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第9章 『思想の神』と『英雄』編
第216話 導き出した真相は?
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対岸にたどり着いた時、既に日は暮れかけていてかなり薄暗くなっていた。
そして船が岸にたどり着き、船底に石が当たる音がしたところで、エウスブスは力尽きたように崩れる。
「ぜえぜえ……さすがに疲れたよ」
「大丈夫ですか? そんなにお疲れでしたら、今日は野宿しましょう」
ひとりでフェルスター湖を漕ぎきったエウスブスは疲れ切っている。
これでも湖の中を漕いでいる最中に何度もオレが【疲労回復】をかけて元気になってもらい、こすれた傷は【応急手当】で治し続けたのだけど、さすがにほぼ丸半日、休み無く、慣れない船を漕ぐ疲労を完全に回復させるのは難しかった。
そうはいっても湖の上、小舟で一泊というのは避けたかったから ―― こんな世界ではどんなモンスターに襲撃されるか分かったもんじゃない ―― 頑張ってくれたエウスブスには頭が下がる。
「そうだね。一刻も早くウルハンガの元に行きたいが、ここは一度休みをとるしかないだろう」
エウスブスは少しばかり未練を見せたが、さすがにこれだけ疲れ切った身でさらにこれから夜中となると行動は躊躇せざるを得ないようだ。
改めて周囲を確認したが、湖の対岸で見た光は今のところ見えていない。
これはやっぱり当てが外れたのか、それともオレがここに来たのでもう導きの光を放つ必要が無いとウルハンガが判断したのかは分からない。
オレの勘違いなだけなら ―― さんざんな目に遭ったエウスブスには申し訳ないが ―― まだ一安心だけど、むしろ『嵐の前の静けさ』と考えた方がいいだろう。
だがそれすらもまだ早すぎたようだ。
オレの場合、知覚力もかなり魔法で強化しているし、薄暗くても見えるのだが、どうやら周囲にはかなりの数の人間が集まってきている様子がうかがえる。
むう。ひょっとするとさっきの光はオレだけで無く、大勢の人間をここに引き寄せるためのものだったのかもしれない。
いや。それだけならまだいいけど、伝説に言われるウルハンガの情報からすれば、下手をするとオレの前に現れた少年だけでなく、他にもいろいろな立場の、多くの人間の前に、数多の姿で現れてここに誘導している、という事すら考えられる。
もしそうだとしたらそれは何のためだろう?
ここでよくあるパターンなら『集まった全ての勢力をそれぞれ戦わせ、死んだ者は魂を吸収され、最後に生き残ったものに神の祝福を与える』とかだろうけど、いくら何でもあのウルハンガがそんな事をさせるとは思えない。
それにここにはウルハンガと敵対している勢力だって、少なからず来ているはずだ。
そいつらが勝利してしまったら、それこそ大変だろう。
次に考えられるのは、集まった自分の味方にウルハンガが力を貸し、敵対している連中を滅ぼす事で、自らの復活の烽火にするというパターンだ。
しかしそれも多分無い。そもそもウルハンガの敵も多様だが、味方も下手すればそれ以上に多様で『自分達の悪行を支持してくれる邪神グバシ』として崇拝するものもいれば『偉大な帝国を築いたが邪神グバシに奪われた』と見なしているものもいる。
そいつらは出会って即戦闘になるのは、つい先日エウスブス達シャガーシュの信徒とグバシの信徒が殺し合いをしたのを目の当たりにしたオレの経験からも明らかだ。
つまり今はウルハンガの味方同士でありながら、出会ったら即座に殺し合う敵同士の連中もまたひしめいている状況にある。
元の世界でも『違う神を崇める異教徒』にはある程度寛容でも『同じ神を崇める異宗派』は情け容赦なく虐殺する連中がいたそうだが、こっちの世界でもそういう傾向があってもおかしくはない。
そしてウルハンガはある程度、人間の感覚を幻惑させる事が出来るのは、オレも身でもって知っているが、精神を自由に操れるわけではない ―― そんな力があったらそもそもガーランドが離反していないだろう。
もちろんウルハンガに敵を殲滅するような強大な戦闘力は無いはずだ。
つまりどう考えても『ウルハンガが敵を滅ぼすセレモニー』などあり得ない。
そうするとやっぱりウルハンガは何か考えているというよりは、己の唱える『正義は人の数だけある』という多様な考えを保証する思想から、いろいろな相手を呼び寄せているに過ぎないのだろう。
その結果として何が起きるかはたぶんウルハンガはあまり気にしていない。
そこで惨劇になっても『自分の思想の通りでなかったから』としか受け入れないだろう。
ウルハンガにとって『善悪は相対的なもの』であっても、自分で善悪を定める意識は希薄なのだ。
考えて見れば元の世界における民主主義や他の○○主義だって、それがよい結果を保証するわけではないからな。あくまでも一つのあり方を示しているに過ぎないから、ウルハンガもそこは気にしないのだろう。
思い返して見ると元の世界でも宗教だけでなく、思想を巡っての戦争とかもしばしばやらかしていたんだな。
そういう意味でもこっちの世界と共通点はあるのだろう。
しかしいくら何でも思想が人の形をとって人々を導き、また争いを引き起こす事はあり得ないけど ―― 待てよ。
元の世界でも確かに思想が人型にはならないけど、思想が人と結びつけられる事もあれば、そうでない場合もあるよな。
その違いと言えば ―― それではまさか?
ウルハンガが消滅するとか、それを恐れてガーランドが敵対したとはそういうことだったの?
オレは自分の想像とその結果にかなりの衝撃を受けずにはいられなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
孤児院で『幻影のガーランド』が口走っていて、たまたまやってきたモラーニのために聞きそびれた『ウルハンガの消滅』について、いろいろと考えてはいたがようやくそれが一つの形にまとまった気がした。
思想だの主義だのが最初、提唱されたら普通は提唱者に直結して考えられるものだけど、それがごく当たり前になってしまうと、殆どの場合、大元の人間の事など熱心な研究者でも無い限り忘れられてしまう。
言い換えると思想や主義が人間に結びつけられて唱えられている時点では、まだまだ『当たり前』にはなっていないのだ ―― もちろんそうなった例はごくごく一握りでしかないけどね。
たぶん千年前にも、その思想が少なくとも帝国の内で当たり前になりつつあったことから、思想を象徴する神としてのウルハンガは消えたとまではいかなくとも、次第に人々に意識されなくなっていったのではないだろうか。
普通の神様なら、その教えが広まり信徒が増えれば、むしろ人々により強く意識されるようになるはずだけど、ウルハンガはこの点では正反対ということになる。
つくづくいろいろな面で『他の神様』と違っているんだな。『不変の世界』つまり神様の領域では厄介者だと言っていたけど、それはあまりにも異端者過ぎるからなのだろう。
そしてそれに気付いたガーランドはたぶん、最初はウルハンガに勢力というよりは思想を広めるのを止めるように言ったはずだ。
当然だが、そのときにガーランドはこのままではウルハンガが消える危険性があると伝えたのは間違いない。
しかし思想の神であるウルハンガはそんな事など気にもとめなかったろう。
それで自分の人格が消滅したとしても、思想があらゆる人々の心に宿れば自らは永遠のものとなると割り切っていた、というよりはむしろウルハンガ自身はそうなることなど最初から分かっていたと考えた方が自然だ。
だがそれにどうしても納得出来なかったガーランドは、ウルハンガを裏切り、いかなるものの手を借りてでもウルハンガの勢力を打倒し、自らの愛した『女神ラーショナラ』が消える事を阻止しようとしたのだろう。
だがガーランドのその戦いはいつ終わるかという見通しも無ければ、もちろん報われる事も無い、そしてたぶん誰一人として理解の得られない、全くの不毛極まりない戦いだ。
そしてガーランド本人も間違いなくそれは分かっていたに違いない。
だからガーランドは自らを『裏切りもの』と蔑み ―― 皮肉にも後世それがウルハンガの蔑称になってしまったわけだが ―― いかなる勢力と手を組んでも、そこでウルハンガの勢力が追い払われれば、手を切って次の場所でウルハンガと延々、戦い続ける道を選んだのだな。
もちろんかなり勝手な想像だけど、いろいろな勢力から話を聞き、ウルハンガやガーランド自身と対面したこのオレだからたどり着いた境地 ―― と言ったら言い過ぎかな。
安寧も栄光も正義も全て捨て、ただ愛する女神が存在し続けるその一つの想いのためだけに全てを裏切り戦い続けたとしたら、残念だけどそこから先はオレにも想像がつかないよ。
ただそれをやり通したとしたら、多くの勢力から送られているガーランドの称号『英雄にして背教者』は皮肉すぎるけど、正しいと言えるだろうな。
しかしこの想像の通りだとしたら、今のところウルハンガを消滅させる方法はやっぱり存在しないことになるな。
それは現状ではかなり厳しい結論のはずなんだけど、オレはそっちの方にはあまり衝撃は受けていなかった。むしろ『ガーランドの運命』の方がオレにとっては衝撃だったかな。
「どうしたんだい? アルタシャ?」
ここでエウスブスがオレの顔をのぞき込んできた。
「さっきから難しい顔をして何か考えていたようだけど、やっぱり心配なのかな?」
「ええ……いろいろと……」
「だけど心配事はあってもさっぱりした顔をしているよ。なにか吹っ切れたようだ」
「そんな風に見えますかね?」
「付き合いは短いけど、僕だってそれぐらいは分かるよ」
確かにそうだ。もしもここで定番の英雄譚に出てくるような
『千年前に邪神ウルハンガに勝利した英雄ガーランドが、現在に伝えていた、邪神を消滅させる秘儀』
なんてお約束ものがあったら、オレは使うかどうかで激しく悩んでいたところだろうけど ―― もちろん、そんな都合のいいものがあるはずもないけどな ―― 結局ウルハンガを消滅させる方策というのが、いま現在では全く実現不可能だと見当がついたのだ。
後はもうオレが決めた通り、ウルハンガをどうにか説得するしかない。そういう事がハッキリしたので吹っ切れたのだろう。
いや。それが簡単なはずはないのだけど、それでもオレが先ほどの結論で一つの希望を見いだしたのも間違いない。
なぜなら最終的にガーランドとウルハンガの戦いの果てに、ウルハンガは一時であれ眠りについたわけだ。
つまりどうにかしてウルハンガを止める方法が必ずある。
そしてそれについてもある程度、見当はついているつもりだけど、正しい保証なんてもちろんない。
しかし別にそんな事はどうでもいいよ。
今までだって正しい保証があって行動してきた事なんてどうせ無いんだから。
その失敗のせいで今はこんな幼女の身体になってしまったのを考えると、嘆息せざるをえないけど、だから次は成功させてよ。
どんな神様に祈ればいいのか分からないけど、ここは日本人らしく『苦しいときの神頼み』ということで気分を新たにすることにした。
そして船が岸にたどり着き、船底に石が当たる音がしたところで、エウスブスは力尽きたように崩れる。
「ぜえぜえ……さすがに疲れたよ」
「大丈夫ですか? そんなにお疲れでしたら、今日は野宿しましょう」
ひとりでフェルスター湖を漕ぎきったエウスブスは疲れ切っている。
これでも湖の中を漕いでいる最中に何度もオレが【疲労回復】をかけて元気になってもらい、こすれた傷は【応急手当】で治し続けたのだけど、さすがにほぼ丸半日、休み無く、慣れない船を漕ぐ疲労を完全に回復させるのは難しかった。
そうはいっても湖の上、小舟で一泊というのは避けたかったから ―― こんな世界ではどんなモンスターに襲撃されるか分かったもんじゃない ―― 頑張ってくれたエウスブスには頭が下がる。
「そうだね。一刻も早くウルハンガの元に行きたいが、ここは一度休みをとるしかないだろう」
エウスブスは少しばかり未練を見せたが、さすがにこれだけ疲れ切った身でさらにこれから夜中となると行動は躊躇せざるを得ないようだ。
改めて周囲を確認したが、湖の対岸で見た光は今のところ見えていない。
これはやっぱり当てが外れたのか、それともオレがここに来たのでもう導きの光を放つ必要が無いとウルハンガが判断したのかは分からない。
オレの勘違いなだけなら ―― さんざんな目に遭ったエウスブスには申し訳ないが ―― まだ一安心だけど、むしろ『嵐の前の静けさ』と考えた方がいいだろう。
だがそれすらもまだ早すぎたようだ。
オレの場合、知覚力もかなり魔法で強化しているし、薄暗くても見えるのだが、どうやら周囲にはかなりの数の人間が集まってきている様子がうかがえる。
むう。ひょっとするとさっきの光はオレだけで無く、大勢の人間をここに引き寄せるためのものだったのかもしれない。
いや。それだけならまだいいけど、伝説に言われるウルハンガの情報からすれば、下手をするとオレの前に現れた少年だけでなく、他にもいろいろな立場の、多くの人間の前に、数多の姿で現れてここに誘導している、という事すら考えられる。
もしそうだとしたらそれは何のためだろう?
ここでよくあるパターンなら『集まった全ての勢力をそれぞれ戦わせ、死んだ者は魂を吸収され、最後に生き残ったものに神の祝福を与える』とかだろうけど、いくら何でもあのウルハンガがそんな事をさせるとは思えない。
それにここにはウルハンガと敵対している勢力だって、少なからず来ているはずだ。
そいつらが勝利してしまったら、それこそ大変だろう。
次に考えられるのは、集まった自分の味方にウルハンガが力を貸し、敵対している連中を滅ぼす事で、自らの復活の烽火にするというパターンだ。
しかしそれも多分無い。そもそもウルハンガの敵も多様だが、味方も下手すればそれ以上に多様で『自分達の悪行を支持してくれる邪神グバシ』として崇拝するものもいれば『偉大な帝国を築いたが邪神グバシに奪われた』と見なしているものもいる。
そいつらは出会って即戦闘になるのは、つい先日エウスブス達シャガーシュの信徒とグバシの信徒が殺し合いをしたのを目の当たりにしたオレの経験からも明らかだ。
つまり今はウルハンガの味方同士でありながら、出会ったら即座に殺し合う敵同士の連中もまたひしめいている状況にある。
元の世界でも『違う神を崇める異教徒』にはある程度寛容でも『同じ神を崇める異宗派』は情け容赦なく虐殺する連中がいたそうだが、こっちの世界でもそういう傾向があってもおかしくはない。
そしてウルハンガはある程度、人間の感覚を幻惑させる事が出来るのは、オレも身でもって知っているが、精神を自由に操れるわけではない ―― そんな力があったらそもそもガーランドが離反していないだろう。
もちろんウルハンガに敵を殲滅するような強大な戦闘力は無いはずだ。
つまりどう考えても『ウルハンガが敵を滅ぼすセレモニー』などあり得ない。
そうするとやっぱりウルハンガは何か考えているというよりは、己の唱える『正義は人の数だけある』という多様な考えを保証する思想から、いろいろな相手を呼び寄せているに過ぎないのだろう。
その結果として何が起きるかはたぶんウルハンガはあまり気にしていない。
そこで惨劇になっても『自分の思想の通りでなかったから』としか受け入れないだろう。
ウルハンガにとって『善悪は相対的なもの』であっても、自分で善悪を定める意識は希薄なのだ。
考えて見れば元の世界における民主主義や他の○○主義だって、それがよい結果を保証するわけではないからな。あくまでも一つのあり方を示しているに過ぎないから、ウルハンガもそこは気にしないのだろう。
思い返して見ると元の世界でも宗教だけでなく、思想を巡っての戦争とかもしばしばやらかしていたんだな。
そういう意味でもこっちの世界と共通点はあるのだろう。
しかしいくら何でも思想が人の形をとって人々を導き、また争いを引き起こす事はあり得ないけど ―― 待てよ。
元の世界でも確かに思想が人型にはならないけど、思想が人と結びつけられる事もあれば、そうでない場合もあるよな。
その違いと言えば ―― それではまさか?
ウルハンガが消滅するとか、それを恐れてガーランドが敵対したとはそういうことだったの?
オレは自分の想像とその結果にかなりの衝撃を受けずにはいられなかった。
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孤児院で『幻影のガーランド』が口走っていて、たまたまやってきたモラーニのために聞きそびれた『ウルハンガの消滅』について、いろいろと考えてはいたがようやくそれが一つの形にまとまった気がした。
思想だの主義だのが最初、提唱されたら普通は提唱者に直結して考えられるものだけど、それがごく当たり前になってしまうと、殆どの場合、大元の人間の事など熱心な研究者でも無い限り忘れられてしまう。
言い換えると思想や主義が人間に結びつけられて唱えられている時点では、まだまだ『当たり前』にはなっていないのだ ―― もちろんそうなった例はごくごく一握りでしかないけどね。
たぶん千年前にも、その思想が少なくとも帝国の内で当たり前になりつつあったことから、思想を象徴する神としてのウルハンガは消えたとまではいかなくとも、次第に人々に意識されなくなっていったのではないだろうか。
普通の神様なら、その教えが広まり信徒が増えれば、むしろ人々により強く意識されるようになるはずだけど、ウルハンガはこの点では正反対ということになる。
つくづくいろいろな面で『他の神様』と違っているんだな。『不変の世界』つまり神様の領域では厄介者だと言っていたけど、それはあまりにも異端者過ぎるからなのだろう。
そしてそれに気付いたガーランドはたぶん、最初はウルハンガに勢力というよりは思想を広めるのを止めるように言ったはずだ。
当然だが、そのときにガーランドはこのままではウルハンガが消える危険性があると伝えたのは間違いない。
しかし思想の神であるウルハンガはそんな事など気にもとめなかったろう。
それで自分の人格が消滅したとしても、思想があらゆる人々の心に宿れば自らは永遠のものとなると割り切っていた、というよりはむしろウルハンガ自身はそうなることなど最初から分かっていたと考えた方が自然だ。
だがそれにどうしても納得出来なかったガーランドは、ウルハンガを裏切り、いかなるものの手を借りてでもウルハンガの勢力を打倒し、自らの愛した『女神ラーショナラ』が消える事を阻止しようとしたのだろう。
だがガーランドのその戦いはいつ終わるかという見通しも無ければ、もちろん報われる事も無い、そしてたぶん誰一人として理解の得られない、全くの不毛極まりない戦いだ。
そしてガーランド本人も間違いなくそれは分かっていたに違いない。
だからガーランドは自らを『裏切りもの』と蔑み ―― 皮肉にも後世それがウルハンガの蔑称になってしまったわけだが ―― いかなる勢力と手を組んでも、そこでウルハンガの勢力が追い払われれば、手を切って次の場所でウルハンガと延々、戦い続ける道を選んだのだな。
もちろんかなり勝手な想像だけど、いろいろな勢力から話を聞き、ウルハンガやガーランド自身と対面したこのオレだからたどり着いた境地 ―― と言ったら言い過ぎかな。
安寧も栄光も正義も全て捨て、ただ愛する女神が存在し続けるその一つの想いのためだけに全てを裏切り戦い続けたとしたら、残念だけどそこから先はオレにも想像がつかないよ。
ただそれをやり通したとしたら、多くの勢力から送られているガーランドの称号『英雄にして背教者』は皮肉すぎるけど、正しいと言えるだろうな。
しかしこの想像の通りだとしたら、今のところウルハンガを消滅させる方法はやっぱり存在しないことになるな。
それは現状ではかなり厳しい結論のはずなんだけど、オレはそっちの方にはあまり衝撃は受けていなかった。むしろ『ガーランドの運命』の方がオレにとっては衝撃だったかな。
「どうしたんだい? アルタシャ?」
ここでエウスブスがオレの顔をのぞき込んできた。
「さっきから難しい顔をして何か考えていたようだけど、やっぱり心配なのかな?」
「ええ……いろいろと……」
「だけど心配事はあってもさっぱりした顔をしているよ。なにか吹っ切れたようだ」
「そんな風に見えますかね?」
「付き合いは短いけど、僕だってそれぐらいは分かるよ」
確かにそうだ。もしもここで定番の英雄譚に出てくるような
『千年前に邪神ウルハンガに勝利した英雄ガーランドが、現在に伝えていた、邪神を消滅させる秘儀』
なんてお約束ものがあったら、オレは使うかどうかで激しく悩んでいたところだろうけど ―― もちろん、そんな都合のいいものがあるはずもないけどな ―― 結局ウルハンガを消滅させる方策というのが、いま現在では全く実現不可能だと見当がついたのだ。
後はもうオレが決めた通り、ウルハンガをどうにか説得するしかない。そういう事がハッキリしたので吹っ切れたのだろう。
いや。それが簡単なはずはないのだけど、それでもオレが先ほどの結論で一つの希望を見いだしたのも間違いない。
なぜなら最終的にガーランドとウルハンガの戦いの果てに、ウルハンガは一時であれ眠りについたわけだ。
つまりどうにかしてウルハンガを止める方法が必ずある。
そしてそれについてもある程度、見当はついているつもりだけど、正しい保証なんてもちろんない。
しかし別にそんな事はどうでもいいよ。
今までだって正しい保証があって行動してきた事なんてどうせ無いんだから。
その失敗のせいで今はこんな幼女の身体になってしまったのを考えると、嘆息せざるをえないけど、だから次は成功させてよ。
どんな神様に祈ればいいのか分からないけど、ここは日本人らしく『苦しいときの神頼み』ということで気分を新たにすることにした。
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