56 / 1,316
第5章 辺境の地にて
第56話 「辺境の地」を目指して
しおりを挟む
オレはマニリア帝国を離れてからひたすら西方に向かっていた。
目的はやはり聖女教会の崇める女神チャラーナ・イロールについて調べる事であり、女神がまだ人間だったころ、西方の文化圏からやってきた事をマニリア帝国の資料で調べて知った事から、手がかりが何か得られるのではないかという希望があったからだ。
得られた限りの断片的な知識では大陸中央部に来た時点で既に強力な回復魔法の使い手であったらしい事から、西方の地に向かえば何かが得られるかも知れない。
もしオレが聖女教会に追われていなかったら、皇帝であるウァリウス公認で、学者を動員してでもマニリア帝国の古い資料を幾らでも調べられたろうに、つくづく残念だ。
まあその場合、ウァリウスからずっと迫られ続けるのは確実なわけで、どこまで留まっていられたかはやっぱり疑問であるが。
そしてもう一つ重要なのは、西方の文化圏は今までオレが過ごしていたペント大陸中央部からは『蛮族』と蔑まれているが、そこには聖女教会の力も及ばない。
つまり聖女教会が自分たちに都合のよい虚構を広める前の知識が、そこでは得られる希望があるのだ。
そして何より、違う文化圏であれば『男の回復魔法使い』だって存在しているかもしれない。
その何人かを大陸中央に連れてきて実演させてみれば『女しか回復魔法は使えない』という聖女教会の嘘を暴く事だって出来るのだ。
もちろんそう簡単に事が進むとも思えないが、今のオレにとってそれが僅かな希望なのである。
そんなわけでオレは今まで通り男装し、髪を黒く《着色》した上で一人旅を続けている。
後宮で過ごした結果、もう女装には拒否感を抱かなくなってしまっていたが、それでも一人旅をする以上、男に襲われないため男装を通す必要はあった。
不本意ながらオレが女の格好で一人旅などしていたら、いやらしい男やロクでもない奴隷商人だの山賊だののたぐいが呼びもしないのにわらわらと寄ってくる事は分かりきっていたからだ。
もちろん聖女教会からの追っ手が迫っていることも考えられるし、むしろそっちの方がオレにとってはよほど脅威だろう。
それともう一つ。
オレは特別自分でも慈悲深いとか思っているわけではないが、やっぱり行き倒れなどを見るとついつい助けようという気になってしまう。
怪我や病気、それと疲労や空腹だったらオレの魔術でたいがいはどうにかなるのだが、やはりそれを見られる事には危険が伴う。
そんなわけでオレはなるだけ移動中は他人に出くわす事がないように、なるだけ人里離れた場所を通過する事を心がけている。
幸いにもドルイド魔術の使えるオレは山や森の中で動き回る事もたやすく、動物を味方につけて周囲を警戒させることで、安全も確保出来た。
地理についてはラマーリア王国やマニリア帝国で見たものを、オレは魔術で記録にとどめておけるのでそちらも心配はない。
とりあえず現在、オレが目指しているのは大陸の中央と、西方の文化圏が交わる|境目の地(ボーダーランド)の都市であるファーゼストだ。
その『最果ての町』という名前の通り、二つの文化圏の双方にとってもっとも遠方に位置する『ド辺境』の都市なのだ。
だがしばしば誤解されるが『辺境』というのは『田舎』を意味しない。
辺境とは裏を返せば異なる文化の接点に位置することを意味し、そのために交易の重要拠点として栄えている場合もあるのだ。
このためファーゼストは人口一万人という、この世界では結構な大都市であり交易で賑わう豊かな都市国家だということだ。
いきなり勝手の異なる西方に足を踏み入れるより、このファーゼストで情報を得て、チャラーナ・イロールの手がかりをつかむのが当面の目標である。
魔法で脚力と知覚を強化する事で夜中も問題無く走り回し、疲労も魔力で回復させつつ移動する事の出来るオレは一日で換算すれば常人の数倍の早さで移動出来る。
そんなわけでマニリア帝国を出て十日もするとオレは遙か離れた辺境の地に足を踏み入れていた。
辺境と言っても人口が少ないわけでも無く、オレとしては警戒を怠る事は出来ない。
またそれとは別に『異なる文化圏の接点』とは普段は交易の場となるが、一歩間違うと『戦争の最前線』となりうる場所でもある。
これまでオレが何かしようとすると、まるで待っていましたとばかりに非常事態が発生してとんでもない事が起きてきたのだ。
こっちがファーゼストに足を踏み入れたら、いきなり西方からの軍勢に蹂躙されるなんて事になるかもしれない。
オレは自分をそんな疫病神などとは思いたくもないし、これが単なる自意識過剰であればいいのだが。
しかしここでオレの魔法で強化している視界の片隅に、飛び込んでくるものがあった。
それは遠く離れた地で小さく立ち上っている、複数の煙のスジだったのだ。
あれは火事? いや。まさか戦火?
オレは毎度の不安を胸に抱きつつ、その煙の上がっている場所に引きつけられるように足を進めていた。
しばしの後、オレが火の手の元に駆けつけたところ、そこは殆どの家屋が焼け落ち廃墟と化した小さな村だった。
視界内に人影はなく、建物が全て燃えているところから見て、何ものかが意図的に火をつけたのは間違いない。
通常ならば戦争による焼き討ちが考えられるが、それにしては見える範囲に死体が全く見られないのは不自然だ――オレにとっては幸いだったけど。
こういう場合に考えられるのは、ここの住民が何らかの事情で避難を余儀なくされた上で、立ち去り際に村を焼いていったということになる。
これが戦争だったとしたら、侵攻してきた敵軍を飢えさせる焦土戦術のたぐいか?
うげえ。もしその予想が当たっていたとしたら、オレとしては一刻も早くこんなところからは逃げ出す必要があるな。
とりあえずここは【鷹の目】を使おう。これは視点を上空にあげて、周囲の状況を見渡す事が出来る|君主(ロード)系の魔術だ。
近くの山野を見渡すと、オレにとっては幸運と言うべきだろうか、軍勢のたぐいはいないらしい。しかし――
この村の近くの林の中にて、誰か倒れているのがオレの視界に入ってきた。
どうするか。小考の末にオレはそちらに行ってみることを決めた。
もし生きていればオレの魔術で助けられるかもしれない。
たとえダメだったとしても、せめて葬ってあげよう。
決断を下したオレはひとまず【鷹の目】を打ち切る。
やろうと思えば、この魔術を維持して上空から見下ろしつつ、他の行動も出来るのだが、それはそれで精神集中を必要とするので無理は禁物だ。
しばしの後、オレは発見した行き倒れ(?)のところにまでたどり着いた。
近づいて見るとそこに倒れていた相手は、その全身がカサブタで覆われ、どす黒く変色し、ただれた皮膚のそこかしこからウミがあふれ出ているという無残な姿だ。
周囲では風を切る音がひびいているが、今のオレはそんなものは気にもならなかった。
この症状はひょっとして何かの病気か?
残念ながらオレは回復魔法は使えても、医術の心得はないので病気だとしてもそれが何なのかは分らない。
これが伝染病だったとしたら、さっきの村は戦争で焼かれたのでは無く、病気の拡大を阻止するために焼き払われたのかも知れない。
それなら死体が見つからなかったのも納得出来るな。
とりあえず倒れている相手を見ると、僅かに動いている様子だから、かろうじて生きているらしい。
うう。正直に言って触りたくはない。
もちろん『回復役』として【病の治療】は持ち合わせているので、病気は恐るるに足らないと言いたいところだが、やっぱりここまでの有様では近寄りたくないと考えるのは仕方ないと思う。
どうせオレは本職の医者では無いし、相手には縁もゆかりもないから、見捨てたところで誰も非難などしないだろう。
こんなのさっさと立ち去るのが一番、いい方策だね ―― などと考えて実行出来たら苦労しないんだよ!
オレは倒れている病人に手をさしのべて魔法をかけようとする。
だがその瞬間、どういうわけかオレの耳は先ほどから響いていた風を切る音に加え『鳥の声のような金切り音』が飛び込んで来た。
思わず耳をそばだてたが『金切り音のような鳥の声』ではない。
紛れもなく金属がこすれ、きしむ音だった。
オレが思わず顔を上げると、そこにはオレに対して一直線に向かってくる、命の感じられない黄色い眼がオレの青紫の瞳と重なる。
林の木々の間をぬうようにしながら飛んで来るのは、一匹のタカ――ではなく薄い鉄板でつくられたとおぼしき玩具のような猛禽であった。
あからさまに金属質の翼は、構成する羽のひとつひとつに青いメッキが施されてテカテカと光り、銀色の地金がむき出しになっているクチバシは不自然なほど輝いている。
控えめに言っても、オレが今まで見たことのある存在で無い事は確かだ。
反射的に身構えた瞬間、その金属の猛禽は金切り音を発しつつ口から火花を放ち、オレの身体を貫いた。
痛ぇぇぇぇ! これはひょっとして電撃?
オレは苦痛にのたうって地面を転げ回る。
するとオレが立っていた先ほどの病人の傍らを火花が走り、周囲にはイヤな臭いが立ちこめる。
しばしの間、オレは苦痛にうめいていたが、どうにか体勢を立て直して金属の猛禽を見据える。
電撃は一瞬だけで威力もさほどでもないようだが、それでも身を貫く苦痛は相当なものだ。
そしてこの相手はオレが倒れた相手から離れたところで、再度の攻撃はしてこないようだが、警戒するように周囲を飛び回っている。
なんだこいつは?
この病人を狙っているのか?
いや。違う。この攻撃はむしろここに近づかせないためのように感じられる。
たぶんコイツは周囲を警戒して、この倒れた病人を守ろうとしているのではないだろうか。
そうだとすればこの『金属の猛禽』は魔法で作られた護衛か何かだけど、主人が病気で倒れる事までは想定してなくて、ただ主人に近づく相手を無条件で排除しようとしているということかもしれない。
さてとどうするか?
もとから気が進まなかった事もあるし、オレにしたら相手を見捨てて逃げるのが一番手っ取り早いだろう。
しかし一度助けると決意したのに、それを辞める気にはなれない。
その場合、後で確実に後悔するだろう。
オレだって自分が見つけなければ何という事も無かったが、見てしまった以上は放置する事は出来ないのだ。
それにオレが少々痛い思いをするだけで、ひと一人助けられるならそれに越したことはない。
それにこの魔法が何なのか俺だって知りたい。
よし。ここは初志貫徹して何としても助けることにしよう。
オレはあらためて決断すると、金属の猛禽を見据えて自分が何をすべきかと考えることにした。
目的はやはり聖女教会の崇める女神チャラーナ・イロールについて調べる事であり、女神がまだ人間だったころ、西方の文化圏からやってきた事をマニリア帝国の資料で調べて知った事から、手がかりが何か得られるのではないかという希望があったからだ。
得られた限りの断片的な知識では大陸中央部に来た時点で既に強力な回復魔法の使い手であったらしい事から、西方の地に向かえば何かが得られるかも知れない。
もしオレが聖女教会に追われていなかったら、皇帝であるウァリウス公認で、学者を動員してでもマニリア帝国の古い資料を幾らでも調べられたろうに、つくづく残念だ。
まあその場合、ウァリウスからずっと迫られ続けるのは確実なわけで、どこまで留まっていられたかはやっぱり疑問であるが。
そしてもう一つ重要なのは、西方の文化圏は今までオレが過ごしていたペント大陸中央部からは『蛮族』と蔑まれているが、そこには聖女教会の力も及ばない。
つまり聖女教会が自分たちに都合のよい虚構を広める前の知識が、そこでは得られる希望があるのだ。
そして何より、違う文化圏であれば『男の回復魔法使い』だって存在しているかもしれない。
その何人かを大陸中央に連れてきて実演させてみれば『女しか回復魔法は使えない』という聖女教会の嘘を暴く事だって出来るのだ。
もちろんそう簡単に事が進むとも思えないが、今のオレにとってそれが僅かな希望なのである。
そんなわけでオレは今まで通り男装し、髪を黒く《着色》した上で一人旅を続けている。
後宮で過ごした結果、もう女装には拒否感を抱かなくなってしまっていたが、それでも一人旅をする以上、男に襲われないため男装を通す必要はあった。
不本意ながらオレが女の格好で一人旅などしていたら、いやらしい男やロクでもない奴隷商人だの山賊だののたぐいが呼びもしないのにわらわらと寄ってくる事は分かりきっていたからだ。
もちろん聖女教会からの追っ手が迫っていることも考えられるし、むしろそっちの方がオレにとってはよほど脅威だろう。
それともう一つ。
オレは特別自分でも慈悲深いとか思っているわけではないが、やっぱり行き倒れなどを見るとついつい助けようという気になってしまう。
怪我や病気、それと疲労や空腹だったらオレの魔術でたいがいはどうにかなるのだが、やはりそれを見られる事には危険が伴う。
そんなわけでオレはなるだけ移動中は他人に出くわす事がないように、なるだけ人里離れた場所を通過する事を心がけている。
幸いにもドルイド魔術の使えるオレは山や森の中で動き回る事もたやすく、動物を味方につけて周囲を警戒させることで、安全も確保出来た。
地理についてはラマーリア王国やマニリア帝国で見たものを、オレは魔術で記録にとどめておけるのでそちらも心配はない。
とりあえず現在、オレが目指しているのは大陸の中央と、西方の文化圏が交わる|境目の地(ボーダーランド)の都市であるファーゼストだ。
その『最果ての町』という名前の通り、二つの文化圏の双方にとってもっとも遠方に位置する『ド辺境』の都市なのだ。
だがしばしば誤解されるが『辺境』というのは『田舎』を意味しない。
辺境とは裏を返せば異なる文化の接点に位置することを意味し、そのために交易の重要拠点として栄えている場合もあるのだ。
このためファーゼストは人口一万人という、この世界では結構な大都市であり交易で賑わう豊かな都市国家だということだ。
いきなり勝手の異なる西方に足を踏み入れるより、このファーゼストで情報を得て、チャラーナ・イロールの手がかりをつかむのが当面の目標である。
魔法で脚力と知覚を強化する事で夜中も問題無く走り回し、疲労も魔力で回復させつつ移動する事の出来るオレは一日で換算すれば常人の数倍の早さで移動出来る。
そんなわけでマニリア帝国を出て十日もするとオレは遙か離れた辺境の地に足を踏み入れていた。
辺境と言っても人口が少ないわけでも無く、オレとしては警戒を怠る事は出来ない。
またそれとは別に『異なる文化圏の接点』とは普段は交易の場となるが、一歩間違うと『戦争の最前線』となりうる場所でもある。
これまでオレが何かしようとすると、まるで待っていましたとばかりに非常事態が発生してとんでもない事が起きてきたのだ。
こっちがファーゼストに足を踏み入れたら、いきなり西方からの軍勢に蹂躙されるなんて事になるかもしれない。
オレは自分をそんな疫病神などとは思いたくもないし、これが単なる自意識過剰であればいいのだが。
しかしここでオレの魔法で強化している視界の片隅に、飛び込んでくるものがあった。
それは遠く離れた地で小さく立ち上っている、複数の煙のスジだったのだ。
あれは火事? いや。まさか戦火?
オレは毎度の不安を胸に抱きつつ、その煙の上がっている場所に引きつけられるように足を進めていた。
しばしの後、オレが火の手の元に駆けつけたところ、そこは殆どの家屋が焼け落ち廃墟と化した小さな村だった。
視界内に人影はなく、建物が全て燃えているところから見て、何ものかが意図的に火をつけたのは間違いない。
通常ならば戦争による焼き討ちが考えられるが、それにしては見える範囲に死体が全く見られないのは不自然だ――オレにとっては幸いだったけど。
こういう場合に考えられるのは、ここの住民が何らかの事情で避難を余儀なくされた上で、立ち去り際に村を焼いていったということになる。
これが戦争だったとしたら、侵攻してきた敵軍を飢えさせる焦土戦術のたぐいか?
うげえ。もしその予想が当たっていたとしたら、オレとしては一刻も早くこんなところからは逃げ出す必要があるな。
とりあえずここは【鷹の目】を使おう。これは視点を上空にあげて、周囲の状況を見渡す事が出来る|君主(ロード)系の魔術だ。
近くの山野を見渡すと、オレにとっては幸運と言うべきだろうか、軍勢のたぐいはいないらしい。しかし――
この村の近くの林の中にて、誰か倒れているのがオレの視界に入ってきた。
どうするか。小考の末にオレはそちらに行ってみることを決めた。
もし生きていればオレの魔術で助けられるかもしれない。
たとえダメだったとしても、せめて葬ってあげよう。
決断を下したオレはひとまず【鷹の目】を打ち切る。
やろうと思えば、この魔術を維持して上空から見下ろしつつ、他の行動も出来るのだが、それはそれで精神集中を必要とするので無理は禁物だ。
しばしの後、オレは発見した行き倒れ(?)のところにまでたどり着いた。
近づいて見るとそこに倒れていた相手は、その全身がカサブタで覆われ、どす黒く変色し、ただれた皮膚のそこかしこからウミがあふれ出ているという無残な姿だ。
周囲では風を切る音がひびいているが、今のオレはそんなものは気にもならなかった。
この症状はひょっとして何かの病気か?
残念ながらオレは回復魔法は使えても、医術の心得はないので病気だとしてもそれが何なのかは分らない。
これが伝染病だったとしたら、さっきの村は戦争で焼かれたのでは無く、病気の拡大を阻止するために焼き払われたのかも知れない。
それなら死体が見つからなかったのも納得出来るな。
とりあえず倒れている相手を見ると、僅かに動いている様子だから、かろうじて生きているらしい。
うう。正直に言って触りたくはない。
もちろん『回復役』として【病の治療】は持ち合わせているので、病気は恐るるに足らないと言いたいところだが、やっぱりここまでの有様では近寄りたくないと考えるのは仕方ないと思う。
どうせオレは本職の医者では無いし、相手には縁もゆかりもないから、見捨てたところで誰も非難などしないだろう。
こんなのさっさと立ち去るのが一番、いい方策だね ―― などと考えて実行出来たら苦労しないんだよ!
オレは倒れている病人に手をさしのべて魔法をかけようとする。
だがその瞬間、どういうわけかオレの耳は先ほどから響いていた風を切る音に加え『鳥の声のような金切り音』が飛び込んで来た。
思わず耳をそばだてたが『金切り音のような鳥の声』ではない。
紛れもなく金属がこすれ、きしむ音だった。
オレが思わず顔を上げると、そこにはオレに対して一直線に向かってくる、命の感じられない黄色い眼がオレの青紫の瞳と重なる。
林の木々の間をぬうようにしながら飛んで来るのは、一匹のタカ――ではなく薄い鉄板でつくられたとおぼしき玩具のような猛禽であった。
あからさまに金属質の翼は、構成する羽のひとつひとつに青いメッキが施されてテカテカと光り、銀色の地金がむき出しになっているクチバシは不自然なほど輝いている。
控えめに言っても、オレが今まで見たことのある存在で無い事は確かだ。
反射的に身構えた瞬間、その金属の猛禽は金切り音を発しつつ口から火花を放ち、オレの身体を貫いた。
痛ぇぇぇぇ! これはひょっとして電撃?
オレは苦痛にのたうって地面を転げ回る。
するとオレが立っていた先ほどの病人の傍らを火花が走り、周囲にはイヤな臭いが立ちこめる。
しばしの間、オレは苦痛にうめいていたが、どうにか体勢を立て直して金属の猛禽を見据える。
電撃は一瞬だけで威力もさほどでもないようだが、それでも身を貫く苦痛は相当なものだ。
そしてこの相手はオレが倒れた相手から離れたところで、再度の攻撃はしてこないようだが、警戒するように周囲を飛び回っている。
なんだこいつは?
この病人を狙っているのか?
いや。違う。この攻撃はむしろここに近づかせないためのように感じられる。
たぶんコイツは周囲を警戒して、この倒れた病人を守ろうとしているのではないだろうか。
そうだとすればこの『金属の猛禽』は魔法で作られた護衛か何かだけど、主人が病気で倒れる事までは想定してなくて、ただ主人に近づく相手を無条件で排除しようとしているということかもしれない。
さてとどうするか?
もとから気が進まなかった事もあるし、オレにしたら相手を見捨てて逃げるのが一番手っ取り早いだろう。
しかし一度助けると決意したのに、それを辞める気にはなれない。
その場合、後で確実に後悔するだろう。
オレだって自分が見つけなければ何という事も無かったが、見てしまった以上は放置する事は出来ないのだ。
それにオレが少々痛い思いをするだけで、ひと一人助けられるならそれに越したことはない。
それにこの魔法が何なのか俺だって知りたい。
よし。ここは初志貫徹して何としても助けることにしよう。
オレはあらためて決断すると、金属の猛禽を見据えて自分が何をすべきかと考えることにした。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる