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第12章 強奪の地にて
第370話 「邪魔者」を排除するには
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ざっと見たところ正面に広がるダムは土を積み上げてつくったもので、高さはせいぜい数メートルだが、幅は百メートル以上あってそれなりに大きなものだ。
堤を超えた遠い先には小さな村が見えているし、それ以外にも周囲には村が点在しているようだ。
そして何より遙か下流にはかすかに海が見えている。あそこまでたどり着けたら、どうにでもなったはずなのだが、完全に行き止まりだ。
ようやく目的の海の寸前までたどり着いたのに、こんなことになるとはな。
たぶんここ数年の間にこの地域が開拓されることになって、ダムが建設され、開拓民が移住してきたのではないだろうか。
このダムも普段の飲料水に加えて、農業用水か渇水期に備えて水を貯めるためにつくられたものなんだろう。
ダムの中央部に小さな水門は用意されているけど、もちろん船のように大きなこの卵が通るのは無理だ。
また水の精霊に頼んでも水流に逆らって上流に向かう事も出来ないのだから、もちろん持ち上げるなんて真似は出来ない。
当然、堤を超える事など不可能だ。
『こんなものを人間がつくっていたとはな……いったい何のためだ?』
「たぶん水を貯めて農業用水に使うためでしょう」
『農業? なんだそれは?』
そこから説明が必要なのかよ。人間と親しい精霊ならともかく、ドラゴンと付き合っている精霊ではそういうことも知らないのだな。
「説明すると長くなりますけど、人間はこうやって水を貯めて植物を生長させるのに役立たせているんです」
『そうか。まあどうでもいいが、この場合はあれを破壊すればよいな』
「ええ? そんな事が出来るんですか?」
今までの話ではドラゴンの卵が破壊的な力を使った事は無いはずだ。
あのダムを壊せる程の魔法があるのなら、バラストールの街でももっととんでもない事になっているだろう。
『何らかの障害物によって川をせき止められた時に、それを破壊する魔力は用意されているのだ。ただそれを使う魔力を引き出すには相当な時間が必要になるがな』
ああ。なるほど。
この卵の殻には人間の相手をするためではなく、自然に出来た障害物を排除するための魔法が付与されているというわけか。
ドラゴンにとっては殻に込められた魔力によって人間は障害にならないはずだったのに加えて、自然の障害にもある程度は対処する能力も与えられているんだ。
どれぐらいの威力があるのか分からないけど、精霊の言葉からすればこのダムに卵が通過出来るだけの穴を開ける事は出来るのだろう。
いや。待て。それはマズい。
このダムが壊れたら、あふれた水が下流の村を一気に押し流してしまいかねない。
だからと言ってこのまま止まっていたら、何がやってくるか分かったものではない。
普段ならこんなところに強力な魔法使いや戦士はそうそういないだろう。
しかし何しろドラゴンの卵が流れてきている以上、それを目当てにした連中が先回りしていたも不思議では無い。
いや。『遠視』の魔法で見る限り、あちこちの流れにキャンプが張ってあるようだ。
ひょっとしてこのドラゴンの卵を待ち伏せている連中か?
実際はどうなのかは分からないが、この状況では最悪を想定せねばならない。
ただちょっと見たところ連中は下流の海に繋がる流れで待っていたので、たまたまこのダムによってせき止められている流れに、この卵が紛れ込んでしまった結果、こちらには気づいていないようだ。
ホッとした反面、どちらにしても誰かに見つかれば連中がこちらに集まってくるのは間違いないのだから、マズい状況に変わりは無い。
『どうした? ここは川をせき止めているあれを破壊するだけだ』
「ちょっと待って下さい」
思わず制止したが、この精霊にダムが壊れたら下流の村に多大な被害が出るとか、地元の人間が困るとか、そんな理屈が通じるわけがない。
何より相手にとって最優先の目的はこの卵を守る事なのだから、人間がどうなろうと知っちゃこっちゃ無いのは分かりきった話である。
しかもその人間達は、過去にドラゴンの卵を略奪した放題にやらかして、ドラゴンたちの怒りを招き、都市を一つ滅ぼされているのに、それでもまだ欲に駆られて卵を狙う連中も大勢いるのだ。
どんな角度から見ても、この精霊が人間のために破壊活動を躊躇する理由がない。
しかしオレの方はそうはいかないのだ。
「どうしてもというなら、仕方ないかもしれませんが、ここは少し待って下さい」
『ほう? そなたがあれを破壊してくれるのか?』
もちろん破壊魔法を持っていないオレにはそんな事は出来ないし、仮に出来たとしても下流の村が押し流される事を承知でやるわけにはいかない。
「そうではありませんけど、もっといい方法があります」
もちろんこんなのハッタリだ。ちょっとばかり精霊を止めて、それで時間を稼いで何かこの状況を打開できる方策を探るしかない。
しかしいくら何でもこんなの簡単に聞き入れたりはしないだろうが、その場合オレが魔力を消すと言い張って脅迫するのもやむを得ん。
幸か不幸かダンギムと出会った時に、オレは一度この精霊の魔力を相殺しているので、この脅しは通用するはず。
『そうか。分かったそれならいいぞ』
え? なぜそんなにあっさりと聞き入れるの?
オレが意外な展開に少し驚いた時、ダムの周囲が次第に騒がしくなりつつあった。
堤を超えた遠い先には小さな村が見えているし、それ以外にも周囲には村が点在しているようだ。
そして何より遙か下流にはかすかに海が見えている。あそこまでたどり着けたら、どうにでもなったはずなのだが、完全に行き止まりだ。
ようやく目的の海の寸前までたどり着いたのに、こんなことになるとはな。
たぶんここ数年の間にこの地域が開拓されることになって、ダムが建設され、開拓民が移住してきたのではないだろうか。
このダムも普段の飲料水に加えて、農業用水か渇水期に備えて水を貯めるためにつくられたものなんだろう。
ダムの中央部に小さな水門は用意されているけど、もちろん船のように大きなこの卵が通るのは無理だ。
また水の精霊に頼んでも水流に逆らって上流に向かう事も出来ないのだから、もちろん持ち上げるなんて真似は出来ない。
当然、堤を超える事など不可能だ。
『こんなものを人間がつくっていたとはな……いったい何のためだ?』
「たぶん水を貯めて農業用水に使うためでしょう」
『農業? なんだそれは?』
そこから説明が必要なのかよ。人間と親しい精霊ならともかく、ドラゴンと付き合っている精霊ではそういうことも知らないのだな。
「説明すると長くなりますけど、人間はこうやって水を貯めて植物を生長させるのに役立たせているんです」
『そうか。まあどうでもいいが、この場合はあれを破壊すればよいな』
「ええ? そんな事が出来るんですか?」
今までの話ではドラゴンの卵が破壊的な力を使った事は無いはずだ。
あのダムを壊せる程の魔法があるのなら、バラストールの街でももっととんでもない事になっているだろう。
『何らかの障害物によって川をせき止められた時に、それを破壊する魔力は用意されているのだ。ただそれを使う魔力を引き出すには相当な時間が必要になるがな』
ああ。なるほど。
この卵の殻には人間の相手をするためではなく、自然に出来た障害物を排除するための魔法が付与されているというわけか。
ドラゴンにとっては殻に込められた魔力によって人間は障害にならないはずだったのに加えて、自然の障害にもある程度は対処する能力も与えられているんだ。
どれぐらいの威力があるのか分からないけど、精霊の言葉からすればこのダムに卵が通過出来るだけの穴を開ける事は出来るのだろう。
いや。待て。それはマズい。
このダムが壊れたら、あふれた水が下流の村を一気に押し流してしまいかねない。
だからと言ってこのまま止まっていたら、何がやってくるか分かったものではない。
普段ならこんなところに強力な魔法使いや戦士はそうそういないだろう。
しかし何しろドラゴンの卵が流れてきている以上、それを目当てにした連中が先回りしていたも不思議では無い。
いや。『遠視』の魔法で見る限り、あちこちの流れにキャンプが張ってあるようだ。
ひょっとしてこのドラゴンの卵を待ち伏せている連中か?
実際はどうなのかは分からないが、この状況では最悪を想定せねばならない。
ただちょっと見たところ連中は下流の海に繋がる流れで待っていたので、たまたまこのダムによってせき止められている流れに、この卵が紛れ込んでしまった結果、こちらには気づいていないようだ。
ホッとした反面、どちらにしても誰かに見つかれば連中がこちらに集まってくるのは間違いないのだから、マズい状況に変わりは無い。
『どうした? ここは川をせき止めているあれを破壊するだけだ』
「ちょっと待って下さい」
思わず制止したが、この精霊にダムが壊れたら下流の村に多大な被害が出るとか、地元の人間が困るとか、そんな理屈が通じるわけがない。
何より相手にとって最優先の目的はこの卵を守る事なのだから、人間がどうなろうと知っちゃこっちゃ無いのは分かりきった話である。
しかもその人間達は、過去にドラゴンの卵を略奪した放題にやらかして、ドラゴンたちの怒りを招き、都市を一つ滅ぼされているのに、それでもまだ欲に駆られて卵を狙う連中も大勢いるのだ。
どんな角度から見ても、この精霊が人間のために破壊活動を躊躇する理由がない。
しかしオレの方はそうはいかないのだ。
「どうしてもというなら、仕方ないかもしれませんが、ここは少し待って下さい」
『ほう? そなたがあれを破壊してくれるのか?』
もちろん破壊魔法を持っていないオレにはそんな事は出来ないし、仮に出来たとしても下流の村が押し流される事を承知でやるわけにはいかない。
「そうではありませんけど、もっといい方法があります」
もちろんこんなのハッタリだ。ちょっとばかり精霊を止めて、それで時間を稼いで何かこの状況を打開できる方策を探るしかない。
しかしいくら何でもこんなの簡単に聞き入れたりはしないだろうが、その場合オレが魔力を消すと言い張って脅迫するのもやむを得ん。
幸か不幸かダンギムと出会った時に、オレは一度この精霊の魔力を相殺しているので、この脅しは通用するはず。
『そうか。分かったそれならいいぞ』
え? なぜそんなにあっさりと聞き入れるの?
オレが意外な展開に少し驚いた時、ダムの周囲が次第に騒がしくなりつつあった。
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