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距離を取りながら近くの茂みを注視していると、地面をズリッズリッと体を縦横に変形しながらこちらに向かってくる物体がいた。

「スライム!?」

 そう、あのスライムだ。

 流動性の体を持ち、丸い半透明な体にコアを持つ。

 体の中に何かの植物を取り込んでおり、ゆっくりと消化しているようだった。

 見たところ動きは遅く、危険性は低いように見えた。

 直径はバスケットボールより少し大きい。

「いけるかな?」

 手に持っていた石を思いっきりスライムに投げつけた。

 ビュッ!バチュン!

 核を狙ったはずの石は、スライムの表面から5cm程度のところまでめり込み、そのまま地面に落ちた。

 その時、攻撃を受けたと認識したスライムは、頭頂部を地面側にへこませ、黒川に向かって体を伸ばす勢いを利用し、体当たりをしかけてきた。

 時速120kmはあるのではないかと思われるようなスピードで、直径40cmほどの体液で満たされた球状の物体が向かってくるのだ。

「ヒッ……!」

 運よく体に掠ることなく、反射神経のみで体当たりを交わすことに成功した黒川だったが、直撃していたら5歳児程度のステータスでは大怪我をしていた可能性がある。

 人生で初めて冷や汗をかくという経験をした。と同時に思考を停止し一目散に逃げ出した!

「もっと距離が近かったらとんでもないことになっていた……。」

 まずはモンスターの認識を改め、スライムを倒せるように作戦を考え始めた。

 あまりにステータスが低いため、人族の成人男性であれば力一杯踏みつけるだけで倒せるスライムが強敵となっているのだ。

 スライムは、核を破壊すれば体液にある消化能力が消滅する魔力生命体なのである。この世界では常識なのだが、黒川が知るはずも無い。
 
「近づくと体当たりが来るから、遠くからなんとかしないと。」

 周囲を見回すと、ある作戦を思いついた。

 小石で5cm程度めり込ませられたのだから、樹上から更に大きな石を落とし、核ごと叩き潰すのだ。

 直径20cm程度の石を手に取り、木に登りスライムを待ち伏せする。

「この世界での生き方合ってるのかこれ?」

 初めて出来た目標である、スライム討伐を成し遂げようと樹上で待機して2時間、色々よく分からなくなってきていた。

 その時、

 ガサガサガサッ

 あの音だ。

 黒川は息を潜める。

 幸運にも足元の茂みからスライムが出てくるのが見えた。

(ラッキーだ!)

 持っていた石を振り上げ、最大限の力でスライムに向け投擲する。が、スライムの僅か横に反れてしまい、狙いを外してしまった。

 さらに、慣れない樹上での全力行動でバランスを崩し、樹上から地面へ滑り落ちてしまった。

(やばい!やばい!!)

 ブチュン!!

 地面に着地すると最悪骨折の恐れがあり、本能的にスライムの上に飛び降りたことで、幸運にもスライムの討伐に成功してしまった。

「よっしゃー! ……なのか?」

 作戦も失敗し、不本意な討伐となり、初モンスター討伐の感動は少し曖昧なものになってしまい、残念な結果に終わってしまった。

 飛び散ったスライムの体液は、霧のように空中に溶け出すように消えていき、踏み潰した核の欠片だけがそこに残った。

「ドロップアイテムってことかな? ポッケにしまってと。それはそうと腹が減ってきてしまったぞ。」

 モンスターに合ったら逃げることにし、街を探すついでに何か食べれるような物がないか周囲を散策することにした。
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