わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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夜中のホラーは危険です。

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そういえば。
「竜児はさ、ケンちゃんとこの新しい子の名前知ってる?あの若い男の子。
ピザを持ってきたのはその子なんだけど…」
竜児関係の仕事には携わらせていない、とは言っていたが、面識くらいはあるのではなかろうか。
――先ほど妙な発言もしていたことだし。
「あぁ…賢治が借金を肩代わりしてやった件ですね」
「肩代わり!?」
びっくりして思わず身を乗り出す。
そんな話、聞いていなかった。
「肩代わりというよりは、権利を買い取ったような形ですが。
賢治の下で働き、借金を返す代わりに彼の家族の生活を保証してやっているようですね」
「…それって…」
人質、とか言いませんかね。
家族の命が惜しければきちんと働いて返済しろ、的な。
「借金苦で一家全員首を吊るしかない状況にまで追い込まれていた所を救ってやったんだから文句はないでしょう。賢治は暢気ですからね。真面目に働いている限りは取立てなんて真似もしないでしょうし」
「――――弱みを握っている限り、裏切られる心配もない、かぁ…」
それは安心して彼を寄越すはずだと納得する。
裏切る事など到底できないと確信しているわけだ。
どんなに人がよく見えたとしても、賢治もまた黒い世界に生きる人間。
ただの同情だけで人助けをするはずなど、ない。
「君が気にするほどの相手でもありませんよ。まぁ、賢治の奴隷とでも思っておきなさい」
「えぇ~…」
さすがにそれはちょっと気が引けるのだが。
「ちなみにさっき、私あの子に『逆ハーレムもあると思います』とか宣言されたんだけど。
…なんか知ってる?」
「………」
あ、無言で微笑んだということは確実に知ってるな。
「なにやった?」
むしろ、何をやらせた。
「……知らぬが花という言葉が……」
「余計怖いんだけど!?」
「…冗談です。ただ、君の周りをうろつく人間の調査を何度か賢治に依頼していましたから、その件でなにか覚えがあったのでは?」
「――もしかしてそれ、部長と主任?」
「そうだったかもしれませんねぇ…」
そらっとボケているが、確実に正解だろう。
後考えられるとすれば、あの霊能力者――。
それじゃ、なにか。
「私、下手したらあの子に3股かけてる女だと思われてる!?」
「いえ。僕らが勝手に君を追いかけていることは承知していると思いますよ」

つまり、この事に関しては完全にケンちゃんも真っ黒か。
『オトコ選びに疲れたら』なんていうとんでもないセリフの発生源はどうやらそこで間違いなさそうだ。
「しかしタカ子にそんな発言をするとは聞き捨てなりませんね。
後でしっかり賢治に教育的指導を…」
「――それはケンちゃんに教育的指導をするの?それともケンちゃんを通してあの若い子を指導するの?」
「勿論、両方に決まってます。あのピザの件も含めて」
「げ」
哀れなケンちゃん…。
もう一度言うが、ピザは大変美味しゅうございました。
「そんなにピザが食べたかったなら、きちんとしたものを食べさせたのに…。
日本人で初めて世界選手権で優勝した男の作るピザ、食べたくありませんか?」
「なにそれ超美味しそう」
「後で連れて行ってあげますから、ヨダレを垂らしそうな顔をしない」
あら、じゅるり。
…って、また最初の目的からだいぶ話がずれてしまった。
「じゃなくて、あの若い子の名前!紹介してもらったんだけど、すっかり忘れちゃって…」
本人には聞づらいし、知っているなら教えて欲しかったのだが。
「別に下僕で十分でしょう。君が覚える必要はない」
「え~」
流石にそれは申し訳無さ過ぎるのだが。
「構うのはやめなさい。それは彼のためにもなりませんから」
「う~ん…」
そう言われてしまうと弱い。
下手に構って竜児の不況を買わせるのも気の毒だし…。
「まぁいっかぁ…」
「そうやってすぐに物事を流すのはタカ子の可愛い所ですね」
「え、褒められてる?馬鹿にされてる?」
ギリ長所だと思いたい。
「何はともあれ、例の主任さんとやらの依頼は無事に果たされたようですし、彼の弱みもしっかり握れましたね」
「おぉ…」
そういえば、そうだった。
「タカ子、体の調子は?」
「…そういや、ちょっと良くなったかな?」
眠る前に比べて、だいぶ楽になった気はする。
「今後、あまり無理はしないように。……この貸しは、しっかりつけておきましょう」
トイチで、とつぶやく竜児。
トイチというのはつまり、十日で一割の略。
悪徳金融業者のとんでもない高額利息の事を言うが、さすがは竜児だ。
「貸しって言っても一応ケンちゃんは仕事だしさぁ…」
「何を言ってるんです、タカ子。これはタカ子の分の貸しですよ」
「へ?」
「……君、忘れたんですか?彼の弱みを握るんだと張り切っていたのに。
せっかく握った弱みです。うまく利用しなさい」
そう言われても、正直困った。
何をどう利用すればいいのかさっぱりわからない。
一応ご褒美は請求してきたが、それは正当な報酬の範囲だと思うし。
「そうですね。まずは明日、一日休みをもらいましょう」
「?」
「有給ですよ。今日だって無理やり休みを捩じ込まれたんでしょう。あと一日くらい文句は言わせません」
「確かに!!」
正直それには賛成だ。
まだ疲れは残っているし、一日くらい休みが欲しい。
「ではそれは僕が君に代わって連絡してあげましょう」
「わ~い」
自分で交渉しなくて済むなら、これほど楽なこともない。
両手を上げて喜ぶ高瀬。
「では、先ほど話したピザは明日のお昼にしましょう」
「…ん?」
「さ、行きますよタカ子。まず、君のそのだらしない格好を先になんとか…」
「ちょ、ちょっと…!?」
なにやら竜児の頭の中で勝手に話が進んでいるようだが、これはなんだ。
「疲れきった君を家に一人残していけるわけがないでしょう。
……今夜はうちに泊まりに来なさい」
「えぇ!?」
「…何を驚いてるんですか…。僕がただ子供の使いのように様子を見に来ただけで済ませるとでも?」
「普通それが当然…」
「嫌ですね。連れて帰ります」
「えぇ~」
ちょっと身の危険を感じるのだが。
「安心しなさい。後から賢治も顔を出すと言っていましたし、久しぶりに3人で”お泊まり会”をするとでも思えば」
――――お泊まり会。
なんだか懐かしい響きだ。
「そういえば、昔は3人で枕並べて寝たっけね…」
「テレビでカンフー映画を見ていたタカ子が、その夜寝ぼけて僕と賢治を次々蹴り飛ばして――」
「ぎゃぁぁ」
それは忘れておいて欲しい思い出っ!!
「起きたら首に歯型がついていたこともありましたね」
「…ううぅっ…。黒歴史が…」
たしかあの時は、夜に3人でドラキュラの白黒映画を鑑賞したのだ。
それで、ついカプリと。
「…まぁそれそれで役得…」
「ん?」
「いえ、なんでも」
ぼそりとなにかこぼしていたが、追求をするりと躱され、首をかしげる。
しかし、夢というのはやはり、直前にみたものの影響を大きく受けるものらしい。
「マリリ○モンローの映画を見たときには――――――」
「やめて――――!!!」
ププッピドゥで私のライフはもうゼロよっ!!
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