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第14章 拳の王
第466話 平和主義者とトラブルと
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訪れたかつての寺院跡の入り口には小さな人だかりが出来ていた。
ざっと見て十人ぐらいだろうか。
先ほどビネースがかけた招集に応じ、急いでやってきた様子だ。
また遠目にも何人か、こちらに近づく相手も見えており、この近隣で細々と信仰を守ってきた人間がこの招集を待ち望んでいた様子がうかがえる。
そこまでは予想通りではあったが、異変なのは敷地の入り口のあたりで何事かもめているらしいのだ。
「だからここには、あんたのような人間は入れないんだよ」
「勝手な事を言うな。ここはただの廃虚だろうが」
「違う。ここは神聖なる我らの土地だ」
どうやら押し問答になっているらしい。この位置からはよく見えないが、恐らくはガイザー信徒でない人間が来ているのだな。
しかしそこで思わぬ言葉がオレの耳に響く。
「そいつと口をきくな! 『汚染』されるぞ!」
ええ? どういう意味なんだ?
まさか深刻な伝染病でも患っているのか?
その割にはあまり恐れている様子が見えないが。
オレが困惑しているとビネースが話しかけてくる。
「ガイザー神の入信者は命に関わる時か、心の王の許可が無い限り、戦闘指向の神の信徒と承知の上で話をしてはなりません。そのような行為を『汚染』と呼ぶのですよ」
それは幾ら何でも酷すぎる表現じゃないか?
まあ某有名アニメのように『文化に汚染される』といった、理不尽な表現なのだろう。
「とにかく今は私がどうにかせねばなりません。危険があるかもしれないので、アルタシャはお下がりください」
「いえ。同行させてもらいますよ。怪我人が出るかもしれませんから」
「そうですか……本当にあなたは気高いお人だ。それでは頼りにさせてもらいます」
そんなわけでオレはビネースと共に口論の場に向かう。
近づいて見ると、揉めていたのは旅装束の戦士らしい。
オレと同じく外見を隠すフードをまとっているのでその姿はよく分からないが、腰に差した長剣は明らかにガイザーの信徒でないことを示していた。
「おお! 司祭様がこられたぞ!」
「我らの『心の王』のお出ましだ」
信徒達は一斉にビネースに敬意を示し、剣をさしている相手はこちらに向き直る。
「皆さんは下がっていて下さい。その人の相手は私がしましょう」
ビネースの言葉を受けて、信徒達は下がり包囲するかのように人の輪を作る。
「それであなたは何の御用ですかな? もうお聞き及びとは思いますけど、この地には武器を持った人間は入れませんよ」
「そうか……お前がビネースだな」
フードの人物から発せられた声は意外にも若い女性のものだった。
ファンタジーならありふれた女戦士だけど、この世界ではさすがに女性が戦神を崇める事は少なくかなり珍しい存在だ。
そしてフードを外した女戦士は、なかなかの美貌の持ち主だったが、さすがに服装は動きやすい革鎧で露出過多なエロい格好はしていなかった。
いや。別にビキニアーマーとか、そんなものを期待していたワケではないけどな。
そして女戦士は剣を引き抜き、その切っ先をビネースに突きつける。
「ビネース! いまこの場で私と勝負しろ!」
いきなり決闘を挑まれたビネースは特に驚く様子も見せず、落ち着いた態度だ。
こんなことは慣れっこなのかもしれないな。
「おやめなさい。武器を持って人に対峙するなど愚かしい事です。人間は武器では無く、話し合いで、全ての物事を解決出来るのですよ」
「ふざけるな! 我が名はミーリア。先日、お前に倒された『強き刃』のヴァーマンドは我が父だ!」
「ほう……それでわざわざ私を追ってきたのかね? そんな事よりも平和に暮らせばいいものを」
ああ。まるで会話がかみ合ってないな。
仕方ないのでここはひとまず『調和』をかけた上で、オレが口を挟ませてもらおう。
「すみませんがミーリアさん。あなたのお父さんとビネースさんの間に何があったか、教えてくれますか?」
「お前も女か……」
ミーリアはオレの問いかけには答えず、少しばかり意表を突かれた様子を見せる。
「ガイザーの信徒ではないようだな。そうすると聖女教会の者か」
「ええ……」
ちょっとばかり複雑な気分をかみしめつつ、オレは生返事をする。
「この男は数日前に、誉れ高き剣神ザスターニックと、それに仕えし剣士たる我が父を侮辱したのだ」
「それは誤解です。私はあくまでも剣に頼る生き方の愚かしさを説いただけですよ」
「なんだと?! ふざけるな!」
ああもう。やっぱり話がややこしくなるばかりだ。
ここは申し訳ないけど、ビネースにはちょっとばかり下がっていてもらおう。
「すみませんがこの人の相手はわたしにさせてもらえますか?」
「それは出来ません。どう見ても彼女はこの私に用があるのでしょう。あなたの身に危険があるかもしれないのに、そんな事はさせられませんよ」
この言葉を聞いて、ミーリアは更に激発する。
「我らは剣に生き、剣に死す誇り高き武人だぞ! その我らが戦いを挑んでくるわけでもない癒やし手に危害を加えるはずが無かろうが!」
「武器に頼り、武器でもって生きる人間の唱える誇りなど、ただ暴力と流血を正当化し、争いを招くだけの偽りに過ぎません」
「おのれ! その侮辱は許せん!」
予想はついていたけど、お互いの価値観が違いすぎてまるで話にならない。
ビネースも平和主義者のはずなのに、物事を穏便に済ませる事は考えていないのか。
いや。元の世界でも平和を唱えていながら、意見が異なる相手にキツい事をぶつける人間は幾らでもいたから、どこの世界でも同じなのかもしれないけどな。
ざっと見て十人ぐらいだろうか。
先ほどビネースがかけた招集に応じ、急いでやってきた様子だ。
また遠目にも何人か、こちらに近づく相手も見えており、この近隣で細々と信仰を守ってきた人間がこの招集を待ち望んでいた様子がうかがえる。
そこまでは予想通りではあったが、異変なのは敷地の入り口のあたりで何事かもめているらしいのだ。
「だからここには、あんたのような人間は入れないんだよ」
「勝手な事を言うな。ここはただの廃虚だろうが」
「違う。ここは神聖なる我らの土地だ」
どうやら押し問答になっているらしい。この位置からはよく見えないが、恐らくはガイザー信徒でない人間が来ているのだな。
しかしそこで思わぬ言葉がオレの耳に響く。
「そいつと口をきくな! 『汚染』されるぞ!」
ええ? どういう意味なんだ?
まさか深刻な伝染病でも患っているのか?
その割にはあまり恐れている様子が見えないが。
オレが困惑しているとビネースが話しかけてくる。
「ガイザー神の入信者は命に関わる時か、心の王の許可が無い限り、戦闘指向の神の信徒と承知の上で話をしてはなりません。そのような行為を『汚染』と呼ぶのですよ」
それは幾ら何でも酷すぎる表現じゃないか?
まあ某有名アニメのように『文化に汚染される』といった、理不尽な表現なのだろう。
「とにかく今は私がどうにかせねばなりません。危険があるかもしれないので、アルタシャはお下がりください」
「いえ。同行させてもらいますよ。怪我人が出るかもしれませんから」
「そうですか……本当にあなたは気高いお人だ。それでは頼りにさせてもらいます」
そんなわけでオレはビネースと共に口論の場に向かう。
近づいて見ると、揉めていたのは旅装束の戦士らしい。
オレと同じく外見を隠すフードをまとっているのでその姿はよく分からないが、腰に差した長剣は明らかにガイザーの信徒でないことを示していた。
「おお! 司祭様がこられたぞ!」
「我らの『心の王』のお出ましだ」
信徒達は一斉にビネースに敬意を示し、剣をさしている相手はこちらに向き直る。
「皆さんは下がっていて下さい。その人の相手は私がしましょう」
ビネースの言葉を受けて、信徒達は下がり包囲するかのように人の輪を作る。
「それであなたは何の御用ですかな? もうお聞き及びとは思いますけど、この地には武器を持った人間は入れませんよ」
「そうか……お前がビネースだな」
フードの人物から発せられた声は意外にも若い女性のものだった。
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そしてフードを外した女戦士は、なかなかの美貌の持ち主だったが、さすがに服装は動きやすい革鎧で露出過多なエロい格好はしていなかった。
いや。別にビキニアーマーとか、そんなものを期待していたワケではないけどな。
そして女戦士は剣を引き抜き、その切っ先をビネースに突きつける。
「ビネース! いまこの場で私と勝負しろ!」
いきなり決闘を挑まれたビネースは特に驚く様子も見せず、落ち着いた態度だ。
こんなことは慣れっこなのかもしれないな。
「おやめなさい。武器を持って人に対峙するなど愚かしい事です。人間は武器では無く、話し合いで、全ての物事を解決出来るのですよ」
「ふざけるな! 我が名はミーリア。先日、お前に倒された『強き刃』のヴァーマンドは我が父だ!」
「ほう……それでわざわざ私を追ってきたのかね? そんな事よりも平和に暮らせばいいものを」
ああ。まるで会話がかみ合ってないな。
仕方ないのでここはひとまず『調和』をかけた上で、オレが口を挟ませてもらおう。
「すみませんがミーリアさん。あなたのお父さんとビネースさんの間に何があったか、教えてくれますか?」
「お前も女か……」
ミーリアはオレの問いかけには答えず、少しばかり意表を突かれた様子を見せる。
「ガイザーの信徒ではないようだな。そうすると聖女教会の者か」
「ええ……」
ちょっとばかり複雑な気分をかみしめつつ、オレは生返事をする。
「この男は数日前に、誉れ高き剣神ザスターニックと、それに仕えし剣士たる我が父を侮辱したのだ」
「それは誤解です。私はあくまでも剣に頼る生き方の愚かしさを説いただけですよ」
「なんだと?! ふざけるな!」
ああもう。やっぱり話がややこしくなるばかりだ。
ここは申し訳ないけど、ビネースにはちょっとばかり下がっていてもらおう。
「すみませんがこの人の相手はわたしにさせてもらえますか?」
「それは出来ません。どう見ても彼女はこの私に用があるのでしょう。あなたの身に危険があるかもしれないのに、そんな事はさせられませんよ」
この言葉を聞いて、ミーリアは更に激発する。
「我らは剣に生き、剣に死す誇り高き武人だぞ! その我らが戦いを挑んでくるわけでもない癒やし手に危害を加えるはずが無かろうが!」
「武器に頼り、武器でもって生きる人間の唱える誇りなど、ただ暴力と流血を正当化し、争いを招くだけの偽りに過ぎません」
「おのれ! その侮辱は許せん!」
予想はついていたけど、お互いの価値観が違いすぎてまるで話にならない。
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