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第14章 拳の王
第489話 お互いに裸の付き合いで
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しばしの後、オレとミーリアは先ほどの女性と共に廃虚の中に入っていった。
もちろん案内の女性はミーリアには話かけるどころか、視線を向けもしない。無視と言うよりは、積極的に避けているというべきか。
廃虚の中とはいえ《招集》に応じた信徒達があちこちで光を灯している。
そこからチラホラと警戒や疑惑の視線が注がれるが、それはやはりミーリアに対するものだろう。
いや。もっとも多いのはむしろ『怖れ』に思える。
しかしミーリアはついこの昼間にビネースに簡単に打ち負かされたわけで、とても彼らの脅威とはならないはず。
そうするとやはり戦神の信徒というだけで、盲目的に恐れているということだろうか。
そしてここで先導している女性が口を開く。
「この廃虚は平和を求めた我らを『邪魔者』だとして、周辺の戦を好む連中が攻め込み、そこにいたガイザー神に仕えし者たちを虐殺しました」
そんな話はビネースからも聞いていた。
もちろんミーリア本人は何の関係もないだろうし、剣神ザスターニックの教義からすると、そんな虐殺にまで手を染めていたとは考えにくい。
いや。神の信徒でもその教義通りに行動するとは限らないので、やっぱりそういう所業に手を染めていた輩がいてもおかしくはないか。
ずっと昔の事だろうけど、出来れば詳しい事情を知りたいな。
「それはあなた方が戦争に反対していたからですか? いったいいかなる理由での戦いだったのでしょうか?」
「存じません」
「え? どういうことですか?」
「理由の如何に関わらず、我らは戦争には反対します。それ以上の事は知りません」
そういうことか。しかしこれも決して彼らが愚かというわけではない。
まだ前の世界の感覚が抜けないけど、この世界では詳しい歴史なんてそうそう一般人が知る事など出来ないからな。
たぶん周囲の記録はガイザー信徒を滅ぼした事を正義としているか、ひょっとしたらその記録すら殆ど無く、取るに足らない存在と見なされている可能性すらあるぞ。
いずれにせよガイザー信徒は確かに排他的な面もあるけど、考えてみれば『戦神』の信徒には散々ひどい目にあわされ続けて、その結果として他者を信頼しなくなった一面もあるのだろうな。
それでたぶん戦神の側と、ガイザーの信徒は互いに相手を嫌悪し合い、ついには口を聞くだけで『汚染』などと言われるようになったのかもしれない。
「かろうじて逃げ延びた僅かな生き残り、つまり我らの先祖はイロールの寺院に匿っていただいたそうです。その感謝は今でも忘れてはいません」
ビネースは神代の昔にイロールが負傷したガイザー神を治療したので、この二柱の神は友好関係となったので、ガイザーの司祭はかの女神の信徒に対して協力を申し出る戒律があると言っていたが、本当はこういった信徒同士の過去のいきさつが理由なのかもしれないなあ。
ただしガイザーの信徒を匿ったのは『寄る辺なき弱き者を救う』というイロールの教義と無関係でないのは明らかだが、同時にそのあたりの教義をどう解釈し、実践するのかは個々の信徒に任されているのも間違い無い。
だから逃げ込んだガイザー信徒を助けた聖女もいれば、見て見ぬしたのもいるのではないだろうか。
そして見て見ぬされたガイザー信徒の運命については――死人に口なしということか。
この世界では報われぬ死者が亡霊になる事は決して珍しい話ではないけど、死者の数から見れば、この世に舞い戻る無念の魂がごく一握りなのも明らかだからな。
そんな事を考えているとオレとミーリアはそれなりに大きな石作の建物に案内された。
この廃虚の中ではかなり原型をとどめている方だが、さすがに元が何だったのかまでは分からない。
「こちらです」
「ありがとうございます」
案内の女性に礼を言って、オレとミーリアは風呂に入るべく服を脱ぐ。
どうもミーリアは横目でチラチラとオレの方を見ているようだが、いくら何でも性的な関心があるわけでもないはずだ。
たぶん『女としてのあれこれ』を自分と比較しているのだろう。
それでこちらもミーリアの方を見ると、当然ながら年上の彼女の方が成熟した女性の体型であり、女らしい丸みを帯びた身体であるが戦士として鍛えられてきたのは間違い無く、かなり筋肉質だ。
それでも全体的には女性としての魅力と色香の漂う立派な肢体だろう。
しかしこうやって他の女性の全裸を見ても、オレが性的な興奮どころか、気恥ずかしい思いもかなり減ってきて、殆ど『同性』として見るようになってきた事は自覚せざるを得ない。
「ふう……やはりあなたと私ではいろいろ段違いなのだな……」
ミーリアは自分の身体を押さえつつ嘆息する。
「私は戦士としてはまだまだ未熟な身だし、女としてもあなたにはとても及びそうに無い」
「いえ。そんな事はないですよ。とても立派なお体ですよ」
こんなことを言ってもたぶんお世辞としか受け止められないだろうなあ。
「気休めは辞めて欲しい。私は見ての通り未熟な身体だ」
「え? どういうことですか?」
ミーリアの身体が女体として未熟と言われたら、オレなんてまだまだガキじゃないか。
いや。そうじゃなくてミーリアの周囲はどれだけ豊満な身体の持ち主ばかりだったんだ?
そしてミーリアは自分の身体を探るように指を這わせる。これはちょっとばかりエロい仕草だな。
少なくとも男が見たら『誘っている』と思われかねないぞ。
「この通り目立つ傷などどこにも無いだろう」
「それが悪い事なのですか?」
「当たり前だ。戦士としてまともな戦いをしていない未熟者の証拠でしか無いからな」
傷跡など無いのはいい事でしょうけど、それがかえってミーリアにとっては戦士として半人前の証であり、むしろコンプレックスになっているのか。
そのために背伸びをしてビネースに挑んだとしたら――本物の戦場でそんな事をしなかっただけマシと考えるべきだろう。
もちろん案内の女性はミーリアには話かけるどころか、視線を向けもしない。無視と言うよりは、積極的に避けているというべきか。
廃虚の中とはいえ《招集》に応じた信徒達があちこちで光を灯している。
そこからチラホラと警戒や疑惑の視線が注がれるが、それはやはりミーリアに対するものだろう。
いや。もっとも多いのはむしろ『怖れ』に思える。
しかしミーリアはついこの昼間にビネースに簡単に打ち負かされたわけで、とても彼らの脅威とはならないはず。
そうするとやはり戦神の信徒というだけで、盲目的に恐れているということだろうか。
そしてここで先導している女性が口を開く。
「この廃虚は平和を求めた我らを『邪魔者』だとして、周辺の戦を好む連中が攻め込み、そこにいたガイザー神に仕えし者たちを虐殺しました」
そんな話はビネースからも聞いていた。
もちろんミーリア本人は何の関係もないだろうし、剣神ザスターニックの教義からすると、そんな虐殺にまで手を染めていたとは考えにくい。
いや。神の信徒でもその教義通りに行動するとは限らないので、やっぱりそういう所業に手を染めていた輩がいてもおかしくはないか。
ずっと昔の事だろうけど、出来れば詳しい事情を知りたいな。
「それはあなた方が戦争に反対していたからですか? いったいいかなる理由での戦いだったのでしょうか?」
「存じません」
「え? どういうことですか?」
「理由の如何に関わらず、我らは戦争には反対します。それ以上の事は知りません」
そういうことか。しかしこれも決して彼らが愚かというわけではない。
まだ前の世界の感覚が抜けないけど、この世界では詳しい歴史なんてそうそう一般人が知る事など出来ないからな。
たぶん周囲の記録はガイザー信徒を滅ぼした事を正義としているか、ひょっとしたらその記録すら殆ど無く、取るに足らない存在と見なされている可能性すらあるぞ。
いずれにせよガイザー信徒は確かに排他的な面もあるけど、考えてみれば『戦神』の信徒には散々ひどい目にあわされ続けて、その結果として他者を信頼しなくなった一面もあるのだろうな。
それでたぶん戦神の側と、ガイザーの信徒は互いに相手を嫌悪し合い、ついには口を聞くだけで『汚染』などと言われるようになったのかもしれない。
「かろうじて逃げ延びた僅かな生き残り、つまり我らの先祖はイロールの寺院に匿っていただいたそうです。その感謝は今でも忘れてはいません」
ビネースは神代の昔にイロールが負傷したガイザー神を治療したので、この二柱の神は友好関係となったので、ガイザーの司祭はかの女神の信徒に対して協力を申し出る戒律があると言っていたが、本当はこういった信徒同士の過去のいきさつが理由なのかもしれないなあ。
ただしガイザーの信徒を匿ったのは『寄る辺なき弱き者を救う』というイロールの教義と無関係でないのは明らかだが、同時にそのあたりの教義をどう解釈し、実践するのかは個々の信徒に任されているのも間違い無い。
だから逃げ込んだガイザー信徒を助けた聖女もいれば、見て見ぬしたのもいるのではないだろうか。
そして見て見ぬされたガイザー信徒の運命については――死人に口なしということか。
この世界では報われぬ死者が亡霊になる事は決して珍しい話ではないけど、死者の数から見れば、この世に舞い戻る無念の魂がごく一握りなのも明らかだからな。
そんな事を考えているとオレとミーリアはそれなりに大きな石作の建物に案内された。
この廃虚の中ではかなり原型をとどめている方だが、さすがに元が何だったのかまでは分からない。
「こちらです」
「ありがとうございます」
案内の女性に礼を言って、オレとミーリアは風呂に入るべく服を脱ぐ。
どうもミーリアは横目でチラチラとオレの方を見ているようだが、いくら何でも性的な関心があるわけでもないはずだ。
たぶん『女としてのあれこれ』を自分と比較しているのだろう。
それでこちらもミーリアの方を見ると、当然ながら年上の彼女の方が成熟した女性の体型であり、女らしい丸みを帯びた身体であるが戦士として鍛えられてきたのは間違い無く、かなり筋肉質だ。
それでも全体的には女性としての魅力と色香の漂う立派な肢体だろう。
しかしこうやって他の女性の全裸を見ても、オレが性的な興奮どころか、気恥ずかしい思いもかなり減ってきて、殆ど『同性』として見るようになってきた事は自覚せざるを得ない。
「ふう……やはりあなたと私ではいろいろ段違いなのだな……」
ミーリアは自分の身体を押さえつつ嘆息する。
「私は戦士としてはまだまだ未熟な身だし、女としてもあなたにはとても及びそうに無い」
「いえ。そんな事はないですよ。とても立派なお体ですよ」
こんなことを言ってもたぶんお世辞としか受け止められないだろうなあ。
「気休めは辞めて欲しい。私は見ての通り未熟な身体だ」
「え? どういうことですか?」
ミーリアの身体が女体として未熟と言われたら、オレなんてまだまだガキじゃないか。
いや。そうじゃなくてミーリアの周囲はどれだけ豊満な身体の持ち主ばかりだったんだ?
そしてミーリアは自分の身体を探るように指を這わせる。これはちょっとばかりエロい仕草だな。
少なくとも男が見たら『誘っている』と思われかねないぞ。
「この通り目立つ傷などどこにも無いだろう」
「それが悪い事なのですか?」
「当たり前だ。戦士としてまともな戦いをしていない未熟者の証拠でしか無いからな」
傷跡など無いのはいい事でしょうけど、それがかえってミーリアにとっては戦士として半人前の証であり、むしろコンプレックスになっているのか。
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