異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第5章 辺境の地にて

第91話 無事に終わったが謎は深まる

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 なんだって? 女神イロールはいま何と言った?
 動揺するオレに対して、相も変わらぬ頬笑みを浮かべながら、女神は少しずつその姿を薄れさせているように感じられる。
 ああ。立ち去らないで。まだ話は終わってないのに!
『わたくしが男子を女に変えるなどと言うことはあり得ませんよ』
「そんな事を言っても、実際に――」
『何かの勘違いでしょう。あなたもひょっとしたら、先ほど大勢の記憶を得たので自分が元は男だったと勘違いしてしまっているのではありませんか?』

 そんなわけあるかよ!
 オレの『男子の記憶』は神とか精霊とか、そういうものじゃなくて、異世界における平凡な男子高校生のものなんだから。
 勘違いしているのは女神様の方ですよ!

『そもそもわたくしの権能は癒やしであって、男性を女性に変える力など最初からありませんよ』
「ええ?!」
『だから信徒にそのような魔術を提供する事もあり得ません。たとえ神であっても自分の持たぬ力を信徒に与える事は出来ませんから』

 それではオレを女に変えた ―― いや。今も治癒魔法の才能ある男子を女子に変えている聖女教会の魔法はいったい何なんだ?
 いや。待て。
 ひょっとしたらこの女神が嘘をついているのかもしれない。
 そうだ。神様だって嘘をつくものじゃないか。
 元は人間なんだから、何の不思議があるだろうか。
 しかしそんなオレの心を見透かすかのように、女神イロールは念を押してくる。

『断っておきますけど、わたくしは嘘などついていませんよ。本当にわたくしにはそのような能力は無いのですから』
「だったら、どうして聖女教会は――」
『それではさようなら。あなたとはまた逢える日を楽しみにしています』
「待ってくれよ!」

 一方的な別れの言葉と共に、女神はオレの脳裏から消えていった。
 オレにはまるで納得出来ない、重大な謎を一方的に残したままで。


 気がつくとオレの周囲には、大勢の人間が集まって跪いていた。

「おお。何と神々しいお姿でございましょう」
「この目に一生焼き付けます」
「今宵の事は我が家の宝とさせていただきます」

 口々にオレに対する賛辞を述べる連中に背を向けて、オレはとりあえず倒れているフレストルの方に足を向ける。

「フレストル様。しっかりして下さい!」

 ヴァルナロはオレの事など見向きもせず、息も絶え絶えのフレストルを抱きしめている。
 彼女の服装はフレストルの全身から吹き出ているウミを浴びてどす黒く汚れていたが、オレはむしろその光景を美しく感じた。

 いや。むしろオレはフレストルがうらやましい。
 自分で望みもしない姿を賛美されるぐらいなら、たったひとりでも心から慕ってくれる女の子がいた方がよっぽどいいよ。
 おっと。現実逃避しているわけにはいかない。
 いろいろと思うところはあるにせよ、今はフレストルを助けないといけないのだ。

「ヴァルナロさん。こちらに任せて下さい」
「え……ええ……」

 ヴァルナロはこちらを見て一瞬惚けるが、とりあえず逆らいはしなかった。
 オレは手を伸ばし、フレストルの身に触れる。おびただしい霊体の発した『毒』を引き受け、その息は今にも絶えそうだ。
 精神を集中しその『毒』を浄化すべく魔力を注ぐと、見る見る内にその体は元通りとなり、今にも途切れそうだった呼吸も規則正しいものとなった。

 どうやら大丈夫のようだな。
 そういえば初めて会ったときには、これよりはまだマシな状態だったのを回復させるために何度も魔法をかけてものだったが、今は一度で全快したぞ。
 やっぱりオレの力が増しているのか ―― あんまり嬉しくないんだけど。

「これで大丈夫でしょう。後はゆっくりと休ませて下さい」
「あ……はい……分りました」

 ヴァルナロは半ば夢うつつの表情でオレを見上げている。
 ひょっとしてオレに見とれているの?
 ええい。そんな事などどうでもいい。
 オレはフレストル達にも背を向け、今度はアカスタの方に歩み寄る。

「アカスタ……大丈夫?」
「あ……ああ……お前か……」

 うん? どういうわけかアカスタはこのオレの姿を見ても殆ど興味がなさそうだ。
 あんまり意識はしたくないのだけど、今のオレはもう女神そのものの神々しい乙女の姿なのにそれを見ても反応しないのはなぜなのだろうか。
 さっきからアカスタはまるで上の空の様子なのだ ―― まさか?!

「師匠……どこに行ってしまったんじゃ……」

 やっぱり! あの霊体師匠は力尽きて消えてしまったのか。
 いくら老い先短い老人とは言え ―― いや。待て。あの人はとっくに死んでいたんだ ―― 幾ら霊体でも知り合いが消えたとなるとオレとしても悲しい。

「アカスタ……気を落とさないで、師匠はきっとあなたが立派なシャーマンになると信じていてくれたはず」
「そうか……お前はそう言ってくれるか……たとえ師匠がいなくとも――」
「断っておくけど嫁にはならないからね」

 ここでオレは前もって釘を刺しておく。
 アカスタのように『女神モード』のオレでも変わらず接してくれるのはある意味でありがたい存在だけど、だからって伴侶になろうなんて気はさらさらないからな。

【そうじゃとも、この娘はワシの嫁になるのじゃからな】
「「ええ?!」」

 オレとアカスタが揃って振り向くと、そこには前よりも大分、輪郭がかすれているがそれでも紛れもない霊体師匠が姿を見せていた。

【勝手に人を殺すでないぞ。力を使い果たしてしまったので、少し休んでいただけじゃ。もっと老人をいたわらんか】

 それはすみません。じゃなくて元々あんたは死んでるでしょうが。
 しかしながらひとまず皆が無事だった事を確認し、オレはようやく一息ついた。
 納得出来ないことは多々あるが、犠牲を出さずにどうにかこの場を切り抜けられただけでもオレには嬉しい事だったのだ。
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