無敵な女王様

慧野翔

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裏女王様と幼馴染み

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「うわ~ん、カズ~!」
「朝練後の汗臭い身体で抱きつくな」

 教室に入るなり飛びついて来た亮太を引きずりながら、俺はとりあえず自分の席へと着く。

「ちゃんとシャワーで汗流したよ!」

 俺の前の自分の席へと座った亮太はふて腐れたように反論してきた。
 ここ聖都セイト学園は学校にしては珍しく、運動棟にシャワーが完備されているので、バスケ部に所属している亮太も朝練後にそれを使ったのだろう。

「はいはい。で、今度は何だ?」

 どうでもいい亮太の言い分を聞き流して、俺は呆れながらも聞いてやった。
 すると、亮太は急に情けない泣き顔になる。

佳奈カナちゃんが……」

 佳奈ちゃんって誰だ?
 聞き慣れない名前に、俺は必死に記憶の中を探ってみる。

「ほら、一週間前の」
「ああ。合コンで知り合って付き合いだしたっていう……」

 そう言えば少し前に

『新しい彼女が出来た!』

 と、騒いでいたような気がする。
 どうでもいいから、ちゃんと聞いてはいなかったが、確かそんな名前だったような。

「そう、その佳奈ちゃんが……二股かけてたんだ!」
「…………」

 またか……。
 今度こそ、俺は本当に呆れてため息を吐いた。

「なんだよ、幼馴染みが失恋したっていうのにその態度! 可哀想だと思わないのか」

 俺の態度が不満だったのか、亮太がさらに喚いた。

「可哀想だと思う気持ちなんか、とっくに消え失せた。だいたい、お前が彼女取られるの何回目だと思ってんだ」

 俺と亮太は小学生のころからの幼馴染み……もとい、腐れ縁だ。
 さらに小さいころに一方的に取り付けた約束を守ってなのか、亮太は彼女が出来たらもちろんのこと、好きな子や気になる子が出来ただけでも律儀に俺へと報告してくるのだった。
 だから、そんな亮太の恋愛事情は全て俺に筒抜けなのだが、こいつはいつも付き合った彼女を他の男に取られている。

「今度の相手はイケメン眼鏡じゃないだろうな。また千歳に絡んでみろ。今度こそ本気で見捨てられるぞ」

 俺が今、教室に姿が見えない親友・高瀬千歳タカセチトセの名前を出すと、亮太はばつの悪そうな顔をする。
 佳奈ちゃんとやらの前に付き合っていた彼女の沙織サオリは、亮太にしては珍しく数ヶ月続いていたが、それも二週間くらい前に終わってしまった。
 眼鏡をかけたイケメン男に取られたのだ。
 そして、沙織に振られたショックの八つ当たりでクラスメイトの千歳が「眼鏡をかけたイケメン」という理由だけで、亮太に首を絞められたことは、まだ記憶に新しい。

「いや、千歳には悪かったって。それに今回は眼鏡かけてないから大丈夫」

 何が大丈夫なんだかよくわからないが、亮太があまりに自信を持って言うから、あえて突っ込まないでおくことにした。

「だいたい、なんでお前はいつもいつも浮気されるんだ? 女見る目ないな」
「彼女達はそんな軽い子じゃない!」

 呆れて言った俺に、亮太はむきになって反論した。

「だったら、お前に男としての魅力がないってことか。アッチは? ちゃんと満足させてやってる?」
「あっち……って?」

 亮太は何のことだかわからない、といった表情だ。

「アッチって言ったら、セック……」
「うわぁ~!」

 わざわざ説明してやろうと思った俺の口を、亮太は慌てて両手で抑えてきた。

「ん、んんっ!」
「それ以上言うな~」

 そう言いながら、亮太は俺の口から手を放そうとしない。
 しかも動揺しているせいか、口と一緒に鼻まで必死に抑えている。
 苦しいって!

「いてっ!」

 俺が指に噛み付くと、亮太はやっと手を離した。
 自由になった口で呼吸をしながら、俺は亮太に怒鳴る。

「お前、千歳の次は俺を殺す気か!」
「いや……千歳、死んでないし……」

 亮太のくせにもっともな事を言ったのが腹立って、俺がキッと睨むとそれに気づいた亮太はうな垂れた。

「……ごめんなさい」

 最初から素直に謝ればいいものを。

「だいたい、カズがあんなこと言うから……」

 それでも亮太なりに言い分があるらしく、ブツブツと文句を言っている。

「あのなぁ、小学生のガキじゃないんだから……って、お前まさか、童……」
「んなワケないだろ!」

 今度は俺の言いたいことが先にわかったのか、最後まで言い終わらないうちに亮太が遮る。

「だったら、そんな過剰に反応するな」
「カズがオープン過ぎるんだよ」

 まあ、それもあるかもしれないが、長年の付き合いの俺から言うと、亮太はピュア過ぎると思う。
 小さいころから成長したのはその長身の図体だけで、中身は昔と変わらず純粋そのものだ。
 女の子を大事にするタイプだが、逆に女の子からは大事にされ過ぎて物足りない。
 そんなところだろう。
 そもそも、合コンで知り合うような女が、何の進展も望まないピュアな恋愛したがるわけないだろ。

「お前は相手を大事にし過ぎなんだ。だから『亮太くんっていい人なんだけどね』で終わっちゃうんだよ」
「そんなこと言ったって……」

 亮太がしゅんとうな垂れた。
 ああもう、鬱陶しいなぁ……。

「そのうち、沙織より佳奈ちゃんよりいい子が見つかるって」

 亮太の頭をポンポンッと叩きながら慰めると、亮太がボソッと聞いてきた。

「カズは?」
「俺が何?」

 聞かれた意味がわからず聞き返すと、亮太は顔をあげて近寄ってくる。

「カズはそういう子いないの? カズって結構人気あるのに、女の子との噂全然ないじゃん」
「興味ない」

 俺があっさりそう答えると、亮太は不満そうに口を尖らせた。

「成績だってルックスだって、千歳や女王様に引けを取らないくらいなのに」
「おいおい、学園人気ナンバーワン、ツーと比べるなよ」
 
 亮太の言う女王様とは、一年生ながらに我が聖都学園高等部の生徒会長を務めている深海優弥フカミユウヤのことだ。
 モデルの母親譲りで容姿端麗、勉強に運動なんでも完璧なお坊ちゃま深海優弥と、大人びたルックスと甘い言葉でなんでもそつなくこなすイケメン眼鏡の高瀬千歳は、いまや学園内の人気ナンバーワンとツーに君臨している。
 そんな彼らと比べられる奴が他にいるわけがない。

「せっかくの一人暮らしで、家族の目も気にせず部屋につれ放題できるし……カズ、勿体ないよ! 彼女作ればいいのに」

 彼女……ねぇ。

「面倒だし、女興味ないからいい」

 俺がそう言うと、亮太はしつこく聞いてくる。

「なんで?」
「なんで……って。いいのか? 俺が女口説いたら、お前ますますチャンスがなくなるぞ。みんな、俺の方に来るからな」

 俺が冗談でそう言うと、亮太が声を荒げてきた。

「俺は、そんな冗談が聞きたいわけじゃないよ!」
「うるさい。それ以上、その話するなら殴るぞ」
「え~……カズ、手加減してくれないんだもん」

 とりあえず殴られるのは嫌なようで、亮太は独り言のようにブツブツ文句を言っている。
 俺が彼女を作らない理由……か。
 だってしょうがねぇじゃん。






    俺、女相手じゃ

    勃たねぇんだから。








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