赤に咲く

12時のトキノカネ

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「レーシア、朝食があるんだ。一緒に食べよう」

にこりと自分の中でも会心の爽やかな笑顔を浮かべたイツがレーシアに微笑みかける。

「私の名前を気安く呼ばないで!…朝食ってあなた勝手に私の家に入っただけじゃなく台所も使ったの?!」

文句を言うレーシアをそのまま扱っていては埒が明かないと思ったのか、怒るレーシアを無視して今度はベッドまで行ってレーシアが逃げてもベッドに乗り上げてレーシアを抱き上げる。
その際に香った彼女の匂いにイツは人知れず笑みをかみ殺したが、今はしっかりと彼女を抱き上げて朝食のあるダイニングへ運ぶのが先決と部屋を出て短い廊下へと出る。

「昨日は倒れたんだからしっかりと朝食をとるんだ。料理は俺は不得意なんで栄養のありそうなものを買ってこさせたんだけど、口に合えばいいんだけど」

昨日のうちにレーシアの部屋の間取りや一通り揃えてあるものを確認したイツはそのあまりの質素さともののなさに驚いた。
家の前まではなんども見に来たことがあったが、中までは無理で入れた時は彼女らしくかわいく整っていると思っていた部屋があまりにも何も物が置かれていないのにも驚き、失礼だが何か栄養があるものはあるかと探した時、見つけたのが最低限の備蓄品のみでここでだけの食材で彼女への食事を作るのは断念した。
だが、ここでイツは動きをとめて考える。
食事はどうしても必要だ。自分があまり料理に自信もないがないのもあってすぐにベッドにレーシアを横たえた後、家を確認して買出しに出ようとして自分がいない間をレーシア一人にすることが考えられないと迷いだした。

ならば魔法を使って人を呼び用事を済ませようと決めた彼の行動は早かった。

その日、夜遅くごろにレーシアの家にさまざまな物を届ける男たちがいたのを住人たちは目にした。こんな貧民区ではおよそ縁のないダイニングが運ばれ部屋に入らないとイツの叱責が飛ぶ。
その後もなんどかそんなことが繰り返され、早朝にはおいしそうな出来立ての朝食ランチを男たちが列を成してレーシア宅に運び込んだ。

そしてレーシアは目覚めたのである。

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