救いようのないバカを娶りました

十人 秋夜

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こんな妻と末長く

ビリジアン・ジオラ国王の奥様ですっ!

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「お、奥様!」
 甲高いメイドの声に、ゆっくりと振り返るオディール。
 目の前のお鍋の中には紫に染まった液体。オディールは気にしないフリをして、ゆらゆらとかき混ぜる。実際、この料理は姉の作った『シチュー』で、作った自分ですら食べたくもないような見た目。入っているものはそれぞれ毒が入っていたり、食べられないものではないのに、調合の仕方によってものになった。
「ビリジアン・ジオラ様は今執務室にいらっしゃるのでしょう?ご昼食に・・・」
「国王陛下のご昼食はもう準備させてしまいましたので、また・・・その・・・次回に・・・」 
 仕方がないのだ。国王にこんなものを食べさせたくないし、こんな演技もオディールは嫌だった。しかし、有能な姫と結婚すれば、異国からの密偵ということだってあり得る。ギレイベリアに信用してもらうために、ギレイベリアの味方になるために、オディールは無能で大嫌いな姉の真似をしている。何もできないくせに、たくさんの人から信用される姉が、羨ましくもあった。いつも姉ばかり。たった十六秒だけで、ほんの一瞬だけで、こんなところにいる。
 誰もいない小さな家で、「国王の寵愛を受けられない可哀想な姫君」として軍用姫に育てられた。そばにいたユイニしか、家族も友人もいない。そんなユイニだって結婚して、子供がいて、それでもそばにいてくれる。金のためなのかもしれないけれど、誰もいない静かで冷たい場所よりも、誰でも良いからいてくれる人がいることが幸せだった。
 台所を片付けて、オディールは惨めな自分をひたすらに憎んだ。悪いのは父でも、母でも、姉でもない自分。「お前はいくらでも替の効く軍用姫だ。他の誰でも良い仕事をお前にやらせてやるのだから、ここにいることを感謝するんだな。」父の言葉だ。誰でも良いのなら、良くも悪くも普通の姫に育てて欲しかった。軍用姫としてギレイベリアを良く、富のある国にしたい。
 彼のために・・・・

 優しくて、もの静かだけど実はとても負けず嫌い。側にいるだけで落ち着いて、不器用だけど一生懸命励ましてくれる、そんな恋人がいた。単なる片思いだったし、身分差だって、彼は雲の上の人だった。彼が亡くなる間際に、かすれた声で耳元に囁いた。「いつか、一緒に幸せになろう。ギレイベリアで・・・きっとその頃には・・・」
 最期の時を彼と過ごせた、彼と一緒に幸せになるために死など怖くなかった。ギレイベリアを襲った空襲は、ギレイベリアではなく、隣国に威嚇するためのものだった。
 
 軍用姫として育ったことは、そんなギレイベリアを守るために、神が送った試練なのかもしれない。逃げるという手段もありながら、ギレイベリアのためのできる最大限のことーー。
 きっと、本当にギレイベリアを守れた時、彼に会える。
 きっと・・・・・
 きっと・・・・・
 きっと・・・・・・・・・・・・・・・
 
 待っててくれるから・・・・・
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