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「なんじゃエミル、騒がしいのう……そのガキはなんじゃ?」
「村長、こいつはラカンの森で迷子になってたんだ。どうやら記憶喪失らしく、自分の名前くらいしか覚えていないらしい。しばらく村で世話をしてやりたいんだが。」
「ジョール村長、お初にお目にかかります。俺はヨールといいます。この村で食事と宿を紹介して頂きたいのですが。あと、何も分からなくって……。グリードフィルのことやお金の稼ぎ方、近くの街などの情報も教えて頂きたいのですが。」

 ふむふむと口の周りのヒゲを動かし、村長はゆっくりと語り始めた。

 女神の話していた通り、この世界には4つの大きな国が存在し、北に巨人族の国アトラストリア、東に魔人族の国デモネシア、西に獣人族の国ビーストリア、南に人族の国ヒューマニアがあるという。

 ジョール村はヒューマニアの南西に位置しており、なんと自分が通ってきた森の道を逆方向に進むと、この辺りの領主が治める少し大きな街、レギンの街に着くのだとか。

「2週間後にレギンの街へ税として穀物を収めに行くんじゃが、その時について来てもええぞ。この村には食堂や宿なんかは無いからエミル、お前のところで世話してやりなさい。」
「分かった。このヨールは、変な奴だが悪人ではなさそうだ。村のみんなにも、俺の家でこいつを預かるって事を村長から周知しといて欲しい。」
「見ず知らずの俺なんかの為に、ありがとうございます。なるべく迷惑にならないように努めます。俺に何か手伝えるような事があれば、こき使って下さい。精一杯頑張りますから。」

 俺は、エミルさんの家で世話になる事になった。

 エミルさんは48歳で、同い年の奥さんのマチルダさんと一緒に、ピーというパンの材料になる小麦のような作物を育てているそうだ。

 昨日は、ピーの畑を守る柵の材料となる木材を森に採りに来ていたらしい。

 一人息子がレギンの街でパン屋をしているそうで、空き部屋となっていた息子さんの部屋を貸してもらえることになった。

 膝下くらいの高さのベッドに、ゴザを重ねたような敷布団と、麻を編んだ布団が2枚、机とイスがあるシンプルな部屋だった。

 なんでも、レギンの街には冒険者ギルドという何でも屋の集まりのような場所があり、そこで日銭を稼ぐこともできるようだ。仕事を斡旋してもらえる可能性もあり、とりあえずは冒険者ギルドで話をしてみようと思う。

 それまではお世話になるエミルさん夫妻のお手伝いをして過すことにしよう!

 ヘトヘトだった俺は、夕飯までお言葉に甘えてゆっくりと部屋で休ませてもらい、明日からは柵作りを手伝うことにする。ベッドに横になり目を瞑るとすぐに眠ってしまった。
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