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第8章 ライバンス・魔法学院編
第179話 絶体絶命の危機に助けてくれたのは
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オレ達の眼前に現れたガランディアは先ほど見た時と同様、一見すれば無表情ながらその視線には隠しようもない憎悪と憤怒が宿っていた。
「ガランディア君……」
さしものホン・イールも絶句しているらしく、またスビーリーやアニーラはガランディアの姿を目の当たりにしたところで、その身を緊張に固める。
どうやらハーレム要員達もガランディアのまとっている空気が明らかに異質なものだということは感じているらしい。
無防備に抱きしめに行くとか、説得しようと近づくとか、そんなとんでもない事をされるよりはずっとマシなので、ここは敢えて問うまい。
だがそのときガランディアの身から無数の閃光が舞い上がる。
初めて見るタイプの魔法だけどRPGで鍛えた ―― 理屈がおかしい事は分かっている ―― オレの感覚からすると、たぶんあれは【魔法弾】の類いだろう。
さっき【電撃】をオレに消されたので、今度は一つや二つ消されても大丈夫な魔法を放ってきたというわけだ。
ただ暴走しているだけではなく、ちゃんと考えて攻撃しているわけだからつくづく面倒な相手だよ。
しかし幸か不幸か、ホン・イール達を無視して全弾がオレに向かってきているようだ。
ここは【魔法の盾】でたたき込まれた【魔法弾】を防御する。
むう。傍目には結構、格好いい魔法合戦ぽい展開だな。
もっともオレは攻撃魔法が無いし、あってもガランディアを殺すわけにはいかない ―― そういうのって普通ヒロインポジのキャラの役どころじゃないのか、と言いたくもなるがここは我慢するしかないだろう。
それに今は攻撃されたのが、オレ一人だけだったからどうにか防げたけど、他の三人も一緒にまとめて攻撃されていたら、とても防ぎようが無い。
もちろんオレの魔力も不安があるし、そんなわけで長期戦になったら明らかにこっちが不利だ。
そんなわけで速戦即決! 今すぐにケリをつけてやるとも!
ここでオレがガランディアに対して使うのは異世界から来た存在を元の世界に戻す魔法である【追放】だ。
いまガランディアに取り憑いている連中は、もともとはこの世界の住人だったかもしれないが、非道な実験材料にされた挙げ句、異世界にてその怨恨をため込んでいたのが、今回の実験で開いてしまった道を通じてやってきた連中だ。
つまりもう異世界の存在になってしまっていると言える ―― オレ自身にも身につまされる話だけどな。
以前にこの学園で襲撃してきた精霊を撃退出来た事から、効果があるのは間違いないのだが、問題なのは今のオレ自身の魔力でガランディアに取り憑いている相手を『追放』出来るのか、ということだ。
もしも通用しなければそのときは、かなりヤバいどころの騒ぎでは無いが、それはもう考えないことにした。
問題なのはこの魔法を唱えるのには少し時間がかかることだ。
そんなわけでここは不本意ながら役立たずでありかつ、全く信頼出来ないマッドな守護精霊を当てにするしか無い。
「ビューゼリアン。さっきの約束を果たしてもらいますよ!」
『分かっている。それではいくぞ』
あんまり当てにならないビューゼリアンの合図とともに、中空に『大きな袋』とでも言うべきものが姿を顕わして、ガランディアの身体をいきなり包み込む。
おお。以前にオレを襲った精霊のバリエーションみたいだな。
『この精霊は本来は学園内で暴力沙汰を起こしたものを捕縛するための存在だ』
それでオレを捕縛しようとしたのだから、拡大解釈もいいところだな。
まあいい。そのツッコミは後回しだ。
『残念だがこの程度の精霊では長くは持たない――』
ビューゼリアンがそこまで言ったところで、精霊の袋は千切れて粉々になる。
やられるの早っ!
ウルトラ○ブンのカプセル怪獣だってもうちょい善戦してくれるよ!
いや。あの程度の精霊でどうにか出来る相手だったら、こっちだってそんなに苦労してない。
それにせいぜい数秒で粉砕されてしまったけど、それだけの時間があれば十分だよ。
オレは渾身の魔力を込めて、ガランディアに向けて準備していた【追放】をかける。
これが効くかどうかが命の分かれ目だ!
しかしこの時、オレは思わぬ反応に一瞬、呆気にとられる事になる。
あれ ―― 手応えが全く無いぞ。
狙いがはずれるはずが無いのにどうなっているんだ?!
いや。違う! 準備していた【追放】の魔力が全部消えているんだ!
まさか?!
オレが驚愕と共にガンディアを見つめていると、ややぎこちない動きで何かの魔法を放った様子がうかがえた。
ああ! そうか?!
これはオレがさっきガランディアが放とうとしていた【電撃】にかけた【魔力消散】だ!
あいつはそれをコピーして、こっちがかけようとした【追放】にぶつけてきたのか?!
しまったぁ! まさかこんな形でガランディアの魔法コピー能力が使われてしまうとは思ってもみなかった!
何が起きたのか気付いた時にはもうとっくに手遅れだ。
このとき既にガランディアの放った何発もの【魔法弾】が、オレの身に襲いかかっていたのだ。
そして次の瞬間、オレの耳には肉や骨が砕ける音が飛び込み、黄金の髪は飛び散った鮮血で赤く染まった。
この世界に来てから、この身に血を浴びる事は何度もあった。
しかしいまオレが受けた驚愕は多分、その中でも一番だったと思う。
「きょ……教授……」
「なんてことを!」
スビーリーとアニーラが揃って絶句している。
オレ達の前にはその全身に【魔法弾】を浴び、穴だらけになったホン・イールが倒れ伏していた。
なんで? 何が起きた?
もちろん冷静に考えれば明らかなんだけど、まさかホン・イールがこのオレをかばうなんてオレの頭脳がついていけなかったんだ。
だが回復させようと手を伸ばしたところで、こちらの身にも焼け付くような痛みが走る。
ちくしょう! こっちも一発食らっていた! 動けない!
高速回復の魔法をかけていなかったら、下手をすれば致命傷だったかもしれない。
だけどどうしてホン・イールがこんなことを?
「なぜ……あなたが?」
「綺麗な身体のままで逝けるから……あなたは悲しまないで……」
おい! あんたは勝手に満足している ―― なんてことはないだろうけど ―― 盾になって逝かれたらこっちがたまったもんじゃないんだよ!
どうしてオレをかばったんだ? 貴重な実験素材だったからなのか?
それとも今になって良心に目覚めたのか?
いや。今はそんな事を考えている場合じゃ無い。
とにかく治療せねばならない!
だがオレが痛みを堪えて手を伸ばしたとき、改めてガランディアから凄まじい衝撃波とでも言うべきものが放たれて、ホン・イールの前で動きを止めていたこちらは揃って吹っ飛ばされた。
うぐう。鈍い苦痛を受けてオレは意識を取り戻す。
オレが意識を失っていたのはどれぐらいだろうか。
たぶん数秒かそこらだったはずだが、その間に攻撃されなかったのは不幸中の幸いか。
しかし。これはヤバすぎる。
乾坤一擲の【追放】を消されたおかげで、こっちの魔力は殆ど残ってない上に身体もボロボロだ。
高速回復を覚えていなかったら本当に動く事も出来なかっただろう ―― そういう意味では、オレに魔法を教えてくれたケノビウスに少しだけありがたく思うとしよう。
それはともかく第一の心配はホン・イールの事だ。いくら医学は素人でもあの傷が致命傷だって事ぐらいは見当がつく。
まあホン・イールも一神教徒だから高速回復の魔法が使えるのなら、どうにか助かったかもしれないがそれは現時点ではこちらには分からない。
そして何よりも残念だがオレには回復魔法はあっても蘇生魔法は無いのだ。もし彼女が亡くなっていたら、もう取り返しがつかない。
今まで散々、内心で罵ってきたけど、最後の最後でオレをかばってくれた事には大いに感謝しているよ。
とりあえず今は助けてもらった命を有効活用する以外にオレの選択肢は無い。
元の世界にいたときだったら、きっとパニックに陥るか卒倒していただろうけど、今のオレはどうにか生き抜いてこの危機を乗り切る事しか考えられないのだ。
そう思って起き上がろうとすると、その手に柔らかい感触が。
げえ! よくよく見るとそこに斃れていたのはスビーリーだ。
周囲に広がっている流血を見る限り、ほぼ致命傷なのは間違いない。
先日『乾物男』に襲撃された時にはアニーラが大けがしていたのをオレが治療したけど、今はこっちを手当するしかない。
オレはひとまず【応急手当】でスビーリーの傷を塞ぎ、血を止める。
残念ながら今はこれ以上の事をやっていられる時間は無い。
そしてどうにか起き上がって周囲を見回したところで ―― オレは戦慄のあまり動きを止めた。
これがオレの眼前にガランディアがいて、こちらを攻撃しようとしていたというのだったら、正直に言って戦慄まではしなかったと思う。
このときガランディアは自分の傍らに斃れ、苦痛でうめいていたアニーラに向けてゆっくりと歩んでいたのだ。
間違いなく今まさにトドメを刺そうという雰囲気だった。
あのスケベながらも誠実だったガランディアの意識など残っていないのか。
クソ! ハーレム野郎なんだからこういうときは、何とか自我を呼び戻して攻撃を躊躇するもんじゃないのかよ!
まあ普通のRPGではいったん悪霊に取り憑かれただの、魔法で支配されただのしたら、その状態が解けるまで正気に戻ってくれたりしないから、こっちの方が当たり前なのか。
期待をかけていた【追放】が通用しなかった以上は、もうこっちには現時点で打つ手は無い。このままアニーラが殺されている間に、オレはさっさと逃げ出すべきなのか。
そんなわけにいくか!
「ガランディア! こっちに来なさい!」
オレは立ち上がって、声を挙げつつ挑発すると相手もこちらに向きを変えたので、それを確認したところで全力疾走する。
あちこち痛むけど、それでもどうにか動けるのも【筋力強化】の魔法のお陰だ。
しかしそれでも逃げ切れるもんじゃないのは分かっている。
オマケに他の生徒達を巻き込む訳にいかないから、逃げるところも限定されてくるわけで、つくづく八方ふさがりだ。
だがこの時、こっちの意識にあんまり聞きたくも無い言葉が、安心させるように飛んでくる。
『案じるな。この我がどうにかしよう』
うう。ビューゼリアンなどまるで当てにしたくないのだが、先ほどホン・イールが命を賭けて助けてくれたのだ。
ここはこんな奴の助けでも喜んで受けるしかない。
文句は全部後で受けてやるさ!
「ガランディア君……」
さしものホン・イールも絶句しているらしく、またスビーリーやアニーラはガランディアの姿を目の当たりにしたところで、その身を緊張に固める。
どうやらハーレム要員達もガランディアのまとっている空気が明らかに異質なものだということは感じているらしい。
無防備に抱きしめに行くとか、説得しようと近づくとか、そんなとんでもない事をされるよりはずっとマシなので、ここは敢えて問うまい。
だがそのときガランディアの身から無数の閃光が舞い上がる。
初めて見るタイプの魔法だけどRPGで鍛えた ―― 理屈がおかしい事は分かっている ―― オレの感覚からすると、たぶんあれは【魔法弾】の類いだろう。
さっき【電撃】をオレに消されたので、今度は一つや二つ消されても大丈夫な魔法を放ってきたというわけだ。
ただ暴走しているだけではなく、ちゃんと考えて攻撃しているわけだからつくづく面倒な相手だよ。
しかし幸か不幸か、ホン・イール達を無視して全弾がオレに向かってきているようだ。
ここは【魔法の盾】でたたき込まれた【魔法弾】を防御する。
むう。傍目には結構、格好いい魔法合戦ぽい展開だな。
もっともオレは攻撃魔法が無いし、あってもガランディアを殺すわけにはいかない ―― そういうのって普通ヒロインポジのキャラの役どころじゃないのか、と言いたくもなるがここは我慢するしかないだろう。
それに今は攻撃されたのが、オレ一人だけだったからどうにか防げたけど、他の三人も一緒にまとめて攻撃されていたら、とても防ぎようが無い。
もちろんオレの魔力も不安があるし、そんなわけで長期戦になったら明らかにこっちが不利だ。
そんなわけで速戦即決! 今すぐにケリをつけてやるとも!
ここでオレがガランディアに対して使うのは異世界から来た存在を元の世界に戻す魔法である【追放】だ。
いまガランディアに取り憑いている連中は、もともとはこの世界の住人だったかもしれないが、非道な実験材料にされた挙げ句、異世界にてその怨恨をため込んでいたのが、今回の実験で開いてしまった道を通じてやってきた連中だ。
つまりもう異世界の存在になってしまっていると言える ―― オレ自身にも身につまされる話だけどな。
以前にこの学園で襲撃してきた精霊を撃退出来た事から、効果があるのは間違いないのだが、問題なのは今のオレ自身の魔力でガランディアに取り憑いている相手を『追放』出来るのか、ということだ。
もしも通用しなければそのときは、かなりヤバいどころの騒ぎでは無いが、それはもう考えないことにした。
問題なのはこの魔法を唱えるのには少し時間がかかることだ。
そんなわけでここは不本意ながら役立たずでありかつ、全く信頼出来ないマッドな守護精霊を当てにするしか無い。
「ビューゼリアン。さっきの約束を果たしてもらいますよ!」
『分かっている。それではいくぞ』
あんまり当てにならないビューゼリアンの合図とともに、中空に『大きな袋』とでも言うべきものが姿を顕わして、ガランディアの身体をいきなり包み込む。
おお。以前にオレを襲った精霊のバリエーションみたいだな。
『この精霊は本来は学園内で暴力沙汰を起こしたものを捕縛するための存在だ』
それでオレを捕縛しようとしたのだから、拡大解釈もいいところだな。
まあいい。そのツッコミは後回しだ。
『残念だがこの程度の精霊では長くは持たない――』
ビューゼリアンがそこまで言ったところで、精霊の袋は千切れて粉々になる。
やられるの早っ!
ウルトラ○ブンのカプセル怪獣だってもうちょい善戦してくれるよ!
いや。あの程度の精霊でどうにか出来る相手だったら、こっちだってそんなに苦労してない。
それにせいぜい数秒で粉砕されてしまったけど、それだけの時間があれば十分だよ。
オレは渾身の魔力を込めて、ガランディアに向けて準備していた【追放】をかける。
これが効くかどうかが命の分かれ目だ!
しかしこの時、オレは思わぬ反応に一瞬、呆気にとられる事になる。
あれ ―― 手応えが全く無いぞ。
狙いがはずれるはずが無いのにどうなっているんだ?!
いや。違う! 準備していた【追放】の魔力が全部消えているんだ!
まさか?!
オレが驚愕と共にガンディアを見つめていると、ややぎこちない動きで何かの魔法を放った様子がうかがえた。
ああ! そうか?!
これはオレがさっきガランディアが放とうとしていた【電撃】にかけた【魔力消散】だ!
あいつはそれをコピーして、こっちがかけようとした【追放】にぶつけてきたのか?!
しまったぁ! まさかこんな形でガランディアの魔法コピー能力が使われてしまうとは思ってもみなかった!
何が起きたのか気付いた時にはもうとっくに手遅れだ。
このとき既にガランディアの放った何発もの【魔法弾】が、オレの身に襲いかかっていたのだ。
そして次の瞬間、オレの耳には肉や骨が砕ける音が飛び込み、黄金の髪は飛び散った鮮血で赤く染まった。
この世界に来てから、この身に血を浴びる事は何度もあった。
しかしいまオレが受けた驚愕は多分、その中でも一番だったと思う。
「きょ……教授……」
「なんてことを!」
スビーリーとアニーラが揃って絶句している。
オレ達の前にはその全身に【魔法弾】を浴び、穴だらけになったホン・イールが倒れ伏していた。
なんで? 何が起きた?
もちろん冷静に考えれば明らかなんだけど、まさかホン・イールがこのオレをかばうなんてオレの頭脳がついていけなかったんだ。
だが回復させようと手を伸ばしたところで、こちらの身にも焼け付くような痛みが走る。
ちくしょう! こっちも一発食らっていた! 動けない!
高速回復の魔法をかけていなかったら、下手をすれば致命傷だったかもしれない。
だけどどうしてホン・イールがこんなことを?
「なぜ……あなたが?」
「綺麗な身体のままで逝けるから……あなたは悲しまないで……」
おい! あんたは勝手に満足している ―― なんてことはないだろうけど ―― 盾になって逝かれたらこっちがたまったもんじゃないんだよ!
どうしてオレをかばったんだ? 貴重な実験素材だったからなのか?
それとも今になって良心に目覚めたのか?
いや。今はそんな事を考えている場合じゃ無い。
とにかく治療せねばならない!
だがオレが痛みを堪えて手を伸ばしたとき、改めてガランディアから凄まじい衝撃波とでも言うべきものが放たれて、ホン・イールの前で動きを止めていたこちらは揃って吹っ飛ばされた。
うぐう。鈍い苦痛を受けてオレは意識を取り戻す。
オレが意識を失っていたのはどれぐらいだろうか。
たぶん数秒かそこらだったはずだが、その間に攻撃されなかったのは不幸中の幸いか。
しかし。これはヤバすぎる。
乾坤一擲の【追放】を消されたおかげで、こっちの魔力は殆ど残ってない上に身体もボロボロだ。
高速回復を覚えていなかったら本当に動く事も出来なかっただろう ―― そういう意味では、オレに魔法を教えてくれたケノビウスに少しだけありがたく思うとしよう。
それはともかく第一の心配はホン・イールの事だ。いくら医学は素人でもあの傷が致命傷だって事ぐらいは見当がつく。
まあホン・イールも一神教徒だから高速回復の魔法が使えるのなら、どうにか助かったかもしれないがそれは現時点ではこちらには分からない。
そして何よりも残念だがオレには回復魔法はあっても蘇生魔法は無いのだ。もし彼女が亡くなっていたら、もう取り返しがつかない。
今まで散々、内心で罵ってきたけど、最後の最後でオレをかばってくれた事には大いに感謝しているよ。
とりあえず今は助けてもらった命を有効活用する以外にオレの選択肢は無い。
元の世界にいたときだったら、きっとパニックに陥るか卒倒していただろうけど、今のオレはどうにか生き抜いてこの危機を乗り切る事しか考えられないのだ。
そう思って起き上がろうとすると、その手に柔らかい感触が。
げえ! よくよく見るとそこに斃れていたのはスビーリーだ。
周囲に広がっている流血を見る限り、ほぼ致命傷なのは間違いない。
先日『乾物男』に襲撃された時にはアニーラが大けがしていたのをオレが治療したけど、今はこっちを手当するしかない。
オレはひとまず【応急手当】でスビーリーの傷を塞ぎ、血を止める。
残念ながら今はこれ以上の事をやっていられる時間は無い。
そしてどうにか起き上がって周囲を見回したところで ―― オレは戦慄のあまり動きを止めた。
これがオレの眼前にガランディアがいて、こちらを攻撃しようとしていたというのだったら、正直に言って戦慄まではしなかったと思う。
このときガランディアは自分の傍らに斃れ、苦痛でうめいていたアニーラに向けてゆっくりと歩んでいたのだ。
間違いなく今まさにトドメを刺そうという雰囲気だった。
あのスケベながらも誠実だったガランディアの意識など残っていないのか。
クソ! ハーレム野郎なんだからこういうときは、何とか自我を呼び戻して攻撃を躊躇するもんじゃないのかよ!
まあ普通のRPGではいったん悪霊に取り憑かれただの、魔法で支配されただのしたら、その状態が解けるまで正気に戻ってくれたりしないから、こっちの方が当たり前なのか。
期待をかけていた【追放】が通用しなかった以上は、もうこっちには現時点で打つ手は無い。このままアニーラが殺されている間に、オレはさっさと逃げ出すべきなのか。
そんなわけにいくか!
「ガランディア! こっちに来なさい!」
オレは立ち上がって、声を挙げつつ挑発すると相手もこちらに向きを変えたので、それを確認したところで全力疾走する。
あちこち痛むけど、それでもどうにか動けるのも【筋力強化】の魔法のお陰だ。
しかしそれでも逃げ切れるもんじゃないのは分かっている。
オマケに他の生徒達を巻き込む訳にいかないから、逃げるところも限定されてくるわけで、つくづく八方ふさがりだ。
だがこの時、こっちの意識にあんまり聞きたくも無い言葉が、安心させるように飛んでくる。
『案じるな。この我がどうにかしよう』
うう。ビューゼリアンなどまるで当てにしたくないのだが、先ほどホン・イールが命を賭けて助けてくれたのだ。
ここはこんな奴の助けでも喜んで受けるしかない。
文句は全部後で受けてやるさ!
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