2 / 23
Episode0 ミクリル・ダンディ、誕生
0-2 ダンディ、初仕事をする
しおりを挟む
どう見ても急ごしらえの、緑色の男性用ブレザーと縦縞のスラックス。
そんな制服を身に着けた俺が、大量の飲料が入ったカートをアスファルトの歩道で引き連れながら、颯爽とオフィス街を練り歩く。
すれ違う、スーツ姿のビジネスマンたち。
冷ややかな目で、俺を見る。
だが、俺を馬鹿にしたその態度は、OLたちの方がわかりやすい。
通り過ぎて暫くすると、俺に聴こえるように「何、あの人?」と噂話をし始めるのだ。
だが、そんな些細なことなど気にしない。
何せ、一年ぶりの仕事なのだ。
気持ち的に張りきってるし、何より俺には、仕事の目的がある。
――このエリアにあの会社があり、そこに、あの女がいる。
そんな風にカートをゴロゴロ転がしながら考えているうち、担当のエリアに到着。
ネクタイの曲がりと髪型を整え、一つ目のビル――まさにここが俺の目的の場所――の守衛さんに挨拶をする。
「どうもぉ、ミクリルでーす。あ、お初ですね。私、今日からこのビルの担当になりました中川と申します。よろしくお願いしまーす。じゃあ……これは、守衛さんにオマケ!」
精一杯の笑顔を振り撒いた俺は、小さな窓の向こう側に座る初老のオジサンに、プラスチック容器に赤インクで印字された乳酸飲料を一本、手渡した。
「うわ、おっさんのミクリル・レディ!? いや、違うな。ミクリル・レディお兄さんだ……。世の中、変われば変わるものだな」
「あのね、どんどん変わってますよ、世の中は。オジサンがうつらうつらと昼寝している間にもね。あ、それからですね、『ミクリル・レディ』じゃなくて『ミクリル・ダンディ』ですんで、そこんとこよろしくです!」
「あ、そう。まあ……どちらというと、そんなことはどうでもいいかな。ご苦労さん」
やや引きつった笑いを浮かべた守衛さんが、俺をビルへの立ち入りを許可する。
昨晩あれほど練習した、俺の眩しいほどの笑顔が、きっと彼の警戒を解いたのであろう。
ゴロガラ、ガラゴロ――
天井の高いビル空間で響く、カート音。
宇宙空間に飛び出すためにデザインされたかのような流線型のフォルムを持つエレベーターの昇りスイッチを押し、開いた扉の中へと入る。やたらがさばるカートのせいで乗り込めなかった男が一人、俺を睨みつけたが、気付かないフリをした。
――7階。
さすがは、最新型のエレベーターだ。
カート一杯の乳酸飲料がカタカタと揺れることもなく、緑の制服姿の男と重いカートを、7階へとスムーズに運び終える。
『ミリア電子科学工業 株式会社』
カートを従え、小奇麗な社名看板の前で仁王立ちの構えを取る、俺。
入り口は、いかにも、最新電子通信機器を扱う一端の企業の面構えだった。ワンフロアを独占している。
「失礼しまーす」
いざ出陣――。
敵陣に切り込む武将の気持ちで、可能な限りの猫撫で声を発しながら、突き進む。
すると、飛び込んだその先に、俺と同じような配色の制服を身に纏った可愛らしい女性が一人、受付に座っていた。
――制服の可愛さは、俺の勝ちだな。
心の中の勝利宣言は、彼女には聴こえていないはず。
けれど彼女は、俺の姿を見たなり、まるでカリフォルニア産のレモンを皮ごと丸かじりしたかのような引き攣つり顔を、俺に見せた。
――こんな美人の表情も悪くない。
そんな風に悦に入っている俺に、やや時間をおいて、彼女が声をかけてくる。
「い、い、いらっしゃいませ……」
「どうも。ミクリル・ダンディの中川です。今日から、こちらの担当となりましたので、よろしくお願いします」
「……ああ、ミクリル関係の方だったのですか。私は、てっきり変質者かと……。あ、いえ。最近は、男性もいらっしゃるんですね……」
「ええ、いますよ、このとおり。そう、時代は変わってるんです……。あ、そうそう。それでは、お近づきの印としてこちら差し上げますね。どうぞ」
俺は、調略のための貢ぎ物――プラ容器に入った飲料――を一本、目前に恭しく置いて、それを彼女に進呈した。
「は、はあ……」
ばっちぃものでも見るかのような、彼女の目付き。
――うーん、いい。
その視線に、何故か快感を覚えた、俺。
新たな境地に、辿り着きつつあるようだ。
「では、お邪魔しまーす」
そそくさと中へ入ろうとする俺に、ふと我に戻ったらしい彼女が釘を刺す。
「あ、中川さん。社内は立ち入り禁止の場所もありますので、注意してくださいね!」
――そうなんだよ。それこそが問題なのだ、お嬢ちゃん。
俺は、心の中でそう呟くと、飛びきりの笑顔を彼女に振り撒いて、目指す敵陣へと突撃していった。
そんな制服を身に着けた俺が、大量の飲料が入ったカートをアスファルトの歩道で引き連れながら、颯爽とオフィス街を練り歩く。
すれ違う、スーツ姿のビジネスマンたち。
冷ややかな目で、俺を見る。
だが、俺を馬鹿にしたその態度は、OLたちの方がわかりやすい。
通り過ぎて暫くすると、俺に聴こえるように「何、あの人?」と噂話をし始めるのだ。
だが、そんな些細なことなど気にしない。
何せ、一年ぶりの仕事なのだ。
気持ち的に張りきってるし、何より俺には、仕事の目的がある。
――このエリアにあの会社があり、そこに、あの女がいる。
そんな風にカートをゴロゴロ転がしながら考えているうち、担当のエリアに到着。
ネクタイの曲がりと髪型を整え、一つ目のビル――まさにここが俺の目的の場所――の守衛さんに挨拶をする。
「どうもぉ、ミクリルでーす。あ、お初ですね。私、今日からこのビルの担当になりました中川と申します。よろしくお願いしまーす。じゃあ……これは、守衛さんにオマケ!」
精一杯の笑顔を振り撒いた俺は、小さな窓の向こう側に座る初老のオジサンに、プラスチック容器に赤インクで印字された乳酸飲料を一本、手渡した。
「うわ、おっさんのミクリル・レディ!? いや、違うな。ミクリル・レディお兄さんだ……。世の中、変われば変わるものだな」
「あのね、どんどん変わってますよ、世の中は。オジサンがうつらうつらと昼寝している間にもね。あ、それからですね、『ミクリル・レディ』じゃなくて『ミクリル・ダンディ』ですんで、そこんとこよろしくです!」
「あ、そう。まあ……どちらというと、そんなことはどうでもいいかな。ご苦労さん」
やや引きつった笑いを浮かべた守衛さんが、俺をビルへの立ち入りを許可する。
昨晩あれほど練習した、俺の眩しいほどの笑顔が、きっと彼の警戒を解いたのであろう。
ゴロガラ、ガラゴロ――
天井の高いビル空間で響く、カート音。
宇宙空間に飛び出すためにデザインされたかのような流線型のフォルムを持つエレベーターの昇りスイッチを押し、開いた扉の中へと入る。やたらがさばるカートのせいで乗り込めなかった男が一人、俺を睨みつけたが、気付かないフリをした。
――7階。
さすがは、最新型のエレベーターだ。
カート一杯の乳酸飲料がカタカタと揺れることもなく、緑の制服姿の男と重いカートを、7階へとスムーズに運び終える。
『ミリア電子科学工業 株式会社』
カートを従え、小奇麗な社名看板の前で仁王立ちの構えを取る、俺。
入り口は、いかにも、最新電子通信機器を扱う一端の企業の面構えだった。ワンフロアを独占している。
「失礼しまーす」
いざ出陣――。
敵陣に切り込む武将の気持ちで、可能な限りの猫撫で声を発しながら、突き進む。
すると、飛び込んだその先に、俺と同じような配色の制服を身に纏った可愛らしい女性が一人、受付に座っていた。
――制服の可愛さは、俺の勝ちだな。
心の中の勝利宣言は、彼女には聴こえていないはず。
けれど彼女は、俺の姿を見たなり、まるでカリフォルニア産のレモンを皮ごと丸かじりしたかのような引き攣つり顔を、俺に見せた。
――こんな美人の表情も悪くない。
そんな風に悦に入っている俺に、やや時間をおいて、彼女が声をかけてくる。
「い、い、いらっしゃいませ……」
「どうも。ミクリル・ダンディの中川です。今日から、こちらの担当となりましたので、よろしくお願いします」
「……ああ、ミクリル関係の方だったのですか。私は、てっきり変質者かと……。あ、いえ。最近は、男性もいらっしゃるんですね……」
「ええ、いますよ、このとおり。そう、時代は変わってるんです……。あ、そうそう。それでは、お近づきの印としてこちら差し上げますね。どうぞ」
俺は、調略のための貢ぎ物――プラ容器に入った飲料――を一本、目前に恭しく置いて、それを彼女に進呈した。
「は、はあ……」
ばっちぃものでも見るかのような、彼女の目付き。
――うーん、いい。
その視線に、何故か快感を覚えた、俺。
新たな境地に、辿り着きつつあるようだ。
「では、お邪魔しまーす」
そそくさと中へ入ろうとする俺に、ふと我に戻ったらしい彼女が釘を刺す。
「あ、中川さん。社内は立ち入り禁止の場所もありますので、注意してくださいね!」
――そうなんだよ。それこそが問題なのだ、お嬢ちゃん。
俺は、心の中でそう呟くと、飛びきりの笑顔を彼女に振り撒いて、目指す敵陣へと突撃していった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる