異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第9章 『思想の神』と『英雄』編

第223話 一応の決着とその後

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 とりあえずここに集まっていた人間の殆どは、オレの『説得』を聞き入れて引き下がってくれたようだ。
 死傷者がゼロというワケではないにしても、殆どが生きて戻れたのならばオレにとっては十分だよ。
 ただこの地で一体何が起きたのかについて、後でどんな事になるのかは想像するだに恐ろしいが、今は危機を乗り切った事に胸をなで下ろすとしよう。
 あとウルハンガのお陰でひとまず幼女状態を脱して『元のアルタシャ』に戻った事は、単なる『副作用』かもしれないけど感謝はするよ。
 もちろんウルハンガが争いを止めたいというオレのワガママに付き合ってくれた事も嬉しいが、そもそもの元凶がこの神なのでそこはいろいろと複雑な気分だ。

 そしてオレがちょっとばかり悩んでいると、未だ光輝いているオレの元に見慣れた姿が飛び込んできた。
 先ほど別れたエウスブスだが、無事を確認出来て何よりだ ―― とは簡単に言い切れないのが悩ましい。

「おお。やはりあなたが本当のアルタシャであり、先ほどの幼き姿は仮の姿だったのですね」

 エウスブスは本当に感激した様子らしい。
 そりゃまあ実際にその通りなんだけど、全く別人で目や髪は偶然の一致だなどとは思ってもいないのだろうなあ。
 とにかく今はお付き合いするしかない。

「先ほどはありがとうございました。あなたもシャガーシュの神殿に戻って、今日の事を報告して下さい」
「分かりました。あなたが汚らわしいグバシを追い払い、ウルハンガの真の輝きを取り戻した事を報告させてもらいます。将来、我が神の御許にて仲間達にも自慢させてもらうとしましょう」

 エウスブスは満足した様子で、一礼して去って行く。
 エウスブスの崇拝する『地界の太陽シャガーシュ』は光関係の信仰なので、今のオレが『輝いている女神』に見えるから『自分の神の眷属』と勝手に脳内変換されているのだろう。
 とりあえずエウスブスが『燃え尽きて白い灰となる』とか、そんな事にならずに済んだ事で胸をなで下ろすべきだろうけど、例によって真実とはかけ離れた伝説になってしまいそうなのは覚悟せねばならないのだな。

 そしてオレの中にいるウルハンガは感心した様子だった。

『ふうむ。どうやらみんな戦いをやめて、引き下がっていくようだね』
「神様のあなたにとって、今の話はそんなに興味を惹かれる事だったんですか?」
『生憎だけど、この僕には人間の気持ち、というものはよく分からないんだよ。だから人間を説得するのは難しいね』

 それだからウルハンガは千年前、ガーランドの気持ちも理解しなかったのだろうな。
 しかし『人間に革新をもたらす思想の神』がその人間の心理は理解出来ないと言うのだから、まったくややこしいとしか言いようが無い。
 まあ元の世界でも特権階級に属する人間が、一般人の事など理解していない事はよくあったから、それに近いのかもしれないな。

『しかし相手に合わせて、彼らが引き下がるように時には都合よく、時には脅しをかけるとは君はやっぱり得がたい存在だね』

 もちろんこの世界の一般人にとって、自分達が聞かされてきた事、教えられてきた伝説こそが真実であり、異なる教えに接した場合、よくて蔑みつつ許容するぐらいで、悪ければ殺し合いが当たり前。
 比較的寛容な立場でもせいぜい研究対象として、出来るだけ客観視する事を心がける程度でしかない。
 それを考えると、確かに宗教的無節操なオレだからこそ、この場でどうにか丸め込めたわけだから、少しばかりは誇っていいことだろう。

「前々から聞きたかったんですけど、ウルハンガはもう少し『人間の気持ち』を理解しようとは思わないのですか?」
『僕は何しろ君と違って《人間だった時期》が存在しないからね。人間だって自分の環境から隔絶したところにいる相手の事はそうそう理解出来ないだろう?』

 その言い方だと、まるでこっちが今はもう人間じゃ無いかのように聞こえるけど、たぶんそれは間違っていないのだろうな。

『それはともかく復活するときに捧げられた力と、先ほどこの湖周辺の住民に存在を示した事で得たものを全部使ってしまったよ。お陰で最低でも百年ぐらいは一切、動きがとれないようだ』
「たぶん百年やそこらでは、まだあなたの思想を人々が受け入れるようにはならないと思いますから、もっとずっと長く力を蓄えていた方がいいと思いますけど」

 まあ元の世界の『情報革命』みたいなものが、こっちの世界でも魔法を使って実現されるかもしれないけど、残念ながらオレには今後数百年のうちに、それが出来るかどうかは見当もつかない。

『そうかい。僕にとって百年も千年も大して違いはないだろうけど、それだけ君に会うことが出来ないのは名残惜しいな』
「もうお別れの時だというのに、そんな冗談でからかわないで下さいよ」
『からかってなどいないさ。もしも君が望むのなら、一緒に神の領域に連れて行って、もう一度この世に舞い戻る時まで二人で暮らしたいと思っているぐらいだよ』
「キッパリお断りします」

 何が悲しくて『不変の世界』に閉じこもらねばならないのか。
 しかも崇拝されると言ったところで『女神』としてなど、なおさら真っ平だ。

『それは残念だね。まあ仕方ないか』

 オレの中にいるウルハンガの気配はかすかになり、オレ自身の身体から放たれている輝きも減少してきたようだ。

『ところで君は僕が去った後はどうするつもりなんだい?』
「それは――」

 オレはここでちょっと言いよどむ。
 決心はあったのだけど、それでも実際に形にする事にためらいがあったのだ。

「あなたの望む世界が実現出来るよう、自分なりに努力してみるつもりですよ」
『そうか……だったらいつか誰かが僕を蘇らせた時にまた会えるのを楽しみにしておこう』

 それがオレの聞いたウルハンガの最後の言葉だった。



 このときフェルスター湖の湖畔にて何が起きたのか、目撃者は湖の岸辺にある都市の住民まで含めると膨大な数に上るが、その誰もが主張する事がまるで食い違っており、後世の歴史家の激しい論争の種なっている。
 いろいろな相容れない勢力が集まり、一触即発の状況下で小競り合いも行われたにも関わらず奇跡的にも殆ど犠牲が出なかった結果として、それぞれの勢力が大勢の目撃者と証言者を得たために、引き下がる事無く自分達の主張を展開したのだ。

 そしてクライマックスにて『光の巨人』が消えた後に現れた『輝く乙女』についても

『ウルハンガの仮面の一つである女神ラーショナラの顕現』
『かつてウルハンガと戦った治癒の女神イロールの化身または英雄』

などというものから、果ては

『邪神グバシが人々を欺くために創った仮面の一つであり、邪神はその美しい姿で人々の心を腐らせるため暗躍している』

などと唱える疑り深いものもおり、その論争はずっと続いた ―― 恐らく今後、数百年経ってもそれは続いている事だろう。

【後書き】
これでウルハンガとガーランドの話はひとまず決着です。
お付き合い下さってありがとうございます。
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