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ふらりとよろめいたレーシアに思わず条件反射でベッドの前まで駆け寄り、手を差し出したイツにレーシアが悲鳴を上げる。「キャー」と容赦ない高音にさすがのイツも顔をしかめる。ただし、レーシアを受け止めるために伸ばした受け皿としての腕はそのままだった。
「触らないでっ」
ヒステリックにイツを責めたレーシアがさらに畳み掛けるように金切り声でイツに怒鳴る。
「近づかないで!」
激しい拒絶にイツは戸惑いを見せながらも後方に下がる。まるで野生動物を注意深く観察するように静かに物音も立てないしなやかな動きでさっと距離が保てる位置に引いた。
「あなたのせいで、あなたの…。」
まだ恐慌状態にあるのか冷静さをみせないレーシアにイツはどうすべきか思案する。昨日、酒場でもある食堂で仲間と軽く戦闘の後の祝宴を兼ねた食事を取っているところにレーシアが現れた。それ自体はイツにとっては大歓迎のことである。
イツにとってレーシアに会えることは幸せなことでちっとも迷惑じゃない。
しかも彼女から会いに来てくれるなんて初めてのことじゃないか。
夢でも見ているのかと頬をつねりたくなる現実に楽園にでもいる気分になったが、その後、表情が確認できるまで近くに来るとレーシアはひどく取り乱した様子で、いつも可愛そうになるような薄着のぼろ服のままで息を荒げ、イツを睨んだ。
その憎悪に染まった顔にイツは息を呑む。
その上に彼女は悲鳴を上げるように喚き、癇癪を起こしたようにイツに詰め寄り泣き出すと激しい感情の高ぶりに限界を迎えたように気絶した。
一連のことはイツにとっても予測できない事態で、さすがにしんと静まった食堂で、しかし彼女を荒くれた男どもが出入りする土ぼこりが溜まった食堂の床にそのままにしておけずすぐに抱き上げた。
横抱きにした彼女はとても軽くイツを「こんなに軽くて大丈夫なのか?」と心配させた。
仲間に支払いを頼んですぐ彼女を横抱きにしたまま、食事も中断して食堂を出た。
店を出るといつも集まってくる女性たちもまさかイツが女性を伴って、しかも大切そうに横抱きにして現れるとは思ってなかったのか驚きの声を上げる。
急いでいる様子のイツにそれでも近づいてこようとする猛者もいたがイツは取り合わなかった。それどころではない。いま腕には最愛の女性がいて青白い顔をして倒れたのだ。イツだって心臓がいつもより早く脈打って冷静じゃない。
他人に構える余裕はなかった。
だが周囲はそうじゃない。あのこの街一番の持て男。独身一番の有料物件にして容姿だけでもため息がでる色男である。その男に女性の憧れ横抱きをされている女性に嫉妬交じりに興味がある。
しっかりその女性がレーシアだと確認した取り巻きの女たち数人は般若のような顔でイツの背中越しにレーシアを睨んでいた。
そんなことをまったく関知しないイツは以前、後をつけて確認しておいたレーシアの家へと迷いなく進んでいく。
その淀みない足取りは何度も通ったことのある迷いない足取りだった。
ところどころで女性の悲鳴を生みながら、レーシアの部屋があるぼろ家に着く。
そこでそこの住人が騒がしさに出てきたのを目ざとく見たイツは大家がいるのを確認して彼女が倒れたことをそれはそれは心配顔で誠実に訴え、部屋に入れてほしいと頼んだ。年嵩はいっていても女性専用のアパートのような住居を提供している大家は何度も頷いてレーシアの部屋の鍵を開けて予備の合鍵まで貸してくれた。
それにイツは感動したように喜んでお礼の金貨を何枚か渡して彼女に何度も礼をいいレーシアの部屋に彼女とともに二人で消えて行った。
ふらりとよろめいたレーシアに思わず条件反射でベッドの前まで駆け寄り、手を差し出したイツにレーシアが悲鳴を上げる。「キャー」と容赦ない高音にさすがのイツも顔をしかめる。ただし、レーシアを受け止めるために伸ばした受け皿としての腕はそのままだった。
「触らないでっ」
ヒステリックにイツを責めたレーシアがさらに畳み掛けるように金切り声でイツに怒鳴る。
「近づかないで!」
激しい拒絶にイツは戸惑いを見せながらも後方に下がる。まるで野生動物を注意深く観察するように静かに物音も立てないしなやかな動きでさっと距離が保てる位置に引いた。
「あなたのせいで、あなたの…。」
まだ恐慌状態にあるのか冷静さをみせないレーシアにイツはどうすべきか思案する。昨日、酒場でもある食堂で仲間と軽く戦闘の後の祝宴を兼ねた食事を取っているところにレーシアが現れた。それ自体はイツにとっては大歓迎のことである。
イツにとってレーシアに会えることは幸せなことでちっとも迷惑じゃない。
しかも彼女から会いに来てくれるなんて初めてのことじゃないか。
夢でも見ているのかと頬をつねりたくなる現実に楽園にでもいる気分になったが、その後、表情が確認できるまで近くに来るとレーシアはひどく取り乱した様子で、いつも可愛そうになるような薄着のぼろ服のままで息を荒げ、イツを睨んだ。
その憎悪に染まった顔にイツは息を呑む。
その上に彼女は悲鳴を上げるように喚き、癇癪を起こしたようにイツに詰め寄り泣き出すと激しい感情の高ぶりに限界を迎えたように気絶した。
一連のことはイツにとっても予測できない事態で、さすがにしんと静まった食堂で、しかし彼女を荒くれた男どもが出入りする土ぼこりが溜まった食堂の床にそのままにしておけずすぐに抱き上げた。
横抱きにした彼女はとても軽くイツを「こんなに軽くて大丈夫なのか?」と心配させた。
仲間に支払いを頼んですぐ彼女を横抱きにしたまま、食事も中断して食堂を出た。
店を出るといつも集まってくる女性たちもまさかイツが女性を伴って、しかも大切そうに横抱きにして現れるとは思ってなかったのか驚きの声を上げる。
急いでいる様子のイツにそれでも近づいてこようとする猛者もいたがイツは取り合わなかった。それどころではない。いま腕には最愛の女性がいて青白い顔をして倒れたのだ。イツだって心臓がいつもより早く脈打って冷静じゃない。
他人に構える余裕はなかった。
だが周囲はそうじゃない。あのこの街一番の持て男。独身一番の有料物件にして容姿だけでもため息がでる色男である。その男に女性の憧れ横抱きをされている女性に嫉妬交じりに興味がある。
しっかりその女性がレーシアだと確認した取り巻きの女たち数人は般若のような顔でイツの背中越しにレーシアを睨んでいた。
そんなことをまったく関知しないイツは以前、後をつけて確認しておいたレーシアの家へと迷いなく進んでいく。
その淀みない足取りは何度も通ったことのある迷いない足取りだった。
ところどころで女性の悲鳴を生みながら、レーシアの部屋があるぼろ家に着く。
そこでそこの住人が騒がしさに出てきたのを目ざとく見たイツは大家がいるのを確認して彼女が倒れたことをそれはそれは心配顔で誠実に訴え、部屋に入れてほしいと頼んだ。年嵩はいっていても女性専用のアパートのような住居を提供している大家は何度も頷いてレーシアの部屋の鍵を開けて予備の合鍵まで貸してくれた。
それにイツは感動したように喜んでお礼の金貨を何枚か渡して彼女に何度も礼をいいレーシアの部屋に彼女とともに二人で消えて行った。
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