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第8章 ライバンス・魔法学院編
第148話 怪しき精霊の刺客?
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ガランディア達と別れてしばしの後、オレは広大な学園の端っこのあたりで一人たむろしていた。
どっちにしてもしばらくはホン・イールやガランディア達とは付き合わねばならないが、それでも『ハーレム要員』になるのは真っ平だ。
まあアニーラやスビーリー達はオレの事を勘違いしているだけだが、どっちにしろ絡まれるのはウンザリするよ。
しかも例によって宗教観や魔法観がオレとは大きく違うから ―― もちろんオレの方がこの世界では『異端』なんだけど ―― 迂闊な事を口にするとそれだけでトラブルの種になりかねない。
そんな事を考えているといつの間にか人目を避けて、校舎の裏手に来ていたのだ。
オレは目立つのがイヤなので、旅の最中からついつい人気の少ないところ足を運ぶ癖がついていたんだった。
しかしこれは少々危ないな。オレの魔力を見る事の出来る存在がいたら、何かを仕掛けてくる可能性は否定出来ない。
ちょっとばかり不本意でもあるがここはホン・イールのところに戻るのが賢明だろう。
だがそう考えた瞬間、オレの背筋に走るものがあった。
これはまさか?!
オレが振り向くとそこには半透明の巨大な袋とその口から飛び出している巨大なツメを生やした腕を持った存在が姿を現していた。
これは何かの精霊か?!
見た限りではどうやら袋の中に本体が潜んでいるらしい。
こんなヤツがどうしてこんなところにいる?
ちなみにオレが自分にかけている【霊視】は通常の感覚では察知出来ない霊体を見る魔法であり、一方で【魔法眼】は魔力や魔法を見る魔法である ―― ただしオレは魔法は使えても、知識が足りないので、いま現在自分が目の当たりにしている魔法が何なのかはちょっと分らないのが難点だ。
ここでくだんの精霊はその腕を振るってオレに迫り来る。
コイツが以前にファーゼストで出会ったような『野良精霊』で、たまた見かけたオレを攻撃してしているのならまだいい。
しかしコイツが何ものかの意図によって動かされ、オレを攻撃しているのだとしたら、これはかなり厄介な事になるだろう。
正直に言えばオレはこれまでロクでもない相手から恨みを買った覚えは売るほどある。
たとえ恨みでなくとも、こちらの身を確保すべくこんな相手を送り込んで来る相手だって、オレを女に変えた聖女教会をはじめ幾らもあるのだ。
当然、コイツもそのコマの一つに過ぎないはずで一度や二度撃退したところで、相手が諦めるとは思えない。
だが ―― 今の時点では慌てる事は何もなかった。
オレは霊体からの攻撃を抑える【除霊】の魔法を使う。
すると見るからに恐ろしげなツメは、オレの身に当たっても何の影響も無くむなしく振るわれるだけだ。
やはりな。この腕はあくまでも霊体だから直接相手を倒すのでは無く、恐らく精神を攻撃するためのものなのだろう。
コイツが何なのかは知らないが、たかだか一体の精霊程度ではオレの相手になどならないのよ。
オレには精霊を滅ぼすような魔法こそ使えないとはいえ、この手の霊体に対処するシャーマン魔法なら幾つもあるのだ。
しかし逆を言えば、オレはコイツからダメージを受けたり、取り憑かれたりする心配がないかわりに倒す事も出来ない。
もし何ものかが意図して送り込んできたのなら、いつまでもじゃれているわけにはいかないのだ。
とりあえず人目のあるところに行けば、追っては来ない可能性が高いし、仮に追撃してきてもこの学校ならそういう精霊を撃退する魔法の使い手だっているだろう。
だがそんな事を考えていると、相手の腕が巨大な袋の中に引き込まれる。
諦めたのか?
オレがそんな事を考えた瞬間、その手が一気に広がって【除霊】ごとオレをつかみ、それと共に袋の口が一気に広がりオレを一気に覆いつくさんと近づいてくる。
何だと?
コイツは相手を攻撃するよりも捕らえるための精霊か?
本体が袋の中に忍んでいたというより、恐らく袋の方が本体なんだろう。
通常は腕でつかんだ相手を袋の中に引き込むのだろうが、切り札として自分自身で相手を覆い尽くしてさらうらしい。
ぬう。たとえ袋の中でも【除霊】の防御は有効だからこちらがダメージを受ける事は無いが、このままさらわれてしまいかねない。
なるほどな。コイツは精霊に対する魔法防御を行っている相手に対しても有効な精霊だというわけか。
そこらの相手ならひとたまりもなかったろう。
だけどオレをさらうにはまだまだこれでは不十分だよ!
オレは【霊体遮断】の魔法を唱えて、霊体が入れないフィールドで自分自身を覆う。
するとこの『袋』の口はまるで見えない壁にぶつかったかのように食い止められ、そしてどうしてよいのか分らないかのように右往左往する。
コイツと意志疎通が出来るのなら、何ものがこっちを狙ったのか白状させたいところだが、残念ながらそれは望み薄だろう。
そんなわけでさっさと元いたところに帰ってもらうとするか。
オレは少しばかり精神を集中させて【追放】の魔法を唱える。これは異界から訪れた存在を元の世界に戻す魔法だ。
一体だけにしか効果が無く、唱えるのに少々時間がかかるのに加え、この世界で生まれた幽霊の類いには意味が無いので今まであんまり使う機会は無かった。
しかしこいつはどう見てもこの世界の出身では無く、魔法で召喚された相手だからこの魔法で簡単に撃退出来る。
もちろん相手を倒すわけではないから、抜本的な解決にはならないけど精霊を滅ぼせる魔法をオレは有していないのでこれが限界だ。
そして【追放】を受けたところで、その腕はまるで驚き慌てたかのように『袋』の中に引き込み、次いで本体らしき袋もかき消える。
どうやら完全に元の世界に戻っていったらしい。
何ものが送り込んできたのかは分らないので、安心も出来ないがこの程度の相手ならば今のオレの敵ではない。
そう思って安堵したところで、オレの視界の片隅にこっちを探していたとおぼしきガランディアの姿が写った。
ああ。精霊よりも人間相手の方が遙かに面倒くさくて手間がかかるな。
オレは自分の置かれた状況を改めて実感して、小さく肩を落とすのだった。
それからしばしの後、オレはやってきたガランディアと共にホン・イールの部屋へと戻る道を歩いていた。
ガランディアにはさっきの精霊の襲撃については教えていない。
敢えて隠す必要があるわけでもないが、下手に首を突っ込まれるのも面倒だと思っただけだ。
別にコイツの心配をしたわけではないが、巻き込まれたりしたらオレがその分余計に苦労するからな。
ただホン・イールには事情を話して相談する必要はあるだろう ―― あの変人だったら自分の身ぐらいは守れると思う。
しかしたかだか学校内を案内されただけなのに、ハーレム要員達に絡まれるわ、精霊に襲撃されるわ、まったくこの学校はどうなっているんだ?
安全地帯かと思っていたら、むしろ今までにいたどこよりも危険が多いかもしれないぞ。
いや。たぶんこの学校が問題なのでは無く、オレ自身の問題なのかもしれないけどな。
「ところでさっきのお二人はどうされたんですか?」
またアニーラとスビーリーに絡まれると面倒くさいのでここは最初に確認しておこう。
何しろ襲ってくる精霊よりも、よっぽどあの連中の方がオレにとっては厄介だからな。
「あくまでもホン・イール教授から話を受けただけだと言い張ったら、二人とも一応は納得してくれたよ」
恐らくは半信半疑というところだったのだろうけど、さすがにあまりしつこく食い下がったらガランディアの不興を被ると思ったか。
以前に後宮にいたときも周囲の宮女の中にはオレを敵視するのもいたけど、あそこにいた宮女は『皇帝の寵愛』を巡って争うライバル同士だったので、オレにその気がなかったとしても仕方ない事だったと割り切れた。
だけど今回、オレはガランディアとは本当に無関係なのに、アニーラやスビーリーから警戒心を向けられているのだ。
まあ連中の視点で考えると理解は出来るが ―― 何しろ初対面がいきなり水浴びを見るラッキースケベでスタートだからな ―― こっちにとってはなはだ不本意である事にかわりは無い。
「すまないね。彼女達はどうも君の事を誤解しているらしい。後で僕の方からちゃんと説明するから勘弁して欲しい」
そもそもガランディアがのぞき見たオレの裸を思い出していたのを察知された事が、あの二人に誤解される大きな理由だったはずだ。
コイツが下手に説明しようとして、またツッコミを入れられたら余計に話がややこしくなりかねない心配があるな。
しかし今のところ聞きたい事は別にあった。
「ところで『名の無きもの』について皆さんの見解は異なっていたようですけど、この学園ではどうなっているんです?」
「もちろん『名の無きもの』そのものは聖セルム教団が公式に認め、教義に含めているワケではないから、一般には知られていないんだ。『名の無きもの』というのもその名が正式に決まっているわけではないところからそう呼ばれているだけに過ぎない」
オレもそこは見当がついていた。だから今まで出会った連中も『名の無きもの』について言及はしていなかったんだな。
「それで『名の無きもの』について四つ……いや。三つの考え方があってね」
なんだ? すこし引っかかる言い方だな。
その四つ目がちょっと気になるぞ。
「君も気付いたと思うけど、アニーラの属する派閥は可能性を否定する『名の無きもの』を悪と見なし、その浸食から世界を守るべきという考えなんだ。そしてスビーリーの方は『名の無きもの』は、可能性を解き放つ『唯一なるもの』と共に世界の原動力であり、行き過ぎた可能性を喰らう事で世界の調和を守っているという考えになっている」
「ガランディアさんやホン・イール教授は『名の無きもの』はあくまでも仮想の存在であって実在はしないという立場なんですね?」
「そうだよ。そもそも『唯一なるもの』は信徒の呼びかけにも一切答えないし、自らの意志を示す事も無い。ただ預言者聖セルムを通じて人々を導くだけだ。ならばその預言に『名の無きもの』が存在しない以上、それはあり得ないと考えるべきじゃないか」
まあそれが大多数の聖セルム教徒の認識なんだろうな。
だけど元の世界でもそういう預言者の言葉の解釈を巡って、時には激論をかわし、時には戦争までしていたわけだから、簡単に納得しない連中がいるのは理解出来る。
しかし次にガランディアが発した言葉は、少しばかりオレの意表をついた。
「それはともかく ―― 君はさきほど何のために魔法を使っていたんだい?」
「え? どういうことですか?」
この問いかけにはこっちも驚く。
もちろん今更、ガランディアに自分の魔力を隠す気はないけど、オレが精霊に襲われていたときあの場にいなかったはずだ。
どうして気付いたんだ?
「僕が君のいたところをすぐに探し出せたのは、君の魔力の波動を感じ取ったからだよ」
なんだって?
確かにガランディアには初めて会った ―― つまり水浴びを覗かれた ―― ときにオレの魔法で縛り上げたけど、そのときのオレの魔力をコイツなりに察知していたということなのか?
「そんな事が出来るんですか?」
「それが僕の一族が受け継いでいた生来の魔力なんだよ。もっともそんな大したものじゃなくて普通の人だったら少し離れたら分からなくなってしまうさ。君の場合、魔力が桁外れだから、相当離れていても分かると思うよ」
ガランディアはちょっとばかり自慢げだ。
オレに対して誇れるものが一つでもあったことがうれしいのだろう。
まあオレにしてみればそんな魔力よりも、すでに二人も好意を抱く女の子をゲットしている時点で、十分すぎるぐらいリア充だけどな。
そんなちょっとばかりズレた事を考えつつ、オレはまたホン・イールのところに戻っていた。
どっちにしてもしばらくはホン・イールやガランディア達とは付き合わねばならないが、それでも『ハーレム要員』になるのは真っ平だ。
まあアニーラやスビーリー達はオレの事を勘違いしているだけだが、どっちにしろ絡まれるのはウンザリするよ。
しかも例によって宗教観や魔法観がオレとは大きく違うから ―― もちろんオレの方がこの世界では『異端』なんだけど ―― 迂闊な事を口にするとそれだけでトラブルの種になりかねない。
そんな事を考えているといつの間にか人目を避けて、校舎の裏手に来ていたのだ。
オレは目立つのがイヤなので、旅の最中からついつい人気の少ないところ足を運ぶ癖がついていたんだった。
しかしこれは少々危ないな。オレの魔力を見る事の出来る存在がいたら、何かを仕掛けてくる可能性は否定出来ない。
ちょっとばかり不本意でもあるがここはホン・イールのところに戻るのが賢明だろう。
だがそう考えた瞬間、オレの背筋に走るものがあった。
これはまさか?!
オレが振り向くとそこには半透明の巨大な袋とその口から飛び出している巨大なツメを生やした腕を持った存在が姿を現していた。
これは何かの精霊か?!
見た限りではどうやら袋の中に本体が潜んでいるらしい。
こんなヤツがどうしてこんなところにいる?
ちなみにオレが自分にかけている【霊視】は通常の感覚では察知出来ない霊体を見る魔法であり、一方で【魔法眼】は魔力や魔法を見る魔法である ―― ただしオレは魔法は使えても、知識が足りないので、いま現在自分が目の当たりにしている魔法が何なのかはちょっと分らないのが難点だ。
ここでくだんの精霊はその腕を振るってオレに迫り来る。
コイツが以前にファーゼストで出会ったような『野良精霊』で、たまた見かけたオレを攻撃してしているのならまだいい。
しかしコイツが何ものかの意図によって動かされ、オレを攻撃しているのだとしたら、これはかなり厄介な事になるだろう。
正直に言えばオレはこれまでロクでもない相手から恨みを買った覚えは売るほどある。
たとえ恨みでなくとも、こちらの身を確保すべくこんな相手を送り込んで来る相手だって、オレを女に変えた聖女教会をはじめ幾らもあるのだ。
当然、コイツもそのコマの一つに過ぎないはずで一度や二度撃退したところで、相手が諦めるとは思えない。
だが ―― 今の時点では慌てる事は何もなかった。
オレは霊体からの攻撃を抑える【除霊】の魔法を使う。
すると見るからに恐ろしげなツメは、オレの身に当たっても何の影響も無くむなしく振るわれるだけだ。
やはりな。この腕はあくまでも霊体だから直接相手を倒すのでは無く、恐らく精神を攻撃するためのものなのだろう。
コイツが何なのかは知らないが、たかだか一体の精霊程度ではオレの相手になどならないのよ。
オレには精霊を滅ぼすような魔法こそ使えないとはいえ、この手の霊体に対処するシャーマン魔法なら幾つもあるのだ。
しかし逆を言えば、オレはコイツからダメージを受けたり、取り憑かれたりする心配がないかわりに倒す事も出来ない。
もし何ものかが意図して送り込んできたのなら、いつまでもじゃれているわけにはいかないのだ。
とりあえず人目のあるところに行けば、追っては来ない可能性が高いし、仮に追撃してきてもこの学校ならそういう精霊を撃退する魔法の使い手だっているだろう。
だがそんな事を考えていると、相手の腕が巨大な袋の中に引き込まれる。
諦めたのか?
オレがそんな事を考えた瞬間、その手が一気に広がって【除霊】ごとオレをつかみ、それと共に袋の口が一気に広がりオレを一気に覆いつくさんと近づいてくる。
何だと?
コイツは相手を攻撃するよりも捕らえるための精霊か?
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通常は腕でつかんだ相手を袋の中に引き込むのだろうが、切り札として自分自身で相手を覆い尽くしてさらうらしい。
ぬう。たとえ袋の中でも【除霊】の防御は有効だからこちらがダメージを受ける事は無いが、このままさらわれてしまいかねない。
なるほどな。コイツは精霊に対する魔法防御を行っている相手に対しても有効な精霊だというわけか。
そこらの相手ならひとたまりもなかったろう。
だけどオレをさらうにはまだまだこれでは不十分だよ!
オレは【霊体遮断】の魔法を唱えて、霊体が入れないフィールドで自分自身を覆う。
するとこの『袋』の口はまるで見えない壁にぶつかったかのように食い止められ、そしてどうしてよいのか分らないかのように右往左往する。
コイツと意志疎通が出来るのなら、何ものがこっちを狙ったのか白状させたいところだが、残念ながらそれは望み薄だろう。
そんなわけでさっさと元いたところに帰ってもらうとするか。
オレは少しばかり精神を集中させて【追放】の魔法を唱える。これは異界から訪れた存在を元の世界に戻す魔法だ。
一体だけにしか効果が無く、唱えるのに少々時間がかかるのに加え、この世界で生まれた幽霊の類いには意味が無いので今まであんまり使う機会は無かった。
しかしこいつはどう見てもこの世界の出身では無く、魔法で召喚された相手だからこの魔法で簡単に撃退出来る。
もちろん相手を倒すわけではないから、抜本的な解決にはならないけど精霊を滅ぼせる魔法をオレは有していないのでこれが限界だ。
そして【追放】を受けたところで、その腕はまるで驚き慌てたかのように『袋』の中に引き込み、次いで本体らしき袋もかき消える。
どうやら完全に元の世界に戻っていったらしい。
何ものが送り込んできたのかは分らないので、安心も出来ないがこの程度の相手ならば今のオレの敵ではない。
そう思って安堵したところで、オレの視界の片隅にこっちを探していたとおぼしきガランディアの姿が写った。
ああ。精霊よりも人間相手の方が遙かに面倒くさくて手間がかかるな。
オレは自分の置かれた状況を改めて実感して、小さく肩を落とすのだった。
それからしばしの後、オレはやってきたガランディアと共にホン・イールの部屋へと戻る道を歩いていた。
ガランディアにはさっきの精霊の襲撃については教えていない。
敢えて隠す必要があるわけでもないが、下手に首を突っ込まれるのも面倒だと思っただけだ。
別にコイツの心配をしたわけではないが、巻き込まれたりしたらオレがその分余計に苦労するからな。
ただホン・イールには事情を話して相談する必要はあるだろう ―― あの変人だったら自分の身ぐらいは守れると思う。
しかしたかだか学校内を案内されただけなのに、ハーレム要員達に絡まれるわ、精霊に襲撃されるわ、まったくこの学校はどうなっているんだ?
安全地帯かと思っていたら、むしろ今までにいたどこよりも危険が多いかもしれないぞ。
いや。たぶんこの学校が問題なのでは無く、オレ自身の問題なのかもしれないけどな。
「ところでさっきのお二人はどうされたんですか?」
またアニーラとスビーリーに絡まれると面倒くさいのでここは最初に確認しておこう。
何しろ襲ってくる精霊よりも、よっぽどあの連中の方がオレにとっては厄介だからな。
「あくまでもホン・イール教授から話を受けただけだと言い張ったら、二人とも一応は納得してくれたよ」
恐らくは半信半疑というところだったのだろうけど、さすがにあまりしつこく食い下がったらガランディアの不興を被ると思ったか。
以前に後宮にいたときも周囲の宮女の中にはオレを敵視するのもいたけど、あそこにいた宮女は『皇帝の寵愛』を巡って争うライバル同士だったので、オレにその気がなかったとしても仕方ない事だったと割り切れた。
だけど今回、オレはガランディアとは本当に無関係なのに、アニーラやスビーリーから警戒心を向けられているのだ。
まあ連中の視点で考えると理解は出来るが ―― 何しろ初対面がいきなり水浴びを見るラッキースケベでスタートだからな ―― こっちにとってはなはだ不本意である事にかわりは無い。
「すまないね。彼女達はどうも君の事を誤解しているらしい。後で僕の方からちゃんと説明するから勘弁して欲しい」
そもそもガランディアがのぞき見たオレの裸を思い出していたのを察知された事が、あの二人に誤解される大きな理由だったはずだ。
コイツが下手に説明しようとして、またツッコミを入れられたら余計に話がややこしくなりかねない心配があるな。
しかし今のところ聞きたい事は別にあった。
「ところで『名の無きもの』について皆さんの見解は異なっていたようですけど、この学園ではどうなっているんです?」
「もちろん『名の無きもの』そのものは聖セルム教団が公式に認め、教義に含めているワケではないから、一般には知られていないんだ。『名の無きもの』というのもその名が正式に決まっているわけではないところからそう呼ばれているだけに過ぎない」
オレもそこは見当がついていた。だから今まで出会った連中も『名の無きもの』について言及はしていなかったんだな。
「それで『名の無きもの』について四つ……いや。三つの考え方があってね」
なんだ? すこし引っかかる言い方だな。
その四つ目がちょっと気になるぞ。
「君も気付いたと思うけど、アニーラの属する派閥は可能性を否定する『名の無きもの』を悪と見なし、その浸食から世界を守るべきという考えなんだ。そしてスビーリーの方は『名の無きもの』は、可能性を解き放つ『唯一なるもの』と共に世界の原動力であり、行き過ぎた可能性を喰らう事で世界の調和を守っているという考えになっている」
「ガランディアさんやホン・イール教授は『名の無きもの』はあくまでも仮想の存在であって実在はしないという立場なんですね?」
「そうだよ。そもそも『唯一なるもの』は信徒の呼びかけにも一切答えないし、自らの意志を示す事も無い。ただ預言者聖セルムを通じて人々を導くだけだ。ならばその預言に『名の無きもの』が存在しない以上、それはあり得ないと考えるべきじゃないか」
まあそれが大多数の聖セルム教徒の認識なんだろうな。
だけど元の世界でもそういう預言者の言葉の解釈を巡って、時には激論をかわし、時には戦争までしていたわけだから、簡単に納得しない連中がいるのは理解出来る。
しかし次にガランディアが発した言葉は、少しばかりオレの意表をついた。
「それはともかく ―― 君はさきほど何のために魔法を使っていたんだい?」
「え? どういうことですか?」
この問いかけにはこっちも驚く。
もちろん今更、ガランディアに自分の魔力を隠す気はないけど、オレが精霊に襲われていたときあの場にいなかったはずだ。
どうして気付いたんだ?
「僕が君のいたところをすぐに探し出せたのは、君の魔力の波動を感じ取ったからだよ」
なんだって?
確かにガランディアには初めて会った ―― つまり水浴びを覗かれた ―― ときにオレの魔法で縛り上げたけど、そのときのオレの魔力をコイツなりに察知していたということなのか?
「そんな事が出来るんですか?」
「それが僕の一族が受け継いでいた生来の魔力なんだよ。もっともそんな大したものじゃなくて普通の人だったら少し離れたら分からなくなってしまうさ。君の場合、魔力が桁外れだから、相当離れていても分かると思うよ」
ガランディアはちょっとばかり自慢げだ。
オレに対して誇れるものが一つでもあったことがうれしいのだろう。
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