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美羽の執着
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美羽が自由に動けるのは春休みの間だけだ。
大学に通うようになったら忙しくなってしまう。
(どこかに行くとしたら、別れた父親の所か……実家?)
「母さん、紀子さんの実家ってどこ?」
「ここから電車で二時間は掛かると思うけど……」
「今から行ってくる。もしかしたら紀子さんもチカもそこかもしれない」
「そうかもしれないわね……後で私にも連絡してね」
「わかった」
すぐに用意をして、電車に乗った。
母親から教わった住所を頼りに、紀子の実家を訪ねた。
昔の日本家屋を思わせる、やけに立派な門に自宅を取り囲む高い塀。
紀子の実家がこんなにも大きいと思っていなかった美羽は、呆気に取られていた。
綺麗な文字で糸崎と書いてある表札を見て、間違いない事を確認する。
緊張しながらインターホンを押した。
「──はい。どちら様ですか?」
年配の女の人の声だった。
「私は、樋口美羽と言います。糸崎紀子さんの息子さんの友人です。こちらに紀子さんか近嗣くんがいらっしゃいませんか?」
「少々お待ち下さい──」
しばらくして、門が開いた。そこにいた人物は、品の良い着物を着て、強面の顔で眉間に皺を寄せていた。
年齢から見て、近嗣の祖父にあたるのではないかと考えた。
「近嗣の友人というのは本当か?」
「はい。同じ高校で良く話をします」
「こんな所まで何の用だ?」
「連絡が取れなくなりまして……心配になりました。いらっしゃいましたら会わせて下さい」
ペコリと頭を下げた美羽を見て、その人物は、大きなため息を吐いた。
「頭を上げなさい。近嗣も紀子もここにはいない」
「そうですか……」
美羽は、明らかにがっかりした。
ここ以外に他に行く所が思い当たらなかった。
「急にすみませんでした……」
美羽がもう一度頭を下げて、踵を返して歩き出した時に、また声を掛けられた。
「待ちなさい。──ここにはいないが……いる場所は知っている……」
思わず振り返ってその人物の目の前に行った。
「どこですか!? 教えて下さい!」
鋭い瞳を向けられてしまう。
「君は本当に近嗣の友人なんだな?」
その質問に素直に頷けなかった。ただの友人ではない。
「友人よりも……とても大切な存在です──」
美羽は、目を逸らす事もせず、近嗣の事だけを考えていた。
最初から、きっと会った時から近嗣は、美羽にとって特別だった。
生意気そうでも可愛いやつだった。
いくら母親に言われたからと、どうでもいいやつを毎日待って、夕食を共に食べるだなんて事はしない。
段々と懐いてくれるのが嬉しかった。
近嗣は、こんなにも美羽の心を支配している。
美羽には、会わないで帰るという選択肢はなかった。
「そうか……そんな風に思ってくれる人が近嗣にもいたのか……」
美羽の言葉をどのように考えたのかはわからないが、ほんの少しだけ柔らかくなった顔に近嗣の事を本気で想っているのが見えた気がした。
「お手伝いさんに、住所を教えるように言おう。そこで待っていなさい」
「はい。ありがとうございます──」
美羽は、深々と頭を下げた。
◆◇◆
教えてもらった住所は病院だった。
紀子は、こちらに来ていた時に倒れ、入院しているらしい。
近嗣は、それを聞いて慌ててこちらにやってきたそうだ。
紀子の病室の前まで来た。
何度も深呼吸をする。
やたらと近嗣に会う事に緊張する。
連絡が取れなくて、会えなくなった。
たかが数日だけれど、それだけでこんな所まで会いに来てしまった。
美羽は、自分が近嗣にこんなにも執着していたのを思い知らされていた。
「あれ……みぃちゃん……?」
唐突に聞こえた声に思わずバッと顔をそちらに向けた。
そこにいた近嗣は、驚いた顔で駆け寄ってきた。
「みぃちゃんだ……本物?」
近嗣に言いたい事も聞きたい事もたくさんあった。
それなのに、顔を見ただけで胸がいっぱいで言葉が出なかった。
「まさか……会いに来てくれた?」
「だったら……なんだ?」
「すごい嬉しい……」
優しく笑った近嗣を見て、美羽はポロポロと泣き出した。
文句のひとつも言いたいのに、何よりも顔を見て安心したらしい。
「お前──っ! なんで僕に連絡をしないんだ! 心配したんだ!」
泣きながら怒る美羽に近嗣は慌て出す。
「ごめん……! 慌ててたから、スマホは家に置いてきちゃって……。みぃちゃん……泣かないで……ね?」
一度崩壊した涙腺は、涙を止め処なくあふれさせて美羽の頬を伝う。
近嗣は、一生懸命に美羽の涙を指で拭いていた。
「それなら電話を借りて、学校に連絡しろ……!」
美羽は、涙なんてお構いなしで怒っている。
「連絡したよ。母さんの容体が落ち着いてからだから……卒業式の日だったかな……」
やる気のなさそうだった教師の顔を思い出してムカッとした。
あれだけ何かあったら連絡してほしいとお願いしたのに、ふざけた教師だ。
「みぃちゃん、泣かないで。お願い……」
「勝手に出てくるだけだ!」
怒っている美羽に対して近嗣は、クスクスと笑いながら抱きしめてきた。
美羽は抱き返すのも癪で、近嗣の胸にポスッと顔を埋めるだけだった。
「チカは……僕に会いたかったか?」
「もちろん……」
「それならいい……。紀子さんは大丈夫なんだな?」
「うん……大丈夫」
「そうか……」
久しぶりの近嗣の体温に、ホッと息を吐いた。
絶対に見つけてやると意気込んでここまで来た。
色んなことを考えた──近嗣に冷たくあしらわれたらどうするのか。会いたくないと言われたら耐えられるのか。もう二度と会えなかったら──……。
そのどれもが最悪の事態で、相当な心構えをしていた。
意外にもあっさりと会えた事に拍子抜けだ。
実際に会った近嗣は、相変わらずの近嗣で──美羽はとても嬉しかった。
しばらく近嗣の胸の鼓動を聞いていたが、周りの看護師や患者が微笑ましく見ていくのに気付き、ここが病院の廊下である事を思い出した。
真っ赤になってバッと離れた美羽に、近嗣はクスクスと笑った。
大学に通うようになったら忙しくなってしまう。
(どこかに行くとしたら、別れた父親の所か……実家?)
「母さん、紀子さんの実家ってどこ?」
「ここから電車で二時間は掛かると思うけど……」
「今から行ってくる。もしかしたら紀子さんもチカもそこかもしれない」
「そうかもしれないわね……後で私にも連絡してね」
「わかった」
すぐに用意をして、電車に乗った。
母親から教わった住所を頼りに、紀子の実家を訪ねた。
昔の日本家屋を思わせる、やけに立派な門に自宅を取り囲む高い塀。
紀子の実家がこんなにも大きいと思っていなかった美羽は、呆気に取られていた。
綺麗な文字で糸崎と書いてある表札を見て、間違いない事を確認する。
緊張しながらインターホンを押した。
「──はい。どちら様ですか?」
年配の女の人の声だった。
「私は、樋口美羽と言います。糸崎紀子さんの息子さんの友人です。こちらに紀子さんか近嗣くんがいらっしゃいませんか?」
「少々お待ち下さい──」
しばらくして、門が開いた。そこにいた人物は、品の良い着物を着て、強面の顔で眉間に皺を寄せていた。
年齢から見て、近嗣の祖父にあたるのではないかと考えた。
「近嗣の友人というのは本当か?」
「はい。同じ高校で良く話をします」
「こんな所まで何の用だ?」
「連絡が取れなくなりまして……心配になりました。いらっしゃいましたら会わせて下さい」
ペコリと頭を下げた美羽を見て、その人物は、大きなため息を吐いた。
「頭を上げなさい。近嗣も紀子もここにはいない」
「そうですか……」
美羽は、明らかにがっかりした。
ここ以外に他に行く所が思い当たらなかった。
「急にすみませんでした……」
美羽がもう一度頭を下げて、踵を返して歩き出した時に、また声を掛けられた。
「待ちなさい。──ここにはいないが……いる場所は知っている……」
思わず振り返ってその人物の目の前に行った。
「どこですか!? 教えて下さい!」
鋭い瞳を向けられてしまう。
「君は本当に近嗣の友人なんだな?」
その質問に素直に頷けなかった。ただの友人ではない。
「友人よりも……とても大切な存在です──」
美羽は、目を逸らす事もせず、近嗣の事だけを考えていた。
最初から、きっと会った時から近嗣は、美羽にとって特別だった。
生意気そうでも可愛いやつだった。
いくら母親に言われたからと、どうでもいいやつを毎日待って、夕食を共に食べるだなんて事はしない。
段々と懐いてくれるのが嬉しかった。
近嗣は、こんなにも美羽の心を支配している。
美羽には、会わないで帰るという選択肢はなかった。
「そうか……そんな風に思ってくれる人が近嗣にもいたのか……」
美羽の言葉をどのように考えたのかはわからないが、ほんの少しだけ柔らかくなった顔に近嗣の事を本気で想っているのが見えた気がした。
「お手伝いさんに、住所を教えるように言おう。そこで待っていなさい」
「はい。ありがとうございます──」
美羽は、深々と頭を下げた。
◆◇◆
教えてもらった住所は病院だった。
紀子は、こちらに来ていた時に倒れ、入院しているらしい。
近嗣は、それを聞いて慌ててこちらにやってきたそうだ。
紀子の病室の前まで来た。
何度も深呼吸をする。
やたらと近嗣に会う事に緊張する。
連絡が取れなくて、会えなくなった。
たかが数日だけれど、それだけでこんな所まで会いに来てしまった。
美羽は、自分が近嗣にこんなにも執着していたのを思い知らされていた。
「あれ……みぃちゃん……?」
唐突に聞こえた声に思わずバッと顔をそちらに向けた。
そこにいた近嗣は、驚いた顔で駆け寄ってきた。
「みぃちゃんだ……本物?」
近嗣に言いたい事も聞きたい事もたくさんあった。
それなのに、顔を見ただけで胸がいっぱいで言葉が出なかった。
「まさか……会いに来てくれた?」
「だったら……なんだ?」
「すごい嬉しい……」
優しく笑った近嗣を見て、美羽はポロポロと泣き出した。
文句のひとつも言いたいのに、何よりも顔を見て安心したらしい。
「お前──っ! なんで僕に連絡をしないんだ! 心配したんだ!」
泣きながら怒る美羽に近嗣は慌て出す。
「ごめん……! 慌ててたから、スマホは家に置いてきちゃって……。みぃちゃん……泣かないで……ね?」
一度崩壊した涙腺は、涙を止め処なくあふれさせて美羽の頬を伝う。
近嗣は、一生懸命に美羽の涙を指で拭いていた。
「それなら電話を借りて、学校に連絡しろ……!」
美羽は、涙なんてお構いなしで怒っている。
「連絡したよ。母さんの容体が落ち着いてからだから……卒業式の日だったかな……」
やる気のなさそうだった教師の顔を思い出してムカッとした。
あれだけ何かあったら連絡してほしいとお願いしたのに、ふざけた教師だ。
「みぃちゃん、泣かないで。お願い……」
「勝手に出てくるだけだ!」
怒っている美羽に対して近嗣は、クスクスと笑いながら抱きしめてきた。
美羽は抱き返すのも癪で、近嗣の胸にポスッと顔を埋めるだけだった。
「チカは……僕に会いたかったか?」
「もちろん……」
「それならいい……。紀子さんは大丈夫なんだな?」
「うん……大丈夫」
「そうか……」
久しぶりの近嗣の体温に、ホッと息を吐いた。
絶対に見つけてやると意気込んでここまで来た。
色んなことを考えた──近嗣に冷たくあしらわれたらどうするのか。会いたくないと言われたら耐えられるのか。もう二度と会えなかったら──……。
そのどれもが最悪の事態で、相当な心構えをしていた。
意外にもあっさりと会えた事に拍子抜けだ。
実際に会った近嗣は、相変わらずの近嗣で──美羽はとても嬉しかった。
しばらく近嗣の胸の鼓動を聞いていたが、周りの看護師や患者が微笑ましく見ていくのに気付き、ここが病院の廊下である事を思い出した。
真っ赤になってバッと離れた美羽に、近嗣はクスクスと笑った。
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