異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第9章 『思想の神』と『英雄』編

第222話 神様の次は人間達を口八丁でどうにかする

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 ウルハンガからいっとき力を貸してもらったと言えど、今のオレに出来る事など所詮は限られている。
 少なくとも圧倒的な神の力を示し、連中を屈服させるなんて都合のいい事はオレには不可能なのだ ―― もっともそんな力があったとしても、オレがそれを振るうかと言えば、たぶん出来ないだろうな。
だがこの時を逃したらまた凄惨な戦いが始まって、どの勢力が勝とうが多大な犠牲は避けられない。
 その元凶であるウルハンガ本人はもう姿を消して、今はオレの中に入っている ―― ちょっと卑猥な気がするが ―― だけであったとしてもそれを聞いてハイそうですかと引き下がってくれるような物わかりのいい連中だったら、そもそもこんな殺し合いを始めるはずがないんだ。

 そんなわけでオレはいま固唾を呑んでこっちを見守っている連中を、それぞれを引き下がらせるために、何を言えばいいのだろうか。
 いや。細かい事を考えていても仕方ない。
 いまこの場に集まっている奴らについてオレの理解を最大限振り絞って、戦いをやめさせるしかないんだ。
 幸いにもそれぞれの連中に別の意志を伝える事が出来るということは、全く別の事を伝えても大丈夫ということだな。
 どうせこいつらは互いの意志疎通なんてやる気も無いし、発言を録音されて広められるわけでもないから、別々に矛盾した事を言っても付き合わされる心配は無い ―― この世界がそんな状態だからウルハンガの思想にダメ出ししたオレなのだが、今はそれを最大限に利用させてもらうおう。

 とりあえずウルハンガを『偉大な光の神として崇めている連中』に対しては――

『ウルハンガは争いばかりのこの世を離れ、より高みを目指し、新たな啓発を得るために去りました。あなたたちもウルハンガに倣って、争いをやめて元いたところに戻りなさい』

 オレのこの呼びかけを受け、連中のなかには安堵と喜び、そして一部には落胆が湧きあがったようだ。
 落胆したのは千年前の偉大な帝国の伝説を知っていて、その再興を夢見ていた奴らなんだろうなあ。申し訳ないけど、その夢はずっと先にウルハンガともども生まれ変わって実現してくれ。

「!!!」

 連中は口々にオレに問いかけてきているが、あいにくそれに答えてやるほどオレは人が良くない ―― というよりはそこまで嘘つきにもなりきれないのが、オレの限界というものなんだろうな。
 幸いにもウルハンガは女神の姿 ―― その場合の名はラーショナラ ―― を取ることも広く知られている。それがあって連中はどうやらオレがラーショナラの化身だと思っているようだ。
 自分から敢えて騙す気は無いけど、向こうが誤解しているならそのままにしておこう。

『ウルハンガは皆さんの事を決して忘れません。だから次に再臨した時に備えて、あなた方の家族や教会の元に戻りなさい』

 この言葉を受けて、連中にはどこかホッとした空気が流れる。
 まあ探し求めていた神様が更に高みを目指して去って行ったという話 ―― 全部嘘では無いからな ―― は連中にとっても『落としどころ』として十分だろう。
 これで満足して引いてくれる事を祈るしか無い。

 そしてウルハンガを『人々の心を腐らせる《裏切りもの》の邪神』だと思って打倒に来た連中にはどうするか。

『あなた方の追っていた《裏切りもの》は消しました。もうこの世界のどこにもいません。だからもうこれ以上、あなた達は戦う必要はありません』

 オレの言葉を受けて、連中には喜びの色が広がるが、同時に困惑も見える。
 そりゃまあいきなり現れた『どこの誰か知らない光輝く乙女』が彼らの追い求めていた邪神を消し去ったと言ってそれを簡単に信じられるはずが無い。
 しかしそこでオレの姿を見ていた連中から驚きと問いかけの声が上がる。

「もしや……あなた様はイロールの化身と言われる聖女アルタシャ様でございますか?」

 うげえ。どことなく予想していたけど、勝手に名声が広がっているからオレの容姿を見れば、そこの見当ぐらいはついて当然か。
 ここは不本意だが付き合うしかない。

『そうです。アルタシャです。皆さんにかわって、わたしが《裏切りもの》をこの世界から去るようにしたのです。もう戦う事はありません』

 ああ。自分から『アルタシャ』の名前を使って、大勢の人を動かす真似をしたのは初めだけど、やむを得ない事とは言えどまたどこかで一線を越えてしまった気がしてくるよ。
 そしてオレの言葉を聞いた連中は、次から次に歓声を上げてこちらを称えているようだ。
 思惑通りなのにまるで嬉しくないのは、いつものことだけどな。

 そしてウルハンガを『自分たちの悪行を支持する邪神』として崇拝している連中に対してはもっと厳しく行くべきだろう。

『ウルハンガ ―― 邪神グバシは消え失せました。もうあなた方の悪行を認めるものはいないのです』
「!!!」

 連中はオレの言葉を聞いて、大多数は愕然となったようだ。
 元の世界の狂信者だと、実際に神様なんて存在しないからこそ、説得で引き下がらせるのは困難だったけど、こっちの世界だと彼らの目の前で神様の象徴とおぼしき『光の巨人』が消えてしまったので、それを目の当たりにした以上、受け入れざるを得まい。

『もしもこれ以上、争うというならばあなた達もグバシの後を追わせる事になりますよ』

 ここで連中は話しの途中でありながら、次から次へと慌てて逃げ出す。
 まあ殆どはちょっと前の漁港でオレとエウスブスを襲ってきたような、チンピラ連中だったのだろうから、当てにしていたウルハンガが消えたらとっとと逃げ出すはずだ。

 他にもいろいろな連中がいるようだけど、だいたいそいつらに合わせて適当な事を伝えたら大体は戦意を喪失してくれたらしい。
 これも今の『アルタシャ』が『ウルハンガの力を受けてまばゆく輝く乙女』になっているからで、これが男子高校生だった時のオレの姿で接してもまるで相手にされなかった事だけは間違いない。
 それが分かっていて、去って行く連中を見ながらオレはホッとしたというか、誇らしい気分というか、そういうものを抱いていて、別の意味で自分がヤバい状況にあることをヒシヒシと感じずにはいられなかったよ。
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