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ディベート勝負

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「伝令兵はすぐに出発しろ! 補給はジークウッドの街で一度のみ、最短で城へと戻るぞ!」

 待機部隊と合流し、短い作戦会議の後すぐに出発する事になった。
 もちろん俺はその作戦会議に呼ばれていない。

 これから二週間近くかけて城に戻るのだが、馬車の中でランデルから作戦について教えて貰った。
 足の速い馬五頭を選び、先に五人の伝令役を城に向かわせることで、ジャックス王に闇皇帝キディス・メイガス・ドラキュリオ討伐の準備を整えて貰うらしい。
 俺達が城に到着するより五日程度早く伝令兵が報告する予定だ。
 ジャックス王国含む三カ国程度で同盟を組み、一気にドラキュリオ帝国を攻め滅ぼす大規模な戦争になるかもしれないとランデルが言っていた。
 ジャックス王国には既に魔王軍のスパイが潜入している為、秘密裏に動く必要があり、実際に戦争が起こるまでには一年以上かかる可能性があるとも言っていた。
 異変に気付いたドラキュリオ帝国側が何か手を打ってくる事もあり得るので、不測の事態に備えた緊張状態がしばらく続きそうだ。

 この話を聞いていたアルは、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑っていた。
 アルが言うには、ヴァンパイアである闇皇帝は太陽の光に弱いので、夜もしくは自身が発生させた闇の中以外では全力で戦えないらしい。
 昼間に闇の外から焼き殺すか、俺が聖なる勇者の力で闇をはらえば一瞬で終わると自信満々の顔で言い放っていた。
 ナタリアが俺に尊敬の眼差しを向けていたので心が痛かった。
 ちなみに、全力の闇皇帝にはアルでも勝てないらしい。
 俺なら勝てるらしいが。
 ナタリアのマルーン色の目がキラキラと輝いていたので、罪悪感で胸が苦しくなった。

コメ:へぇ、勇者ユートルディスってそんなに強いんだね!
コメ:俺達はあざむかれていた?
コメ:まあ、四天王の半分はユートルディスがなんとかしちゃってるもんな。
勇太:ジャンケンなら勝てるかもしれませんね。
コメ:つまんなすぎて草
コメ:ユーモア忘れてきた?
コメ:勇太くんおもしろーい!(真顔)

「ねえねえダディ! 魔剣ゲイルウィングはあたしが使ってもいいんだよね? あたしもダディみたいに強くなるんだぁ」

 ナタリア、それ以上はやめてくれ。
 パパ泣いちゃうよ?

「なんですと! ユートルディス殿、ワシの大剣がボロボロなんです。ワシも魔剣ゲイルウィング欲しい!」

 女の子とおっきな男の子が一つしかない物を取り合っている。
 ネフィスアルバを倒したのはアルだし、アルが決めるのが一番いい気がするのだが。

「ありぇはありゅにょじゃにゃい?」
※あれはアルのじゃない?

「私は要らないので、パパが決めてくれていいですよっ? ゴミにあげるのはしゃくさわりますが、ナタリアちゃんの教育の為にも何か公平な方法があるとよいのですが……」

 なるほど、そう来たか。
 ランデル嫌いのアルの事だからナタリアにあげると思っていたが、ちゃんと母親だったみたいだ。
 ここは俺も父親として、二人が納得する方法を考えなければいけない。

コメ:アルちゃん素晴らしい!【二万円】
コメ:勇太、男を見せる時だぞ!
勇太:ゲームで決めるのがいいと思うんですよね。
コメ:ディベートとかどう?
コメ:おもろそうやんけ!
勇太:お題は何にしましょうね?
コメ:勇太がカッコいいかダサいかにしようぜ!w
コメ:ワロタwwwww
コメ:それでいこう!w【五千円】

「ぎぇーみゅをしよう。りゅーりゅは……」
※ゲームをしよう。ルールは……

 俺にとって損しかないゲームを始める事にした。
 俺がカッコいいかダサいかを話し合い、どちらの論が優れているかを決めるディベートだ。
 先攻後攻を決めて、まず先攻がプレゼンを行い、後攻側が質問や反論をする。
 次に後攻がプレゼンして、という流れだ。
 最終的に俺とアルが審判員となって勝敗を判定する。
 いくら議論が勝っていても、言っている事が間違っていたり、屁理屈だったりと違和感があれば、それはディベートとしての勝ちにはならない。
 根拠に基づいた自分の主張が相手のそれよりも勝っている事が勝利なのだ。
 先攻後攻はコインで決める。

「あたしは表!」

「ワシは裏ですな!」

 銀貨を親指で弾き、宙に浮かせた。
 全員の視線が回転するコインに集まる。
 落ちてくる銀貨を左手の甲で受け止めると同時に、右手で覆い隠す。
 ゆっくりと右手をずらし、結果を確認する。

「おみょちぇ!」
※表!

 先攻が発表したい内容を選べる。
 ナタリアは、俺がカッコいい方を選んだ。
 ランデルが、俺がダサい方になる。

 ここからは、考えをまとめる時間だ。
 何故俺がカッコいいのか、ダサいのか、根拠を持って説明しなくてはならない。
 ナタリアもランデルも馬鹿馬鹿しい議題について真剣に悩んでいる。

コメ:なんか緊張してきたなw
コメ:議題がしょうもないけど楽しみだわ。
勇太:俺がカッコいいとかダサいとか自分で言うの恥ずかしいんですけど。
コメ:たしかにwww
コメ:じゃあ何でその議題にしたんだよ!w
コメ:何で勇太だけ罰ゲームになってんの?w

「しょきょみゃぢぇ! しぇんきょうにゃちゃりあ、いきぇんをぢょうじょ!」
※そこまで! 先攻ナタリア、意見をどうぞ!

「カッコいい男って、あたしは思いやりがあって頭がいい人だと思う。
 今着ている服はダディが買ってくれたんだけど、あたしがママみたいに可愛い服を着たいって気付いてくれて、服屋さんに連れて行ってくれたの。
 高級店で高い服だったのに、あたしが店の中で悩んでたのを見てくれてて、似合うからって三着も買っちゃって。
 その時ね、あたし実は見てたんだよね。
 会計の時に、ダディのお金が無くなっちゃったのを。
 ダディったら、自分の服も買わなきゃいけないのを忘れて、全部あたしとママの服にお金を使っちゃってたんだから。
 気付かないフリして次のお店に行ったんだけど、そこの服も可愛くって、ついダディに欲しい服を見せたら、買うって言うの。
 お金も無いのにどうするんだろうと思ったら、機転を利かせてハゲちゃんに買ってもらっちゃったんだよ?
 あたしのダディは、優しくて、頭が良くて、世界一カッコいいんだから!」

「……うん、うん。ちょっちょみゃっちぇにぇ」
※……うん、うん。ちょっと待ってね

コメ:え、勇太くん泣いてる?w
コメ:きしょw
コメ:ナタリアちゃんええ子や!【一万円】
コメ:俺もこんな娘が欲しい。【二万円】
コメ:この短時間でこんなに上手く話をまとめられるの凄すぎんか?【一万円】
コメ:このプレゼンに勝つの無理じゃね?w
コメ:いい話だけど、勇太は頭良くないよな?
コメ:言っちゃダメ!www

「しょりぇぢぇは、りゃんぢぇりゅきゃりゃしちゅぎを!」
※それでは、ランデル質疑を!

「人をだましてお金を使わせるのは、賢さではなく犯罪者の心理なのでは?」

「あたしもハゲちゃんも、あの時笑ってたよね? 人を笑顔にする嘘って素敵じゃない?」

 ナタリアが眩しすぎる。
 ウチの子はなんて良い子なんだろう。
 俺なんかよりよっぽど優しくて賢い。

「自分の服を買い忘れるのは馬鹿なのでは?」

「身を削ってでも他人を思いやる気持ちが優しさなんだよ。命を賭けて仲間を守る騎士にも同じ事が言える?」

コメ:ナタリアたん強すぎん?w
コメ:勇太は馬鹿だけどな。
勇太:今気付いたんですけど、ランデルに馬鹿って言われるのムカつきますね。
コメ:ワロタwww
コメ:ジジイが歯を食い縛ってるぞ!

「しょきょみゃぢぇ! きょうきょうりゃんぢぇりゅ、いきぇんをぢょうじょ!」
※そこまで! 後攻ランデル、意見をどうぞ!

「見て分かる通り、ユートルディス殿は顔にメリハリが無く、不細工の部類に入るでしょう。
 裸で森をうろついていたら、ゴブリンと間違えられて斬られても文句は言えませんな。
 あと、何を言っているのか分からない時があります。
 ゴブリンが奇声を上げているのかと警戒してしまいますぞ。
 それに、一緒に水浴びをする時に思うのですが、ユートルディス殿は肉が少なすぎます。
 あばらが浮き出ているのは男としてどうかと。
 もう少し食べて筋肉をつけねば、いつゴブリンと間違われるか分かりませんぞ?
 あとは……そうですな。
 歩く時に内股なのは治したほうがいいかもしれませんな。
 骨盤や膝に負担がかかりますので、騎士としての寿命を縮めてしまいますぞ。
 こんなところでしょうか。
 ユートルディス殿は、男としてダサいのではありませんか?」

コメ:ただの悪口で草
勇太:俺ってゴブリンに似てるんですかね?
コメ:この世界のゴブリンをまだ見てないからなんとも。
コメ:気にしてんの?w
コメ:ナタリアちゃんに勝てないと分かって、勇太くんでストレス解消しようとしてるとか無いよね?

「しょきょみゃぢぇ! にゃちゃりあ、しちゅぎを!」
※そこまで! ナタリア、質疑を!

「不細工だからダサいとはならないよね?」

「ゴブリンがダサくないと思えるのならそうかもしれませんな!」

 そろそろゴブリンて言うのやめて欲しいんだけど。
 これで本当に似ていたら、どこかで遭遇して戦闘になった時に嫌な気持ちになりそうな気がする。

「痩せてても強かったらカッコいいんじゃない?」

「見た目の話をしておるのです。強ければいいという物ではありませんぞ?」

「しょきょみゃぢぇ! ひゃんちぇいにうちゅりみゃしゅ!」
※そこまで! 判定に移ります!

 アル審査員と協議をする。
 結果が分からないように、ここは耳打ちで行う。
 アルは慣れていないのか、耳元で話しかけるとくすぐったそうにしていたので、それがなんか良かった。

「しょうしゃ…………にゃちゃりあ!」
※勝者…………ナタリア!

「やったやった! ハゲちゃんに勝った!」

コメ:キター!【五千円】
コメ:ナタリアたんおめでとう!【一万円】
コメ:これはナタリアちゃんが普通に強かったよw
コメ:よっしゃあああああ!【七千円】
コメ:ハゲちゃんおつかれーwww
コメ:おいゴブリン! おもろかったで!【五千円】
コメ:ゴブリン草

 魔剣ゲイルウィングは、ナタリアの物となった。

 ナタリアがアルに抱きついて喜んでいる。
 アルも母性溢あふれる優しい顔でナタリアの頭をでている。
 ランデルは、頭を抱えて落ち込んでいる。

 初めて何かを自分の手で勝ち取った経験は、ナタリアの成長に良い刺激を与えてくれただろう。
 自称とはいえ青の知将に頭脳戦で勝ったのは素直に凄いと思う。

 コメントも楽しんでくれたみたいで良かった。
 俺の心にはゴブリンという名の深い傷がついたけどな!
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