展示物も偽物のはずなのだが。

どうやら失敗例として書かれていた魔方陣の一つがまずかったようだ。

地面の上なら失敗だったかもしれないが、下に空間がある場所では成功してしまったらしい。

自由気ままな妖精ならどこかに逃げててもおかしくないが、住み着くタイプが出たようだ。




「なんてったってお化け屋敷だしね。そりゃ入り浸るわ。」

「まさかうちの部活のせいだったなんて。でも呪文とかあるはずだし、誰がやったんだろう。」

「召喚しちゃったもんはしょうがない。帰ってもらえるように交渉しますか。」




幸い、部活の顧問の先生が駆けつけてくれた。

先生がいうには、遅くまで残っていた一年生がやらかしたのだろうとのこと。

ゴブリンとの交渉は顧問の先生がやってくれるそうで、探偵はありがたく後を託したのだった。




「よっしゃ他のを見回るぞ。」

「元気ですねぇ、ヒトミさんは本当に。」

「黒猫が楽しめる場所も見回るから拗ねないの。」

「にしても、妖精もいろいろいるんですね。」

「今回のお化け騒ぎで怖がってた生徒も、これで安心するでしょ。」

「そりゃまぁ、妖精のイタズラって聞けばそうかもですが。」

「お化けも妖精も、そんなに変わらないと思うけど?」




それでも実際に見た妖精は怖かったと、黒猫は苦笑いを浮かべていた。
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