隣の家の住人がクズ教師でした

おみなしづき

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クズ教師編

勇気をあげるキス

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 どれぐらいそうしていたのかわからない。すごく長く思えるけれど、実際はそれ程時間は経っていないだろう。

「ちぃくん……」

 そっと名前を呼んだ創志の声は不安そうに震えていた。

「何ですか?」
「俺さ……親と喧嘩して家を出たんだ……」
「はい……」

 重なっていた手がギュッと強く握られた。

「出てけって言われたんだ。それなのに、今更……なんで俺を呼ぶんだ……」
「それは……家族だからじゃないですか?」
「家族……?」

 創志は、まるで知らない言葉を聞いたかのように呟いた。

「そうです。家族を心配するのは当たり前でしょう? 先生が、今お父さんを心配しているように──」

 握られていた手が徐々に温かくなっていく。

「父さんが俺を心配してるなんて思えないよ」
「じゃなきゃ会いたいなんて言いませんよ」
「もう何年も会ってないんだ……本当に今更なんだよ……」
「それなら、そう言ったらどうですか? 今更何の用だって言ってあげたらいいんです」

 創志がクスクスと笑った。それに安心した。

「それじゃあ、喧嘩しに行くようなものじゃないか」
「上等ですよ。先生はいつも俺に喧嘩売ってるんですから、それぐらいしなきゃ」
「ははっ。ちぃくんと話してたら父さんなんてどうでも良くなってきたな」

 少しずついつもの創志の声音に戻ってきた。

「ちぃくん、父さんは──……死ぬのかな?」

 気弱な声が胸に刺さる。

「気になるなら、会いに行きましょうよ」

 元気を出せ。そう思いながら腕に力を込める。

「そうだね……最後になるなら、喧嘩の一つもしてこようかな」
「そうですよ。怒られたら、またここで愚痴聞いてあげますよ」

 体を俺の方に向けた創志は、穏やかに笑っていた。
 今度は俺を優しく包み込んだ。抱き合うような形だ。
 正面は……恥ずかしいな……。

「父さんと喧嘩しに行ってくる」
「はい。ここで待っててあげますよ」

 俺はずっと創志を待ってるから……。

「ちぃくん……ありがとう」

 ギュッと力を込めて抱擁すれば、顔を両手で包み込まれて上を向かされる。
 抱き合うのも恥ずかしかったのに、見つめ合うのはもっと恥ずかしい。

「顔真っ赤だね」

 クスクス笑われて、余計に顔が熱くなった。

「見ないで下さい……」
「やだ──というか……キスしたい……」

 冗談で言っているようには見えないけれど、本気とも思えない。

「何を言い出すんですか……?」
「だめ?」

 だめかどうか聞かれたら、だめじゃない。

「嫌ならしない」
「嫌……ではないですが……」
「なら、いい?」

 どうしよう……。
 創志とはキスした事があるけれど、あの時と今じゃ気持ちが違う。

「ちぃくんとキスしたら、会いに行く勇気が貰えそうなんだ……」

 そんな風に言われたら、断れないじゃないか……。

「先生って……意外と意気地なしですか?」
「そうだよ。だから、してもいい?」
「…………」

 キスしたら、俺はセフレの仲間入りじゃないのか……?

「──……ごめん。ちぃくんにお願いする事じゃなかったね……」

 いつまでも答えなかった俺を見て、眉根を寄せて寂しそうに笑った創志に胸の奥が疼く。
 そんな顔をするな。
 創志を救えるなら……もうどうにでもなれ──。

「責任取れよな」
「ちぃくん?」

 ガシッと創志の両頬を掴んでそのまま唇を寄せた。

「──っ」

 驚いてされるがままだった創志を無視して、その唇を堪能する。
 唇に触れた感触はやっぱり柔らかくて、胸が高鳴る。
 触れたらやっぱり思い知らされた。

 俺はこの男が欲しい──好きだ……好き。こんなにも好きで、どうしようもない──……。

 角度を変えて何度もチュッと音をさせる。
 何度も何度もキスするうちに、創志の腕は俺を強く抱き寄せた。

 そのうちに舌が口内に侵入してきた。
 生暖かいヌルッとした感触は、俺の舌を優しく撫でた。
 舌と舌が絡み合えば、クチュリと音がした。

 すごく気持ちいい……。

「はっ……んっ……ふっ……」

 聞こえるのは、お互いの吐息と舌を絡め合うキスの音。
 創志は、そのまま俺の口内を舐め回した。
 俺も負けじとそれに応えた。
 こんなキスされたら……離れたくなくなる。
 それはやっぱり俺自身が創志を好きだからだ……。

 受け入れていたキスは、どんどんと激しくなって余裕がなくなってくる。

 このいやらしいキス──いつまで続くんだ?

 創志は特定の相手を作らない。
 このキスは勇気をあげるキスで意味なんかない。
 勘違いしちゃダメだ……。
 ほんのりと残っていた冷静な部分が俺の歯止めになった。

「ん、んんっ……せ、先生……はんっ、ちょっ、んっ……先生……ってば……んんっ……!」

 俺からしたキスの主導権は、いつの間にか創志に変わっていた。
 創志の胸を押しても止まってくれない。
 これ以上は色々とまずい……下半身も反応しそうだ。
 創志は、逃さないとばかりに腕の力を強くする。
 俺の方が色々と限界で、顔を逸らしたら今度は耳にキスされた。
 段々とキスが下に移動して首を舐められた。
 どうにかして創志を止めたかった。

「そ、創志……!」

 名前を呼べば、創志がピタリと止まった。
 はぁはぁとお互いの呼吸の音が聞こえる。
 俺を見つめる創志の顔は、欲情してほんのりと赤く染まり切なそうだった。
 しばらく見つめ合った後、創志は急にその場にしゃがみ込んで髪の毛をくしゃりと掴んだ。

「先生!?」

 突然の行動にびっくりする。

「ごめん……気持ち良くなっちゃって……夢中になってた……」

 がっかりしてるような声音に思わず笑ってしまった。
 それはお互い様だ。

「先生もそんな情けない声を出すんですね」

 創志は、俺を見上げて驚いた後に嬉しそうに微笑んだ。

「やっとちぃくんが本物の笑顔を向けてくれた──」

 そんな事を言われたら、自分がどんな風に笑ったのか意識して恥ずかしくなった。
 笑った顔を引っ込めて視線を逸らす。

「ずっと見たかったんだ……その顔……」
「そ、そんなの知りませんよ……キスしたんですから、ちゃんとお父さんに会いに行って下さいね?」
「勇気もらったもんね」

 思い出すと恥ずかしい。それでも、微笑む創志に俺もつられて微笑んだ。
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