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第8章 ライバンス・魔法学院編
第177話 本当に『全ての元凶』だったものは
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どういうわけか憎悪にその身を焦がしているガランディアにオレ達は背を向け、どうにか逃走するが幸いにも追ってはこないようだ。
しかしそこでオレの脳裏にはまたしても以前に聞いた事のある『声』が直接響いてきた。
『随分と困った事になったな。まあこうなってしまった以上は仕方ないか』
「え? まさか! ビューゼリアン?!」
そういえばさっきのドサクサで殆どついつい忘れていたが、もともとコイツが全ての元凶だったんだ。
この学園の守護精霊の分際で、こんな破壊の原因を作り出すとは他人事ながら、本当に不逞の輩だな。
しかしガランディアがあんな事になったのにコイツは平気なのか?
『なんだ? ひょっとするとこの我が消えたとでも思っていたのか? あのものについていたのは我のホンの一部に過ぎないと伝えたはずだぞ』
そうか。ガランディアにはあくまでもビューゼリアンは自分の一部を吹き込んで遠隔操作しているだけだと言っていたな。
当然、ガランディアの身がどうなろうがビューゼリアン本体は無事というわけだ。
『とりあえずいま生徒や教師達は避難させている』
「そんなの当たり前でしょうが!」
そもそもこんな事になったのはビューゼリアンがばかげた実験に取り組んだからだろう。
いや。ひょっとするとこのマッドな研究者の精霊は、こんなとんでもない結果になったこともむしろ『予想外の成果』だと喜んでいるかもしれないけどな。
『しかしこのような事になるとはさすがに想定外だったな』
「他人事みたいに言わないで下さいよ! いったい何が原因なんですか?」
『分らん。しかしこのような実験は思わぬ出来事が起きるからこそ、また面白いとも言えまいか?』
「同意を求められても困ります!」
これだけの事態を引き起こし、またオレやガランディアにあんな仕打ちを行いながら、それを気にした様子のないビューゼリアンには半ば呆れつつも、ついつい付き合ってしまっていた。
こんなところがオレのバカなところなんだろうな。
それぐらい分かっているけど、どうしようもないんだよ。
しかしビューゼリアンはこうなった理由が分らないと言っているが、今のガランディアの暴走が、実験で引き出された『名の無きもの』の本性なのか?
いや。それは妙だ。話によれば『名の無きもの』もまた『唯一なるもの』と同様に人間の思考など遙かに超越した存在のはずだ。
その話が本当ならば善悪はもちろん人間的な感情など有しているはずが無い。
当然、怒りや憎悪を発するのはおかしい。
もちろん伝えられている『名の無きもの』のありようと、その実態が全く別物だということは当然あり得る。
しかし先ほど垣間見たガランディアの身に宿っている『何か』が発していたのは、オレにも理解できる、むしろわかりやすい憎悪だった。
これではまるで人間そのもの ―― ああ! そうか! 分ったぞ!
確かにあそこでガランディアを動かしているのは『名の無きもの』なんかじゃない。
いや。ひょっとしたらその力の一端なりを得ているのかもしれないけど、その本質とは全く関係が無い。
ビューゼリアン達の行った実験によって顕れ、ガランディアを乗っ取ったものの正体。それはこれまでの実験で犠牲になった多くの被験者の抱いていた、失望や怨念なんだ。
もちろんその程度で怨念が残っているなら、この世の中は非業の死を遂げた人間の怨念であふれかえっているだろう。
しかしこの学園で過去に行われてきた非道な ―― 恐らくそれを行った連中は自覚していない ―― 実験の積み重ねによってその都度彼らは怨念を補充されるような形となり、その結果としてずっと闇に潜みつつ残ってきたのだろう。
そして今回の実験が『過去の実験を下敷きにしたもの』だったとすれば、必然的に過去の実験の犠牲とも繋がってしまったのではないだろうか。
今のガランディアがさっきの電撃のような、一神教徒が使わない魔法を使用しているのは過去の実験でそういう魔法の使い手も犠牲になっていたからで、そいつの記憶にあった破壊魔法をコピーしているに違いない。
結局のところ『本当に恐ろしいのは神では無く人間』という真理はここでも同じだということかよ!
仮に真実がそうだったとしたら、オレはいったいどうすればいい?
考えるまでも無い。
こんな事になったのはオレの責任ではないどころか、こっちは利用されただけの被害者だ。
ガランディアだってホンのちょっとした知り合いに過ぎないのであって、仮に死んだところでオレは何の損も無い。
そうするとこのまま逃げ出してしまうのが、一番賢明な選択肢というものなんだろうな。
しかしそれが出来れば苦労は無いんだ!
ああそうだよ。オレはバカなんだよ。
だけどここでガランディア達を見捨てて逃げ出したら、たとえこの身が無事だったとしても後で必ず後悔するだろう。
助けても助けなくても後悔するなら、助けて後悔した方がまだマシというものだ。それで後々、ハーレム要員扱いされてしまったとしても、まあそれはそれで仕方ないだろう。
そんなわけでオレは背後でおぼろげに見える、いくつかの閃光を放っているガランディアを決意と共に見据えるのであった。
遠目でガランディアを見る限り、オレの【霊視】ではやはりその全身から凄まじいまでの魔力を放っている。
正直に言えば、実験で魔力を奪われた今のオレよりもずっと上だ ―― つまりこの場で立ち向かうのは自殺行為と言うことになる。
ガランディア本人の意識がどうなっているのかは分らないが、とりあえず無事を祈りつつひとまず距離を置くしか無いだろう。
逃げるのでは無く、ここはあくまでも『戦術的撤退』というヤツだ。
落ち着いたところで改めて対策を考えるしか無い。
そんなわけでどうにかガランディアが見えないところまで、オレと一行は引き下がったが、もちろんそうなるとこっちに矛先が向いてくる事にもなる。
「ちょっとあなた! どういう事になっているのか説明してもらえますか!」
少し離れて落ち着いたところで、アニーラがオレに食い下がってくる。
もちろんスビーリーの方も険しい視線を注いでくるし、ホン・イールはこの後に及んでまだ面白そうにしているようだ。
「細かい話は抜きにしておきますけど、要するにわたしとガランディアを無理矢理に使ってこの学園の教師方が得体の知れない実験を行った結果として、あんな事になってしまったんですよ」
「何ですって? あなたとガランディアが一緒に?」
「いったい何をしたのか、もっと具体的に言いなさい!」
「申し訳ないんですけど、こっちも無理矢理に付き合わされただけなので、詳しい事は分からないんです」
これは嘘ではないけど、隠している点も多々あるので正直に答えたとは言えない。
しかし知っている限りの事を全部話すのはかなり躊躇せざるを得なかった。
何しろ『名の無きもの』に関する考え方もまるでこいつらは違うからな。下手な事を口にしたら、この非常時に余計な口論を始めかねない。
しかしそれで納得してくれるなら苦労は無い。
「それだけではないですね。まだ何かあるでしょう?」
「全部包み隠さず話しなさい!」
「二人ともお待ちなさい」
スビーリーとアニーラの二人は眉をいからせてオレを問い詰めに来るが、ここでホン・イールがオレをかばうように間に割って入ってくる。
「今は緊急時ですから、深入りできない事があるのは仕方ないでしょう。二人ともここは『何があったか』よりも『我々が何をすべきか』を優先しましょう」
「お言葉ですが――」
「まずはガランディア君をどうにかして元に戻す。それがもっとも優先するべきことではないですか?」
ホン・イールのこの言葉に二人は不満げな表情を浮かべつつも、どうにかオレに対する糾弾の矛は収めたようだ。
どうやらこの変態教授にもたまには感謝すべきようだな。
だがやっぱりこの認識は甘かった。
「アルタシャさんだって、やっぱりガランディア君と『男女の仲』になったと、この場では口に出来ないでしょうしね」
なんじゃそりゃ! 男女でチョメチョメした結果、大惨事を引き起こすなんて、いったいどこのエロゲーだよ!
いや。オレは年齢の都合上、一八禁ゲームはやったことないけどね。
とにかくホン・イールになど感謝すべきではなかった!
「ま、ま、まさか本当に? そんなことをガランディアと?!」
「不潔な!」
「全く違いますよ! ホン・イールさんもこの緊急時に馬鹿な事を言わないで下さい!」
オレがどうにか連中を抑えようとしたところで、またしても閃光が走って、校舎に炸裂し、轟音と共に瓦礫が飛び散る。
ファンタジーならこの程度はありがちな破壊力かもしれないけど、オレの感覚ではここまでの物理的な破壊はラマーリア王国以来だな。
幸か不幸か、この一撃でオレの前にいた連中は絶句して、こっちの糾弾をストップしたけど、むしろこの状況をどうにかしてくれるなら、つるし上げでも何でも受けてやりたい気分だよ。
とにかくこうなったら今のオレに出来る事は、不本意でもビューゼリアンに話をつけるしかない。
どうせこいつは研究への執着以外の感情はほとんど無い様子だし、これ以上の被害拡大はさすがに望むまい。
ちくしょう。なんだって一方的に利用されただけのこっちから、学園を救うための話をもちかねばならないんだか。本来はここの守護精霊である、ビューゼリアンがどうかすべき事だろうが。
内心で不満は渦巻きつつも、ひとまずオレはちょっとばかりホン・イール達と距離をおいた上で、自分の導き出した結論をビューゼリアンに伝える事にする。
「――というわけなので、あそこにいるガランディアはきっと過去の実験で生じた怨念や怒りの集合体に乗っ取られている可能性が高いです」
『なるほど。すでに我にはそのような感情の持ち合わせはなかったから、そこは盲点だったな』
オレにはそういう感情もあるので、あんたの言いぐさはマジでむかつくけど、今は我慢するしかない。
「それで何とか出来ませんか? あなた方が余計な事をしたせいで『あれ』をこの世界に引き入れてしまったんですよ!」
『心外だな。余計な事ではなく、これもまた崇高な実験の結果だと肯定的に受け止めるべきだろう』
肯定どころか、下手をすれば学園全部が高低のない校庭と変わらぬ平地になりかねない事を分ってんのかあんた!
「このままこの学園が破壊されてしまってもいいんですか!」
『我はこの学園の守護精霊だぞ。故にいまこの場で消え去るとしても別に惜しくは無い。だからそなたがもしこの学園を守ってくれると言うなら、喜んで力を貸そう』
これも嘘では無いのだろう。『覚悟』があれば何でも出来るとはよく言われるが、そういう輩こそが、実は一番始末に負えんのは精霊も神も人間も同じである。
こうなったらもうこんなヤツでも頼りにするしか無い。
オレにとって一つでも救いがあるとすれば、それはコイツが本当に力を使い果たして消滅したとしても、こっちの良心が痛まないで済むという事ぐらいだ。
今まで望みもしない相手から力を借りた事は何度もあるけど、出来ればコイツを最後にしてもらいたいものだ。
そんなずれた願いをオレは抱きつつ、暴走するガランディアに向かう事を改めて決意するのだった。
しかしそこでオレの脳裏にはまたしても以前に聞いた事のある『声』が直接響いてきた。
『随分と困った事になったな。まあこうなってしまった以上は仕方ないか』
「え? まさか! ビューゼリアン?!」
そういえばさっきのドサクサで殆どついつい忘れていたが、もともとコイツが全ての元凶だったんだ。
この学園の守護精霊の分際で、こんな破壊の原因を作り出すとは他人事ながら、本当に不逞の輩だな。
しかしガランディアがあんな事になったのにコイツは平気なのか?
『なんだ? ひょっとするとこの我が消えたとでも思っていたのか? あのものについていたのは我のホンの一部に過ぎないと伝えたはずだぞ』
そうか。ガランディアにはあくまでもビューゼリアンは自分の一部を吹き込んで遠隔操作しているだけだと言っていたな。
当然、ガランディアの身がどうなろうがビューゼリアン本体は無事というわけだ。
『とりあえずいま生徒や教師達は避難させている』
「そんなの当たり前でしょうが!」
そもそもこんな事になったのはビューゼリアンがばかげた実験に取り組んだからだろう。
いや。ひょっとするとこのマッドな研究者の精霊は、こんなとんでもない結果になったこともむしろ『予想外の成果』だと喜んでいるかもしれないけどな。
『しかしこのような事になるとはさすがに想定外だったな』
「他人事みたいに言わないで下さいよ! いったい何が原因なんですか?」
『分らん。しかしこのような実験は思わぬ出来事が起きるからこそ、また面白いとも言えまいか?』
「同意を求められても困ります!」
これだけの事態を引き起こし、またオレやガランディアにあんな仕打ちを行いながら、それを気にした様子のないビューゼリアンには半ば呆れつつも、ついつい付き合ってしまっていた。
こんなところがオレのバカなところなんだろうな。
それぐらい分かっているけど、どうしようもないんだよ。
しかしビューゼリアンはこうなった理由が分らないと言っているが、今のガランディアの暴走が、実験で引き出された『名の無きもの』の本性なのか?
いや。それは妙だ。話によれば『名の無きもの』もまた『唯一なるもの』と同様に人間の思考など遙かに超越した存在のはずだ。
その話が本当ならば善悪はもちろん人間的な感情など有しているはずが無い。
当然、怒りや憎悪を発するのはおかしい。
もちろん伝えられている『名の無きもの』のありようと、その実態が全く別物だということは当然あり得る。
しかし先ほど垣間見たガランディアの身に宿っている『何か』が発していたのは、オレにも理解できる、むしろわかりやすい憎悪だった。
これではまるで人間そのもの ―― ああ! そうか! 分ったぞ!
確かにあそこでガランディアを動かしているのは『名の無きもの』なんかじゃない。
いや。ひょっとしたらその力の一端なりを得ているのかもしれないけど、その本質とは全く関係が無い。
ビューゼリアン達の行った実験によって顕れ、ガランディアを乗っ取ったものの正体。それはこれまでの実験で犠牲になった多くの被験者の抱いていた、失望や怨念なんだ。
もちろんその程度で怨念が残っているなら、この世の中は非業の死を遂げた人間の怨念であふれかえっているだろう。
しかしこの学園で過去に行われてきた非道な ―― 恐らくそれを行った連中は自覚していない ―― 実験の積み重ねによってその都度彼らは怨念を補充されるような形となり、その結果としてずっと闇に潜みつつ残ってきたのだろう。
そして今回の実験が『過去の実験を下敷きにしたもの』だったとすれば、必然的に過去の実験の犠牲とも繋がってしまったのではないだろうか。
今のガランディアがさっきの電撃のような、一神教徒が使わない魔法を使用しているのは過去の実験でそういう魔法の使い手も犠牲になっていたからで、そいつの記憶にあった破壊魔法をコピーしているに違いない。
結局のところ『本当に恐ろしいのは神では無く人間』という真理はここでも同じだということかよ!
仮に真実がそうだったとしたら、オレはいったいどうすればいい?
考えるまでも無い。
こんな事になったのはオレの責任ではないどころか、こっちは利用されただけの被害者だ。
ガランディアだってホンのちょっとした知り合いに過ぎないのであって、仮に死んだところでオレは何の損も無い。
そうするとこのまま逃げ出してしまうのが、一番賢明な選択肢というものなんだろうな。
しかしそれが出来れば苦労は無いんだ!
ああそうだよ。オレはバカなんだよ。
だけどここでガランディア達を見捨てて逃げ出したら、たとえこの身が無事だったとしても後で必ず後悔するだろう。
助けても助けなくても後悔するなら、助けて後悔した方がまだマシというものだ。それで後々、ハーレム要員扱いされてしまったとしても、まあそれはそれで仕方ないだろう。
そんなわけでオレは背後でおぼろげに見える、いくつかの閃光を放っているガランディアを決意と共に見据えるのであった。
遠目でガランディアを見る限り、オレの【霊視】ではやはりその全身から凄まじいまでの魔力を放っている。
正直に言えば、実験で魔力を奪われた今のオレよりもずっと上だ ―― つまりこの場で立ち向かうのは自殺行為と言うことになる。
ガランディア本人の意識がどうなっているのかは分らないが、とりあえず無事を祈りつつひとまず距離を置くしか無いだろう。
逃げるのでは無く、ここはあくまでも『戦術的撤退』というヤツだ。
落ち着いたところで改めて対策を考えるしか無い。
そんなわけでどうにかガランディアが見えないところまで、オレと一行は引き下がったが、もちろんそうなるとこっちに矛先が向いてくる事にもなる。
「ちょっとあなた! どういう事になっているのか説明してもらえますか!」
少し離れて落ち着いたところで、アニーラがオレに食い下がってくる。
もちろんスビーリーの方も険しい視線を注いでくるし、ホン・イールはこの後に及んでまだ面白そうにしているようだ。
「細かい話は抜きにしておきますけど、要するにわたしとガランディアを無理矢理に使ってこの学園の教師方が得体の知れない実験を行った結果として、あんな事になってしまったんですよ」
「何ですって? あなたとガランディアが一緒に?」
「いったい何をしたのか、もっと具体的に言いなさい!」
「申し訳ないんですけど、こっちも無理矢理に付き合わされただけなので、詳しい事は分からないんです」
これは嘘ではないけど、隠している点も多々あるので正直に答えたとは言えない。
しかし知っている限りの事を全部話すのはかなり躊躇せざるを得なかった。
何しろ『名の無きもの』に関する考え方もまるでこいつらは違うからな。下手な事を口にしたら、この非常時に余計な口論を始めかねない。
しかしそれで納得してくれるなら苦労は無い。
「それだけではないですね。まだ何かあるでしょう?」
「全部包み隠さず話しなさい!」
「二人ともお待ちなさい」
スビーリーとアニーラの二人は眉をいからせてオレを問い詰めに来るが、ここでホン・イールがオレをかばうように間に割って入ってくる。
「今は緊急時ですから、深入りできない事があるのは仕方ないでしょう。二人ともここは『何があったか』よりも『我々が何をすべきか』を優先しましょう」
「お言葉ですが――」
「まずはガランディア君をどうにかして元に戻す。それがもっとも優先するべきことではないですか?」
ホン・イールのこの言葉に二人は不満げな表情を浮かべつつも、どうにかオレに対する糾弾の矛は収めたようだ。
どうやらこの変態教授にもたまには感謝すべきようだな。
だがやっぱりこの認識は甘かった。
「アルタシャさんだって、やっぱりガランディア君と『男女の仲』になったと、この場では口に出来ないでしょうしね」
なんじゃそりゃ! 男女でチョメチョメした結果、大惨事を引き起こすなんて、いったいどこのエロゲーだよ!
いや。オレは年齢の都合上、一八禁ゲームはやったことないけどね。
とにかくホン・イールになど感謝すべきではなかった!
「ま、ま、まさか本当に? そんなことをガランディアと?!」
「不潔な!」
「全く違いますよ! ホン・イールさんもこの緊急時に馬鹿な事を言わないで下さい!」
オレがどうにか連中を抑えようとしたところで、またしても閃光が走って、校舎に炸裂し、轟音と共に瓦礫が飛び散る。
ファンタジーならこの程度はありがちな破壊力かもしれないけど、オレの感覚ではここまでの物理的な破壊はラマーリア王国以来だな。
幸か不幸か、この一撃でオレの前にいた連中は絶句して、こっちの糾弾をストップしたけど、むしろこの状況をどうにかしてくれるなら、つるし上げでも何でも受けてやりたい気分だよ。
とにかくこうなったら今のオレに出来る事は、不本意でもビューゼリアンに話をつけるしかない。
どうせこいつは研究への執着以外の感情はほとんど無い様子だし、これ以上の被害拡大はさすがに望むまい。
ちくしょう。なんだって一方的に利用されただけのこっちから、学園を救うための話をもちかねばならないんだか。本来はここの守護精霊である、ビューゼリアンがどうかすべき事だろうが。
内心で不満は渦巻きつつも、ひとまずオレはちょっとばかりホン・イール達と距離をおいた上で、自分の導き出した結論をビューゼリアンに伝える事にする。
「――というわけなので、あそこにいるガランディアはきっと過去の実験で生じた怨念や怒りの集合体に乗っ取られている可能性が高いです」
『なるほど。すでに我にはそのような感情の持ち合わせはなかったから、そこは盲点だったな』
オレにはそういう感情もあるので、あんたの言いぐさはマジでむかつくけど、今は我慢するしかない。
「それで何とか出来ませんか? あなた方が余計な事をしたせいで『あれ』をこの世界に引き入れてしまったんですよ!」
『心外だな。余計な事ではなく、これもまた崇高な実験の結果だと肯定的に受け止めるべきだろう』
肯定どころか、下手をすれば学園全部が高低のない校庭と変わらぬ平地になりかねない事を分ってんのかあんた!
「このままこの学園が破壊されてしまってもいいんですか!」
『我はこの学園の守護精霊だぞ。故にいまこの場で消え去るとしても別に惜しくは無い。だからそなたがもしこの学園を守ってくれると言うなら、喜んで力を貸そう』
これも嘘では無いのだろう。『覚悟』があれば何でも出来るとはよく言われるが、そういう輩こそが、実は一番始末に負えんのは精霊も神も人間も同じである。
こうなったらもうこんなヤツでも頼りにするしか無い。
オレにとって一つでも救いがあるとすれば、それはコイツが本当に力を使い果たして消滅したとしても、こっちの良心が痛まないで済むという事ぐらいだ。
今まで望みもしない相手から力を借りた事は何度もあるけど、出来ればコイツを最後にしてもらいたいものだ。
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