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第17話 問題ありあり
しおりを挟むアルフレッドは俯いてしまったクララベルの頭を軽くなで、ベッドサイドに腰をかけた。
「謝らなくていいんだよ」
「でも、お仕事の邪魔をしてしまったのでしょう?」
「大丈夫だよ。どれ、顔色を見せてごらん?」
クララベルは大人しくアルフレッドのいいなりに顔を向けた。
色白だが、頬にうっすら赤みが差し、唇も艶やかだ。
アルフレッドはクララベルの唇をじっと見つめてから、にっこり微笑んだ。
「顔色はいいようだね」
「はい、もう大丈夫です」
「それはよかった。・・・学校であったこと、王太子殿下に伺ったよ。大変だったね」
「エルネスト殿下に…?」
「そう。クララベルは知らなかったかな?僕は殿下の執務室に勤めているんだよ」
「アルお兄様、すごい。エルネスト殿下とお仕事をされているのですね」
王太子の側近ともなれば、日夜業務が忙しくなかなか屋敷に帰って来られないのも納得である。
クララベルはエルネストへの淡い恋心をごまかすように、いつになく、はしゃいでアルフレッドに甘える。
「アルお兄様、見てください。エルネスト殿下がお見舞いにお花をくださったのです」
エルネストがクララベルに選んだ花は、白い清楚な薔薇の花束だった。
花瓶にいっぱい咲き誇る薔薇を見て喜ぶクララベルに、アルフレッドは優しくほほ笑んだ。
「そうだってね。あとでお返しをしないとね」
「…!どうしましょう。何をお返しすればよいのでしょう」
「何か見繕って贈っておこうか?」
「…いいえ、お兄様。私、自分で考えて何か贈りたいと思います」
「そう?気持ちがこもっていればなんでも喜ばれると思うよ」
「…はい!」
「でも、今日はもうお休み。もう遅い時間だからね。こんな時間にお邪魔してわるかったね」
「いいえ、お兄様ならいつでも歓迎です」
アルフレッドは優しい手つきでクララベルの前髪をそっとかき分けると、額にちゅっと唇を寄せた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
アルフレッドが部屋から出て行くと、クララベルはエルネストに贈るお返しの品を何にしようか考え始めた。
エルネストのことを考えるだけで、体が少し熱くなって、胸がドキドキとする。
なんだか切ないような、苦しいような、それでいて幸せな気持ち。
ふわふわとエルネストのことを考えながら、クララベルはやがて眠りについた。
屋敷全体が寝静まった頃、マリアベルはむくりと起き上がった。
マリアベルは寝巻の上に薄手のガウンを羽織って、音をたてずに部屋から滑り出すと、足早に兄の部屋へと向かった。
小さくノックすると、やや間があって扉が薄く開かれる。
「誰?こんな時間に」
眠りかけてまどろんでいた所を邪魔され、迷惑そうに扉を開けたのはシャール。
「シャール、わたしよ。マリアベル」
シャールはぎょっとしてマリアベルの顔を確認し、慌てて部屋の中に招き入れた。
「なんでお前が出てきてるんだよ。また何かあったわけ?」
「ちょっと、そんなに迷惑がらなくてもいいじゃない。何かあったに決まってるでしょう!これは一大事なのよ」
「一体どうしたんだよ」
「大変なのよ。クララベルが、エルネスト殿下に恋してしまったのよー!」
小さな声で絶叫するという離れ技をやってのけたマリアベルに、シャールは口元を引きつらせた。
「・・・は?」
「だ・か・ら!今日、クララベルがエルネスト殿下に助けられたでしょう?それですっかり恋に落ちてしまったのよ!」
「・・・ああ、うん。それで?」
「それで?ですって!?シャールは、これがどんなことか、わからないの?」
「え?何か問題でも?」
「問題ありありに決まっているでしょう!ただでさえ学校でよく思われていないクララベルが王太子殿下と恋仲になんかなってみなさいよ。もうどんな誹謗中傷を浴びることか。考えただけでも心配よ」
「クララは学校でよく思われていないのか?」
「あったりまえじゃないの。だから今日もいやがらせされているんでしょうが!裏表令嬢とか噂されているし」
「それは・・・完全にマリアのせいじゃん」
そう指摘されてマリアベルは一瞬だまった。
(え?そうなの?)
おどおどしているクララベルを軽んじて、ないがしろに扱おうとした者たちから、マリアベルは守ろうとしただけである。
「ちがーう!クララを馬鹿にするやつらが悪いんだー!」
「落ち着けよ。わかった、わかったから。マリアはクララを守ってるんだもんな」
「ふん、そうよ!わかればいいのよ」
シャールは単純なマリアベルを見て、くすりと笑った。
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