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「じゃあこのリパッパデルコーサをお願いしまーす!」

「かしこましましたー、こちらの席へどうぞ。」

 自信満々に注文したけどわたしは何を頼んだんだろう。日本円で1300円てまあまあの値段だったから失敗してないといいんだけど。

 ウエイトレスさんが持ってきてくれた水は薄くピンクがかった色をしている。氷は入ってないけどひんやりと冷たい。

「頂きます!」

 あ、これ多分ワインを薄めたやつだ。アルコールはあまり感じないけれど、ほんのりと赤ワインの香りがする。

「お待たせしましたー、リパッパデルコーサでーす!」

 透けるように薄く切られた円形の巨大な大根で魚や色彩豊かな野菜が包まれてる。美術展に展示されていても気づかない程の完成された美しさに、ほぅと思わず溜息が出る。

 木のナイフとフォークで食べるようだ。大胆に半分に切ると、中からソースがとろりと溢れ出し、同時にわたしのヨダレも溢れ出した。恐る恐る一口大に切り分けたそれを口に運ぶ。

「うんまっ! なにこれー!」

 これは当たりだ、大当たりだ。息つく間もなくぺろりと平らげてしまった。さて、デザートが気になりますねぇ。

「ウエイトレスさーん、甘いものってありますー?」

「こちらのゲロンデなど如何でしょうか?」

「はーい、それにしまーす!」

 名前は不吉な感じがするけど、このお店のならなんでも美味しい気がする。大丈夫でしょ。

「こちらゲロンデになります。」

「はー……何これ?」

「こちらゲロンデというカエルのモンスターの鼠径部付近の脂肪をギロングヤシの実からとれたミルクで味付けしたものになります。」

「な、なるほど……。」

 カエル……。ぶつ切りの白くてシワシワでぶにゅぶにゅした見た目の塊がココナッツミルクのような液体に浸っている。どうしようか、勇気を出して食べてみようか。えーい、いっちゃえ!

「お、美味しい。美味しすぎる!」

 甘みが強く酸味のある香り高いココナッツミルクに、わらび餅に似ているけれど今まで食べたことのない柔らかく弾力があって口の中に程よく張り付く食感がたまらない。これは当たりよ、大当たりよ!

 気がつくと無我夢中で平らげてしまっていた。この店にはお金を貯めてまた来ようと思う。そうだ、お金を払うついでにちょっと色々聞いてみようかな。大銀貨を2枚支払い、今後のために質問してみた。

「あのー、自分のレベルにあったモンスターを調べられるところってあります?」

「それなら冒険者ギルドですかねー! 店の前の道を5分くらい歩くと三叉槍のエンブレムが目印の白い建物がありますよー! 多分すぐに分かります。」

「おぉ! 冒険者……、ありがとうございまーす!」

 早速店を後にして冒険者ギルドを目指すことにした。それにしてもあのウエイトレスさん、わたしと波長が合う気がする。

 店を出ると屋根から巨大な三叉槍が突き出ている建物が目視できた。たしかにあれは目立ちまくってるね。少し歩くと5分もかからず到着した。

 中に入ってみると、さっき見た三叉槍は大黒柱の役割をしているようで、建物の中心に堂々と聳え立っていた。建物は体育館くらい広く二階建ての造りになったいた。木製のカウンターには赤色の髪に羊のような角を生やしたタレ目の女性が気怠そうに両肘をつき、両手に顎を乗せていた。

「あのー、冒険者になりたいんですけど。」

「これ書いて。」

 ぶっきらぼうな人だな。受け取った用紙には名前と属性を書く欄があったので、名前をマリー、属性を魔と書いて提出した。受付嬢は用紙を受け取ると同時にわたしの手を掴んで人差し指に針を刺し、用紙と銅のプレートに押し付けた。用紙とプレートが何やら光っているけれど、あまりの早技に痛いと感じる間もなく何が何だか分からなくて混乱してしまった。

「びっくりしたぁ……。」

「これ冒険者証だから無くさないでね。」

 血が出ている人差し指を咥えながら逆の手で銅色のプレートを受け取った。

「へぇ、怒らないんだ? ウチら仲良くなれそうだね。」

「へ?」

「普通怒るでしょ、何も言わずに傷つけられたら。血出すのに時間かかるやつが多いからさ、面倒臭いから勝手にやっちゃってるんだよね。」

 とんでもない事を言っている気がするけれど、タレ目の目尻を更に下げてニッコリされると不思議と許せちゃう。

「あー、針よりも光の方に驚いちゃったよ。」

「分からない事があったら何でも聞いてね。今日はやる気がないから明日以降で。ウチはベルフェ、よろしくね。」

「わたしはマリー、ベルフェさん明日からよろしくねー!」

「ベルフェでいいよ、ウチもマリーって呼ぶしさ。ウチら友達じゃん。」

 ノリがヤンキーっぽい。こんなにやる気がなくて仕事は大丈夫なのかなこの人、異世界初の友達? ができて嬉しいけどさ。ベルフェと話をしていたらポンと肩を叩かれた。

「やあ、可愛いねお嬢さん。初心者なら僕が色々教えてあげるよ! これからお茶でもどう?」

 振り向くと、スキンヘッドに鹿のような角を生やした赤いタンクトップの男が立っていた。顔は整っているのに何か想像してはいけないものを連想してしまい非常に残念だ。

「友達に教えてもらうので気持ちだけ受け取っておきます。」

「じゃあパーティー組まない? 一人じゃ大変だよー?」

「おいセントス、ウチの友達にあんま絡むな。殺すぞ。」

(セントス!? やばい笑っちゃいそう。)

「あ、あぁ。機会があればまた。」

 顔を引き攣らせたセントスくんは逃げるように去って行った。

 今日は疲れたし早めに宿を取ってゆっくりしよっかな。

「ねえベルフェ、近くに泊まれるところはないかな?」

「ウチと一緒に住んだらいいじゃん!」

「うーん、一人暮らしに憧れてたからしばらくは宿屋に泊まろうかな。今度遊びに行くね!」

 初対面だよね、わたしたち。まさかの選択肢に一瞬時が止まったかと思ったよ。

「そっか、ちょっと高いけどお勧めはギルドの近くで大通りに面してるデルーナって宿だね。安いとこは治安が悪いから。」

「ありがとー! そこにしてみるー!」

 ギルドの斜向かいにあるデルーナを拠点にすることにした。一泊大銀貨6枚と財布には大打撃だったけれど、冒険者になって仕事をすればお金を稼げるだろうし大丈夫……だといいんだけど。
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