人外マニアの探偵

たとい

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番外編

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探偵は、自身の部屋を眺めて小さなため息をついた。

あるべき場所に、あるべきものが置かれていない。




筆記用具は靴箱の上、書類は食器棚の中。




誰がやったかは検討がついていた。

探偵の部屋を整理整頓しているのは、もちろん助手である黒猫である。




「やれやれ、どうやら機嫌はよろしくないようだ。」




付喪神とは、大切にされた物に魂が宿ることで誕生する存在である。

よって、どうやら逆のことをするのは気が引けるらしい。

なので自分自身を傷つけることもできない。

そんな付喪神である黒猫のストレス発散方法が、この有様である。




「で、何拗ねてるの?」

「...ヒトミさんでば、他のヌイグルミと仲良くしてらしたので。」




黒猫が拗ねるのも無理はない。

彼を付喪神にした持ち主が、この探偵なのだから。




「あの件かぁ。」

「しかも白猫じゃないですか。」




決して黒猫だから白猫が嫌という訳ではない。

黒猫が元々は白猫だったからである。

いなくなって再会した時には、探偵も自分のヌイグルミだとは気づかなかったほど汚れていた。

その汚れを誤魔化すために黒く染め直している。




「今は、黒猫の方が好きだよ。」

「そりゃあ、あなたの付喪神ですし。どれだけ大事にされていたかは身にしみていますけど。」

「けど?」

「家族にはなってくれませんよね。」

「まだ根にもってたか。」

「少しだけ。」




再会した際、「あの子は家族なんかじゃない!」と言われて、黒猫はかなり傷ついたものである。

しかし、子供だった当時の彼女もわりと傷ついていた。

なにせ急に『付喪神のママ』を強要させられそうになったのである。

「あの子は私のお友達なの!!私はママなんかじゃない!!」と大泣きして、その言葉を聞いた黒猫も大泣きするわで、親はなだめるのに苦労したらしい。




「相変わらずだなぁ。嫉妬することないのに。」




探偵は、白猫のヌイグルミの持ち主に頼んでいたプレゼントを手渡した。

ちょっと間を置いて気まずそうに受けとる黒猫は、素直じゃないが嬉しそうだった。




「どんな姿の君も好きだよ。私にとって君は頼りになる助手で、大好きな親友なんだからさ。」
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