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第14章 拳の王
第481話 広まった神話とは
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オレがよりにもよって『自分自身の認めたくない若さ故の過ち』を他人から突きつけられて悶絶したい気持ちでいると、マクラマンは心配そうにのぞき込んでくる。
「驚かれましたか? 確かに大陸に広くその名を轟かせ、半神とも称えられる人物が敢えて奴隷にまで身をやつすとは信じがたい話かと思われますが、見た人間が大勢いるので大変な評判になっています」
鎖に繋がれて晒し者になっていた時のオレは、この大陸中央部と西方を繋ぐ大動脈となっているジャニューブ河の都市国家周辺で活動していたからな。
その話がジャニューブ河に行く前に活動していたファーゼストに伝わったら、そんな形で解釈されてどんどん広まっていったに違いない。
たぶんオスリラやネステントス達ファーゼストの知り合い連中も喜んで言いふらしていただろうなあ。
そうするとオレについても西方での伝説と大陸中央部での伝説はまるで別物になっているのは間違い無い。
「いずれにせよそういうわけなので、容姿や年齢、身分などでアルタシャを区別するのは難しく、それ故が偽者をはびこらせる理由にもなっているようです」
「だから名乗るだけで取りあえず取り調べをするようにとの通達を、マクラマンさんは受け取ったというわけですか」
「そうなりますね。正直に言えばあなたが偽りを唱えて、他人を騙しているとは愚僧も思っていませんが、それでも法は法です」
まあマクラマンの言っている事はオレにも分かるよ。
こうやって取り締まられている以上、実際に騙りはそんなに多くは無いのだろうけど、一部でもいるのなら神経を尖らす気持ちは分からないでも無い。
「それとあなたに愚僧への同行を願うのはもう一つ理由があります」
ひょっとしてそれはオレの容姿に関わるものだろうか?
もちろんそれは激しく遠慮したいのだが、そういう形で男に誘われる事はもう当たり前になってしまって特に嫌悪感や違和感も抱かないようになってしまった気がするな。
「確かにアルタシャを名乗る偽者を取り締まる意味もありますが、あなたを守る事でもあるのですよ」
「いったいどういうことでしょうか?」
異性としての下心では無いとしたら、それが何なのかは確認しておきたい。
「一部の地域ではアルタシャを名乗る相手は見つけ次第、拘束するどころか場合によっては即座に公開処刑を行っているようなのです」
「ええ? それは本当なのですか?」
多くの国で王族を騙ったりするのは死刑に値する大罪らしいが、オレの名前でもそうなるのだとしたら、ちょっとどころではない驚きだよ。
「実のところ一部で彼女は『解放の女神』として崇拝されているのです」
「それはまさか……」
「ええ。アルタシャが奴隷に身をやつし、それで多くの人々を救ったという話が広まった事で、奴隷の中で彼女への崇拝が広まったそうなのです。中には彼女を騙って奴隷主に対し待遇の改善や解放を要求する事も少なく無いと聞いております」
オレ自身、奴隷など持ちたいとすら思わないし、もしも逃亡してきた奴隷が目の前に現れたら助けるだろうけど、さすがに奴隷解放を掲げて大騒動を引き起こすのは無理だ。
残念ながらいつものごとくオレに出来る事と言えば、せいぜい視界の範囲内の人を助ける事だけなのだ。
しかし首輪に繋がれて奴隷同然に引き回され、いいように利用されていたオレの話を聞いてそんな事になるとは、本当に世の中は思うに任せない。
「奴隷達の反抗を恐れる地域ではアルタシャの名は表向き禁忌とされ、名乗ったものを即刻処刑する場合もあるのです。しかし一部では地下教団となって根強い信仰の対象となっているとも聞きます」
オレ自身が何も言っていないし、一時『鎖に繋がれて連れ回されていた』というだけで、どんどんいろいろなものが付け加えられていくな。
神造者のテセルがこの話を聞いたら、さぞかし貴重な研究資料だと思うだろう。
「もちろんそれもあなたには関係のない話でしょう」
オレも出来れば『関係の無い話』でいたいのですけどね。
「そういうわけなので、繰り返しますがあなたにとっても危険なのですよ」
「仰る事は分かりました。しかしそれでもマクラマンさんに同行するワケにはいきません」
「やはりそうなりますか……」
マクラマンは諦めたようにため息をつく。
「最初はあなたの事を疑っていたのは事実です。この地に集まるガイザーの信徒達を騙して貴重な品を差し出させたり、自分を崇拝するいかがわしい教団をつくったりするような輩である可能性を考えていました」
「その言い方では今は違うということですか?」
「短い付き合いですけど、それでもイーヒルム神の祝福を受けし愚僧の目は節穴ではありませんよ。どうやらあなたは己の身の危険よりも、他者を助ける事を優先させるようですからな。実に立派な心がけではありますよ」
そしてマクラマンはここで愛想良く笑いかけてくる。
「あと正直に言わせてもらうと、さきほどあなたの素顔を見せていただいたとき、その美しさに目を奪われて、一瞬ですが『本物』かと思った程です。何しろアルタシャ本人はいかなる姿を取ろうとも、目を見張る美貌は決して変わらないそうですからな」
「それは……ありがとうございます」
オレの容貌を見た時にマクラマンがこぼした『噂通り』とそういう意味だったのか。
まあいろいろと参考にはなったけど、オレの悩みはかえって深まった気がするな。
「驚かれましたか? 確かに大陸に広くその名を轟かせ、半神とも称えられる人物が敢えて奴隷にまで身をやつすとは信じがたい話かと思われますが、見た人間が大勢いるので大変な評判になっています」
鎖に繋がれて晒し者になっていた時のオレは、この大陸中央部と西方を繋ぐ大動脈となっているジャニューブ河の都市国家周辺で活動していたからな。
その話がジャニューブ河に行く前に活動していたファーゼストに伝わったら、そんな形で解釈されてどんどん広まっていったに違いない。
たぶんオスリラやネステントス達ファーゼストの知り合い連中も喜んで言いふらしていただろうなあ。
そうするとオレについても西方での伝説と大陸中央部での伝説はまるで別物になっているのは間違い無い。
「いずれにせよそういうわけなので、容姿や年齢、身分などでアルタシャを区別するのは難しく、それ故が偽者をはびこらせる理由にもなっているようです」
「だから名乗るだけで取りあえず取り調べをするようにとの通達を、マクラマンさんは受け取ったというわけですか」
「そうなりますね。正直に言えばあなたが偽りを唱えて、他人を騙しているとは愚僧も思っていませんが、それでも法は法です」
まあマクラマンの言っている事はオレにも分かるよ。
こうやって取り締まられている以上、実際に騙りはそんなに多くは無いのだろうけど、一部でもいるのなら神経を尖らす気持ちは分からないでも無い。
「それとあなたに愚僧への同行を願うのはもう一つ理由があります」
ひょっとしてそれはオレの容姿に関わるものだろうか?
もちろんそれは激しく遠慮したいのだが、そういう形で男に誘われる事はもう当たり前になってしまって特に嫌悪感や違和感も抱かないようになってしまった気がするな。
「確かにアルタシャを名乗る偽者を取り締まる意味もありますが、あなたを守る事でもあるのですよ」
「いったいどういうことでしょうか?」
異性としての下心では無いとしたら、それが何なのかは確認しておきたい。
「一部の地域ではアルタシャを名乗る相手は見つけ次第、拘束するどころか場合によっては即座に公開処刑を行っているようなのです」
「ええ? それは本当なのですか?」
多くの国で王族を騙ったりするのは死刑に値する大罪らしいが、オレの名前でもそうなるのだとしたら、ちょっとどころではない驚きだよ。
「実のところ一部で彼女は『解放の女神』として崇拝されているのです」
「それはまさか……」
「ええ。アルタシャが奴隷に身をやつし、それで多くの人々を救ったという話が広まった事で、奴隷の中で彼女への崇拝が広まったそうなのです。中には彼女を騙って奴隷主に対し待遇の改善や解放を要求する事も少なく無いと聞いております」
オレ自身、奴隷など持ちたいとすら思わないし、もしも逃亡してきた奴隷が目の前に現れたら助けるだろうけど、さすがに奴隷解放を掲げて大騒動を引き起こすのは無理だ。
残念ながらいつものごとくオレに出来る事と言えば、せいぜい視界の範囲内の人を助ける事だけなのだ。
しかし首輪に繋がれて奴隷同然に引き回され、いいように利用されていたオレの話を聞いてそんな事になるとは、本当に世の中は思うに任せない。
「奴隷達の反抗を恐れる地域ではアルタシャの名は表向き禁忌とされ、名乗ったものを即刻処刑する場合もあるのです。しかし一部では地下教団となって根強い信仰の対象となっているとも聞きます」
オレ自身が何も言っていないし、一時『鎖に繋がれて連れ回されていた』というだけで、どんどんいろいろなものが付け加えられていくな。
神造者のテセルがこの話を聞いたら、さぞかし貴重な研究資料だと思うだろう。
「もちろんそれもあなたには関係のない話でしょう」
オレも出来れば『関係の無い話』でいたいのですけどね。
「そういうわけなので、繰り返しますがあなたにとっても危険なのですよ」
「仰る事は分かりました。しかしそれでもマクラマンさんに同行するワケにはいきません」
「やはりそうなりますか……」
マクラマンは諦めたようにため息をつく。
「最初はあなたの事を疑っていたのは事実です。この地に集まるガイザーの信徒達を騙して貴重な品を差し出させたり、自分を崇拝するいかがわしい教団をつくったりするような輩である可能性を考えていました」
「その言い方では今は違うということですか?」
「短い付き合いですけど、それでもイーヒルム神の祝福を受けし愚僧の目は節穴ではありませんよ。どうやらあなたは己の身の危険よりも、他者を助ける事を優先させるようですからな。実に立派な心がけではありますよ」
そしてマクラマンはここで愛想良く笑いかけてくる。
「あと正直に言わせてもらうと、さきほどあなたの素顔を見せていただいたとき、その美しさに目を奪われて、一瞬ですが『本物』かと思った程です。何しろアルタシャ本人はいかなる姿を取ろうとも、目を見張る美貌は決して変わらないそうですからな」
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