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第8章 ライバンス・魔法学院編
第180話 土壇場で救いをもたらしたのは
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オレは思わぬビューゼリアンからの助けの声についつい困惑の声をもらす。
「え? あなたが?」
『心外だな。この我はこの学園の守護精霊だぞ。当然、ここを守るのが我の役目だ』
そもそもの元凶があんただろうが!
自分のせいでこんなことになったと自覚しているのか?
それとも相変わらず鉄面皮なだけなのか?
しかし今は口論している場合では無い。
ガランディアがゆっくりとだが確実にオレを追い詰めつつあるのだ。
即座に行動してこないのは、たぶんオレが何度か『あれ』の攻撃を凌いだので、慎重になっているだけだろう。
「いったい何をするんですか?」
『先ほどあのものに我の一部を送り込んで動かしていたと言ったな。そしてその一部は今でも残ってはいるのだ』
仮にその通りだとしても、今は怨霊に完全に身体を奪われているじゃ無いか。
ガランディアを自爆させるなどという話を受け入れるわけにもいかないし、どうするつもりなんだ?
『我の力を改めて注ぎ込む。そうすれば一時だけでもあの身の制御を奪えるかもしれない』
「それはいったいどれぐらいですか?」
『もう我もかなり衰えておる。先ほどの実験に力を注ぎ込んでしまった上に、我が身そのものであるこの学園が大混乱に陥っているからな。故に全力を注ぎ込んでも心臓が十かそこら打つ間だけだろう』
自分が犠牲者みたいな事を言っているが、そもそも諸悪の根源があんただからな。
「もうそれでいいです! 早くやって下さい」
『分かった。それではいくぞ』
ビューゼリアンの合図と同時にガランディアの憎悪のこもった視線に、僅かながら苦しみの色が宿る。
もちろんガランディア本人が苦しんでいるのでは無く、その内部に巣くっている存在同士が争っているのだ。
こういうときこそガランディアが覚醒して、自分の身を取り戻すべき場面だが、そうなっていない事は勘弁しよう。
今度こそこれが最後のチャンスだろう。
これでしくじればオレだけで無くガランディアや他の連中もおしまいだ。
オレは文字通り最後の力を振り絞って【追放】をガランディアにかける。
するとオレの【霊視】で拡大された感覚では、ガランディアの身体から、煙のごとく立ち上りかき消える幾つかの霊体が目に映る。
おお。どうやら本当に効果があったようだ。
そしてその全身から憤怒と憎悪をたぎらせていたガランディアも、糸の切れた人形のごとく動きを止める。
通用しなかったらどうしようかと思っていたが、効果があったことでオレはどうにか息をつくことができた。
ただしまだ力尽きるわけにはいかない。
オレをかばって致命傷を受けたホン・イールを探して、もしも息があればなんとかして回復させねばならないのだ。
とにかく今はガランディアの様子を確認して ―― あれ?
まだ立ちすくんだままで、しかもその身から発する霊体のオーラの色が奇妙にくすみ。そして乱れている。
まさか?! まだ残っている?
オレが驚愕していると、ガランディアの唇がわななき、力なく言葉が漏れる。
「アルタシャ……逃げてくれ……」
ガランディアは自由にならない身体から、どうにか絞り出すようにオレに逃げるよう訴える。
いったい何が起きている ―― ああそうか!
あの怨霊達は単体じゃなかったんだ。
あれがこの学園で過去、数百年に渡って積み重ねられた結果として生まれた怨霊の群れだったとしたら、ひとかたまりとして行動してガランディアを乗っ取ったいわば『群体』のような存在だったに違いない。
オレが放ったさっきの【追放】で幾ばくかは追い払われたが、完全に消えたわけではないのだろう。
ある程度までガランディアの意識が復活したかもしれないけど、それでもまだ身体を取り戻す程には至っていないんだ。
ええい。畜生。
どうすんだこれ!
ビューゼリアンよ。どうにか出来ないのか!
『……』
返事が無い。ただの屍のようだ。
違うだろ! まさか今度こそあの無能マッド精霊は力尽きてしまったのか?
あ? それともまさかオレの【追放】でビューゼリアンも怨霊達と一緒にこの世界から消えてしまったのか?
あいつがこの世を去っても、まるで良心は痛まないが、それでもせめて最後まで後始末してからいなくなってくれ!
もうオレの魔力はすっからかんだ。信徒達から魔力を引き出しても、オレ自身の魔力が残っていないと、取り憑いている連中を払う事は出来ない。
ここまで来たらガランディアの意識を取り戻させるためなら、キスでも裸踊りでもやってやる覚悟だけどどう考えても、それでどうにかなるんだったらとっくにケリがついているだろう。
何か? 何か残っている手はないのか?
もう出来る事があるなら、誰の助けでも受けてやるから!
『それではよろしいのですか?』
「え? まさか?!」
『あなたの方からわたくしに助けを求めるのは久しぶりですね』
またしても聞きたくも無い声が、オレの脳裏に響いてくる。
ここまで回数を重ねればオレだって、すぐに分かるよ。我が守護女神イロールが語りかけてきたんだ。
ああ『言葉で無く、心で語れ』なんてよく言われるけど、つくづく実際に心に語りかけてくる相手にはロクなのがいないな!
しかし今はこの状況を打開できるなら裸踊りでもする覚悟だったんだ。
だけど待てよ。確かこの女神は以前に『自分は治癒の権能を通じてしか助力できない』と明言していたな。
いまオレを治癒してもらったって殆ど意味無いんですけど!
ぶっちゃけさっきのビューゼリアンよりもよっぽど頼りになる気がしません!
しかしそれでもオレは脳裏に浮かんだ、女神の頬笑みにすがるしかない状況だったのだ。
ビューゼリアンが力尽きたと思ったら、今度はイロールが手助けしてくれるって?
守護精霊の次は女神様が手助けとは、ちょっとやそっとのヒロイックファンタジーでも見かけない豪華絢爛たる援軍のはず何だけど、丸っきりありがたみを感じないのは、オレが恩知らずだからでは無いはずだ。
本人 ―― というか本神か ―― は知らないと言い張っているが、そもそもオレを女に変えた元凶である以上、手助けを受けるのは躊躇せざるを得ない。
しかしここで中途半端なままで終わらせるわけにはいかないのだ。
『大丈夫です。こうなったなら、このわたくしにその身をゆだねなさい』
「……」
オレを安心させるように女神は話しかけてくるんだけど、とてもそれを鵜呑みには出来ないよ。
しかし拒否するという選択肢も存在しない。ぶっちゃけオレにはもはやこの女神にすがるしかないのだ。
つくづく『困った時の神頼み』そのものだな。
だが自分でも宗教的無節操を自認しているから、別に恥じてはいないさ。
「分かりました。何でもいいですから力を貸して下さい」
オレのこの返答を受けて、イロールは苦笑を浮かべる。
『わたくしの助力に対して、そんな返答をしてきた相手は、神になってから初めてですよ』
そりゃそうだろ。あんたの信徒なら感謝感激して一も二も無く受け入れるだろうし、一神教徒はあんたに助力なんか頼まない。
だけどオレにとってあんたに助力を頼むのは、もう八方ふさがりに追い込まれた文字通り『最後の手段』なんですよ。
『しかしそれでもあなたはわたくしの望む道を忠実に進んでいます。きっとあなたの進んだ道の後には、模範として続く者が次々に現れ、多くの人々の救いとなるでしょう』
だからそんな称賛なんてとっとと消散して欲しいのですけど。
「とにかく話は後にして下さい」
『あなたには前に伝えたはずですが、神は己の権能を通じてしか世界に関わる事は出来ません。故に直接あなたに手助けをする事は出来ないのです。本来ならば――』
「それはつまり何か裏技でもあって、この状況を打開できる助力が出来るということなんですよね?」
『もちろんです。しかしそれを行うには、あなたが今以上にこのわたくしを受け入れる必要があります』
「……」
なんですか。その悪魔の囁きは。
いや。ついさっきこの場を切り抜けられるなら、猫の手どころか悪魔の手でも借りたいとは思っていたんだ。
ついでに言えば、今さらこのバカ女神の助力について何を躊躇しているのか、という意識がオレの心の片隅にもあった事は否定出来ない。
「分かりました。あなたの力を受け入れます」
『よろしいでしょう』
どこか満足げにイロールは微笑んだ気がする。
ひょっとしてこいつもまた、言うことをなかなか聞かないオレを屈服させる機会をうかがっていたりするのか?
いや。もういまさら疑ったって仕方が無い。
オレが諦め半分で女神に従う決意をした瞬間、この身が一気に爆ぜた。
な? 何が起きたんだ?
一瞬だがオレの視界はまばゆい光に覆われ、それが収まった時にはこの身体からは力がみなぎり、それまでの疲労感や苦痛も全てぬぐい去られたように消えていた。
そしてすぐに言葉に出来ないいろいろな違和感に圧倒される形で、オレは正直に言って動揺していた。
しかし今は自分の身について細かく考えている状況などではない。
オレがやるべきは、目の前で苦しんでいるガランディアを救う事なのだ。
そして改めて【追放】をかける。
すると先ほどまでの苦労がどこにいったのか、あっという間にガランディアに取り憑いていたもの達はぬぐい去られたかのように消えていく。
『お……おのれ……よくも……』
『我らの無念を……』
『お前も我らと同じではないか……なぜ邪魔をする……』
あんたらの気持ちは分かるよ。大半はオレやガランディア同様、理不尽に捕らえられてマッドな実験の犠牲にされたんだろうからな。
何百年もそれが積み重ねられた結果があんた達である以上、それがガランディアの身を確保した事で復讐に走る気持ちは分かるさ。
しかしもうあんた達はこの世界の住民じゃないんだ。オレの『追放』で払われるのが何よりの証拠なんだよ。
だから悪いけどこのまま去ってくれ。
ここにはもう居場所なんてないんだよ。
『こうなったらお前の身を我らのものに……』
ガランディアから引きはがされた一部がこちらに迫ってくるが、オレの身にまとわりついたところでまるで煙のごとくかき消える。
今のオレの身に宿る力は、既に残滓に過ぎない彼らの思念など塵芥同然だった。
あれ?
だがここで己の身を見下ろしたオレは先ほどからの違和感の正体に気付く。
いつの間にかオレの胸が大きくなっているぞ。
いや。違う。変わったのは胸だけじゃ無い。
元から長かった髪だけど、更にボリュームが増えた感覚がする。
手足も伸びて等身が大きくなった気がするし、背が高くなったのか見えている景色が微妙に異なっているんだ。
推測だけど今のオレはさきほどまでの十代半ば過ぎだった少女の身体から急速に成長して、今では二十代前半ぐらいの女性になっているみたいだ。
いったい何が起きたんだ?
これまでの度重なる出来事で、いい加減に異常事態には耐性がついていると思っていたんだけど、それはちょっと甘かったようだ。
「え? あなたが?」
『心外だな。この我はこの学園の守護精霊だぞ。当然、ここを守るのが我の役目だ』
そもそもの元凶があんただろうが!
自分のせいでこんなことになったと自覚しているのか?
それとも相変わらず鉄面皮なだけなのか?
しかし今は口論している場合では無い。
ガランディアがゆっくりとだが確実にオレを追い詰めつつあるのだ。
即座に行動してこないのは、たぶんオレが何度か『あれ』の攻撃を凌いだので、慎重になっているだけだろう。
「いったい何をするんですか?」
『先ほどあのものに我の一部を送り込んで動かしていたと言ったな。そしてその一部は今でも残ってはいるのだ』
仮にその通りだとしても、今は怨霊に完全に身体を奪われているじゃ無いか。
ガランディアを自爆させるなどという話を受け入れるわけにもいかないし、どうするつもりなんだ?
『我の力を改めて注ぎ込む。そうすれば一時だけでもあの身の制御を奪えるかもしれない』
「それはいったいどれぐらいですか?」
『もう我もかなり衰えておる。先ほどの実験に力を注ぎ込んでしまった上に、我が身そのものであるこの学園が大混乱に陥っているからな。故に全力を注ぎ込んでも心臓が十かそこら打つ間だけだろう』
自分が犠牲者みたいな事を言っているが、そもそも諸悪の根源があんただからな。
「もうそれでいいです! 早くやって下さい」
『分かった。それではいくぞ』
ビューゼリアンの合図と同時にガランディアの憎悪のこもった視線に、僅かながら苦しみの色が宿る。
もちろんガランディア本人が苦しんでいるのでは無く、その内部に巣くっている存在同士が争っているのだ。
こういうときこそガランディアが覚醒して、自分の身を取り戻すべき場面だが、そうなっていない事は勘弁しよう。
今度こそこれが最後のチャンスだろう。
これでしくじればオレだけで無くガランディアや他の連中もおしまいだ。
オレは文字通り最後の力を振り絞って【追放】をガランディアにかける。
するとオレの【霊視】で拡大された感覚では、ガランディアの身体から、煙のごとく立ち上りかき消える幾つかの霊体が目に映る。
おお。どうやら本当に効果があったようだ。
そしてその全身から憤怒と憎悪をたぎらせていたガランディアも、糸の切れた人形のごとく動きを止める。
通用しなかったらどうしようかと思っていたが、効果があったことでオレはどうにか息をつくことができた。
ただしまだ力尽きるわけにはいかない。
オレをかばって致命傷を受けたホン・イールを探して、もしも息があればなんとかして回復させねばならないのだ。
とにかく今はガランディアの様子を確認して ―― あれ?
まだ立ちすくんだままで、しかもその身から発する霊体のオーラの色が奇妙にくすみ。そして乱れている。
まさか?! まだ残っている?
オレが驚愕していると、ガランディアの唇がわななき、力なく言葉が漏れる。
「アルタシャ……逃げてくれ……」
ガランディアは自由にならない身体から、どうにか絞り出すようにオレに逃げるよう訴える。
いったい何が起きている ―― ああそうか!
あの怨霊達は単体じゃなかったんだ。
あれがこの学園で過去、数百年に渡って積み重ねられた結果として生まれた怨霊の群れだったとしたら、ひとかたまりとして行動してガランディアを乗っ取ったいわば『群体』のような存在だったに違いない。
オレが放ったさっきの【追放】で幾ばくかは追い払われたが、完全に消えたわけではないのだろう。
ある程度までガランディアの意識が復活したかもしれないけど、それでもまだ身体を取り戻す程には至っていないんだ。
ええい。畜生。
どうすんだこれ!
ビューゼリアンよ。どうにか出来ないのか!
『……』
返事が無い。ただの屍のようだ。
違うだろ! まさか今度こそあの無能マッド精霊は力尽きてしまったのか?
あ? それともまさかオレの【追放】でビューゼリアンも怨霊達と一緒にこの世界から消えてしまったのか?
あいつがこの世を去っても、まるで良心は痛まないが、それでもせめて最後まで後始末してからいなくなってくれ!
もうオレの魔力はすっからかんだ。信徒達から魔力を引き出しても、オレ自身の魔力が残っていないと、取り憑いている連中を払う事は出来ない。
ここまで来たらガランディアの意識を取り戻させるためなら、キスでも裸踊りでもやってやる覚悟だけどどう考えても、それでどうにかなるんだったらとっくにケリがついているだろう。
何か? 何か残っている手はないのか?
もう出来る事があるなら、誰の助けでも受けてやるから!
『それではよろしいのですか?』
「え? まさか?!」
『あなたの方からわたくしに助けを求めるのは久しぶりですね』
またしても聞きたくも無い声が、オレの脳裏に響いてくる。
ここまで回数を重ねればオレだって、すぐに分かるよ。我が守護女神イロールが語りかけてきたんだ。
ああ『言葉で無く、心で語れ』なんてよく言われるけど、つくづく実際に心に語りかけてくる相手にはロクなのがいないな!
しかし今はこの状況を打開できるなら裸踊りでもする覚悟だったんだ。
だけど待てよ。確かこの女神は以前に『自分は治癒の権能を通じてしか助力できない』と明言していたな。
いまオレを治癒してもらったって殆ど意味無いんですけど!
ぶっちゃけさっきのビューゼリアンよりもよっぽど頼りになる気がしません!
しかしそれでもオレは脳裏に浮かんだ、女神の頬笑みにすがるしかない状況だったのだ。
ビューゼリアンが力尽きたと思ったら、今度はイロールが手助けしてくれるって?
守護精霊の次は女神様が手助けとは、ちょっとやそっとのヒロイックファンタジーでも見かけない豪華絢爛たる援軍のはず何だけど、丸っきりありがたみを感じないのは、オレが恩知らずだからでは無いはずだ。
本人 ―― というか本神か ―― は知らないと言い張っているが、そもそもオレを女に変えた元凶である以上、手助けを受けるのは躊躇せざるを得ない。
しかしここで中途半端なままで終わらせるわけにはいかないのだ。
『大丈夫です。こうなったなら、このわたくしにその身をゆだねなさい』
「……」
オレを安心させるように女神は話しかけてくるんだけど、とてもそれを鵜呑みには出来ないよ。
しかし拒否するという選択肢も存在しない。ぶっちゃけオレにはもはやこの女神にすがるしかないのだ。
つくづく『困った時の神頼み』そのものだな。
だが自分でも宗教的無節操を自認しているから、別に恥じてはいないさ。
「分かりました。何でもいいですから力を貸して下さい」
オレのこの返答を受けて、イロールは苦笑を浮かべる。
『わたくしの助力に対して、そんな返答をしてきた相手は、神になってから初めてですよ』
そりゃそうだろ。あんたの信徒なら感謝感激して一も二も無く受け入れるだろうし、一神教徒はあんたに助力なんか頼まない。
だけどオレにとってあんたに助力を頼むのは、もう八方ふさがりに追い込まれた文字通り『最後の手段』なんですよ。
『しかしそれでもあなたはわたくしの望む道を忠実に進んでいます。きっとあなたの進んだ道の後には、模範として続く者が次々に現れ、多くの人々の救いとなるでしょう』
だからそんな称賛なんてとっとと消散して欲しいのですけど。
「とにかく話は後にして下さい」
『あなたには前に伝えたはずですが、神は己の権能を通じてしか世界に関わる事は出来ません。故に直接あなたに手助けをする事は出来ないのです。本来ならば――』
「それはつまり何か裏技でもあって、この状況を打開できる助力が出来るということなんですよね?」
『もちろんです。しかしそれを行うには、あなたが今以上にこのわたくしを受け入れる必要があります』
「……」
なんですか。その悪魔の囁きは。
いや。ついさっきこの場を切り抜けられるなら、猫の手どころか悪魔の手でも借りたいとは思っていたんだ。
ついでに言えば、今さらこのバカ女神の助力について何を躊躇しているのか、という意識がオレの心の片隅にもあった事は否定出来ない。
「分かりました。あなたの力を受け入れます」
『よろしいでしょう』
どこか満足げにイロールは微笑んだ気がする。
ひょっとしてこいつもまた、言うことをなかなか聞かないオレを屈服させる機会をうかがっていたりするのか?
いや。もういまさら疑ったって仕方が無い。
オレが諦め半分で女神に従う決意をした瞬間、この身が一気に爆ぜた。
な? 何が起きたんだ?
一瞬だがオレの視界はまばゆい光に覆われ、それが収まった時にはこの身体からは力がみなぎり、それまでの疲労感や苦痛も全てぬぐい去られたように消えていた。
そしてすぐに言葉に出来ないいろいろな違和感に圧倒される形で、オレは正直に言って動揺していた。
しかし今は自分の身について細かく考えている状況などではない。
オレがやるべきは、目の前で苦しんでいるガランディアを救う事なのだ。
そして改めて【追放】をかける。
すると先ほどまでの苦労がどこにいったのか、あっという間にガランディアに取り憑いていたもの達はぬぐい去られたかのように消えていく。
『お……おのれ……よくも……』
『我らの無念を……』
『お前も我らと同じではないか……なぜ邪魔をする……』
あんたらの気持ちは分かるよ。大半はオレやガランディア同様、理不尽に捕らえられてマッドな実験の犠牲にされたんだろうからな。
何百年もそれが積み重ねられた結果があんた達である以上、それがガランディアの身を確保した事で復讐に走る気持ちは分かるさ。
しかしもうあんた達はこの世界の住民じゃないんだ。オレの『追放』で払われるのが何よりの証拠なんだよ。
だから悪いけどこのまま去ってくれ。
ここにはもう居場所なんてないんだよ。
『こうなったらお前の身を我らのものに……』
ガランディアから引きはがされた一部がこちらに迫ってくるが、オレの身にまとわりついたところでまるで煙のごとくかき消える。
今のオレの身に宿る力は、既に残滓に過ぎない彼らの思念など塵芥同然だった。
あれ?
だがここで己の身を見下ろしたオレは先ほどからの違和感の正体に気付く。
いつの間にかオレの胸が大きくなっているぞ。
いや。違う。変わったのは胸だけじゃ無い。
元から長かった髪だけど、更にボリュームが増えた感覚がする。
手足も伸びて等身が大きくなった気がするし、背が高くなったのか見えている景色が微妙に異なっているんだ。
推測だけど今のオレはさきほどまでの十代半ば過ぎだった少女の身体から急速に成長して、今では二十代前半ぐらいの女性になっているみたいだ。
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