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「こんにちは! 指名依頼で伺いました! ヨールと申しますが、ミルフォン伯爵にお取り次ぎ願えますか? この時間に来るようにとギルドから言われたのですが」
「よ、よくぞ参られた! 話は聞いている。しばし待たれよ!」

 俺の姿を見るなり落ち着かない様子。
 門を開けると全速力で屋敷へと走って行った。

(まさか急いでる? もしかして……俺もっと早く来るべきだった!?)

 鎧を着た成人男性が風になる姿を見て、いささか不安を感じる。貴族と合う時は1時間前行動が基本とか……ないよね? あるの?

 もう一人の門番に聞いてみるか。

「あの、もしかして俺来るの遅かったですか?」
「約束は昼の鐘が鳴ったらと聞いているが、まあそうだな。少し遅かったかな。普通はね? もう少し早く来るよね?」

(あわわ。やらかしてしまったぞ。大分早めに来て客間で待ってなきゃいけないやつだ! 初手謝罪のパターンだよこれ……。)

 暫くすると、門番が走って戻ってきた。まるで体全体が大きな肺になったかのように、大きく肩で息をしている。知らなかったんだ! ごめんよ門番!
 
 その様子を見て、別の門番が口を開く。

「では、私が案内しよう。ついてくるように!」

 話終わると同時に振り返り、屋敷へと物凄い勢いで走っていく。身体能力が低い俺は、トテトテと追いかける。

(ダッシュだ! 時間やばいんだ多分!)

 風を掻き分ける門番の後ろを必死で走るが、どんどん距離を離される。ごめんよ門番!

 屋敷へ着くと、客間へと通された。メイドさんが汗を拭くようタオルを渡してくれた。ウール生地のような肌触りで気持ちいい。すると、

カラーン カラーン

 お昼の鐘の音と同時に執事がやって来た。なるほど、こりゃ門番も急ぐわな。

「ヨール様、ミルフォン伯爵がお待ちです。こちらへ。」

 通されたのは体育館ほどはある広い食堂だった。中央のテーブルには、煌びやかな衣装に身を包んだ家族がこちらを見ていた。ここでダンスパーティーやらするんだろうな。

「よく来てくれた。さあこちらへ。」

 月の光を集めたかのようなプラチナブロンドの髪をした、凛々しい顔のイケメンが俺を呼んでいる。おそらく伯爵だろう。執事に案内されるがまま、俺は席に着いた。

 古いチーク材で作られたかのような、重厚感と高級感がある色合いの巨大なテーブルを、美しいレースのテーブルクロスが華やかに彩る。

 そのテーブルを囲むように、フリルのついた金や銀の刺繍を施された豪華な服に身を包む上流階級の家族と、大銀貨5枚の見窄らしい中古の服を着ている俺が座っている。
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