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第4章 マニリア帝国編
第54話 夢と現実と そして目が覚めて
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オレはいつの間にかふわふわとどこかを漂っていた。
あたり一面は光に満たされているようで、まるで何も見えないし、何も聞こえない。
オレの身体にはまるで力が入らない――というよりは身体そのものが無くなってしまったようなそんな感覚だった。
ひょっとしたらオレは力を使い果たして死んだのか?
いまオレがいるのは死後の世界だったりするのだろうか?
普通だったらとても正気ではいられないはずだが、どういうわけかここでオレは妙に落ち着いていた。
たとえ死んだとしてもデレンダやウァリウスを助けられた事には満足しているが、女の身のままなのは納得いかん。
そんな事を考えていたオレだが、奇妙な事にここで何ものかがオレを呼んでいる――というよりはここに呼ばれたような気がしてならない。
そして光の中からその『何ものか』がオレに呼びかけてきているようにも感じられる。
しかしながらその姿もその呼び声もこちらにとってはあまりに遠く、また微かで、いったい何がオレを呼んでいるのかはよく分らない。
だがどれほどの時間が経ったのか、相手は次第にオレに近づき、その相手の姿がこちらにもボンヤリと理解出来るようになってきた。
それはまるで太陽の光を凝固させたかのように輝く黄金の髪と、澄み切った青紫の瞳を有し、心臓を貫くほど美しい女性の姿をしていたのだ。
まさか! これは?!
どこか今のオレ自身に似たその姿には、もちろん思い当たる節が山ほどあった。
そしてオレがある意味で追い求めていたその相手は、きらめく慈愛に満ちた微笑みをこちらに注ぎつつ近づいてくる。
そんな相手を詰問しようと、オレは口を開こうとする。
だがこの身はまるで言うことを聞かず、ただ無力に見ている事しか出来なかった。
そしてなまめいた唇がすぼまり、そこからかぐわしい息がオレにかかる。
するとどういうわけか、今まで力なく漂うだけだったオレの身にほのかな命の脈動が宿り、それが全身に広がるのが感じられた。
気がついたとき、オレの視界には見慣れぬ天井があった。
壮麗な絵が描かれ、手の込んだ細工を施されたそのありようは一個の芸術品と言っても過言ではなかったろう。
「あれ……ここは……」
少しばかり混乱したが、そこでオレの記憶が次第に戻ってくる。
目が覚める前の妙な夢については、おぼろげにしか覚えていない。
だけどそれでも微かな記憶から、さっきの『あれ』が何ものなのか、オレには見当ぐらいはついていた。
聖女教会の崇める治癒の女神イロール、それぐらいしかオレには思い当たる相手はいない。
もっともオレには信仰心の欠片もないどころか、むしろこの身を頼みもしないのに女に変えた恨み骨髄の相手である。
もし女神がオレに何かをさせようと意図して蘇らせたのだとしたら、生き返らせてくれたことに感謝はしても、絶対に言うことを聞こうなどとは思わないな。
だがそんな事を考えている間にも、夢の事は次第に薄くなっていき、逆に目の前の現実へと否応なしにオレの意識は引き戻される。
「そうだ! 確か……」
気絶する前の出来事を思い出したところで、オレは真っ先に自分の身を調べる。
瘴気の相手で力を使い果たしたオレは、下手をすれば何日も眠っていたかもしれない。
その場合、聖女教会に身柄を引き渡される場合すらあり得た。
しかしあらためて確認したところでも手足を拘束されている様子も無いし、窓に格子が入っているわけでもないようだ。
どうやら最悪の事態には『まだ』至っていないらしい。
幸か不幸かこのマニリア帝国首都ノチェットにあった聖女教会の救貧院は内戦で荒廃し、放棄されているから、少なくとも聖女教会がすぐに対応することは出来ないだろう。
だが宮城内であれだけ派手にやらかしたのだ。
しかも首都が蜂起した将軍達に攻められているという緊急事態の最中である。
イヤでも各国が注視し、情報収拾に血眼になっているそのど真ん中で、あれほど目立つことをすれば、聖女教会に気付かれないはずがない。
こうなったら急いで、この国を出て行くしかないだろう。
オレがそう決心したところで、部屋のドアが開く音がする。
思わず緊張に身を固めると、扉から顔を見せたのはデレンダだった。
「デレンダ……」
「ア、アルタシャさん……よ、よかった!」
デレンダは涙をあふれさせつつ、オレのところに突進してきて首筋に飛びついた。
ああ。オレが男だったら、間違いなく歓喜したところなんだろうな。
「あの……どれだけ眠ってました?」
「あれからまる三日も目を覚まさないので、もう二度と目を覚まさないのかと思って心配していたんですよ!」
うう。もう三日も倒れていたのか。
これはやばいな。少なくとも聖女教会がオレの存在に気付いていたとしても、ちっとも不自然じゃないぞ。
「それでここはどこなんです?」
「後宮があんな事になったので、宮城の一室を使わせてもらっているんです。そうだ! 皇帝陛下にもお伝えしないと! ご心配なさっていたから、さぞかしお喜びになられますよ!」
「あ……あの……」
「いま陛下にお伝えしてきます!」
「ちょ、ちょっと待って――」
「大丈夫ですよ。たとえ三日、眠っていてもアルタシャさんのお姿は変わらず神々しくお美しいです。陛下だってそんな事を気にはなさらないでしょう」
そういってデレンダが笑顔でドアの取っ手に手を伸ばしたとき、ドアの方が開き、そこから会いたくはなかった相手が姿を見せた。
オレはげんなりしつつ、入ってきた皇帝=ウァリウスを見つめる事になった。
---------------------------------------------------------------
一目で分る手の込んだ立派な衣装――恐らく皇帝の正装――をまとったウァリウスは、まずデレンダに話しかける。
「やあデレンダ。すまないが少し席を外してくれまいか」
「かしこまりました。それではお二人ともごゆっくりと」
ドアから出て行く時に、デレンダはこちらに向けて嬉しげに一礼すると扉を閉める。
うう。デレンダは絶対にオレ達の関係を勘違いしているな。
オレが意識を失っている間にウァリウスにいろいろと吹き込まれ『洗脳』されてしまったに違いない。
そして二人きりになったところでウァリウスはオレに向けて微笑みかけてくる。
仕方ないのでここはオレの方が先手を打つとしよう。
「あれから後宮や宮女達、それに大公はどうなったんですか?」
「せっかくのお目覚めの時なのに、僕に聞くのはそんな事なのかい?」
「あいにくですけど、最優先するのはそちらですよ」
遠回しにオレが『愛の語らい』などする気がさらさら無いことを伝えると、ウァリウスはあからさまに落胆の色を見せる。
「つれないな。こう見えても君を目覚めさせるため、こちらはいろいろと骨を折ったんだよ」
「まさかと思いますけど、寝ている間に口づけしたりしていないでしょうね」
この質問に対し、ウァリウスは少しばかりバツが悪そうに目を背ける。
「それは……まあ『眠り姫』にもっとも有効な手段だと思ってね……」
やっぱりやりやがったか!
この女装趣味の変態皇帝!
まあ身体まで蹂躙されなかっただけマシと思うしかあるまい。
ファーストキスが無理矢理で、次は意識を失っている時だなんて、何てかわいそうなオレの唇。
「もういいです。それより事後処理で忙しいでしょうけど、あれからどうなったのかを教えてくれますか」
「分ったよ」
オレの突き放した態度にウァリウスは少々残念そうに応じる。
それからウァリウスの語った言葉によれば、後宮の一件での犠牲者は大公とその取り巻きが数人、そしてオントールだけであり、宮女や女官達はショックで寝込んだ者が何人かいるが殆どは無事らしい。
そしてこの三日間の調査で、オントールの行っていた事は本人の残した記録や日記からおおむね明らかになっており、それはオレが気付いた事とほぼ同じだったようだ。
「オントールの真意を知っていれば、僕にも何か出来たかもしれないのに……それを思うと残念だ」
「しかたないでしょう。自分を責めても仕方有りませんよ。それよりオントール長官や大公、そして今度の一件で亡くなった人たちをみな手厚く葬って、その霊を慰めて下さい」
なにしろ過去千年に渡るこの宮城で繰り返された権力闘争で生まれた怨念がこの前のすさまじい瘴気の出所なのだ。
もうあんな存在がはびこらないようにしてもらいたい。
だがこの言葉を聞いたウァリウスはその目を瞬かせる。
「君を辱め、殺しかけた大公までも手厚く葬れとは……少々驚いたけどそれが聖女教会の教えだったのかな?」
違います。聖女教会の事は知りません。これはオレの元の世界の日本における宗教観です。
そしてここでウァリウスはオレの長い金髪に手を伸ばしてきたので、こっちは思わず上半身を逸らして避ける。
間違いなく、オレが寝ている間は散々いじり回していたな。
そしてオレが避けたのを見て、ウァリウスは伸ばした手を引っ込める。
「まあいい。君が皇后を断った理由は分ったよ。聖女は正妻になれないというのが、決まりだからね」
ああ。ウァリウスはむしろホッとしている様子だ。
どうやら『自分がフラれた』のではなく『聖女教会の決まり』なのでオレが拒否したと思っているらしい。
さすが皇帝だけあって都合よく物事を解釈してくれるものだ。
「それでも敢えて我が皇后に迎え入れたい。そのためだったら後宮を閉鎖して、妻は君だけだと宣言してもいいぐらいだ」
そうきたか!
確かに聖女教会の決まりでは原則的に聖女は側室になるが、妻が一人だけの場合は例外ということだった。
もちろん超破格の申し出なのだろうが、それだけされてもオレには受け入れ難い事に変りは無い。
当然ながら聖女教会から逃げ回っているオレはどういう形であれ、皇后になどなれるはずもないけどな。
「我が国の過去の歴史にも妻が一人だけだった皇帝は数は少ないけど実例はあるよ。だから決して無理な話じゃ無いさ」
それはきっとよっぽどの愛妻家か、それとも恐妻家だったのかのどちらかだろうな。
何にせよ明らかにウァリウスは本気だ。
そしてオレはこのとき少々困惑していた。
オレは確かにウァリウスのプロポーズを断る気にかわりは無かった。
またどう考えても『男の嫁』になることはオレには出来そうにない。
しかしそれにも関わらず、今のオレはウァリウスの誘いそのものに嫌悪感や拒否感を抱かず、この真剣な申し出を断る事を少々申し訳なく感じていたのだ。
いや。たぶんこれは無理矢理、オレを蹂躙して自分のモノにしようとし、またオレや数百人の宮女と無理心中しようとした大公とついつい比較して、そう思ってしまっているのだろう。
そう思うことにしよう。
あたり一面は光に満たされているようで、まるで何も見えないし、何も聞こえない。
オレの身体にはまるで力が入らない――というよりは身体そのものが無くなってしまったようなそんな感覚だった。
ひょっとしたらオレは力を使い果たして死んだのか?
いまオレがいるのは死後の世界だったりするのだろうか?
普通だったらとても正気ではいられないはずだが、どういうわけかここでオレは妙に落ち着いていた。
たとえ死んだとしてもデレンダやウァリウスを助けられた事には満足しているが、女の身のままなのは納得いかん。
そんな事を考えていたオレだが、奇妙な事にここで何ものかがオレを呼んでいる――というよりはここに呼ばれたような気がしてならない。
そして光の中からその『何ものか』がオレに呼びかけてきているようにも感じられる。
しかしながらその姿もその呼び声もこちらにとってはあまりに遠く、また微かで、いったい何がオレを呼んでいるのかはよく分らない。
だがどれほどの時間が経ったのか、相手は次第にオレに近づき、その相手の姿がこちらにもボンヤリと理解出来るようになってきた。
それはまるで太陽の光を凝固させたかのように輝く黄金の髪と、澄み切った青紫の瞳を有し、心臓を貫くほど美しい女性の姿をしていたのだ。
まさか! これは?!
どこか今のオレ自身に似たその姿には、もちろん思い当たる節が山ほどあった。
そしてオレがある意味で追い求めていたその相手は、きらめく慈愛に満ちた微笑みをこちらに注ぎつつ近づいてくる。
そんな相手を詰問しようと、オレは口を開こうとする。
だがこの身はまるで言うことを聞かず、ただ無力に見ている事しか出来なかった。
そしてなまめいた唇がすぼまり、そこからかぐわしい息がオレにかかる。
するとどういうわけか、今まで力なく漂うだけだったオレの身にほのかな命の脈動が宿り、それが全身に広がるのが感じられた。
気がついたとき、オレの視界には見慣れぬ天井があった。
壮麗な絵が描かれ、手の込んだ細工を施されたそのありようは一個の芸術品と言っても過言ではなかったろう。
「あれ……ここは……」
少しばかり混乱したが、そこでオレの記憶が次第に戻ってくる。
目が覚める前の妙な夢については、おぼろげにしか覚えていない。
だけどそれでも微かな記憶から、さっきの『あれ』が何ものなのか、オレには見当ぐらいはついていた。
聖女教会の崇める治癒の女神イロール、それぐらいしかオレには思い当たる相手はいない。
もっともオレには信仰心の欠片もないどころか、むしろこの身を頼みもしないのに女に変えた恨み骨髄の相手である。
もし女神がオレに何かをさせようと意図して蘇らせたのだとしたら、生き返らせてくれたことに感謝はしても、絶対に言うことを聞こうなどとは思わないな。
だがそんな事を考えている間にも、夢の事は次第に薄くなっていき、逆に目の前の現実へと否応なしにオレの意識は引き戻される。
「そうだ! 確か……」
気絶する前の出来事を思い出したところで、オレは真っ先に自分の身を調べる。
瘴気の相手で力を使い果たしたオレは、下手をすれば何日も眠っていたかもしれない。
その場合、聖女教会に身柄を引き渡される場合すらあり得た。
しかしあらためて確認したところでも手足を拘束されている様子も無いし、窓に格子が入っているわけでもないようだ。
どうやら最悪の事態には『まだ』至っていないらしい。
幸か不幸かこのマニリア帝国首都ノチェットにあった聖女教会の救貧院は内戦で荒廃し、放棄されているから、少なくとも聖女教会がすぐに対応することは出来ないだろう。
だが宮城内であれだけ派手にやらかしたのだ。
しかも首都が蜂起した将軍達に攻められているという緊急事態の最中である。
イヤでも各国が注視し、情報収拾に血眼になっているそのど真ん中で、あれほど目立つことをすれば、聖女教会に気付かれないはずがない。
こうなったら急いで、この国を出て行くしかないだろう。
オレがそう決心したところで、部屋のドアが開く音がする。
思わず緊張に身を固めると、扉から顔を見せたのはデレンダだった。
「デレンダ……」
「ア、アルタシャさん……よ、よかった!」
デレンダは涙をあふれさせつつ、オレのところに突進してきて首筋に飛びついた。
ああ。オレが男だったら、間違いなく歓喜したところなんだろうな。
「あの……どれだけ眠ってました?」
「あれからまる三日も目を覚まさないので、もう二度と目を覚まさないのかと思って心配していたんですよ!」
うう。もう三日も倒れていたのか。
これはやばいな。少なくとも聖女教会がオレの存在に気付いていたとしても、ちっとも不自然じゃないぞ。
「それでここはどこなんです?」
「後宮があんな事になったので、宮城の一室を使わせてもらっているんです。そうだ! 皇帝陛下にもお伝えしないと! ご心配なさっていたから、さぞかしお喜びになられますよ!」
「あ……あの……」
「いま陛下にお伝えしてきます!」
「ちょ、ちょっと待って――」
「大丈夫ですよ。たとえ三日、眠っていてもアルタシャさんのお姿は変わらず神々しくお美しいです。陛下だってそんな事を気にはなさらないでしょう」
そういってデレンダが笑顔でドアの取っ手に手を伸ばしたとき、ドアの方が開き、そこから会いたくはなかった相手が姿を見せた。
オレはげんなりしつつ、入ってきた皇帝=ウァリウスを見つめる事になった。
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一目で分る手の込んだ立派な衣装――恐らく皇帝の正装――をまとったウァリウスは、まずデレンダに話しかける。
「やあデレンダ。すまないが少し席を外してくれまいか」
「かしこまりました。それではお二人ともごゆっくりと」
ドアから出て行く時に、デレンダはこちらに向けて嬉しげに一礼すると扉を閉める。
うう。デレンダは絶対にオレ達の関係を勘違いしているな。
オレが意識を失っている間にウァリウスにいろいろと吹き込まれ『洗脳』されてしまったに違いない。
そして二人きりになったところでウァリウスはオレに向けて微笑みかけてくる。
仕方ないのでここはオレの方が先手を打つとしよう。
「あれから後宮や宮女達、それに大公はどうなったんですか?」
「せっかくのお目覚めの時なのに、僕に聞くのはそんな事なのかい?」
「あいにくですけど、最優先するのはそちらですよ」
遠回しにオレが『愛の語らい』などする気がさらさら無いことを伝えると、ウァリウスはあからさまに落胆の色を見せる。
「つれないな。こう見えても君を目覚めさせるため、こちらはいろいろと骨を折ったんだよ」
「まさかと思いますけど、寝ている間に口づけしたりしていないでしょうね」
この質問に対し、ウァリウスは少しばかりバツが悪そうに目を背ける。
「それは……まあ『眠り姫』にもっとも有効な手段だと思ってね……」
やっぱりやりやがったか!
この女装趣味の変態皇帝!
まあ身体まで蹂躙されなかっただけマシと思うしかあるまい。
ファーストキスが無理矢理で、次は意識を失っている時だなんて、何てかわいそうなオレの唇。
「もういいです。それより事後処理で忙しいでしょうけど、あれからどうなったのかを教えてくれますか」
「分ったよ」
オレの突き放した態度にウァリウスは少々残念そうに応じる。
それからウァリウスの語った言葉によれば、後宮の一件での犠牲者は大公とその取り巻きが数人、そしてオントールだけであり、宮女や女官達はショックで寝込んだ者が何人かいるが殆どは無事らしい。
そしてこの三日間の調査で、オントールの行っていた事は本人の残した記録や日記からおおむね明らかになっており、それはオレが気付いた事とほぼ同じだったようだ。
「オントールの真意を知っていれば、僕にも何か出来たかもしれないのに……それを思うと残念だ」
「しかたないでしょう。自分を責めても仕方有りませんよ。それよりオントール長官や大公、そして今度の一件で亡くなった人たちをみな手厚く葬って、その霊を慰めて下さい」
なにしろ過去千年に渡るこの宮城で繰り返された権力闘争で生まれた怨念がこの前のすさまじい瘴気の出所なのだ。
もうあんな存在がはびこらないようにしてもらいたい。
だがこの言葉を聞いたウァリウスはその目を瞬かせる。
「君を辱め、殺しかけた大公までも手厚く葬れとは……少々驚いたけどそれが聖女教会の教えだったのかな?」
違います。聖女教会の事は知りません。これはオレの元の世界の日本における宗教観です。
そしてここでウァリウスはオレの長い金髪に手を伸ばしてきたので、こっちは思わず上半身を逸らして避ける。
間違いなく、オレが寝ている間は散々いじり回していたな。
そしてオレが避けたのを見て、ウァリウスは伸ばした手を引っ込める。
「まあいい。君が皇后を断った理由は分ったよ。聖女は正妻になれないというのが、決まりだからね」
ああ。ウァリウスはむしろホッとしている様子だ。
どうやら『自分がフラれた』のではなく『聖女教会の決まり』なのでオレが拒否したと思っているらしい。
さすが皇帝だけあって都合よく物事を解釈してくれるものだ。
「それでも敢えて我が皇后に迎え入れたい。そのためだったら後宮を閉鎖して、妻は君だけだと宣言してもいいぐらいだ」
そうきたか!
確かに聖女教会の決まりでは原則的に聖女は側室になるが、妻が一人だけの場合は例外ということだった。
もちろん超破格の申し出なのだろうが、それだけされてもオレには受け入れ難い事に変りは無い。
当然ながら聖女教会から逃げ回っているオレはどういう形であれ、皇后になどなれるはずもないけどな。
「我が国の過去の歴史にも妻が一人だけだった皇帝は数は少ないけど実例はあるよ。だから決して無理な話じゃ無いさ」
それはきっとよっぽどの愛妻家か、それとも恐妻家だったのかのどちらかだろうな。
何にせよ明らかにウァリウスは本気だ。
そしてオレはこのとき少々困惑していた。
オレは確かにウァリウスのプロポーズを断る気にかわりは無かった。
またどう考えても『男の嫁』になることはオレには出来そうにない。
しかしそれにも関わらず、今のオレはウァリウスの誘いそのものに嫌悪感や拒否感を抱かず、この真剣な申し出を断る事を少々申し訳なく感じていたのだ。
いや。たぶんこれは無理矢理、オレを蹂躙して自分のモノにしようとし、またオレや数百人の宮女と無理心中しようとした大公とついつい比較して、そう思ってしまっているのだろう。
そう思うことにしよう。
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