愛されるも守らせない文官は自覚がある【完】

おはぎ

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後編

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 最近、シャノンと一緒にいることが増えた気がする。職場でもよく会うし、仕事終わりにご飯も行くようになった。美味しい店に連れて行ってくれるが、シャノンは思っていたよりひと目を気にしないらしく、だいたいオープン席につくことが多い。

    一般的なマナーは王宮勤めになると決めた時に学んだりして理解はしているのだが、予想外の食べ物や食器を出されると流石に分からない。だが、そんな僕にシャノンは一つ一つ丁寧に教えてくれる。また、多くの知識や経験があるシャノンの話はとても面白くて聞き入ってしまう。続きが気になるところで毎回切り上げられるため、次に会える日を決めるのだが、それを一度職場の廊下で会った時に無意識に聞いてしまって、周りをざわつかせてしまった。

    なんたる失態、職場でお互い仕事中に言うことじゃなかった、と内心では頭を抱え、シャノンも呆れているだろうと気まずくなった僕。だが、シャノンは全く気にする様子はなく、

「そういえばまだ決めていませんでしたね。では本日、仕事が終わり次第にしましょうか。迎えに行きますね」

 と微笑みながら言うと僕が持っていた書類をスッと受け取って、これはこちらで処理しておきますねと颯爽と行ってしまった。一緒にいた同僚たちの視線が突き刺さり、その場にいた他の人たちからも凝視されて、いたたまれなくなった僕。とりあえず、恥ずかしそうに下を向き、傍にいたタイラの服を掴んで照れている風を装う。

「……おい、早くこの場から僕を連れ出せ」

    周りに聞こえないようにタイラにそういうと、「え、え……」と戸惑いながら僕を引っ付けてその場を立ち去る。そして、誰もいないことを確認すると、素早く文官に割り当てられている部屋へと戻った僕たち。

「わっ、どうしたんだい?レーテル、そんなに勢い良く……」

 そんな僕を見て上司が驚いたように言った。

「いえ、何でもないです……。ちょっと自分の失態にびっくりしちゃって……」

 自分の机に突っ伏して、やらかした……と頭を抱える。完全に無意識だった、最悪だ……!最近、シャノンと一緒にいることが増えたせいで、その時の自分が出てしまった。「あ、次はいつ会えるんですか?」とまるで二人でいる時のように自然に出てしまっていたんだ。

「レーテル、一体どうしたんだよぉ。君と宰相様の仲はみんな知っているし、いいじゃないか」

 タイラはそんな僕にオロオロとしながらそう言ってきて、僕は目を白黒させる。

……そうか、そういえばシャノンの名前を出して円滑に仕事ができるようにさせてもらってたんだ。

    最近でも甘えるように可愛いか弱い僕を演じることはあるが、シャノンの名前を出さずとも絡まれたりすることが減ったためすっかり頭の隅に押しやられていた。だが、それを考えると、僕のあの行動は特に変ではなかったのかと思い始める。そういう仲だと仄めかしていたのだから、あのやり取りは不思議でない、という考えに至った。

    僕たちの後から戻ってきた同僚も、不思議そうに僕を見ていて、なるほどと納得。そうか、第三者から見ても変じゃないらしいと実感する。まぁでも仕事中にする話ではないため、そこは反省しないといけないのだが。とりあえず、シャノンに迷惑が掛かるような行動は慎もうと心に刻む。

    そして、仕事が終わった頃、シャノンがわざわざ迎えに来てくれて一緒に外へと出る。

「シャノン、昼間はすみませんでした」

「何がです?」

「いえ、仕事中に聞くことではなかったなと。無意識でした、改めます」

 先に、仕事中に私的なことを言ってしまったと謝罪をする。シャノンはそんな僕を目を細めて見下ろすと、

「フフ、私としては嬉しいですが。そういう真面目なところも好ましいですが、もう少し甘えて欲しいものですね」

 と可笑しそうに笑って言った。僕は、そういう冗談も言うんだなと意外に思いながら歩いていると、スッと腰に腕を回され、やんわりと足を止められる。それにドキッとした時、目の前を馬車が通りハッとする。

「ありがとうございます、あの……」

「レーテル、ちゃんと食べてます?腰が細すぎますよ」

 礼を言って、もう大丈夫だと言おうと思った時に、腰に回っていた腕でグッと引き寄せられて少し驚いたようにそう言われる。僕は僕で、思っていたよりも力強いシャノンの腕に驚く。

「た、食べてますよ。一緒にご飯に行った時、僕結構食べているでしょう?」

「確かに食べていますが……。こうも小さく細かったら心配にもなります」

「僕、可愛い顔してるので、似合っているでしょう?」

 腰に回っていた腕をそっと添わせるようにされて歩き出す僕たち。僕は、シャノンの言葉に悪戯心が出てそう言うと、

「えぇ、可愛いのは知っています。愛らしいといつも思っているので。でもここまで華奢だとは……」

 さらっと返された言葉にポカンとする。

「そういえば、月夜祭でラモーネ店が出店するらしいですよ。レーテル、その日は休みだと言っていましたね。」

「え、あ、あぁ、そうです。その日は休みで……」

「誰かと回る予定が?」

「いえ、約束はしていませんが……」

「私はさすがにその日に休みを取ることができませんが、夕方には終わらせますのでそれから一緒に回りましょうか。多くの店が出店するので、色々食べさせて君を太らせましょう」

    楽しそうにそう言ったシャノンに、僕は目をパチクリ。あれ、月夜祭に一緒に行くことになった?シャノンとの仲を仄めかしてはいたが、それでも他の人から月夜祭に一緒に行かないかと誘われることも結構あった。のらりくらりと躱すと、やっぱり宰相様と?と聞かれてしまい、曖昧に笑うだけに済ませていたのだが、本当にそうなってしまった。

    シャノンは言葉も行動もスマートで、さらりとやってのけるからいつの間にか受け入れてしまう。親友のユンはカイト隊長を頑張って誘えたみたいだし、僕は気楽に一人でぶらぶら回ろうかなと思っていた月夜祭。何となく気分も乗らないため誰とも約束はしていなかったのだが、あっさりとシャノンと回ることが決まってしまい、何だか可笑しくなる。

    だいたい、二人でいるとそういう目で見てくる奴らが多く、自分のものにしたいという明らかな欲で早急に事を進めてくる。それに乗っかって楽しんでいたところはあるが、ユンたちを見ていたらあぁいう形もいいなと思えてきたため最近はめっきり遊んでいない。シャノンはそういう感じではないし、一緒にいると楽しい。そういう風に振る舞わなくても良い点でも楽だ。友人、というと違和感があるが、僕にとって大事な人になりつつあるため、素直に月夜祭が楽しみになった。

    シャノンに腰を抱かれていても、いやらしさがないためすぐに慣れた僕。食事を終えて帰る時も同じようにスッとさりげなく腰に手を添えられ、見上げると首を傾げて不思議そうに見られたため、特に深い意味はないんだろうなと僕も分かってきた。

    シャノンからしたら友人の距離なのか、僕が思っていたより弱そうだったから守ってくれているのか、少なからず思うことは何かあるのだろうが、以前のように深読みすることはやめた。きっとシャノンは自分の思うように行動しているだけで、僕をどうこうしようだなんて考えてないんだろうと理解すると、気にならなくなったのだ。まぁ、突然今日みたいに腰を抱かれることもあるため、流石に驚いてしまうのだが。
 
    だが、特に何も言わずに好きにさせていた僕は、それにシャノンが薄く笑っていたのには気付かなかった。


ーーー


    昨日僕は、月夜祭当日に仕事の同僚たちを冷やかしながら帰った。

    翌日、起床したのは昼前。シャノンは夕方には仕事を終わらせると言っていたが、月夜祭は王族も参加するため宰相は忙しいはずなのに大丈夫だろうかと考える。だが、シャノンがそう言うのなら大丈夫なのだろうとも思い、僕も準備するか~と起き上がった。少し早いが、家を出て月夜祭が最も盛んに開催されている中心部へと向かう。もうすでに店は出ていて、活気付いている雰囲気に気分も上がる。

「お、レーテルじゃん!え、もしかして一人!?ちょ、俺と回らねぇ!?」

「レーテル!?一人なのか?良かったら、俺と……!」

「え、レーテル、一人なのか?一緒に……!」

「れ、レーテル!お、俺、お前のことが……!」

 だが、歩く度に顔見知りがいて、一人だと分かるやいなや誘われたり、告白されそうになったりと全然ゆっくり回れない。その度に、「待ち合わせしているんです、あの、あの人と……」と少し照れながら返したり、「嬉しいです、でも僕……」とうるうると涙を浮かばせて悲しげに言ったりと、すっごく疲れる。せっかくの休みなのにどうしてこんな面倒くさいことをしないといけないんだと、内心ではもう話し掛けてくるなよとうんざりしていた。そんな中、そろそろ夕方だなと日が暮れそうな空を眺めていると、


「――レーテル」

 腕を優しく掴まれるとともに静かに名前を呼ばれて、振り向くとシャノンの姿。え、もう仕事終わったの?と驚いていると、

「すみません、もう少ししたら終わるので、あそこの騎士のところで待っていてくれませんか」

 続けてそう言われ、そこまで連れて行かれると騎士たちに何かを言ってすぐに行ってしまった。恐らくこの場所の警護に当たっている騎士の傍で、とりあえず待ってはいたのだが。ふと、カイト隊長は仕事を終わらせてちゃんとユンを迎えに行ったのだろうかと心配になる。

「ねぇ、カイト隊長はもう仕事終わったか知ってる?」

    顔見知りでもある騎士だったため聞いてみると、

「いや、まだじゃねぇかな。でもさっき、ユンさんが時計台のところに行くのを見た気がするんだけど……」

 と返ってきたため、え、と思わず声が漏れる。ユンが、一人で?こんなに多くの人たちがいる中を?カイト隊長がまだ仕事中であるのなら、ユンは一人だ。あんなに可愛い子が一人でいたら、絶対に変な奴らに絡まれちゃうじゃないか!と心配になり、

「ちょっと僕、行ってくる!」

 と慌てて止めようとする騎士をすり抜けて、ユンが向かったであろう場所に急いで足を進める。すると、案の定、ユンを囲うようにして男二人が言い寄っている場面に出くわす。身の程を弁えろ、とユンには到底釣り合わない奴らに苛つきながら、割って入る。よく見たら、何処かで見たことのある顔。あぁ、こいつらは……。

「ダリウル伯爵、大変みたいだね。ねえ、そういえばその服、素敵だね?」

 伯爵は帳簿が合わないと調査依頼を行い、その結果、使用人が着服していたのだ。主犯は罰せられたが、まだまだ主犯に乗っかっていたやつらはいるだろうと泳がせているとの噂だ。こいつらは伯爵家で働いているのだと飲み屋で酒に酔いながら大きな声で言っているのを見たことがあった。だから、カマかけのつもりで言ってみると、さっと顔色を変えてそそくさと立ち去った二人。あいつら黒だなと呆れてフンッと鼻で笑い、ユンが無事だったことを確認して安心する。それより、こんなところに一人でユンを待たせるなんて、とカイト隊長に怒りが湧く。だが、すぐにカイト隊長が来たため、まぁせっかくの月夜祭だしなと仕方なくユンを任せてあげる僕。

「お前も早く戻らないと、機嫌最悪だったぞ」

    とカイト隊長に苦笑して言われる。どうして僕が戻らないと機嫌が悪くなるんだと、シャノンが怒っているところなんて見たことがなかったこともあり、何を言っているんだと呆れる。だが、そう言うならもう仕事は終わったのか。ユンに楽しんで、と手を振って別れるとさっき待つように言われた場所へと向かったのだった。



「シャノン、すみません。僕が待たせてしまいましたね」

    すでに、見知った姿がその場所にあり、僕はそう言いながら駆け寄った。

「……いえ。私の方こそ遅くなり申し訳ありません。」

 少し間があったような気がしたが、いつものシャノンで特に怒っている様子はない。ほら、全然機嫌悪くないじゃないか。そう思いながら、あっちに美味しそうな店があったと言うと、

「レーテル、いつから来ていたんです?色々と声も掛けられたそうですね」

 と目を細めて見下ろされる。どこか圧を感じる話し方に、少し身を引いてしまう。え、何?声?声なんて……あ、あぁ、誘われたこと?

「まぁ……」

 何とも気まずい気持ちになるのはどうしてだろうか。別に、僕悪いことしてなくない?誘われたけどちゃんと断ったし、責められているようなこの空気感、嫌なんだけど……。と楽しみにしていた分少し気分が落ち込みそうになる。

「すみません、思っていたより狭量だったようです。君を見かけたと話している者たちがいて、少し心配になったものですから」

 そんな僕にシャノンは、ゆるく腰に手を回してきたかと思うと、コツンと額を合わせ苦笑してそう言った。僕は、至近距離のシャノンの綺麗な顔に目を見開く。シャノンはスッと離れると、そのまま腰に腕を回したまま歩き始めて慌てて足を進める。

「シャノン、どうしたんですか。心配?」

 僕の何が心配なのだろう。迫られているところに出くわしたことはあったが、その時だって僕は自衛の術を持っていたし、そういうやつらに絡まれるのだって慣れている。躱すのだってわけないのに。それは、シャノンだって知っているはずだ。だから不思議に思い、連れられるまま聞くと、

「好きな子が他の人に誘われて絡まれているとあっては、さすがに私も心配しますよ。あぁ、ラモーネ店はあちらで店を出しているらしいのですが、さすがに行列ができていますね。他のところも回ってみましょうか」

 さらっと言ったシャノンはまるで何事もなかったかのように、そう続けた。

……え、は。……は?

 ついていけていない僕に、屋台を見て「美味しそうですね食べますか?」じゃないんだけど!?

「好き?シャノン、僕聞き間違えた?ごめん、なんかそう聞こえたような気が……」

「えぇ、合っていますよ。むしろ何故気付かないのか不思議でした。結構分かりやすかったと思うのですが」

 飄々というシャノンに唖然とする。そんな僕を見て可笑しそうに笑うと、

「まぁ月夜祭を一緒に回ることを承知してくれた時点で、無意識的にでも私は君のテリトリーに入ることを許されていると自負しています。これから、ゆっくり口説いていくので良い返事を期待してますね」

 理解が追いつかない僕を置き去りにしたままそう続けた。僕はそれから、シャノンの一挙一動に意識してしまって変な反応をしたり、さり気なく触れられてビクッと肩を揺らしてしまうなど、挙動不審になってしまうのだが、そんな僕を見てシャノンは変わらず綺麗に笑うのだった。



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