私の執事は王子様〜イケメン腹黒執事は用意周到にお嬢様の愛を乞う〜

玖保ひかる

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第19話 友情に感謝を

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 パーカー子爵家へは馬車で急げば一時間程度で着く。

 ルシアはその時間をヤキモキとしながら過ごす。

 近いと言えば近い距離。

 しかし、ベンジャミンのことを考えながら馬車に揺られていると、長い時間にも感じられた。

「ねえ、リアム」

「はい、なんですか」

 ルシアは向かいに座るリアムに声を掛ける。

「わたくし、ベンジャミンがいつも会いに来てくれること、なんとも思っていなかったの。子どもの頃からわりと頻繁に来ていたじゃない?」

「ええ、勝手にね」

「でも、こうして出かけてみると結構遠いわ。いつもベンジャミンはこんな風に時間をかけて会いに来てくれていたんだなって思ったら、今まであまり感謝もしてこなくて悪かったなって」

「感謝、ですか?別に頼んで来てもらっていたわけでもないので、いいのではないでしょうか」

「そんなことないわ、リアム。ベンジャミンの他に、だれもわたくしに会いに来てくれないじゃない。わたくし、もっと早く気が付かなくてはいけなかったわ。ベンジャミンはわたくしにとって大切な存在だった」

「…お嬢様?」

「ベンジャミンはわたくしのとって、大切な友達だったのよ」

 リアムはわずかにベンジャミンへの憐憫を感じながらも、にこやかに肯定した。

「そうですね」

「今までベンジャミンの友情に甘えてばかりだったわ」

 ルシアは心なしかしょんぼりしている。

 リアムはルシアの手をそっと握った。

「これでいいのですよ。ベンジャミン様の危機にいまこうして駆けつけているのですから。それが友情というものです」

「…そう、なのね。ありがとう、リアム」

 そう言ってルシアは優しくほほ笑んだ。


 ◆◆◆


 馬車がパーカー子爵家に到着した。

 ルシアが馬車から降りようとしているうちに、屋敷の中からベンジャミンが飛び出してきた。

「ルシア!来てくれたんだね!」

 嬉しそうにルシアを出迎えたベンジャミンを見て、ルシアは珍しく大きな声を出した。

「ベンジャミン!よかった!生きているのね!」

「ルシア!心配してくれたの?」

「当り前じゃない!死んでしまうかと思ったのよ」

「そうだよ!死んでしまうくらい辛かったんだ!ルシア、きみはナリス王子と婚約するのかい?」

「えっ?突然なにを言っているの?あなたが結婚するという話でしょう?」

「ルシアが婚約するから、僕が結婚するんじゃないか!」

「…?どういうこと?」

「…?え?」

 ルシアもベンジャミンもきょとんとして立ち尽くす。

 その様子を見ていたリアムは軽くため息をつくと提案する。

「まずは中に入れていただいて、ゆっくりお話しをされてはいかがでしょうか」

 ベンジャミンはハっとして、うなづいた。

「そ、そうだね。こんなところで立ち話しちゃってごめんね。さぁ、中に入って!」

 パーカー子爵家は10年ほど前までは、とにかく貧乏だったこともあり、屋敷も少し大きな商家程度のものだ。

 設えも質素であるが、掃除が行き届き清潔感があった。

 ベンジャミンの母であるパーカー子爵夫人アビゲイルの趣味で、室内は明るくかわいらしい小花柄のファブリック使いで統一されている。

 この数年は訪ねていなかったが、ルシアはパーカー子爵家の家庭的な雰囲気が好きだった。

 ルシアが屋敷に入ると、アビゲイルもルシアの顔を見にやって来た。

「おばさま、お久しぶりです」

 ルシアがスカートをちょこっと持って挨拶をすると、アビゲイルはにっこりとほほ笑んだ。

「ルシアちゃん、いらっしゃい。大きくなったわね。とてもきれいになったわ」

「ありがとうございます」

「ベンジャミンが迷惑をかけているでしょう?本当にごめんなさいね」

 アビゲイルが申し訳なさそうに眉を下げた。

 ルシアは慌てて小さく手を振って否定する。

「いえ、大丈夫です。わたくしこそ、ベンジャミンの友情に感謝をしているのですから」

 ルシアがそう答えると、傍らのベンジャミンがなぜか胸を押さえて、うぐっと変な声を発している。

 アビゲイルもなんとも微妙な表情でベンジャミンを見た。

「今朝、ちょうどクッキーを焼いたのよ。いまお茶の準備をするから、食べて行って」

「ありがとうございます。おばさまの焼いたクッキー、大好きです」

 子どもの頃にもアビゲイルの焼いたクッキーをベンジャミンと一緒に食べたことを、ルシアはよい思い出として記憶していた。

 ルシアの母クレアはもともと侯爵家の出で、料理などしたことがない。

 母の手作りのクッキーという存在を、ここパーカー子爵家で知ったのだ。

 パーカー子爵家は貧乏貴族だったので、使用人は最低限しかおらず、料理人が休暇を取っている日はアビゲイルが料理をすることもあった。

 スチュワート伯爵家で食べるクッキーとは違って、素朴で優しいおいしさがあった。

「そう言ってくれると嬉しいわ。あ~やっぱり、ルシアちゃんのような娘が欲しかったわ」

 アビゲイルは心底残念そうに言うと、お茶の準備をしに出て行った。

 ベンジャミンとルシアはソファーに向かい合って座った。

「それで、どういうことなの?」

「どうもこうもないよ。ルシアはナリス王子の婚約者候補になったんだろう?今度ナリス王子がスチュワート領にやってくると言うじゃないか!」

「ええ?!ナリス王子殿下と婚約?わたくしが?」

「そうだよ。王都ではその話で持ち切りだって。違うのかい?」

「違うわ。ナリス王子殿下がサガンに来るのは、アンダレジア行きの船に乗るためよ」

 ベンジャミンはポカンと口を開けた。

「へ?」

「アンドレイ侯爵令嬢様だわ、きっと。なぜかわたくしとナリス王子殿下の仲が良いと勘違いされているの。そんな話をどこかでなさったのかもしれないわ」

「なんだ…そうだったのか。なんだ!あははは!」

 突然笑い出したベンジャミンをきょとんと見つめる。

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