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追い討ち

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「ダディ見て見てー!」

 ナタリアの声が聞こえた。
 視線を移すと、魔剣ゲイルウィングを持って走っている。
 あの小さな手に握られているのが花やヌイグルミだったらどれほど可憐だっただろうか。
 距離を取ったナタリアは、龍の翼に似た黒い大剣を両手で持ち、大きく振りかぶった。
 白いワンピースを着た少女が、自分の身長の二倍に近い巨大な剣を軽々扱っているという異常な光景だった。
 ナタリアの視線の先には、ダンゴムシのように体を丸めたランデルがいる。

 まさかとは思うが……。

「ハゲちゃんいくよー!」

 ナタリアが右足を前に出した。
 玄関を開けて、散歩にでも出掛けるような軽い一歩であった。

 ナタリアが体を捻り、剣を振った。
 庭で素振りをする野球部のように、その行為に罪悪感など持ち合わせていない。

 右から左へ横薙ぎにくうを斬った魔剣の刀身から、半円状の漆黒の刃が放出された。
 地をうように飛ぶそれは、ズガガガと大地を削りながらランデルに向かって行く。

「はへ?」

 突然ナタリアに呼ばれたランデルは、甲羅から首を出す亀のように顔を上げると、情けない声を漏らした。
 黒い何かが迫って来ているのだから当然だろう。

「ハーゲちゃーん! 受け止めてー!」

 魔剣を地面に起き、口の両脇に手を添えたナタリアが可愛らしく呼びかける。
 ナタリアの声に反応したランデルは、巨大な鉄剣を持って立ち上がった。

 青い鎧の老兵が、先の戦闘で刀身が傷ついた大剣を上段に構えた。
 心なしか、その口元は笑っているように見えた。

「やるではないかナタリア! ぬううんっ!」

 地面を叩きつけるように振り下ろされた大剣が、闇の刃を真っ二つ切り裂いた。
 二つの刃が交差した甲高い金属音、その直後に大地が割れる鈍い衝撃音が響く。
 爆発した地面が砂埃を巻き上げ、ランデルの姿を覆い隠した。

「ハゲちゃんすごーい!」

 強い風が砂煙を霧散むさんさせると、天を見上げるランデルの姿が見えた。
 その表情は、本日の大空のように晴れ晴れとしていた。

勇太:漫画とかで、投げキッスをしたらハートが飛ぶ描写がありますよね?
コメ:見たことあるで。
コメ:それが何?
勇太:いや、あの黒い斬撃がそうなのかなって。
コメ:だとしたら嫌なんだけどw
コメ:死の投げキッスやんけwww
コメ:黒いハートに見えなくもないw
コメ:もしそうだとしたら、俺はそれで殺されたいけどな!【五千円】
コメ:俺も喜んで受け入れるぞ!
コメ:定期的に出る殺されたいぜい

 ナタリアの元に駆け寄ったランデルが、魔剣ゲイルウィングの使い方を教わりながら色々と試している。
 斬撃を飛ばしながら、「むうんっ!」とか「ぬうんっ!」とか叫んでいる老人はとても楽しげだ。
 やはり、さっきのアレはナタリアなりの愛情表現だったのではないかと思う。
 俺への愛情は別の形で表して欲しいが。

 満足したのか、ランデルとナタリアの二人が戻って来た。
 兵士達もホッとした様子でランデルの元に駆け寄る。

「魔法部隊、帰還の狼煙をあげよ!」

 ランデルの号令で、魔法使いの杖から光の玉が上空へと打ち上がり、赤い花火のように爆発した。
 腹に響くような重低音が鳴り響く。
 少し間を開けて次は三発。
 今度は緑の花が咲いた。

「さて、ユートルディス殿。また再び城に戻らねばなりませぬ。次の四天王は少し特殊な立場でして、我々だけでは倒しに行けんのです」

「ぢょうゆうきょちょ?」
※どういう事?

「実はですな……」

 最後に待ち受ける四天王は、闇皇帝キディス・メイガス・ドラキュリオという名前らしい。
 キディス・メイガス・ドラキュリオは、ドラキュリオ帝国の皇帝であり、ジャックス王国ともその他の国とも国交があるという。
 闇皇帝はヴァンパイアという種族で、自身の血を分け与えた眷属けんぞくを国民としている。
 他国に侵攻する事もなく、ドラキュリオ帝国との貿易が資金源の一部となっている国が多く存在している為、特に危険視されていない現状がある。
 他の国と唯一違うのは、帝国の周辺が常闇に包まれている事である。

 そういった背景があるので、迂闊うかつに手出し出来ない。
 もし勝手に攻め入ってしまえば、ジャックス王国とドラキュリオ帝国の戦争と見做みなされ、ドラキュリオ帝国と親交の深い他国が加わった大規模な世界戦争に発展する可能性すらあるらしい。
 無視して魔王を攻めようにも、ドラキュリオ帝国の軍隊に背を撃たれて挟み撃ちにされてしまう。
 魔王を討つには絶対に倒さねばならない相手なのだが、政治や色々なしがらみが絡む為、慎重に動かざるを得ない厄介な四天王らしい。

コメ:次の敵は国かよ!
コメ:ダンジョン攻略ならよく見るけど、国と戦うキャスターなんて初じゃね?
コメ:このキャスターは、その敵国の国民より弱いんだけどなw
コメ:たしかに俺らと勇太は強さ変わらねえもんな!
勇太:俺、腕立て伏せ二十回出来ますけどね。
コメ:雑魚やんけw
コメ:謎に張り合おうとすんなwww

「ランデル殿ー!」

 ランデルの説明を聞いていると、待機組が戻って来た。
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