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第14章 拳の王
第490話 風呂場にて思わぬ事が
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そしてここでミーリアは裸になったオレの身体を何か意味ありげにじっと見つめてくる。
「あのう……なんでしょうか?」
「普通の女性というのは、あなたのような身体をしているのか?」
これはいろいろと複雑な意味の込められた質問だろうけど、どう答えたらいいのかちょっと悩ましい。
「どういう意味で尋ねていらっしゃるのですか?」
「いや……いま先ほど私は自分に目立つ傷も無いと言ったが、あなたの身体には傷もシミも一切無いし均整も取れていて、他の女性の身を直接見た事の殆ど無い私でも見とれる程のものだった」
随分前にマニリア帝国の後宮にいたときや、幼女化したときに孤児院で風呂に入った時も似たような事を言われていた覚えがあるな。
これが『普通』などと言ったら、ミーリアも萎縮しかねないし、仕方ないのでちょっとばかり誤魔化すとしよう。
「わたしもそれほど『普通の女性』の身をよく見た経験があるわけでもありませんので、ちょっと答えかねます」
実際、これは嘘ではないのでこんな曖昧な返答で納得してもらうしかない。
「そうか……それは仕方ないな……」
「とにかく早く風呂に入りましょう」
オレとミーリアはひとまず湯船に入る事とする。
石作のそれなりに立派な湯船は、ちょっと前に幼女化したときお世話になった孤児院で入った風呂と似たところがあるな。
もっともかつて宗教画がモザイクで描かれていたらしい壁面は残らず引きはがされたらしく、今では僅かな名残が未練のように張り付いているだけだ。
この廃虚が破壊された時には、ひょっとするとこの湯船は信徒達の血で赤く染まったのかもしれないと思うと、ちょっとばかり浸かるのには躊躇するなあ。
「どうしました?」
「いえ。何でも無いです」
ミーリアは全く気にする様子も無く、湯船に浸かっている。
まあ霊体を見るオレの『霊視』の魔法でも特に何も見つからない。
つまりここに亡霊の類いが棲み着いているワケでも無いので、ここはオレが『迷信』に囚われているという事なんだろうか。
そんなわけでオレも湯船に足を踏みいれる。
湯には焼いた石が何個も入れられていて、それで水を湧かしているのだな。
当然、微妙な温度の管理など出来ないのでかなり熱めだ。
まさかとは思うが温度が適温になるまでの時間調整のために、オレ達を先に入れたわけじゃないだろうな?
しかしミーリアの方は顔色一つ変えずに入っているな。
「ミーリアさんはこれで大丈夫なんですか?」
「ああ。私は風呂に入ることは殆ど無くて、普段は水で身体を拭くぐらいだけど、これぐらいは別に大した事でもないだろう……うん?」
「どうしました? まさか?」
風呂場の外で何者かの気配が感じられる。
この建物はそれなりに原型は止めているけど、あちこちにガタが来て外から覗く場所は幾らでもあるのだ。
しかしいくら何でもただの覗きとは考えにくい。
まさか! 何者かの襲撃か?
いくらガイザー信徒がミーリアを嫌っていても、いきなり命まで狙ってくるとは思っていないが、オレの場合は狙いにくる心当たりは幾らでもいるのだ。
聖女教会の手の者を始め、オレを捕まえに来るであろう相手はもちろん、恨みを抱いていて命を奪いにくる連中だってあちこちにいるだろうからな。
「おい! そこにいるのは何者だ」
ミーリアもまた急いで湯船から上がって、ここで腰に手を伸ばすものの、その指がピクリと動きを止める。
「そうだ……私はもう……」
反射的に剣を掴もうとしたけど、そこで昼間、ビネースに剣を折られて失った事を思い出しているのか。
ええい。どうせ風呂場なんだから丸腰なのは当たり前だろ。
そんな事で落ち込むんじゃ無い。
いや。そもそも風呂場は人間が一番、無防備になるところだから、襲撃者にすればもっとも狙うべき場面なんだ。
相手が何者かは分からないが、とりあえずいつも通り『調和』をかけて暴力的活動を止めつつ、この場から逃げ出すべきだ。
「とにかくすぐにこの場を離れて――」
「ごめんなさい。決してそんなつもりでは無かったんですけど……」
うん。このよくあるパターンの詫びの言葉はひょっとして。
「どうもすみません」
「だから言ったでしょう。怒られるって……」
「そんな事を言ってもお前も付いてきたじゃ無いか」
見ると数人の子供――もちろん男女が複数名――こちらの風呂を覗いていたのだ。
昼間に見かけた相手だから、みんなガイザーの信徒なのだろう。
「あのう……少し話をさせてもらっていいですか?」
そういって連中は建物の壊れた場所から中に入ってくる。
女子はまだしも男子の方がチラチラとオレやミーリアに注ぐ視線には、どう見ても『性の目覚め』的なものが感じられるぞ。
「どういうことだ!」
ミーリアの叫びを受けて、年長と思しき少女が頭を下げる。
「すみません。あなたと話をしてはダメとは言われていたのですけど、少しならいいかと思って来てしまいました」
「わたしはともかく……ミーリアさんと話をするのは、あなた達の戒律に反するのではなかったのですか?」
「ダメとは言われていますけど、私達は子供なので……」
ああそうか。
戦闘指向の神の信徒と話をしてはいけないというガイザーの戒律は入信者だけに適用されるとなれば、まだ正式に入信していないであろうこの子供達には適用されないか。
もちろんそれだからと言って、子供が戦神の信徒と自由に触れ合うことを許すはずが無い――むしろ大人以上に『汚染』を嫌うのが当たり前だ。
しかしそう言われても、子供が関心を抑えきれず話を聞きに来ているのだ。
まあ子供が『神様の祟り』などと脅されても、むしろ怖いもの見たさに覗きたがるのはごくありふれた話だろう。
こういうところはどこの世界の子供でも同じなんだなあ。
「あのう……なんでしょうか?」
「普通の女性というのは、あなたのような身体をしているのか?」
これはいろいろと複雑な意味の込められた質問だろうけど、どう答えたらいいのかちょっと悩ましい。
「どういう意味で尋ねていらっしゃるのですか?」
「いや……いま先ほど私は自分に目立つ傷も無いと言ったが、あなたの身体には傷もシミも一切無いし均整も取れていて、他の女性の身を直接見た事の殆ど無い私でも見とれる程のものだった」
随分前にマニリア帝国の後宮にいたときや、幼女化したときに孤児院で風呂に入った時も似たような事を言われていた覚えがあるな。
これが『普通』などと言ったら、ミーリアも萎縮しかねないし、仕方ないのでちょっとばかり誤魔化すとしよう。
「わたしもそれほど『普通の女性』の身をよく見た経験があるわけでもありませんので、ちょっと答えかねます」
実際、これは嘘ではないのでこんな曖昧な返答で納得してもらうしかない。
「そうか……それは仕方ないな……」
「とにかく早く風呂に入りましょう」
オレとミーリアはひとまず湯船に入る事とする。
石作のそれなりに立派な湯船は、ちょっと前に幼女化したときお世話になった孤児院で入った風呂と似たところがあるな。
もっともかつて宗教画がモザイクで描かれていたらしい壁面は残らず引きはがされたらしく、今では僅かな名残が未練のように張り付いているだけだ。
この廃虚が破壊された時には、ひょっとするとこの湯船は信徒達の血で赤く染まったのかもしれないと思うと、ちょっとばかり浸かるのには躊躇するなあ。
「どうしました?」
「いえ。何でも無いです」
ミーリアは全く気にする様子も無く、湯船に浸かっている。
まあ霊体を見るオレの『霊視』の魔法でも特に何も見つからない。
つまりここに亡霊の類いが棲み着いているワケでも無いので、ここはオレが『迷信』に囚われているという事なんだろうか。
そんなわけでオレも湯船に足を踏みいれる。
湯には焼いた石が何個も入れられていて、それで水を湧かしているのだな。
当然、微妙な温度の管理など出来ないのでかなり熱めだ。
まさかとは思うが温度が適温になるまでの時間調整のために、オレ達を先に入れたわけじゃないだろうな?
しかしミーリアの方は顔色一つ変えずに入っているな。
「ミーリアさんはこれで大丈夫なんですか?」
「ああ。私は風呂に入ることは殆ど無くて、普段は水で身体を拭くぐらいだけど、これぐらいは別に大した事でもないだろう……うん?」
「どうしました? まさか?」
風呂場の外で何者かの気配が感じられる。
この建物はそれなりに原型は止めているけど、あちこちにガタが来て外から覗く場所は幾らでもあるのだ。
しかしいくら何でもただの覗きとは考えにくい。
まさか! 何者かの襲撃か?
いくらガイザー信徒がミーリアを嫌っていても、いきなり命まで狙ってくるとは思っていないが、オレの場合は狙いにくる心当たりは幾らでもいるのだ。
聖女教会の手の者を始め、オレを捕まえに来るであろう相手はもちろん、恨みを抱いていて命を奪いにくる連中だってあちこちにいるだろうからな。
「おい! そこにいるのは何者だ」
ミーリアもまた急いで湯船から上がって、ここで腰に手を伸ばすものの、その指がピクリと動きを止める。
「そうだ……私はもう……」
反射的に剣を掴もうとしたけど、そこで昼間、ビネースに剣を折られて失った事を思い出しているのか。
ええい。どうせ風呂場なんだから丸腰なのは当たり前だろ。
そんな事で落ち込むんじゃ無い。
いや。そもそも風呂場は人間が一番、無防備になるところだから、襲撃者にすればもっとも狙うべき場面なんだ。
相手が何者かは分からないが、とりあえずいつも通り『調和』をかけて暴力的活動を止めつつ、この場から逃げ出すべきだ。
「とにかくすぐにこの場を離れて――」
「ごめんなさい。決してそんなつもりでは無かったんですけど……」
うん。このよくあるパターンの詫びの言葉はひょっとして。
「どうもすみません」
「だから言ったでしょう。怒られるって……」
「そんな事を言ってもお前も付いてきたじゃ無いか」
見ると数人の子供――もちろん男女が複数名――こちらの風呂を覗いていたのだ。
昼間に見かけた相手だから、みんなガイザーの信徒なのだろう。
「あのう……少し話をさせてもらっていいですか?」
そういって連中は建物の壊れた場所から中に入ってくる。
女子はまだしも男子の方がチラチラとオレやミーリアに注ぐ視線には、どう見ても『性の目覚め』的なものが感じられるぞ。
「どういうことだ!」
ミーリアの叫びを受けて、年長と思しき少女が頭を下げる。
「すみません。あなたと話をしてはダメとは言われていたのですけど、少しならいいかと思って来てしまいました」
「わたしはともかく……ミーリアさんと話をするのは、あなた達の戒律に反するのではなかったのですか?」
「ダメとは言われていますけど、私達は子供なので……」
ああそうか。
戦闘指向の神の信徒と話をしてはいけないというガイザーの戒律は入信者だけに適用されるとなれば、まだ正式に入信していないであろうこの子供達には適用されないか。
もちろんそれだからと言って、子供が戦神の信徒と自由に触れ合うことを許すはずが無い――むしろ大人以上に『汚染』を嫌うのが当たり前だ。
しかしそう言われても、子供が関心を抑えきれず話を聞きに来ているのだ。
まあ子供が『神様の祟り』などと脅されても、むしろ怖いもの見たさに覗きたがるのはごくありふれた話だろう。
こういうところはどこの世界の子供でも同じなんだなあ。
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