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後日談 1
しおりを挟む「取って食いやしませんよ。レーテル、これしまって下さい」
月夜祭の後、シャノンの自宅に招かれた僕。断るのも変だと思って着いてきてしまったけど、あれ、これ着いてくる方が変だよなと今更ながら思って内心頭を抱えている。流石に意識しすぎている。シャノンは告白のことを何とも思ってないように見えて、こうしてさらっと言ってくるからタチが悪い。
シャノンに渡された、さっき屋台で買った茶葉の瓶を言われた棚に置く。数種類買っており、なんとなく、茶葉の色をグラデーションに並べていると、
「ふふ、綺麗に並べてくれたんですね。この茶葉は珍しいんですよ、あまり出回ってなくて。良い買い物をしました」
後ろから覆い被さるようにして並べていた茶葉の瓶を取ったシャノンは、そう言って「せっかくなので飲みましょうか」と微笑んだ。スッと離れると湯を沸かし始め、名前を呼ばれる。
……あなたの顔が近距離にあったら心臓に悪いんだって!
突然に距離を縮めてくるシャノンは絶対に確信犯だと思う。不覚にも少し顔が熱くなってしまったため、下を向きながら冷ます。だいたい、シャノンは自分の顔の良さも絶対自覚しているし、僕が好意的に見ていることだって分かっているに決まっている。翻弄されているのが少し悔しい。
「シャノンは、いつから僕のこと好きなんですか?」
だから、わざとシャノンの横にぴったり張り付いて顔を覗き込みながら上目遣いで聞いてみる。すると、スルッと僕の方に体を向けると腕を背中に回されて腰辺りで指を組んだシャノン。
「初めて見た時から可愛いとは思ってましたよ。今も、このまま囲ってしまいたいぐらいには愛しく思っています」
僕を見下ろし綺麗に笑うと、そう言って目を細めた。思わず息を飲んだ僕に、ふふ、と笑ったシャノンはそのまま顔を近付けてきた。僕はシャノンの綺麗な顔が近付いてきて、思わずバッと顔を背ける。すると、腰に回っていたシャノンの手にグッと引き寄せられた。そして、
「小悪魔なレーテルも好きですが、それは煽るだけだと自覚しなさい」
耳元でそう言われて、カッと顔が熱くなる。じろっとシャノンを睨みつけると、
「何です?可愛いだけですよ、君が何をしようと」
目元を緩めて言われてしまい、恥ずかしくて怒りたかったのにそんな感情が抜け落ちて、口をパクパクするも言葉が出ない僕。もう!とシャノンの胸に手を置いて突っぱねる。シャノンは笑って僕を離したかと思うと、スルッと頬を撫でた後、「座って待っていてください」と微笑んだ。僕は、何も言えなくなってしまって、ぐぬぬ、ともどかしい気持ちになりながらもソファにドスッと座った。
しばらくして、シャノンがティーセットをテーブルに並べて茶を入れると、僕の前にティーカップを置いた。クッキーが乗った小皿も一緒に。良い匂いに、ほわっと頬が緩んでハッとする。チラッと横に座ったシャノンを見ると、自分の分の茶を入れているところだったためホッとする。いや、別に見られたからって何もないんだけど……と思いながら、また可愛いとか言われるんじゃないかだなんて身構えてしまった自分がいて恥ずかしくなる。何を期待して……いや、期待なんてしてないけど!可愛いのは当たり前じゃん、僕は可愛いんだから。とよく分からない言い訳をしながらカップを傾ける。……うん、美味しい。温かくて、ほのかに甘くて体がぽかぽかとしてくる。
僕はあまり甘いものが好きじゃない。フルーツなどの自然な甘さのものは好きだが、クリームがたっぷりのケーキや砂糖を掛けたような甘ったるいものは好まない。可愛い子には可愛い食べ物が似合っているというだけで外でも食べることはあるけれど、人目がなかったら選ばない。それをシャノンに言ったことはないのだが屋台でも甘い物を選ぶ様子はなかった。
今まで、他の人とデートした時は決まってケーキなどの甘い物を出す店に連れて行かれることが多かった僕。見た目から判断されていたのだろうが、それに対してこんなもんだよなとしか思っていなかった。怒るようなことでもおなかったし、可愛いケーキを食べる可愛い僕を見て満足そうにするやつばかりだったから、そういうものだと思っていた。でもシャノンが連れて行ってくれる店はご飯やさんばかりで、デザートもフルーツを使用したものが多い。そんなことを考えると、僕のことをちゃんと見てくれているんだなと思ってしまい、どう振る舞えばいいのか分からなくなってしまう。
考えながら茶を飲んでいると、シャノンがクッキーも勧めてきた。それも食べてみると、はちみつの優しい甘さでほろほろと口の中でほどけて美味しい。うん、これ好きだ。そう思いながら食べてふと顔を上げるとこちらを見ているシャノンと目が合う。目元を緩めて優しい表情で見下されているのを見て、いたたまれなくなりすぐに目を反らした。
「レーテル、美味しいですか?」
そう聞かれて、目を合わせないまま、うん、と頷く。どこか甘い雰囲気が流れているようでムズムズする。自分からそうなるようにすることはあれど、こんな自然に出されると自分がどんな反応をするのが正解なのか分からない。あぁ、もう!やりにくい!と頭をかきむしりたくなるが我慢する。
「ふふ、抱きしめても?」
「え、は!?」
突然、そう言われてバッと顔を上げる。すると、可笑しそうに笑うシャノンの顔が目に入り、揶揄われているのだと分かってムッとする。だから、どうぞ?と強気に両手を広げてみると、片腕をグッと引っ張られてシャノンの腕に囲われてしまった。
「え、あ……」
「言ったでしょう、あなたの行動は煽っているだけなんですよ」
背中に回された腕にギュッと力強く抱きしめられて、思わずドキドキと心臓がなり始める。こんなの初めてでもないのに、あわあわと狼狽えてしまい、キュッとシャノンの服を掴んだ。顔を見られたくなくてシャノンの胸に顔を押し付けると、突然立ち上がったシャノンにびっくりする。そして抱き上げられたまま運ばれ、もしかしてこのまま……!?と身を固くすると、ストンと降ろされる。
「もう遅いので泊まって下さい。服は用意しておくので」
連れて行かれたのは浴室で、シャノンはそういうとさっさとその場を後にした。僕はポカンとしながらも、勘違いしたことに恥ずかしくなり、急いで浴室に逃げ込んだのだった。
出ると、服が用意されておりそれに着替える。シャノンの服らしく、サラサラの生地は着心地が良い。でもさすがに大きいな。裾を折って手を出し、足は……うーん、さすがに履かないのは違うだろうし……と折り曲げて足も出す。出ると、シャノンは本を読んでいた。様になる姿に、少し見惚れる。だが、僕に気付いたシャノンが顔を上げると本を閉じてこっちに近付いてきた。
「……髪が濡れていますね。乾かしましょうか」
髪に触れるとそう言って座るように促される。温風を当てられながら、髪を乾かされるのだが、気持ち良さと体が温まっていることもあってウトウトと眠気が襲ってくる。髪を乾かされながら、頭を優しく撫でられ、瞼が降りていったのだった。
ーー―シャノンside
……おや、寝てしまいましたね。
眠そうなレーテルに気付いてわざとゆっくり髪を乾かしていたのだが、この子は危機感があるのかないのか。可笑しくなりながらも、さっき入れた茶はリラックス効果と体を温める効果があり質の良い睡眠を促してくれるもので、月夜祭で歩き回っていたことを考えると眠気が生じるのは当たり前だと言える。今日はもとより帰すつもりがなかったため予定通りに事が運んで口角が上がる。
月夜祭で朝まで共に過ごすこと、それは大きな意味がある。外堀を埋めるには十分すぎるほどだ。レーテルとてその意味は知っているだろうに。私が告白したことによってそれを踏まえてどのように振る舞うべきかで頭がいっぱいらしく、そこまで回らなかったのだろう。自分の容姿を理解しそれを使いながら上手く生きてきたのだろうが、一度心を許した相手だと随分と警戒心が薄くなる。
初めてレーテルを認識したのは、私のもとへ書式変更の承認がきた時。持ってきたのは文官長のノックスだったが、質問してみるとレーテルに言われたからという阿呆の答えが返ってきて頭を抱えたくなった。ノックスは同級生で学園の時からの付き合いになるが、どうも信用した相手だと気が緩みまくる質にあるらしく。そのレーテルという者がどういった人物か分からなかったため、一先ず調べるかと腰を上げたのだった。
幸いにも、噂は多くあって突き止めるのは簡単だった。確かに可愛らしい容姿をしている。だが、それ以上に気になったのは文官の仕事の効率が上がったことだ。気の弱い者が多い文官は悪く言えば舐められ、提出書類が滞ることも多くあった。だが、それも少なくなり、一体どういうことかと廊下を歩きながら考えていた時だった。その場面に遭遇したのは。
「も~次はお願いしますね?僕待ってますからね!」
キュルンと効果音がつきそうな大きな瞳を潤ませて、小首を傾げて笑うその者に、言われている者はデレデレと締りの悪い顔をして悪かったよと謝り書類を受け取っていた。小さく手を振ってその場を立ち去る金髪の子は文官の印であるバッジを付けており、もしかしてと後を付けてみる。
「もう!後はどれ!修正必要なものは!」
文官たちの部屋に入った後、そう言っているのを扉が閉まる前に聞こえ、おやおやと可笑しくなる。なるほど、あれが素なんですね。何とも面白い人材が文官になったものだと、その場を後にした。
それからも文官の仕事の効率は上がる一方で優秀さも評価しながら、私に対してはあの可愛いおねだりはせず、淡々と敬語で話してくる様子にも好感が持てた。あれが通じる相手か、そうでないかもちゃんと見極めているらしい。王宮内に知り合いも多いらしく、色んな者に声を掛けられてはその人に合わせた接し方をしており、人を良く見ていると感じていた。
だが、一人だけ。王宮図書館で司書をしているユンさんに会った時、パァッと表情が明るくなって、嬉しいといわんばかりに可愛く笑っているレーテルを見て、そんな顔も出来るのかと驚いたのを覚えている。ユンさんが好きで堪らないといったように、ずっとニコニコと楽しそうに笑っており、モヤッとしたものが胸の中に広がった。
お気に入りで面白い子の、他の者が知っているのに自分が知らなかったことに対してそう思ってしまったのだろうと納得させたのだが。明らかに、ユンさんとその他の者に対してレーテルの態度も表情も違って、特別なのだろうと誰もが分かり、微笑ましく思うはずなのにそうは思えず。極めつけは、レーテルが他の者に襲われそうになっていたことだった。自分でも驚くほど腸が煮えくり返っていたのだが、努めて冷静に対応し、その後はポケットに忍ばせておいたであろう強力な痺れ玉を出したレーテルには笑ってしまった。自分の容姿を分かっているこの子は、自衛の手段も抜かりないらしい。
……あぁ、この子が欲しい。
もともと優秀な者は好ましいし、仕事が出来るため秘書に欲しかったのだが、存外私もただの男だったらしい。ユンさんに向けるような可愛い顔を私にも向けて欲しいとそう思ってしまった。
それからは言いくるめて外堀を埋めていく。レーテルは利害があるため飲んだに過ぎないのだろうが、私のものだと王宮内では知れ渡り、上手く利用しているつもりでも気付いた時にはもう遅い。私は逃す気はないし、もともと私のことは信用していたらしいレーテルは気を許してくれるのも早かった。距離を縮めても私に何か考えがあるのだろうと、勘違いしては好きなようにさせてくれたお陰で、こうして囲うことができた。
……可愛いレーテル、もう私のものだ。
このまま朝を迎えて、仕事に行けば私のものだと誰もが認識するだろう。レーテルはその容姿故に目立つ。月夜祭に私と一緒いた事は知れ渡っているだろうし、同じ服で職場に行けばそのまま私と朝まで過ごしたのだと分かるだろう。
私に告白されて初々しい反応を見せるレーテルが可愛くて仕方ない。今までも遊んだりしていたと言っていたが、あくまでお互い遊びだったのだろう。いや、相手は本気だったかもしれないが、レーテルにその気はなく、またそのことにも気付かなかったのだろう。だから、私の本気が伝わってどうすればいいのか分からなくなっているのだ。少なからず嫌われてはいないことと、私も自分の容姿は自覚しているためにそれを使わせてもらう。
眠ってしまったレーテルを抱き上げると、少し唸ってすり寄ってくる。目を細めて見下ろし、襲いたくなるのを抑えこんでベッドに運ぶ。流石に一緒に寝て手を出さない自信はなかったため、私はソファで寝るために出る。そして、寝る前にレーテルの服を洗って乾かすと、明日の反応が楽しみだと横になったのだった。
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